異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第二百七十六話 偉大なる戦い・エピローグ
「神格化?」
「簡単なこと。神へなった、ということだ。キガクレノミコトからそう言われたのならば、間違いない。一花、君は……いや、あなたは神へその姿を変えようとしているということ。正確に言えば、この世界の存在ではなくなり、次元を一つ上の存在へと昇華することになる。私の言っていることが、分かるかな?」
こくり、と頷く一花。
とどのつまり。
「つまり、どういうことなんだよ……。一花は神になる、ということで……この世界には居られないってことで……?」
「その通りです。そして、私の名前は一花では無い、また別の名前になるということにもなります。がらんどうだった最高神の存在を満たすために、私は神となった。キガクレノミコトはそう言っていました。そして、その名前も、決まっています」
「その、名前は……?」
がらんどう。
神。
まさか……。僕の中で、気がつけばたった一つの単語が浮かび上がっていた。
二千年後の未来で、神と呼ばれた存在。そして、この世界の暦の名前にも適用されている、その神の名前。
「……私の名前は今日まで、風間一花でした。そして、今日からはガラムド。私の名前は、ガラムドです」
ガラムドの身体は徐々に光と化して消えていく。
「そのままだと……消えてしまいますね。私は、もうここでお別れです」
「どうすればいいんだ。おい、風間修一。あなた、何かやり残したことは無いの!?」
「ありません」
きっと、何を言っても見透かされているのだろう。
ガラムドの笑顔には、何か見通しているようなそんな雰囲気があったから。
「ありがとうございました」
そうして、ガラムドは。
そのまま光の粒となって、消えていった。
◇◇◇
そして、同時に僕の意識も二千年前の過去から揺り起こされた。
『長い、旅でしたね』
気がつけばその空間は暗闇になっていた。
「ああ、そういえばこの空間に、僕たちは立っていたんだな」
あんまりあの空間に慣れていたものだから、すっかり忘れてしまっていた。
ほんとうは忘れてはいけない世界だったのに。
目の前に居るガラムドは――気がつけば、丸い球体へと姿を変えてしまっていた。
「ガラムド……。その姿はいったい?」
『この姿で、あなたの前に姿を現してしまうのは大変お見苦しい話ですが、許してください。残念ながら、私を狙っている勢力が居ることも確かだということです』
「……つまり、あなたは死んでいるということになるのか」
『死んでいる。いや、正確に言えば、死んでいるというよりも「地位を剥奪された」と言えば良いでしょうか』
「剥奪された?」
『まだ私はガラムドとして存在できています。けれどそれはあくまでも、次のガラムドが出てくるまでの間に過ぎません。それも期限が決められているわけで……。それに、誰もがガラムドになれるわけでもありません。それは、「祈りの巫女」で無くては為らないということ』
「祈りの巫女?」
『ええ。……私の力は、神格化後に数人の人間に分け与えました。その人々が後に、祈祷師や祓術師と呼ばれるようになったのですよ。神の血を引き継ぐ、とは言いますがそもそも神は子供など産みません。だから血など引き継いでいないのですよ。そこだけは不満がありますが……、まあそれを言ったところで何も始まりませんからね、別に良いのですけれど』
「……祈りの巫女、か」
ガラムドの言っていることが確かならば、リュージュもメアリーも神の血を引き継いでいないということになる。しかしながら、祈祷師の素質は引き継がれていると言うことか。それはどうやら血筋によるものなのだろうけれど。どうやら、それと一緒に神の血筋も引き継がれていると思い込んでいるだけなのかもしれない。
思い込み、というのは酷く恥ずかしいものではあるかもしれないけれど、それを証明することも出来ないから――結局の話、それはそのまま嘘を嘘として振り翳しているだけに過ぎない、という話になるのだろうか。
『そして……「祈りの巫女」の力を身につけているのは、今はたった一人だけ』
「まさか、それは……」
祈りの巫女として力を使う。
それは即ち――ガラムドと同じならば、この世界から離れなければならないということになるのか?
だとすれば。だとすれば。だとすれば。
それだけは認めては為らなかったし、それだけは信じたくなかった。
けれど、そんなことを知ってか知らずか――、ガラムドは言い放った。
『あなたはとっくに気付いているでしょうが……、その力を持っているのは、メアリー。あなたもよく知っている、旅の仲間ですよ』
雷に打たれたような感覚だった。
『もちろん、彼女はまだその素質には気付いていませんけれどね。ま、いつかは気付くことでしょう。或いは、薄々気付いているかもしれません。何せ彼女は勉強家ですからね。博識ならば、偉大なる戦いの結末ぐらいきちんと理解できているでしょうから』
「じゃあ、やっぱりメアリーは……」
『その力を使えば、彼女はあの世界で生きていくことは不可能ですね。私とともに……、いや、私と同じ地位になるだけの話です。もっとも、私はもうこの存在ではありませんから、私の代わりに「ガラムドになる」ということになりますが。代替わり、とでも言えば良いですかね?』
メアリーとは生きていられなくなる。
オリジナルフォーズを封印するためには、その力を使わないといけないのか?
メアリーの力を使わずとも、僕が持つこの剣を使えばいいんじゃないのか?
そもそも、僕はそのためにこの封印を解きに来たのに、それは間違っているということなのか?
『間違ってはいませんよ。別に、あなたの持つシルフェの剣を使えばもしかしたら封印ではなく、破壊することすら出来るかもしれません。けれど、あの状態から確実に為すことが出来る手段。一番簡単な手段……それこそが、祈りの巫女の力、その行使ですよ』
メアリーの力を使えば、簡単にこの戦いを終えることが出来る。しかしながら、いつ復活するか分からないし、メアリーとは二度と会えなくなるデメリットがある。
シルフェの剣を使えば、難易度は高いけれどこの戦いを終わらせるかもしれない。しかしながら、メアリーの力を使わないからメアリーと別れることは無い。
二つに一つの選択。
僕は――どうすればいいのか。
『あなたは、それを救うのが使命なのでしょう?』
ガラムドはそう言って、ゆっくりと姿を消していく。
同時に空間も徐々に朧気なものとなっていき、僕はその空間からの別離を悟った。
「ガラムド! どこへ行くんだ……!」
『私はただ、あなたを見守っていますよ。あなたの救う、世界を――』
そして、僕の意識は完全に途絶えた。
「簡単なこと。神へなった、ということだ。キガクレノミコトからそう言われたのならば、間違いない。一花、君は……いや、あなたは神へその姿を変えようとしているということ。正確に言えば、この世界の存在ではなくなり、次元を一つ上の存在へと昇華することになる。私の言っていることが、分かるかな?」
こくり、と頷く一花。
とどのつまり。
「つまり、どういうことなんだよ……。一花は神になる、ということで……この世界には居られないってことで……?」
「その通りです。そして、私の名前は一花では無い、また別の名前になるということにもなります。がらんどうだった最高神の存在を満たすために、私は神となった。キガクレノミコトはそう言っていました。そして、その名前も、決まっています」
「その、名前は……?」
がらんどう。
神。
まさか……。僕の中で、気がつけばたった一つの単語が浮かび上がっていた。
二千年後の未来で、神と呼ばれた存在。そして、この世界の暦の名前にも適用されている、その神の名前。
「……私の名前は今日まで、風間一花でした。そして、今日からはガラムド。私の名前は、ガラムドです」
ガラムドの身体は徐々に光と化して消えていく。
「そのままだと……消えてしまいますね。私は、もうここでお別れです」
「どうすればいいんだ。おい、風間修一。あなた、何かやり残したことは無いの!?」
「ありません」
きっと、何を言っても見透かされているのだろう。
ガラムドの笑顔には、何か見通しているようなそんな雰囲気があったから。
「ありがとうございました」
そうして、ガラムドは。
そのまま光の粒となって、消えていった。
◇◇◇
そして、同時に僕の意識も二千年前の過去から揺り起こされた。
『長い、旅でしたね』
気がつけばその空間は暗闇になっていた。
「ああ、そういえばこの空間に、僕たちは立っていたんだな」
あんまりあの空間に慣れていたものだから、すっかり忘れてしまっていた。
ほんとうは忘れてはいけない世界だったのに。
目の前に居るガラムドは――気がつけば、丸い球体へと姿を変えてしまっていた。
「ガラムド……。その姿はいったい?」
『この姿で、あなたの前に姿を現してしまうのは大変お見苦しい話ですが、許してください。残念ながら、私を狙っている勢力が居ることも確かだということです』
「……つまり、あなたは死んでいるということになるのか」
『死んでいる。いや、正確に言えば、死んでいるというよりも「地位を剥奪された」と言えば良いでしょうか』
「剥奪された?」
『まだ私はガラムドとして存在できています。けれどそれはあくまでも、次のガラムドが出てくるまでの間に過ぎません。それも期限が決められているわけで……。それに、誰もがガラムドになれるわけでもありません。それは、「祈りの巫女」で無くては為らないということ』
「祈りの巫女?」
『ええ。……私の力は、神格化後に数人の人間に分け与えました。その人々が後に、祈祷師や祓術師と呼ばれるようになったのですよ。神の血を引き継ぐ、とは言いますがそもそも神は子供など産みません。だから血など引き継いでいないのですよ。そこだけは不満がありますが……、まあそれを言ったところで何も始まりませんからね、別に良いのですけれど』
「……祈りの巫女、か」
ガラムドの言っていることが確かならば、リュージュもメアリーも神の血を引き継いでいないということになる。しかしながら、祈祷師の素質は引き継がれていると言うことか。それはどうやら血筋によるものなのだろうけれど。どうやら、それと一緒に神の血筋も引き継がれていると思い込んでいるだけなのかもしれない。
思い込み、というのは酷く恥ずかしいものではあるかもしれないけれど、それを証明することも出来ないから――結局の話、それはそのまま嘘を嘘として振り翳しているだけに過ぎない、という話になるのだろうか。
『そして……「祈りの巫女」の力を身につけているのは、今はたった一人だけ』
「まさか、それは……」
祈りの巫女として力を使う。
それは即ち――ガラムドと同じならば、この世界から離れなければならないということになるのか?
だとすれば。だとすれば。だとすれば。
それだけは認めては為らなかったし、それだけは信じたくなかった。
けれど、そんなことを知ってか知らずか――、ガラムドは言い放った。
『あなたはとっくに気付いているでしょうが……、その力を持っているのは、メアリー。あなたもよく知っている、旅の仲間ですよ』
雷に打たれたような感覚だった。
『もちろん、彼女はまだその素質には気付いていませんけれどね。ま、いつかは気付くことでしょう。或いは、薄々気付いているかもしれません。何せ彼女は勉強家ですからね。博識ならば、偉大なる戦いの結末ぐらいきちんと理解できているでしょうから』
「じゃあ、やっぱりメアリーは……」
『その力を使えば、彼女はあの世界で生きていくことは不可能ですね。私とともに……、いや、私と同じ地位になるだけの話です。もっとも、私はもうこの存在ではありませんから、私の代わりに「ガラムドになる」ということになりますが。代替わり、とでも言えば良いですかね?』
メアリーとは生きていられなくなる。
オリジナルフォーズを封印するためには、その力を使わないといけないのか?
メアリーの力を使わずとも、僕が持つこの剣を使えばいいんじゃないのか?
そもそも、僕はそのためにこの封印を解きに来たのに、それは間違っているということなのか?
『間違ってはいませんよ。別に、あなたの持つシルフェの剣を使えばもしかしたら封印ではなく、破壊することすら出来るかもしれません。けれど、あの状態から確実に為すことが出来る手段。一番簡単な手段……それこそが、祈りの巫女の力、その行使ですよ』
メアリーの力を使えば、簡単にこの戦いを終えることが出来る。しかしながら、いつ復活するか分からないし、メアリーとは二度と会えなくなるデメリットがある。
シルフェの剣を使えば、難易度は高いけれどこの戦いを終わらせるかもしれない。しかしながら、メアリーの力を使わないからメアリーと別れることは無い。
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僕は――どうすればいいのか。
『あなたは、それを救うのが使命なのでしょう?』
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同時に空間も徐々に朧気なものとなっていき、僕はその空間からの別離を悟った。
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