異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第二百六十七話 偉大なる戦い・決戦編㉜
オール・アイの御言葉――それはすっかり神のそれと同義になってしまっており、神殿協会の殆どの人間は、すっかりそれを信じ切ってしまっていた。だからこそ、オール・アイはそれにつけ込んだ。
オール・アイはこの神殿協会をバックに、いつ終末計画を遂行しようかと考えていた。
終末計画。
それは、この世界に増えすぎた動物を一度リセットするという漠然とした計画。
しかしながら今まで人間はその計画の存在を知らず、流れるように死に、そして生き続けてきた。
それは今だってそうだ。
そしてその計画を遂行していたのは、オール・アイ。
正確に言えば、終末をもたらすべく、人間をうまく操っていたのがオール・アイだった。
「さて……それでははじめましょうか」
神父の一人に説明を終えたオール・アイは、議事堂のテラスに立っていた。
そこから見える景色には、公園が広がっている。
そしてその公園には、至る所に人間がいて、彼らは皆オール・アイの御言葉を聞くべく待っていた。
オール・アイの御言葉。
それは神の言葉だった。
そしてそれは一般市民にも知れ渡っている事実だと言えるだろう。
だから彼らはオール・アイの御言葉を聞くために、仕事中であろうとも、授業中であろうとも、やってきているのだ。
これから――オール・アイが何を彼らに告げるかも、分からないはずなのに。
仮に分かっていたところでそれに背くことは考えられなかった。
オール・アイの計画は既にそこまで進んでいる。
オール・アイ自身、そう思っていたからだ。
「……皆様、お集まりいただきありがとうございます」
先ずは普通の挨拶から。
「今から私がお話しするのは、いつも通り、神の御言葉となります。普段ならば、枢機卿がお伝えすることになるのでしょうが……、今回は彼らではなく私自らが話をいたします」
それを聞いてざわつく群衆。
当然だろう。普段話をしているのは、オール・アイが言った通り枢機卿の面々だ。だからオール・アイを見たことの無い人間が殆どだ。だからいったい誰なのだろうか、なんてことを思っていたが――それを聞いて彼女がオール・アイであるということを確信したと言えるだろう。
さらに彼女の話は続く。
「私の話は、そう長いものではありません。ですが、とても重要なお話です。ですから枢機卿へ伝えるのでは無く、私の口から直接お話しさせていただこうと……、そう思っているのです。何をお伝えするか? それは簡単な話、神の御言葉。崇高なる神、ドグ様の御言葉です」
ドグの言葉など、もう聞こえるものではない。
いや、正確に言えば、ドグという神は存在しなかった。
この世界の神はすべて創造神たるムーンリットだけとなっており、あとはすべて机上の空論で存在しているだけに過ぎない。要するに、ドグという神も誰か気が触れた人間があるとき言い放った想像上の存在に過ぎず、結局の所その名前を借りているだけに過ぎない。
想像から生み出された存在が、数十万人もの信者を生み出しているのだから、人間の世界とはかくも面白いものだと、オール・アイは思っていた。
今のオール・アイにとってみればそれはとても都合の良い存在だとしか認識していないのかもしれないが。
「……審判の時が、ついにやってきました。私たちは、神の居る場所……『神界』へと向かうことが許されたのです」
そうして、オール・アイは言葉を紡ぎはじめた。
終末計画、その始動を合図する第一段階。
神殿協会から、その計画は始まっていく。
「審判の時、ってまさか……」
先程以上に騒ぎ立てる群衆。そう思うのも仕方ないものだろう。
審判の時。それは神殿協会の教典にも記されている、最終の時。
人間は生まれたときから、神の世界――神界に暮らしていた。しかしながら、神界に暮らしていた人間はあるときこの世界へと追放された。
それが『現罪』であり、人間が永遠に背負う罪であった。
しかしながら、その罪が許されるタイミングがたった一度だけ存在していた。
それは、この世界の――人間達が生きてる世界の消失。
人間が神界から追放され、そして追放された後の世界も消失するというのならば、その罪を許す機会を与えようでは無いか、ということだった。
それが、教典に記されている『審判の時』だった。
「……我々は審判の時まで生き抜くことが出来ました。そしてそのタイミングこそ、私たちが人間ではなく別の存在へと……神となる瞬間といえるのでは無いでしょうか」
ざわつく群衆。もうその騒ぎを収めることは出来ないだろう。
群衆の一人が、大きく声を出した。
「じゃあ、我々はどうやってドグ様の御座へと向かうことが出来るのですか!」
オール・アイはその言葉を待ってました、と言わんばかりに一笑に付す。
一拍おいて、オール・アイは言い放った。
「それは単純な話です。この世界で使っている身体から自らの魂を解き放つこと。それはこの世界での『死』を意味します。死は恐ろしいことでしょうか? いいえ、そんなことは有り得ません。死は新しい世界への移動を意味します。この世界から、別の世界へと向かうために……我々は今!」
オール・アイは両手を掲げ――ゆっくりと、しかしながらはっきりと言い切った。
「この世界から、自らの魂を解放するのです!」
オール・アイはこの神殿協会をバックに、いつ終末計画を遂行しようかと考えていた。
終末計画。
それは、この世界に増えすぎた動物を一度リセットするという漠然とした計画。
しかしながら今まで人間はその計画の存在を知らず、流れるように死に、そして生き続けてきた。
それは今だってそうだ。
そしてその計画を遂行していたのは、オール・アイ。
正確に言えば、終末をもたらすべく、人間をうまく操っていたのがオール・アイだった。
「さて……それでははじめましょうか」
神父の一人に説明を終えたオール・アイは、議事堂のテラスに立っていた。
そこから見える景色には、公園が広がっている。
そしてその公園には、至る所に人間がいて、彼らは皆オール・アイの御言葉を聞くべく待っていた。
オール・アイの御言葉。
それは神の言葉だった。
そしてそれは一般市民にも知れ渡っている事実だと言えるだろう。
だから彼らはオール・アイの御言葉を聞くために、仕事中であろうとも、授業中であろうとも、やってきているのだ。
これから――オール・アイが何を彼らに告げるかも、分からないはずなのに。
仮に分かっていたところでそれに背くことは考えられなかった。
オール・アイの計画は既にそこまで進んでいる。
オール・アイ自身、そう思っていたからだ。
「……皆様、お集まりいただきありがとうございます」
先ずは普通の挨拶から。
「今から私がお話しするのは、いつも通り、神の御言葉となります。普段ならば、枢機卿がお伝えすることになるのでしょうが……、今回は彼らではなく私自らが話をいたします」
それを聞いてざわつく群衆。
当然だろう。普段話をしているのは、オール・アイが言った通り枢機卿の面々だ。だからオール・アイを見たことの無い人間が殆どだ。だからいったい誰なのだろうか、なんてことを思っていたが――それを聞いて彼女がオール・アイであるということを確信したと言えるだろう。
さらに彼女の話は続く。
「私の話は、そう長いものではありません。ですが、とても重要なお話です。ですから枢機卿へ伝えるのでは無く、私の口から直接お話しさせていただこうと……、そう思っているのです。何をお伝えするか? それは簡単な話、神の御言葉。崇高なる神、ドグ様の御言葉です」
ドグの言葉など、もう聞こえるものではない。
いや、正確に言えば、ドグという神は存在しなかった。
この世界の神はすべて創造神たるムーンリットだけとなっており、あとはすべて机上の空論で存在しているだけに過ぎない。要するに、ドグという神も誰か気が触れた人間があるとき言い放った想像上の存在に過ぎず、結局の所その名前を借りているだけに過ぎない。
想像から生み出された存在が、数十万人もの信者を生み出しているのだから、人間の世界とはかくも面白いものだと、オール・アイは思っていた。
今のオール・アイにとってみればそれはとても都合の良い存在だとしか認識していないのかもしれないが。
「……審判の時が、ついにやってきました。私たちは、神の居る場所……『神界』へと向かうことが許されたのです」
そうして、オール・アイは言葉を紡ぎはじめた。
終末計画、その始動を合図する第一段階。
神殿協会から、その計画は始まっていく。
「審判の時、ってまさか……」
先程以上に騒ぎ立てる群衆。そう思うのも仕方ないものだろう。
審判の時。それは神殿協会の教典にも記されている、最終の時。
人間は生まれたときから、神の世界――神界に暮らしていた。しかしながら、神界に暮らしていた人間はあるときこの世界へと追放された。
それが『現罪』であり、人間が永遠に背負う罪であった。
しかしながら、その罪が許されるタイミングがたった一度だけ存在していた。
それは、この世界の――人間達が生きてる世界の消失。
人間が神界から追放され、そして追放された後の世界も消失するというのならば、その罪を許す機会を与えようでは無いか、ということだった。
それが、教典に記されている『審判の時』だった。
「……我々は審判の時まで生き抜くことが出来ました。そしてそのタイミングこそ、私たちが人間ではなく別の存在へと……神となる瞬間といえるのでは無いでしょうか」
ざわつく群衆。もうその騒ぎを収めることは出来ないだろう。
群衆の一人が、大きく声を出した。
「じゃあ、我々はどうやってドグ様の御座へと向かうことが出来るのですか!」
オール・アイはその言葉を待ってました、と言わんばかりに一笑に付す。
一拍おいて、オール・アイは言い放った。
「それは単純な話です。この世界で使っている身体から自らの魂を解き放つこと。それはこの世界での『死』を意味します。死は恐ろしいことでしょうか? いいえ、そんなことは有り得ません。死は新しい世界への移動を意味します。この世界から、別の世界へと向かうために……我々は今!」
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