異世界で、英雄譚をはじめましょう。

巫夏希

第二百六十五話 偉大なる戦い・決戦編㉚

「ええと……。はじめまして、でいいのかな。リーダーに任命された、風間修一と言います。名前だけでも覚えておいて……ください」
「そんな弱気でどうするんだよ! もっとしゃきっと話してくれよ」

 僕の言葉に活を入れたのはグランズだった。
 きっと彼が一番先に文句を言ってくるだろうと思っていたから、それについては若干予想できていた。

「……ええと、まあ、仕方ないと思ってください。僕だって、ずっと前からこの立場に立つことが決まっていたわけではありません。だからそれについてはほんとうに――」
「だから、認めろと? お前が不甲斐ないことで、このジャパニアの人間が全員死ぬ可能性だって十分考えられる。それほどにオリジナルフォーズは強敵だというのに?」
「まあまあ、そう言うことでもないでしょう。確かに彼は何も経験を持っていませんが……」「持っていないならば殊更、どうして彼をリーダーに選任した? きっと使徒の連中がそう決めたのだろうが、とはいっても認められないものは認められないということもあるのではないか? いいや、認めるというよりもなぜ彼にしたのかを教えてほしいのだが」

 お前さっき傭兵は上が誰であろうと従うと言ったよな、あれは嘘だったのか。
 なんてことを思ったけれど、それを言ったところで知らぬ存ぜぬと言われるところだろう。きっと。

「……もちろん、理由はあります。それは、彼が……」

 刹那。
 一つの大きな衝撃があった。
 先ず始めに大きな横揺れ。次いで、縦揺れ。
 地震かと思った。地割れかと思った。

「……これは、いったい!」

 大急ぎで僕たちは外に出た。
 すると――そこに広がっていたのは、悪夢のような光景。
 異形が、僕たちの居る場所をめがけてゆっくりと動き始めていたのだ。
 遠くに見えるその姿――それだけでもその異形の巨大さがはっきりと分かる。
 そして、僕はその存在が何であるか知っていた。

「まさか……あれがオリジナルフォーズだというのか……!?」

 最初に言葉を発したのはグランズだった。

「そうとしか考えられませんね。あの巨大な獣……。あれが神殿協会が生み出した化物だというのですか……! あれを、我々はどうやって倒さねばならないというのか」

 次に言ったのはストライガーだった。
 グランズがあまりの巨大さに慌てているような口ぶりだったのに対して、彼女は落ち着いている様子に見えた。おおよそある程度想像はついていたのかもしれない。

「いずれにせよ、やるしか無いのでしょう」

 風が、吹き始めた。
 最初はただの気候の変化かと思っていたが、少ししてそれは僕たちの周囲に吹いているものだと分かった。そして、同時にそれは自然のものではなく誰かが人工的に作り上げた風だ――そう結論づけることが出来た。
 そしてその風の中心に居たのは、メリッサだった。

「風を……操る?」
「ふふ。不思議なものですね。ずっと私はこの力を恐れていた。使いたくなかった。いや、使うとみんなが恐れるから、使うのを自ずと拒むようになっていた、とでも言えば良いでしょうか。なぜ私はこんな力を持っていたのか、って思うくらいには、悲観していた時期もありましたね」

 メリッサは両手で何かを作り出すような、仕草を見せていた。
 そして両手の隙間から――小さい竜巻のようなものが蠢いているのが確認できる。

「それは……」
「あら、お伝えしなかったかしら? 私、魔術師の家系なのよ。式山メリッサ、それが私の名前。ま、別に覚えなくても良いし、覚えていても良いし。それはあなたの自由」

 そして彼女の掌の中で大きくなった竜巻を、オリジナルフォーズめがけて投げつけた。
 しかしながら、そんな攻撃でダメージを与えられるような存在では無いことは、僕はとっくに知っていた。それが二千年後の未来だということは、きっと誰も信じてくれないだろうけれど。
 案の定、撃ち出された竜巻はオリジナルフォーズに届いたものの、そのままオリジナルフォーズの進撃を止めることまでは出来なかった。

「……まあ、こんなもので止められるとは思っていませんよ。力量の確認、そのために撃ち出したまでに過ぎません」

 何も言っていないのに、メリッサは言い訳がましくそんなことを言った。
 まあ、別にメリッサが魔術師の家系だろうと、そんなことはどうだっていい。寧ろ、二千年後の世界で魔術が発達している理由が納得できたくらいだ。
 メリッサたちが魔術をこの戦争で使うことによって、自衛のために魔術を学びはじめ、やがて素質のある人間が多く出てきて、魔術がデファクトスタンダードになった。大方そういう感じなのかもしれない。

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