異世界で、英雄譚をはじめましょう。

巫夏希

第二百三十話 閑話:西暦二〇四七年①

「アメリカがそんなことを……?」
「あなたはきっと、そんなことをしないと思うかもしれませんね。けれど、けれども、私たちは実際に歴史を見てきた。……おっと、正確には私を除いた使徒が、ということになりますか。私は新入りなので、この世界が出来てからの歴史しか知らないのですよ」

 どうやら同じ『使徒』でも年功序列があるらしい。
 正確に言えば、それは年の差と言った感じか。確かに、欠番という存在はほかに比べて地位が高いように見える。

「それはそれとして。オール・アイはいったい何を考えたと思いますか。その世界を、いかに掌握しようとしたか」
「いかに掌握しようとしたか?」

 僕は質問を振られたので、その言葉を思わず反芻した。
 そしてゆっくりと――その答えについて考え始める。

「簡単ですよ。人の数を減らしてから、洗脳してしまえばいい。正確に言えば、洗脳出来るようにコントロールする、といった感じでしょうか」
「人の数を減らす――まさか、」

 僕は今、風間修一の身体で生きている。
 そしてそれは、記憶も残っている形で、意識だけ僕の意識が残っている形だ。
 とどのつまり、風間修一が経験していることも――あたかも僕が経験したような感じで記憶が残っている、ということになる。
 そして、僕が何かを察したことは――ストライガーも気付いたようだった。

「気付いたようですね。そうです、あなたは一万人の人間とともに冷凍保存されてこの世界にやってきた。その理由は? その原因は? あなたの中に残っている、その記憶……辛い記憶かもしれませんが、思い出してみてください」

 僕は――そう言われて、その通りに記憶を思い返してみる。
 僕が、正確に言えば、風間修一が経験した記憶。
 それは『西暦二〇四七年』の記憶――。


 ◇◇◇


 西暦二〇四七年。
 『生活補助型アンドロイド』の商用化が始まったことにより、人々の生活にアンドロイドが追加されていくようになった。
 とはいえ、アンドロイドもロボットだ。必ずつきまとうのは、人間しか持ち得ていない『感情』や『愛情』などをどう賄うか――であった。アンドロイドは平坦な言い方をしてしまえばただの機械である。とどのつまり、ロボットに優しさは存在しない。仮に存在してもそれはプログラミングされた感情であり、アンドロイドには自我は存在しない、ということだ。
 では、西暦二〇四七年は飛躍的に科学技術が発展しているのか?
 否、断じて否。
 科学の進歩は西暦二〇一七年に一度停止した。理由は色々と挙げられるが、一つの大きな理由は世界の警察とかつて謳われた国家の大統領が交代したことだ。
 大統領――とどのつまり国のトップが変わると方針も大きく変更されることになる。
 かくして、世界のためにということを念頭に置いていた方針はすべて転換されることになり、自国のことにすべてを置くこととなった。
 当然と言えば当然かもしれないが、その国を信用しきっていた様々な国は大きく自国の地位が揺るがされる。
 それは東洋の島国とて例外では無かった。その島国は経済の安定を考え、自国が得意とする科学技術をネタにその国家の従属と成り下がった。従属、というよりも植民地に近い扱いを望み、結果としてそれが認められた。
 それにより、安定した科学技術の開発が出来るようになったが、その科学技術の供給先はほかならない『本国』だった。正確に言えば、新製品のデモンストレーションを島国で実施して、安定した運用が確認されれば本国へ展開される。その技術は決して強固な同盟関係を築く二国の外には出て行かない。それは二国の共同宣言からなる『約束事』だった。
 西暦二〇二二年、東洋の島国と本国は『科学同盟国家』へ統合する。最終的に西暦二〇三七年までの僅か十五年で世界の七割ほどが一つの国家として統合されることとなり、本国の大統領がそのまま世界のトップを務めることとなる。
 そしてそれから十年後。
 アンドロイドが社会に浸透し始めたというタイミングで、風間修一の家にもアンドロイドが来ることになった。
 Good HOuse-keeper aSissT――通称GHOST型アンドロイドは家事に特化したアンドロイドである。値段も数万円と安価なことから、一般家庭にも導入しやすくなっている――というのが販売会社の話だ。
 GHOST型アンドロイドは基本女性型で製作されている。理由は家事をするのは女性が多いという固定観念と、母性を感じ取りやすいという理由からだ。
 しかしながら――やはりアンドロイドはロボットだ。
 となるとアンドロイドには『愛』が宿らないと考える層も少なからず居る、ということになる。
 風間修一もその一人だった。

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