異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第二百五話 偉大なる戦い⑥
「おはよう! お父さん、いい朝だね!」
……気づけば、僕のお腹の上にガラムド――いいや、違った。似ているだけで名前は違う。一花が僕に笑みを浮かべていた。
いい朝、というニュアンスから感じ取るに、恐らく朝になって朝食が完成したから僕を起こしに来たという感じだろう。
顔だけゆっくりと起こして、僕は一花に視線を送り――そして笑みを浮かべた。
「おはよう、一花」
僕の言葉を聞くと、前歯を見せるほどにっかりと笑ってそのまま僕のお腹から飛び降りた。
子供というのはかくも素早いものだと思う。……この肉体に入っているからあまり考えなかったけれど、僕自身も大人ではなく実際は子供である点には変わりないのだけれど。
それはそれとして、このままぼうっとした頭で思考を重ねるのはあまり宜しくない。それは僕も理解していた。
ならばどうすればいいか。そんなことはもうとっくに決まっていた。
ゆっくりと起き上がり、リビングルームへと向かう。美味しい匂いが徐々にその濃さを増していくので、あまり家の構造を知らずとも何とかなる。人間の本能というのは案外末恐ろしいものだと思う。
リビングルームに着くと直ぐにテーブルに秋穗と一花が座っていた。
「お父さん、おそーい!」
一花がそう頬を膨らませながら、フォークを握っていた。どうやら僕が来るのを待っていたらしい。
それは申し訳なかった、そう思いながら椅子に腰かける。
「それはすまなかったね。……さて、それじゃ朝ごはんといこうか」
「ああ、そうだった。あなた」
秋穗が僕に声をかけた。
「うん?」
僕は朝食のかぼちゃスープをスプーンで掬っていた、ちょうどその時に声をかけられたので、そのまま顔だけを上げていた。
「……木隠さんが呼んでいたよ。何でも言いたいことがあるんだって」
「言いたいこと?」
木隠――あの少女がいったい何の用事があるというのだろうか。
実際のところ、少女とは呼べないほど高齢であるということは知っているのだけれど。
まあ、とにかく一度会ってみないと話にならない――そう思った僕はただゆっくりと頷くだけだった。
◇◇◇
朝食を食べ終えて、片づけをしたところで僕は町に繰り出していた。
理由は単純明快。朝、秋穗に言われた通り、木隠のもとへと向かう為だった。
木隠の住んでいる場所は集落の外れにある木造の建物だった。二階建ての建物は一階がバーになっている。
扉を開けると、薄暗い部屋の中でカウンターを拭いている女性と目が合った。
「……まだ営業時間じゃないよ。それとも、そんなことも解らないのかね?」
「木隠さんに呼び出されたのですが」
溜息を吐いて、僕は女性に言った。
女性はそれを聞いて嫌々、といった表情で首を傾げると小さく溜息を吐いた。
「……木隠なら、店の奥に居るよ。地下室へと降りる階段を降りてその突き当りだ」
そう言って女性は面倒くさそうにカウンターの扉を開けた。
どうも、と一言言って頭を下げる僕はそのままカウンターを抜けて店の奥へと向かった。
店の奥も暗い部屋と通路が続いていたが、それほど入り組んでいる構造では無かった。まあ、どうやら風間修一の知識に木隠の部屋へのルートが残っているということは何度かここに入ったことがあるということなのだろう。それほど心を許している存在、ということなのだろうか。
そして地下室の階段を降りて、漸く木隠の部屋へと到着した。
「失礼します」
ノックをしたのち、僕は扉を開けた。
扉の向こうに広がっていたのは、畳の部屋だった。
「……おう、風間修一か。待っていたぞ、さあ入ってくるがいい」
靴を脱いで畳の上に立つ。
何というか畳に立つのはとても久しぶりな感じがする。あの世界にやってきて一年余り、実際には眠っていた期間を含めれば十年以上になるわけだけれど、畳の上に立つ機会は殆ど無かった。
それにしてもまさか異世界で畳の上に立つことが出来るとは思いもしなかった。
「……さあ、もっと近く寄ってきなさい。まあ、彼奴らに情報が流出するとは到底思えないが」
「彼奴ら? いったい誰がその情報を得ようと?」
何だかきな臭くなってきたぞ。
そんなことを思いながら、僕は木隠の話を聞くために近くに向かった。
木隠は卓袱台にあった湯呑をもって、それを傾けた。
そうして一息吐いたのち、木隠は話を始めた。
「長い話をすることになると思うから、はっきりと結論から言っていきましょうか。……近々、この世界を滅ぼすほどの大災厄が起きるでしょう。あなたにはそれを守るべく、リーダーを務めていただきたいのです」
……気づけば、僕のお腹の上にガラムド――いいや、違った。似ているだけで名前は違う。一花が僕に笑みを浮かべていた。
いい朝、というニュアンスから感じ取るに、恐らく朝になって朝食が完成したから僕を起こしに来たという感じだろう。
顔だけゆっくりと起こして、僕は一花に視線を送り――そして笑みを浮かべた。
「おはよう、一花」
僕の言葉を聞くと、前歯を見せるほどにっかりと笑ってそのまま僕のお腹から飛び降りた。
子供というのはかくも素早いものだと思う。……この肉体に入っているからあまり考えなかったけれど、僕自身も大人ではなく実際は子供である点には変わりないのだけれど。
それはそれとして、このままぼうっとした頭で思考を重ねるのはあまり宜しくない。それは僕も理解していた。
ならばどうすればいいか。そんなことはもうとっくに決まっていた。
ゆっくりと起き上がり、リビングルームへと向かう。美味しい匂いが徐々にその濃さを増していくので、あまり家の構造を知らずとも何とかなる。人間の本能というのは案外末恐ろしいものだと思う。
リビングルームに着くと直ぐにテーブルに秋穗と一花が座っていた。
「お父さん、おそーい!」
一花がそう頬を膨らませながら、フォークを握っていた。どうやら僕が来るのを待っていたらしい。
それは申し訳なかった、そう思いながら椅子に腰かける。
「それはすまなかったね。……さて、それじゃ朝ごはんといこうか」
「ああ、そうだった。あなた」
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「うん?」
僕は朝食のかぼちゃスープをスプーンで掬っていた、ちょうどその時に声をかけられたので、そのまま顔だけを上げていた。
「……木隠さんが呼んでいたよ。何でも言いたいことがあるんだって」
「言いたいこと?」
木隠――あの少女がいったい何の用事があるというのだろうか。
実際のところ、少女とは呼べないほど高齢であるということは知っているのだけれど。
まあ、とにかく一度会ってみないと話にならない――そう思った僕はただゆっくりと頷くだけだった。
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朝食を食べ終えて、片づけをしたところで僕は町に繰り出していた。
理由は単純明快。朝、秋穗に言われた通り、木隠のもとへと向かう為だった。
木隠の住んでいる場所は集落の外れにある木造の建物だった。二階建ての建物は一階がバーになっている。
扉を開けると、薄暗い部屋の中でカウンターを拭いている女性と目が合った。
「……まだ営業時間じゃないよ。それとも、そんなことも解らないのかね?」
「木隠さんに呼び出されたのですが」
溜息を吐いて、僕は女性に言った。
女性はそれを聞いて嫌々、といった表情で首を傾げると小さく溜息を吐いた。
「……木隠なら、店の奥に居るよ。地下室へと降りる階段を降りてその突き当りだ」
そう言って女性は面倒くさそうにカウンターの扉を開けた。
どうも、と一言言って頭を下げる僕はそのままカウンターを抜けて店の奥へと向かった。
店の奥も暗い部屋と通路が続いていたが、それほど入り組んでいる構造では無かった。まあ、どうやら風間修一の知識に木隠の部屋へのルートが残っているということは何度かここに入ったことがあるということなのだろう。それほど心を許している存在、ということなのだろうか。
そして地下室の階段を降りて、漸く木隠の部屋へと到着した。
「失礼します」
ノックをしたのち、僕は扉を開けた。
扉の向こうに広がっていたのは、畳の部屋だった。
「……おう、風間修一か。待っていたぞ、さあ入ってくるがいい」
靴を脱いで畳の上に立つ。
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