異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第二百三十八話 偉大なる戦い・決戦編③
神殿協会、総本部。
「オール・アイ。準備が整いました」
闇夜の祈祷室。レイシャリオはなおも祈祷を続けているオール・アイに語りかけた。
オール・アイはずっと祈祷を続けている。
世界の行く末を知っているのは、今も昔も彼女だけだ。そしてその預言の的中率から、彼女を信じる人間も多い。とどのつまり、オール・アイは今や一種の神と言っても過言では無かった。
「……オール・アイ、準備が出来ましたが。如何なさいますか」
祈祷の最中には話しかけないこと。
それは神殿協会の中で共通認識として存在していた。けれど、今はそういう常識が通用する事態では無い。現にオール・アイも『緊急時は除く』と発言しているため、そして、今がその緊急時だ。
「選択肢は無い。オリジナルフォーズを起動なさい。そうして、世界の破壊と再生を果たすのです」
対して、オール・アイは決して悩むことを見せなかった。
そのまま、導きの通りに発言しただけ――人によってはそう考えることもあるかもしれない。
しかしレイシャリオはそう考えなかった。それはオール・アイが預言したことではなくて、預言と偽っているただの彼女の意思なのではないか――そう考えていた。
もしそうであれば神と偽った罪に裁かれるべきだ。その場合は言語道断で重罪に問われる。
でも、その証拠を見つけない限り、告発することは出来ない。
それはレイシャリオにとって酷な話だった。当然ながら、相手は証拠を見せるような隙を与える訳がない。だからといって追いかけ続けると今度はこちらが隙を見せかねない。
だから今は膠着状態。
揺らぎの無い世界、といえば可愛いものかもしれないが――しかしてそれは間違いでは無い。
「揺らぎの無い世界を、あなたはどう思いますか」
オール・アイは普段と同じトーンで、レイシャリオにそう問いかけた。
レイシャリオは小さく首を傾げ、オール・アイの発言について考え始める。
「揺らぎの無い世界、ですか。特に思ったことはありませんが、まあ、平和なことは良いのでは無いですか? それとも、何か問題があるのでしょうか」
「大ありですよ。……まあ、それをあなたはどこまで考えるか、という話にはなりますが。いずれにせよ、平和であり続けること、それは正しいことかもしれませんが、そのスケールはあくまでも人間に関する話。例えば世界というスケールで考えると……途端に人間のスケールで考えていたことは、簡単に当てはまらなくなります。なぜだかおわかりですか?」
「世界には人間以外の生き物が暮らしていて、人間だけの考えで動かすことは難しいから……ですか」
オール・アイは頷くと、ここで漸くレイシャリオのほうを向いた。
「そうです。その通りですよ。この世界には、人間以外にも様々な生き物が存在しています。そしてそのピラミッドの上に人間は立っている。様々な科学技術を駆使した上での、話しではありますが」
「……お言葉ですが、それとオリジナルフォーズの起動に何の意味が?」
「きっとあなたも嫌と言うほど分かるはずですよ、レイシャリオ枢機卿」
それだけだった。
オール・アイはその言葉だけを口にして、再び祈祷に戻った。
幾度と声をかけたところでオール・アイは反応しなかった。レイシャリオはその言葉に何か含みがあるようでできる限りその謎を解明したかったが、ここで焦りを見せるわけにはいかない――そう思って、今回はその場を後にすることとした。
レイシャリオが立ち去ったのを確認して、オール・アイは一人笑みを浮かべていた。
レイシャリオはある段階まで情報をつかんでいる。そしてその予想を確信なものにしようとしている。オール・アイはそう考えていた。そして、レイシャリオの予想がその計画の神髄であることも、彼女は理解していた。
オール・アイは預言を神から受け取っているわけでは無い。だからといって、嘘を吐いているわけでもなかった。
「……きっと、あの枢機卿はそう遠くないうちに真実に辿り着くはず。けれど、それは人間たちにとって途方も無い真実だ。きっと、そう鵜呑みには出来ない」
オール・アイの計画は。
この世界の行く末は。
レイシャリオだけではなく、きっとほかの人間も聞いたところでその事実を信じることはないだろう。オール・アイはそう予想していた。
そして、レイシャリオがそのことを他人に話したところで誰にも信用されないし――確実に己の権威を傷つける結果になることも推測出来ていた。
だからレイシャリオは真実に辿り着いたところで、それを他人には話さない。
それをすれば、彼女に残された未来は自滅しか無いからだ。
「レイシャリオ……。彼女はとても頭が良い。人類にとっての宝といっても過言では無いでしょう」
オール・アイは呟き、窓から空を眺める。
外はすっかり夜になっているようで、ちょうど月の明かりが差し込んでいた。
「けれど、彼女がもし真実に辿り着いた時には……殺さねばなりませんねえ」
オール・アイは月を見て笑っていた。
そしてその光景と言葉は、誰にも伝わることは無いのだった。
「オール・アイ。準備が整いました」
闇夜の祈祷室。レイシャリオはなおも祈祷を続けているオール・アイに語りかけた。
オール・アイはずっと祈祷を続けている。
世界の行く末を知っているのは、今も昔も彼女だけだ。そしてその預言の的中率から、彼女を信じる人間も多い。とどのつまり、オール・アイは今や一種の神と言っても過言では無かった。
「……オール・アイ、準備が出来ましたが。如何なさいますか」
祈祷の最中には話しかけないこと。
それは神殿協会の中で共通認識として存在していた。けれど、今はそういう常識が通用する事態では無い。現にオール・アイも『緊急時は除く』と発言しているため、そして、今がその緊急時だ。
「選択肢は無い。オリジナルフォーズを起動なさい。そうして、世界の破壊と再生を果たすのです」
対して、オール・アイは決して悩むことを見せなかった。
そのまま、導きの通りに発言しただけ――人によってはそう考えることもあるかもしれない。
しかしレイシャリオはそう考えなかった。それはオール・アイが預言したことではなくて、預言と偽っているただの彼女の意思なのではないか――そう考えていた。
もしそうであれば神と偽った罪に裁かれるべきだ。その場合は言語道断で重罪に問われる。
でも、その証拠を見つけない限り、告発することは出来ない。
それはレイシャリオにとって酷な話だった。当然ながら、相手は証拠を見せるような隙を与える訳がない。だからといって追いかけ続けると今度はこちらが隙を見せかねない。
だから今は膠着状態。
揺らぎの無い世界、といえば可愛いものかもしれないが――しかしてそれは間違いでは無い。
「揺らぎの無い世界を、あなたはどう思いますか」
オール・アイは普段と同じトーンで、レイシャリオにそう問いかけた。
レイシャリオは小さく首を傾げ、オール・アイの発言について考え始める。
「揺らぎの無い世界、ですか。特に思ったことはありませんが、まあ、平和なことは良いのでは無いですか? それとも、何か問題があるのでしょうか」
「大ありですよ。……まあ、それをあなたはどこまで考えるか、という話にはなりますが。いずれにせよ、平和であり続けること、それは正しいことかもしれませんが、そのスケールはあくまでも人間に関する話。例えば世界というスケールで考えると……途端に人間のスケールで考えていたことは、簡単に当てはまらなくなります。なぜだかおわかりですか?」
「世界には人間以外の生き物が暮らしていて、人間だけの考えで動かすことは難しいから……ですか」
オール・アイは頷くと、ここで漸くレイシャリオのほうを向いた。
「そうです。その通りですよ。この世界には、人間以外にも様々な生き物が存在しています。そしてそのピラミッドの上に人間は立っている。様々な科学技術を駆使した上での、話しではありますが」
「……お言葉ですが、それとオリジナルフォーズの起動に何の意味が?」
「きっとあなたも嫌と言うほど分かるはずですよ、レイシャリオ枢機卿」
それだけだった。
オール・アイはその言葉だけを口にして、再び祈祷に戻った。
幾度と声をかけたところでオール・アイは反応しなかった。レイシャリオはその言葉に何か含みがあるようでできる限りその謎を解明したかったが、ここで焦りを見せるわけにはいかない――そう思って、今回はその場を後にすることとした。
レイシャリオが立ち去ったのを確認して、オール・アイは一人笑みを浮かべていた。
レイシャリオはある段階まで情報をつかんでいる。そしてその予想を確信なものにしようとしている。オール・アイはそう考えていた。そして、レイシャリオの予想がその計画の神髄であることも、彼女は理解していた。
オール・アイは預言を神から受け取っているわけでは無い。だからといって、嘘を吐いているわけでもなかった。
「……きっと、あの枢機卿はそう遠くないうちに真実に辿り着くはず。けれど、それは人間たちにとって途方も無い真実だ。きっと、そう鵜呑みには出来ない」
オール・アイの計画は。
この世界の行く末は。
レイシャリオだけではなく、きっとほかの人間も聞いたところでその事実を信じることはないだろう。オール・アイはそう予想していた。
そして、レイシャリオがそのことを他人に話したところで誰にも信用されないし――確実に己の権威を傷つける結果になることも推測出来ていた。
だからレイシャリオは真実に辿り着いたところで、それを他人には話さない。
それをすれば、彼女に残された未来は自滅しか無いからだ。
「レイシャリオ……。彼女はとても頭が良い。人類にとっての宝といっても過言では無いでしょう」
オール・アイは呟き、窓から空を眺める。
外はすっかり夜になっているようで、ちょうど月の明かりが差し込んでいた。
「けれど、彼女がもし真実に辿り着いた時には……殺さねばなりませんねえ」
オール・アイは月を見て笑っていた。
そしてその光景と言葉は、誰にも伝わることは無いのだった。
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