異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第二百二十五話 偉大なる戦い㉖
「君が思っている以上にムーンリットはブラックボックスな存在だ。いや、既に君も気付いているかもしれない。けれど、それよりも、君が思っている以上に、あの『闇』は深いのだ」
「……そうですか」
だからといって、そこで簡単に引き下がるつもりもない。
「まるで、それだけで話を終えるのはつまらない、といった表情だな」
「そんなつもりは……」
あっさりとキガクレノミコトに見破られてしまい、僕は取り繕うとした。
しかし、キガクレノミコトはその反応を見て首を横に振った。
「別に気にすることはない。我々もムーンリットには些か気になっていることもあるし、寧ろ出来ることなら直接会いに行きたいとも思っているくらいだ。だがまあ、ムーンリットと私達では住む次元が違う。簡単に言えば、目の前にいるけど住むレイヤーが違うといった感じか」
「レイヤー……ですか」
まあ、確かにレイヤーには表層とかそういった意味があった気がする。というか、もともとそんな意味だ。
「とはいえ、ムーンリットをこのまま放っておく我々でもない」
キガクレノミコトはゆっくりと頷いた。
「正直、何処まで出来るかは解らないが、我々も策を練っている。なに、単純な話だ。我々だって神様の端くれ。たとえムーンリットに作られた偶像とはいえ、次元に『風穴』を開けることも出来るだろう」
「風穴……ですか」
「そうだ。文字通り、穴を開ける。この場合は君達人間も含まれるが……我々の住むレイヤーと、創造神ムーンリットの住むレイヤーには大きな壁がある。仮にそれを次元壁と名付けようか。その次元壁は如何なる干渉も受けない。簡単に言えば……ううむ、ついこの言い回しをしてしまうな。色んな奴から突っ込まれてしまうのだが、それに関しては致し方ない。……話を戻すぞ。簡単に言えば、その次元壁には仮に人間が強力な兵器を使ったとしても壊すどころか傷一つつかないだろう」
「……というより、対象は何処にあるんですか。壊す対象が『目に見えない』以上、破壊なんて出来ないはずです」
「その通り」
キガクレノミコトは不敵な笑みを零す。
まるで僕のこの発言を引き出したかったようにも見えた。
「いや、何も悪気があってこのような言い回しをしているわけではない。君に問いかけたくて、考えて欲しくて、こう話しているのだと思えばいい。伝わってくれるかどうかは、君に委ねられるのだが」
「それは……別にいいですけれど。でも、考えるったって次元壁は」
「次元壁は目に見えない。それは君が言った通りだ。なら、どうやって視認するか。そんなものは簡単だ。そもそも人間には見る手段なんて無いのだから」
「……はい?」
「だから、言っただろう? 我々なら次元壁に風穴を開けることができる、と。それはその通りの意味だ。人間には見えないんだよ。知恵の実だけを食らった、神の出来損ないには」
「おい、キガクレノミコト。今の言葉は不味いのではないか?」
「どうした、欠番。貴様らしくない動揺だな。それとも、人間に情でも湧いたか?」
「人間と長らく過ごしていたのは貴様だろう、キガクレノミコト。……それはさておき、人間をそのような名前で呼ぶことは我々の中で禁則事項としていたはずだが」
「……それもそうだった。いやはや、別に人間を貶めるつもりなど無かった。それに関しては真実だ」
キガクレノミコトは欠番、水神から視線を外して、再び僕に視線を移す。
「人間は昔創造神によって作られた。創造神が作り出した箱庭に、長らく暮らしていたと言われている。そしてその箱庭には二つの木の実が生っていた。それが知恵の実と生命の実、名前くらいは聞いたことがあるだろう? 人間は創造神にその実を食べてはならないと教えられた。しかしながら、悪戯好きな蛇が、食べろとそそのかした。……後は解るだろう。人間は知恵の実を食べ、善悪を覚えた。そして知恵の実を食べたことを知った創造神は人間と蛇を追放した。レイヤーも違う、未完成の世界へと」
「……それは、聞いたことがあります」
確か僕が元々いた世界で聞いた神話の一つだったと思う。図書館で読んだ書物にそんなことが書かれていた。あの時はあまり気に留めなかったけれど。
キガクレノミコトは深い溜息を吐いて、さらに話を続けた。
「話を続けようか。人間は二つの木の実のうち、知恵の実しか食べていない。だから創造神が分けたレイヤーを見比べることが出来ない。自分達の住むレイヤーしか見通すことが出来ないからだ。だが、我々は知恵の実も生命の実も食している。否、正確に言えば、どちらの木の実もこの身に注入された……とでも言えばいいか。いずれにせよ、二つの実を体内に取り込んでいるということは、それが即ち箱庭を視認出来る条件になる。箱庭……つまり創造神の居るレイヤーということだな。流石に入ることは出来ない。権限がそこまで譲渡されていないようだからな。だが、壁が視認できるということは……物理的ダメージを与えることも可能、ということだ」
「……そうですか」
だからといって、そこで簡単に引き下がるつもりもない。
「まるで、それだけで話を終えるのはつまらない、といった表情だな」
「そんなつもりは……」
あっさりとキガクレノミコトに見破られてしまい、僕は取り繕うとした。
しかし、キガクレノミコトはその反応を見て首を横に振った。
「別に気にすることはない。我々もムーンリットには些か気になっていることもあるし、寧ろ出来ることなら直接会いに行きたいとも思っているくらいだ。だがまあ、ムーンリットと私達では住む次元が違う。簡単に言えば、目の前にいるけど住むレイヤーが違うといった感じか」
「レイヤー……ですか」
まあ、確かにレイヤーには表層とかそういった意味があった気がする。というか、もともとそんな意味だ。
「とはいえ、ムーンリットをこのまま放っておく我々でもない」
キガクレノミコトはゆっくりと頷いた。
「正直、何処まで出来るかは解らないが、我々も策を練っている。なに、単純な話だ。我々だって神様の端くれ。たとえムーンリットに作られた偶像とはいえ、次元に『風穴』を開けることも出来るだろう」
「風穴……ですか」
「そうだ。文字通り、穴を開ける。この場合は君達人間も含まれるが……我々の住むレイヤーと、創造神ムーンリットの住むレイヤーには大きな壁がある。仮にそれを次元壁と名付けようか。その次元壁は如何なる干渉も受けない。簡単に言えば……ううむ、ついこの言い回しをしてしまうな。色んな奴から突っ込まれてしまうのだが、それに関しては致し方ない。……話を戻すぞ。簡単に言えば、その次元壁には仮に人間が強力な兵器を使ったとしても壊すどころか傷一つつかないだろう」
「……というより、対象は何処にあるんですか。壊す対象が『目に見えない』以上、破壊なんて出来ないはずです」
「その通り」
キガクレノミコトは不敵な笑みを零す。
まるで僕のこの発言を引き出したかったようにも見えた。
「いや、何も悪気があってこのような言い回しをしているわけではない。君に問いかけたくて、考えて欲しくて、こう話しているのだと思えばいい。伝わってくれるかどうかは、君に委ねられるのだが」
「それは……別にいいですけれど。でも、考えるったって次元壁は」
「次元壁は目に見えない。それは君が言った通りだ。なら、どうやって視認するか。そんなものは簡単だ。そもそも人間には見る手段なんて無いのだから」
「……はい?」
「だから、言っただろう? 我々なら次元壁に風穴を開けることができる、と。それはその通りの意味だ。人間には見えないんだよ。知恵の実だけを食らった、神の出来損ないには」
「おい、キガクレノミコト。今の言葉は不味いのではないか?」
「どうした、欠番。貴様らしくない動揺だな。それとも、人間に情でも湧いたか?」
「人間と長らく過ごしていたのは貴様だろう、キガクレノミコト。……それはさておき、人間をそのような名前で呼ぶことは我々の中で禁則事項としていたはずだが」
「……それもそうだった。いやはや、別に人間を貶めるつもりなど無かった。それに関しては真実だ」
キガクレノミコトは欠番、水神から視線を外して、再び僕に視線を移す。
「人間は昔創造神によって作られた。創造神が作り出した箱庭に、長らく暮らしていたと言われている。そしてその箱庭には二つの木の実が生っていた。それが知恵の実と生命の実、名前くらいは聞いたことがあるだろう? 人間は創造神にその実を食べてはならないと教えられた。しかしながら、悪戯好きな蛇が、食べろとそそのかした。……後は解るだろう。人間は知恵の実を食べ、善悪を覚えた。そして知恵の実を食べたことを知った創造神は人間と蛇を追放した。レイヤーも違う、未完成の世界へと」
「……それは、聞いたことがあります」
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