異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第二百二十話 偉大なる戦い㉑
「それは……」
ティリアはそれ以上、何も言えなかった。
レイシャリオの言葉は常に正論だった。正論というよりも真実をオブラートに包むことなく突き付けている、と言えばいいだろう。そもそもレイシャリオには多くの部下が居るが、オール・アイがやってきてから大半の部下をオール・アイに奪われてしまった。残っているのは、古くから彼女に仕える部下だけとなってしまっている。
ティリア・ハートビートもその一人であり、レイシャリオが枢機卿になる前から彼女に仕えている。
その理由として、レイシャリオに恩返ししたいから、とのことだが――その真実は彼女たちしか解らない。
「とにかく、あなたが何を考えているか解らないけれど、今は従うしかない。チャンスを待つしかない。それはあなたにだって解っていることだと思ったけれど? それとも、あなたはそこまでまだ到達していないと?」
「そんなことは……ないっす。私はずっと、レイシャリオ様に救われた恩を返そうと……」
「それは、解っています」
レイシャリオはティリアに一歩近づくと、そのまま彼女の頭を優しく撫でた。
一瞬ティリアはレイシャリオに何をされたのか解らなかったが、その行為自体に気付くと、ただ何も言わずに目を瞑った。
「あなたはずっと、私のために頑張ってくれました。それを辞めろとは咎めません。ですが、あなたは頑張り過ぎていて……いつかあなた自身危険な目に合わないか不安で仕方が無いのですよ」
「それは、大丈夫です。なぜなら私は――」
「レイシャリオ様のためなら命をなげうつこともできる――ですか?」
「――!」
結果的に言葉を先に言われてしまった形になって、ティリアは目を丸くする。
レイシャリオは深い溜息を吐き、話を続ける。
「いったい、どれくらいあなたと共にいると思っているのですか。それくらい、解り切っていた話ですよ」
「じゃあ……」
「でも、あなたのプライドがどうであろうと、私はそれを許しません。いえ、許したくありません」
レイシャリオは強くティリアを抱き締める。
それを、レイシャリオの温かみを感じながら、ティリアは顔を上げる。
レイシャリオは目を細め、彼女もまたティリアの顔を見つめていた。
「私は、あなたに死んでほしくは有りません。いえ、あなただけではない。私のことを思うことはほんとうに有難いと思っています。ですが、しかしながら、そんなことを思っているならばなおさら、私のために死ぬなんてことは言ってほしくないのです。……解っていただけますか?」
レイシャリオは博愛精神を持っていることで知られている。それは神殿協会の人間ならば周知の事実だった。
そしてその事実はただの噂などではなく――そのままの意味だった。彼女は、博愛精神に満ち溢れており、たとえそれが神殿協会の教えに反してしまうことであろうとしても、人を殺めることは間違っていると発言するような女性だった。
そして彼女の考えを信じる、或いは賛同する人間は少なくない。枢機卿は皆その賛同者として勢力を保持しているが、レイシャリオの勢力はその勢力の中でも一番で、そのままであれば神殿協会で一番力を持っている勢力とも言われていた。
しかし、そこでオール・アイが突然姿を現した。
オール・アイはレイシャリオの敵対するミティカ枢機卿の勢力に入っていた。正確に言えば、ミティカがバックアップをしており、枢機卿の勢力はさらにそのミティカのバックアップをしている状況だった。
とどのつまり、ミティカ枢機卿の勢力は今オール・アイの勢力そのものと化していた。
そして、オール・アイの力を知った他枢機卿の勢力も、オール・アイの勢力に合流し――今やオール・アイの勢力が神殿協会で一番の勢力となっている、ということだった。
「勢力争いでたくさんの人間が争い、そして死んでいきました。その戦争は、私と別の枢機卿、或いはオール・アイとの代理戦争となっていました。それは即ち、私が彼らに戦争を仕向けたのと同じこと。私はその亡くなっていった人間を弔いながらも……この争いが無くなってほしい。もうこの争いで死人は出したくない、そう思っています。それはあなたも知っていることでしたね?」
「え、ええ……。レイシャリオ様が定期的に私たちに話すことじゃないっすか。でも、それが?」
「それが、あなたたち……つまり、私を信じて今までついてきた人たちにも適用している、ということです。つまり、もう私のために死んでほしくない。それがたとえ、あなたたちの信念のために死ぬことであったとしても……」
レイシャリオはそこまで言ってようやくティリアから身体を離した。
レイシャリオは今にも泣きだしそうだったが、そこは枢機卿だ。このような表舞台では必ず弱みを見せることは無い。それは意識してなのか、無意識なのかは別として。
ティリアはレイシャリオを見つめて、一瞬だけ視線を離して、少しだけ考え事をして、そしてもう一度彼女と向き合うために視線を元に戻した。
「ティリア……。あなたも、私のために死ぬと言ってしまうの? もう、私のために死んでいく人は見ていたくない。それはもう、あなただって十分に理解していることでしょう……」
ティリアはそれ以上、何も言えなかった。
レイシャリオの言葉は常に正論だった。正論というよりも真実をオブラートに包むことなく突き付けている、と言えばいいだろう。そもそもレイシャリオには多くの部下が居るが、オール・アイがやってきてから大半の部下をオール・アイに奪われてしまった。残っているのは、古くから彼女に仕える部下だけとなってしまっている。
ティリア・ハートビートもその一人であり、レイシャリオが枢機卿になる前から彼女に仕えている。
その理由として、レイシャリオに恩返ししたいから、とのことだが――その真実は彼女たちしか解らない。
「とにかく、あなたが何を考えているか解らないけれど、今は従うしかない。チャンスを待つしかない。それはあなたにだって解っていることだと思ったけれど? それとも、あなたはそこまでまだ到達していないと?」
「そんなことは……ないっす。私はずっと、レイシャリオ様に救われた恩を返そうと……」
「それは、解っています」
レイシャリオはティリアに一歩近づくと、そのまま彼女の頭を優しく撫でた。
一瞬ティリアはレイシャリオに何をされたのか解らなかったが、その行為自体に気付くと、ただ何も言わずに目を瞑った。
「あなたはずっと、私のために頑張ってくれました。それを辞めろとは咎めません。ですが、あなたは頑張り過ぎていて……いつかあなた自身危険な目に合わないか不安で仕方が無いのですよ」
「それは、大丈夫です。なぜなら私は――」
「レイシャリオ様のためなら命をなげうつこともできる――ですか?」
「――!」
結果的に言葉を先に言われてしまった形になって、ティリアは目を丸くする。
レイシャリオは深い溜息を吐き、話を続ける。
「いったい、どれくらいあなたと共にいると思っているのですか。それくらい、解り切っていた話ですよ」
「じゃあ……」
「でも、あなたのプライドがどうであろうと、私はそれを許しません。いえ、許したくありません」
レイシャリオは強くティリアを抱き締める。
それを、レイシャリオの温かみを感じながら、ティリアは顔を上げる。
レイシャリオは目を細め、彼女もまたティリアの顔を見つめていた。
「私は、あなたに死んでほしくは有りません。いえ、あなただけではない。私のことを思うことはほんとうに有難いと思っています。ですが、しかしながら、そんなことを思っているならばなおさら、私のために死ぬなんてことは言ってほしくないのです。……解っていただけますか?」
レイシャリオは博愛精神を持っていることで知られている。それは神殿協会の人間ならば周知の事実だった。
そしてその事実はただの噂などではなく――そのままの意味だった。彼女は、博愛精神に満ち溢れており、たとえそれが神殿協会の教えに反してしまうことであろうとしても、人を殺めることは間違っていると発言するような女性だった。
そして彼女の考えを信じる、或いは賛同する人間は少なくない。枢機卿は皆その賛同者として勢力を保持しているが、レイシャリオの勢力はその勢力の中でも一番で、そのままであれば神殿協会で一番力を持っている勢力とも言われていた。
しかし、そこでオール・アイが突然姿を現した。
オール・アイはレイシャリオの敵対するミティカ枢機卿の勢力に入っていた。正確に言えば、ミティカがバックアップをしており、枢機卿の勢力はさらにそのミティカのバックアップをしている状況だった。
とどのつまり、ミティカ枢機卿の勢力は今オール・アイの勢力そのものと化していた。
そして、オール・アイの力を知った他枢機卿の勢力も、オール・アイの勢力に合流し――今やオール・アイの勢力が神殿協会で一番の勢力となっている、ということだった。
「勢力争いでたくさんの人間が争い、そして死んでいきました。その戦争は、私と別の枢機卿、或いはオール・アイとの代理戦争となっていました。それは即ち、私が彼らに戦争を仕向けたのと同じこと。私はその亡くなっていった人間を弔いながらも……この争いが無くなってほしい。もうこの争いで死人は出したくない、そう思っています。それはあなたも知っていることでしたね?」
「え、ええ……。レイシャリオ様が定期的に私たちに話すことじゃないっすか。でも、それが?」
「それが、あなたたち……つまり、私を信じて今までついてきた人たちにも適用している、ということです。つまり、もう私のために死んでほしくない。それがたとえ、あなたたちの信念のために死ぬことであったとしても……」
レイシャリオはそこまで言ってようやくティリアから身体を離した。
レイシャリオは今にも泣きだしそうだったが、そこは枢機卿だ。このような表舞台では必ず弱みを見せることは無い。それは意識してなのか、無意識なのかは別として。
ティリアはレイシャリオを見つめて、一瞬だけ視線を離して、少しだけ考え事をして、そしてもう一度彼女と向き合うために視線を元に戻した。
「ティリア……。あなたも、私のために死ぬと言ってしまうの? もう、私のために死んでいく人は見ていたくない。それはもう、あなただって十分に理解していることでしょう……」
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