異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第二百二十一話 偉大なる戦い㉒
「それは……理解しているっす。理解しているからこそ、私は」
「レイシャリオ殿、今よろしいかな?」
レイシャリオの背後に、気が付けば一人の男性が立っていた。
フェリックス・アウラジオ枢機卿。
レイシャリオと同じく枢機卿の地位に立ち、そして、建前上はオール・アイの派閥に属しているが、彼自身の立ち位置としてはオール・アイの考えも見極めたうえでついていくか決定したいと言っている――いわゆる中立派だった。
それと同時に神殿協会の枢機卿では一番古くからその地位に立っている存在であり、実に三十年以上枢機卿の地位に立っている。齢にして七十を超えているはずだったが、その影響力は未だ強い。
「……どうなさいましたか、フェリックス枢機卿。あなたほどの存在がどうして私に?」
「自らを謙遜するものではないぞ、私と君は同じ枢機卿の地位。いわば対等の地位と呼べるのだからな」
「それは確かにそうですが……。しかしながら、あなたと私とではキャリアの差が違います。ですから、そこはやはり年功序列といった態度で……」
「ほっほ。相変わらず、頭が堅い考えを持っているようだ。レイシャリオ殿」
フェリックスは話を続ける。
「そもそも、レイシャリオ殿は考えたことが無いのかね? あのオリジナルフォーズについて」
「オリジナルフォーズについて……?」
フェリックスはレイシャリオに、彼女が考えていたことより想定外のことを話したため、首を傾げた。
そしてそれはフェリックスもそういう反応をすると想像していたのか、ゆっくりと頷いた。
「……何、知らないことも無理はあるまい。あのオリジナルフォーズは、星の力を蓄えている存在なのだから」
「星の力?」
その発言はレイシャリオにとって初耳だった。
いや、それだけではない。なぜフェリックスがそのことを知っているのか、ということについてとても気になっていた。
それがたとえ嘘かほんとうかを見極められなかったとしても。
「……この星が得た知識、それを蓄えたものはやがてエネルギーへと姿を変えた。それはレイシャリオ殿もご存知でしょう」
「ええ。確か、その名前は、かつてこの世界に人が生まれた際に『楽園』なる場所に生っていたものから、その名が取られた……と」
「そう。知恵の木の実、あれが生まれたことで、我々の罪は始まった。あの木の実を食べてしまったことにより、人は知恵をつけ、そして楽園から追放された――」
「それがいったい何だというのですか……。フェリックス枢機卿。あなたは、いったい何をお考えに……」
「ただの老人の戯言、そう思ってもらっても構わない。しかし、これは必ず起きることだ」
そう前置きして、フェリックスは話を続ける。
フェリックスは目を細めて、やがてゆっくりと話を始めた。
「……この世界は何度目かの滅亡を迎えた。しかしながら、それでも人間は生き延びた。それは我々のような存在が、旧時代の人類が帰ってくるまでの間、この星を管理する必要があると言われていた。それはあくまでも通説、あるいはドグ様の御言葉に過ぎないが……、その御言葉によれば我々はあくまでもその間の存在と言われているだけに過ぎない。いつか種は滅ばなければならないが、それは誰に滅ぼされるものでもなく、自らの傲りや環境の変化により自然的に滅んでいったものが殆どだ。しかしながら、人類は何度も滅ぼされつつ、我々のような存在を残してきた。……この言葉の意味が解るかね?」
「まったく……まったくもって意味が解りませんよ、フェリックス枢機卿。あなたはいったい何を……」
深い溜息を吐き、フェリックスは目を瞑る。
どうやらそれに関しては、レイシャリオに対して一家言おいていたようだった。
「……やれやれ。君なら解ると思っていたが、私の目ももうだいぶ耄碌してしまったようだな。まあ、それはそれでいい。いずれ君にも解るはずだ。オリジナルフォーズは何のために作られて、何のために働いていくのかということを」
そうして、フェリックスは立ち去っていく。
ゆっくりと、ゆっくりと、その姿をレイシャリオに焼き付けるようにも見えた。
フェリックスが廊下の角を曲がって見えなくなったのを見計らって、ティリアが声をかける。彼女はずっと会話には参加しなかったが、レイシャリオの隣で彼女たちの会話を聞いていたのだ。
「……レイシャリオ様、あの発言ですが、どうお思いっすか?」
「どう、とは?」
「あの発言、かなり含みを持たせた発言ばっかりっすけど……。気になるっちゃ気になるっすよね……」
それを聞いたレイシャリオはティリアのほうを向いて、首を傾げる。
「やっぱり、あなたも気になった?」
「ええ。あれを聞いて、気にならないほうがおかしいっすよ。だって、あの発言を聞いた限りだとまるでオリジナルフォーズが世界を滅ぼすというよりも人類そのものを滅ぼすかのような……。まあ、それはオール・アイが言っていた預言とやらとイコールっすよね?」
「まあ、そうなるわね……」
そこについては、レイシャリオも同意見だった。
フェリックスの発言は、どうやら今から起きることを傍観するべきだという感じに伝わった。もしそのまま傍観すれば、オリジナルフォーズの威力が想像通りであれば、この世界の人類は大半が滅んでしまうだろう。それをただ、見守っていろ――フェリックスの言葉、その真意は解らないが、それは今の彼女には出来ないことだった。
「レイシャリオ殿、今よろしいかな?」
レイシャリオの背後に、気が付けば一人の男性が立っていた。
フェリックス・アウラジオ枢機卿。
レイシャリオと同じく枢機卿の地位に立ち、そして、建前上はオール・アイの派閥に属しているが、彼自身の立ち位置としてはオール・アイの考えも見極めたうえでついていくか決定したいと言っている――いわゆる中立派だった。
それと同時に神殿協会の枢機卿では一番古くからその地位に立っている存在であり、実に三十年以上枢機卿の地位に立っている。齢にして七十を超えているはずだったが、その影響力は未だ強い。
「……どうなさいましたか、フェリックス枢機卿。あなたほどの存在がどうして私に?」
「自らを謙遜するものではないぞ、私と君は同じ枢機卿の地位。いわば対等の地位と呼べるのだからな」
「それは確かにそうですが……。しかしながら、あなたと私とではキャリアの差が違います。ですから、そこはやはり年功序列といった態度で……」
「ほっほ。相変わらず、頭が堅い考えを持っているようだ。レイシャリオ殿」
フェリックスは話を続ける。
「そもそも、レイシャリオ殿は考えたことが無いのかね? あのオリジナルフォーズについて」
「オリジナルフォーズについて……?」
フェリックスはレイシャリオに、彼女が考えていたことより想定外のことを話したため、首を傾げた。
そしてそれはフェリックスもそういう反応をすると想像していたのか、ゆっくりと頷いた。
「……何、知らないことも無理はあるまい。あのオリジナルフォーズは、星の力を蓄えている存在なのだから」
「星の力?」
その発言はレイシャリオにとって初耳だった。
いや、それだけではない。なぜフェリックスがそのことを知っているのか、ということについてとても気になっていた。
それがたとえ嘘かほんとうかを見極められなかったとしても。
「……この星が得た知識、それを蓄えたものはやがてエネルギーへと姿を変えた。それはレイシャリオ殿もご存知でしょう」
「ええ。確か、その名前は、かつてこの世界に人が生まれた際に『楽園』なる場所に生っていたものから、その名が取られた……と」
「そう。知恵の木の実、あれが生まれたことで、我々の罪は始まった。あの木の実を食べてしまったことにより、人は知恵をつけ、そして楽園から追放された――」
「それがいったい何だというのですか……。フェリックス枢機卿。あなたは、いったい何をお考えに……」
「ただの老人の戯言、そう思ってもらっても構わない。しかし、これは必ず起きることだ」
そう前置きして、フェリックスは話を続ける。
フェリックスは目を細めて、やがてゆっくりと話を始めた。
「……この世界は何度目かの滅亡を迎えた。しかしながら、それでも人間は生き延びた。それは我々のような存在が、旧時代の人類が帰ってくるまでの間、この星を管理する必要があると言われていた。それはあくまでも通説、あるいはドグ様の御言葉に過ぎないが……、その御言葉によれば我々はあくまでもその間の存在と言われているだけに過ぎない。いつか種は滅ばなければならないが、それは誰に滅ぼされるものでもなく、自らの傲りや環境の変化により自然的に滅んでいったものが殆どだ。しかしながら、人類は何度も滅ぼされつつ、我々のような存在を残してきた。……この言葉の意味が解るかね?」
「まったく……まったくもって意味が解りませんよ、フェリックス枢機卿。あなたはいったい何を……」
深い溜息を吐き、フェリックスは目を瞑る。
どうやらそれに関しては、レイシャリオに対して一家言おいていたようだった。
「……やれやれ。君なら解ると思っていたが、私の目ももうだいぶ耄碌してしまったようだな。まあ、それはそれでいい。いずれ君にも解るはずだ。オリジナルフォーズは何のために作られて、何のために働いていくのかということを」
そうして、フェリックスは立ち去っていく。
ゆっくりと、ゆっくりと、その姿をレイシャリオに焼き付けるようにも見えた。
フェリックスが廊下の角を曲がって見えなくなったのを見計らって、ティリアが声をかける。彼女はずっと会話には参加しなかったが、レイシャリオの隣で彼女たちの会話を聞いていたのだ。
「……レイシャリオ様、あの発言ですが、どうお思いっすか?」
「どう、とは?」
「あの発言、かなり含みを持たせた発言ばっかりっすけど……。気になるっちゃ気になるっすよね……」
それを聞いたレイシャリオはティリアのほうを向いて、首を傾げる。
「やっぱり、あなたも気になった?」
「ええ。あれを聞いて、気にならないほうがおかしいっすよ。だって、あの発言を聞いた限りだとまるでオリジナルフォーズが世界を滅ぼすというよりも人類そのものを滅ぼすかのような……。まあ、それはオール・アイが言っていた預言とやらとイコールっすよね?」
「まあ、そうなるわね……」
そこについては、レイシャリオも同意見だった。
フェリックスの発言は、どうやら今から起きることを傍観するべきだという感じに伝わった。もしそのまま傍観すれば、オリジナルフォーズの威力が想像通りであれば、この世界の人類は大半が滅んでしまうだろう。それをただ、見守っていろ――フェリックスの言葉、その真意は解らないが、それは今の彼女には出来ないことだった。
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