異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第二百四十四話 偉大なる戦い・決戦編⑨
「……これは?」
「これは研究施設、と言われている場所。なぜ、そう曖昧にしたかといえば、それがほんとうにそうであるかはっきりしていないからです」
レイシャリオは机に置かれていた古い本を持ち上げた。
埃を払い、それをティリアに差し出す。
「この本を、見てみれば分かる話ですよ」
本?
ティリアはそう思いつつ、レイシャリオから本を受け取る。
本はハードカバーの体裁となっており、簡単に読み解ける程の薄さには見えなかった。しかしながら、レイシャリオが渡したからには見なければいけないだろう――ティリアはきっとそう思ったに違いない。
レイシャリオはティリアがそれを受け取ったのを見て、踵を返す。
「それはこの研究施設の日誌……。この施設で何があったかを記しているものです。その中身を知っている人間は枢機卿以上の存在と、オール・アイのみ。しかしながら、案外それは誰もが知るべき情報であると私は考えている。だから、先ずはあなたに開示しようと思う。このオリジナルフォーズが、どういう生き物であるか……」
それから、レイシャリオはティリアに、彼女が知っている『オリジナルフォーズについて』話し始めた。
「オリジナルフォーズは、かつて別の生き物として存在していた。寿命があり、傷を負えば死ぬ。そういう存在だった。だが、オリジナルフォーズは違う。元々の生き物から、ある進化を経て、永遠にも似た命を手に入れた化物となった」
「神の力を得た生き物、という話じゃなかったんすか……?」
「あれはただの間違いですよ。神の力なんて信じた方が負けです。枢機卿である私がそれを言うのは間違いではあるかもしれませんが、いずれにせよ、真実を教えてあげなければならない。それが私にとっての懸案でした」
「……懸案、ですか」
レイシャリオは俯いていた。
彼女はずっと苦悩していた、ということでもあった。とどのつまり、神の力だと揶揄されていたオリジナルフォーズが、神の力では無いと判断すると言うこと――それは即ち、神など居ない、ということに繋がってしまうのでは無いか、ということでもあった。
彼女はそうではないと思いながらも、オリジナルフォーズの扱いについてはどうすべきか考えていた。
オリジナルフォーズとは、どういう存在なのか。
神の力でないとすれば、人間の力であるとすれば?
それを否定することも、肯定することも今の彼女には出来ない。
神を信じるイコールその組織への存在意義と化している彼女にとってみれば、簡単に神を否定することもどうかと思うが。
「……レイシャリオ様は、神様はいないって考えているんすか……?」
「……、」
レイシャリオは何も言わなかった。
いや、言わなかった――というよりかは言えずにいた、といったほうが正しいのかもしれない。
彼女は未だ葛藤している。そしてそれはティリアも知ることは無い。いいや、知らなかった。知るはずが無かった。なぜならずっと彼女はティリアにそのことを隠していたのだから。隠していたことを、何となく知ることは出来たとしても、完全に理解することは不可能だ。
となれば、ティリアの取る行動は一つ。
「別に、誰もレイシャリオ様を咎める人は居ないっすよ」
ティリアは優しく語りかける。
レイシャリオは、その言葉に思わず頭を上げた。
見ると、ティリアが優しく微笑んでいた。
ティリアはさらに話を続ける。
「レイシャリオ様がどれ程の悩みを抱えていたのかは、はっきり言って分からないっすけれど……、それでも、一緒に悩みを抱えてあげることは出来ます。考えることは出来ます。悩みを聞くことは出来ます。だから、落ち込まないでください。一人で抱え込まないでください。レイシャリオ様が悲しむことは、私にとっても辛いことっすから」
「……ティリア、あなた」
レイシャリオは言葉をゆっくりと紡ぐことしか出来なかった。
レイシャリオの言葉を聞いて、漸く我に返ったティリアは顔を真っ赤にさせながら、
「あああああああ! ええと、すいません! 私、レイシャリオ様の護衛なのに、そんな上から目線で言ってしまって! ええと、別に、そんなつもりで言ったわけじゃ……」
「いい、いいの……。ティリア。ありがとう。私、あなたのおかげで、少し楽になった」
涙を拭ったところで、レイシャリオは前を向いた。
「問題を一つ提起しましょうか」
「問題?」
「オリジナルフォーズを復活させるには、どうすればいいか」
単純な問題だった。
しかしながら、解決するには難しい問題でもあった。
「……オリジナルフォーズを復活させることで、この世界は大変なことになってしまうのでは? だから、レイシャリオ様はオール・アイの命令に背こうと」
「いいや、そんなことは考えていないよ。問題は、オール・アイの傀儡になりたくないだけ。それに、この世界に何がもたらされるか、ってそれは簡単なこと。ただの大量破壊。それだけ」
「レイシャリオ様は、それを分かっていてオリジナルフォーズを復活させようと?」
はあ、と深い溜息を吐くレイシャリオ。
「だから言っているではありませんか、ティリア。私はそれで困っているのですよ。オール・アイの傀儡に成り下がりたくない。しかし、チャンスは今では無い。しかしながら、その通りにオリジナルフォーズを復活させてしまえば大量破壊と虐殺は免れない。ジレンマ、とでも言えば良いでしょうか、私はずっとそれを考えながらあの階段を降りて……、やっとここに辿り着いたわけです。しかし、それだけの短い時間では、何も考えつかなかったわけですが」
「これは研究施設、と言われている場所。なぜ、そう曖昧にしたかといえば、それがほんとうにそうであるかはっきりしていないからです」
レイシャリオは机に置かれていた古い本を持ち上げた。
埃を払い、それをティリアに差し出す。
「この本を、見てみれば分かる話ですよ」
本?
ティリアはそう思いつつ、レイシャリオから本を受け取る。
本はハードカバーの体裁となっており、簡単に読み解ける程の薄さには見えなかった。しかしながら、レイシャリオが渡したからには見なければいけないだろう――ティリアはきっとそう思ったに違いない。
レイシャリオはティリアがそれを受け取ったのを見て、踵を返す。
「それはこの研究施設の日誌……。この施設で何があったかを記しているものです。その中身を知っている人間は枢機卿以上の存在と、オール・アイのみ。しかしながら、案外それは誰もが知るべき情報であると私は考えている。だから、先ずはあなたに開示しようと思う。このオリジナルフォーズが、どういう生き物であるか……」
それから、レイシャリオはティリアに、彼女が知っている『オリジナルフォーズについて』話し始めた。
「オリジナルフォーズは、かつて別の生き物として存在していた。寿命があり、傷を負えば死ぬ。そういう存在だった。だが、オリジナルフォーズは違う。元々の生き物から、ある進化を経て、永遠にも似た命を手に入れた化物となった」
「神の力を得た生き物、という話じゃなかったんすか……?」
「あれはただの間違いですよ。神の力なんて信じた方が負けです。枢機卿である私がそれを言うのは間違いではあるかもしれませんが、いずれにせよ、真実を教えてあげなければならない。それが私にとっての懸案でした」
「……懸案、ですか」
レイシャリオは俯いていた。
彼女はずっと苦悩していた、ということでもあった。とどのつまり、神の力だと揶揄されていたオリジナルフォーズが、神の力では無いと判断すると言うこと――それは即ち、神など居ない、ということに繋がってしまうのでは無いか、ということでもあった。
彼女はそうではないと思いながらも、オリジナルフォーズの扱いについてはどうすべきか考えていた。
オリジナルフォーズとは、どういう存在なのか。
神の力でないとすれば、人間の力であるとすれば?
それを否定することも、肯定することも今の彼女には出来ない。
神を信じるイコールその組織への存在意義と化している彼女にとってみれば、簡単に神を否定することもどうかと思うが。
「……レイシャリオ様は、神様はいないって考えているんすか……?」
「……、」
レイシャリオは何も言わなかった。
いや、言わなかった――というよりかは言えずにいた、といったほうが正しいのかもしれない。
彼女は未だ葛藤している。そしてそれはティリアも知ることは無い。いいや、知らなかった。知るはずが無かった。なぜならずっと彼女はティリアにそのことを隠していたのだから。隠していたことを、何となく知ることは出来たとしても、完全に理解することは不可能だ。
となれば、ティリアの取る行動は一つ。
「別に、誰もレイシャリオ様を咎める人は居ないっすよ」
ティリアは優しく語りかける。
レイシャリオは、その言葉に思わず頭を上げた。
見ると、ティリアが優しく微笑んでいた。
ティリアはさらに話を続ける。
「レイシャリオ様がどれ程の悩みを抱えていたのかは、はっきり言って分からないっすけれど……、それでも、一緒に悩みを抱えてあげることは出来ます。考えることは出来ます。悩みを聞くことは出来ます。だから、落ち込まないでください。一人で抱え込まないでください。レイシャリオ様が悲しむことは、私にとっても辛いことっすから」
「……ティリア、あなた」
レイシャリオは言葉をゆっくりと紡ぐことしか出来なかった。
レイシャリオの言葉を聞いて、漸く我に返ったティリアは顔を真っ赤にさせながら、
「あああああああ! ええと、すいません! 私、レイシャリオ様の護衛なのに、そんな上から目線で言ってしまって! ええと、別に、そんなつもりで言ったわけじゃ……」
「いい、いいの……。ティリア。ありがとう。私、あなたのおかげで、少し楽になった」
涙を拭ったところで、レイシャリオは前を向いた。
「問題を一つ提起しましょうか」
「問題?」
「オリジナルフォーズを復活させるには、どうすればいいか」
単純な問題だった。
しかしながら、解決するには難しい問題でもあった。
「……オリジナルフォーズを復活させることで、この世界は大変なことになってしまうのでは? だから、レイシャリオ様はオール・アイの命令に背こうと」
「いいや、そんなことは考えていないよ。問題は、オール・アイの傀儡になりたくないだけ。それに、この世界に何がもたらされるか、ってそれは簡単なこと。ただの大量破壊。それだけ」
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