異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第二百一話 偉大なる戦い②
さて、僕はずっとガラムド(仮)と言っているわけだけれど、実際にはそのような名前ではない。
彼女の名前は一花。一つの花、と書いて一花と呼ぶ。とても可愛らしい名前だと思う。
けれど、しかしながら、彼女たちがこれから生きていく世界は、あまりにも手厳しいものだった。
『この世界はお前たちにとって、生きづらい世界だということは言うまでもない』
僕は、風間修一の知識に残っている木隠の言葉を思い返す。
この世界は、メタモルフォーズが闊歩する世界であるということ。
しかしながら、メタモルフォーズに対抗する手段が一つしか残されておらず、しかしこのジャパニアにはその兵器すら存在していないとのこと。
『その兵器の名前はネピリム。古代語で「巨人」と言われる人型兵器のことですね。ネピリムは……詳しいことは解りませんが、かつてはこのジャパニアで創られたものだといわれています。ジャパニアは世界の始まりの国とも言われていますからね。その国が常に最先端を切ってきた。……過去形なのは、ある理由があったからです』
その理由こそが、ネピリムの開発。
ネピリムの開発を世界的に公表したことにより、資本主義の国家からその技術を提供するよう『持ち掛けてきた』。
持ち掛けてきた――そう言ったが、実際には脅迫によるものだったといわれている。
世界の警察。かつて旧時代のある国家が用いていた呼称を、その人々は使ったのだという。
『世界の警察、という単語を盾に資本主義の国……正確に言えばそれらの国々が共同で設立したネピリム研究所が声を上げた。世界に向けて。この国はメタモルフォーズに対抗できる技術を持っているにも関わらず、それを提供しようとしない、と。……あとは、もうあなたにも解る話でしょう?』
開発したネピリムの技術を提供すると、ネピリム研究所は今後自国でネピリムの開発はしないようにと言ったらしい。
そして残された旧型――世界では『第一世代』と呼ばれているネピリムのみが残された。
この国について、木隠から聞いた話は以上だ。
そうしてこの世界について聞いた話は、あまりにも長い。
簡単に自分が覚えている程度の知識を説明すると、要はこの世界にもメタモルフォーズは居るらしい。当然といえば当然の話だが。
そして、メタモルフォーズの正体が何であるのかも、ジャパニアの学者は薄々感づいているらしかった。
木隠は『風間修一』に対して、こう言った。
――この世界は一度滅亡したのだよ。正確には、滅亡寸前まで追い込まれた、とでも言えばいいのかね。
木隠はずっと昔からこの世界に居た。正確に言えば、日本の八百万の神に近い存在だったと言われている。
確かにジャパニアというネーミングはどこか日本と同じような感覚を感じていたが――まさかほんとうだったとは思いもしなかった。
木隠はそのあと風間修一に色々と話をしてくれたという知識がある。
この世界は大きな災厄があったわけではない。しかしながら科学技術が発達していた世界だった。
その世界で大きな陰謀が働いて、世界をリセットするボタンが押された。
きっかけはそれだけに過ぎなかった。あとは勝手に人類が戦争ごっこをしてあっという間に世界は滅亡した。
残された僅かな人類も空気中に浮遊する毒に苦しめられて、倒れていった。
人々が安息の地を見つけたのはそれから数年後のことだった。そうしてそこに文明を切り開き、今この世界が残っているのだという。
『私は何とか生きていた。……しかしまあ、その時は世界がこうなってしまうとは思いもしなかったがね』
最後に、風間修一は木隠にこう質問している。
どうして生きているのか、と。
木隠は淡々とした口調でこう答えた。
『私は神様だ。人々に信仰され続ける限り、この世界に命を留めておくことが出来る。とどのつまり……まだ私を信仰している人間がどこかに居る、ということなのだろうな』
◇◇◇
秋穂が作ったシチューを食べながら、僕は考えていた。
ガラムドはどうして僕にこの歴史を追体験させているのだろうか、ということについてだった。
ガラムドの言った試練を受けるということは理解していたし、それについてはある程度覚悟を持って挑んでいた。しかしその試練がこのような平穏な日常から始まっていて、僕も少し困惑していた。
ほんとうにこのままでいいのだろうか、という不安が僕の心を支配していた。
「……修一クン、どうかしたの?」
僕のことを心配してくれているのか、秋穂が声をかけた。
僕はそれを聞いて、できる限り自然に柔和な笑みを浮かべた。
「ううん、大丈夫だよ。……このシチュー、美味しいね」
「そう! よかった。それ、おとなりさんからもらった野菜を使ってみたのよ」
秋穂は頬を赤くして、笑顔を僕に見せつけていた。
その笑顔が途轍もなく可愛くて――同時に申し訳なくなった。
だって目の前に居るのは、彼女の愛する風間修一であって風間修一ではない別の存在だったから。
でもそれを彼女に言ったところで理解されるとは到底思えないし、きっと戯言と思われることだろう。
だから僕は言わなかった。
彼女の前では、風間修一であろうと思った。
彼女の名前は一花。一つの花、と書いて一花と呼ぶ。とても可愛らしい名前だと思う。
けれど、しかしながら、彼女たちがこれから生きていく世界は、あまりにも手厳しいものだった。
『この世界はお前たちにとって、生きづらい世界だということは言うまでもない』
僕は、風間修一の知識に残っている木隠の言葉を思い返す。
この世界は、メタモルフォーズが闊歩する世界であるということ。
しかしながら、メタモルフォーズに対抗する手段が一つしか残されておらず、しかしこのジャパニアにはその兵器すら存在していないとのこと。
『その兵器の名前はネピリム。古代語で「巨人」と言われる人型兵器のことですね。ネピリムは……詳しいことは解りませんが、かつてはこのジャパニアで創られたものだといわれています。ジャパニアは世界の始まりの国とも言われていますからね。その国が常に最先端を切ってきた。……過去形なのは、ある理由があったからです』
その理由こそが、ネピリムの開発。
ネピリムの開発を世界的に公表したことにより、資本主義の国家からその技術を提供するよう『持ち掛けてきた』。
持ち掛けてきた――そう言ったが、実際には脅迫によるものだったといわれている。
世界の警察。かつて旧時代のある国家が用いていた呼称を、その人々は使ったのだという。
『世界の警察、という単語を盾に資本主義の国……正確に言えばそれらの国々が共同で設立したネピリム研究所が声を上げた。世界に向けて。この国はメタモルフォーズに対抗できる技術を持っているにも関わらず、それを提供しようとしない、と。……あとは、もうあなたにも解る話でしょう?』
開発したネピリムの技術を提供すると、ネピリム研究所は今後自国でネピリムの開発はしないようにと言ったらしい。
そして残された旧型――世界では『第一世代』と呼ばれているネピリムのみが残された。
この国について、木隠から聞いた話は以上だ。
そうしてこの世界について聞いた話は、あまりにも長い。
簡単に自分が覚えている程度の知識を説明すると、要はこの世界にもメタモルフォーズは居るらしい。当然といえば当然の話だが。
そして、メタモルフォーズの正体が何であるのかも、ジャパニアの学者は薄々感づいているらしかった。
木隠は『風間修一』に対して、こう言った。
――この世界は一度滅亡したのだよ。正確には、滅亡寸前まで追い込まれた、とでも言えばいいのかね。
木隠はずっと昔からこの世界に居た。正確に言えば、日本の八百万の神に近い存在だったと言われている。
確かにジャパニアというネーミングはどこか日本と同じような感覚を感じていたが――まさかほんとうだったとは思いもしなかった。
木隠はそのあと風間修一に色々と話をしてくれたという知識がある。
この世界は大きな災厄があったわけではない。しかしながら科学技術が発達していた世界だった。
その世界で大きな陰謀が働いて、世界をリセットするボタンが押された。
きっかけはそれだけに過ぎなかった。あとは勝手に人類が戦争ごっこをしてあっという間に世界は滅亡した。
残された僅かな人類も空気中に浮遊する毒に苦しめられて、倒れていった。
人々が安息の地を見つけたのはそれから数年後のことだった。そうしてそこに文明を切り開き、今この世界が残っているのだという。
『私は何とか生きていた。……しかしまあ、その時は世界がこうなってしまうとは思いもしなかったがね』
最後に、風間修一は木隠にこう質問している。
どうして生きているのか、と。
木隠は淡々とした口調でこう答えた。
『私は神様だ。人々に信仰され続ける限り、この世界に命を留めておくことが出来る。とどのつまり……まだ私を信仰している人間がどこかに居る、ということなのだろうな』
◇◇◇
秋穂が作ったシチューを食べながら、僕は考えていた。
ガラムドはどうして僕にこの歴史を追体験させているのだろうか、ということについてだった。
ガラムドの言った試練を受けるということは理解していたし、それについてはある程度覚悟を持って挑んでいた。しかしその試練がこのような平穏な日常から始まっていて、僕も少し困惑していた。
ほんとうにこのままでいいのだろうか、という不安が僕の心を支配していた。
「……修一クン、どうかしたの?」
僕のことを心配してくれているのか、秋穂が声をかけた。
僕はそれを聞いて、できる限り自然に柔和な笑みを浮かべた。
「ううん、大丈夫だよ。……このシチュー、美味しいね」
「そう! よかった。それ、おとなりさんからもらった野菜を使ってみたのよ」
秋穂は頬を赤くして、笑顔を僕に見せつけていた。
その笑顔が途轍もなく可愛くて――同時に申し訳なくなった。
だって目の前に居るのは、彼女の愛する風間修一であって風間修一ではない別の存在だったから。
でもそれを彼女に言ったところで理解されるとは到底思えないし、きっと戯言と思われることだろう。
だから僕は言わなかった。
彼女の前では、風間修一であろうと思った。
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