異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第二百話 偉大なる戦い①
偉大なる戦い。
ガラムド暦元年に起きたといわれている大災厄。
そしてガラムドが神としてあがめられるようになった直接的要因ともいわれている。
それはあくまでも教科書の中でしか語られることはなかった。当然だ、二千年前の出来事を実際に経験した人間なんているはずがないし、ありえない。
しかし、今――僕はその大地に立っている。
◇◇◇
目を覚ますと、僕はガラムドが言っていた通り別の誰かの身体の中に入っていた。
入っていた、というよりも身体だけを借りて――まさしく追体験をしていると言った感じだった。
ジャパニアのナゴミという市に僕たちは住んでいた。僕たち、というのはそこには旧時代――簡単に言えば随分と昔からコールドスリープを施されているようで、その昔、という意味を指している――からやってきた人たちばかりが暮らしているということになる。
コールドスリープ。
文字通り、人体を冷凍して仮死状態にしてそれを保持することで人間の寿命以上に人間の身体を維持することが出来る――確かそういう技術だったはずだ。
いずれにせよ、コールドスリープは冷凍した場所が何千年後に残っているかどうかも定かではないし、場合によっては解凍する技術が無いまま冷凍されるケースもあるらしい。あまりにも未来技術過ぎて、或いは夢がある技術として知られていて時折偉人の身体がコールドスリープされて庭に埋められている、等といった都市伝説に使われることがある。
まさか、そんなコールドスリープを自分――正確には自分の意識が宿っているその身体――が経験することになるとは思いもしなかった。
「どうしたかの、風間修一。そのようなみすぼらしい顔をしていちゃあ、気分が悪いのかと錯覚してしまうだろう。それとも、ほんとうに気分が悪いのか?」
そう言って僕に声をかけてきたのは、和服に身を包んだおかっぱ頭の少女だった。
その風貌は僕がもともといた世界でも見たことは少ない。しかしながら知識の中にはそれが残されている。そして、彼女の名前は――。
「いや、大丈夫ですよ。木隠。それにしても……あなたが心配してくれるなんて、珍しいですね?」
木隠。
僕――風間修一は彼女のことをそう言った。もちろん、意識の中にある僕は覚えていないけれど、風間修一の知識としてそれは覚えている。
大神道会という宗教組織の中でも『使徒』と呼ばれる地位に立つ木隠と呼ばれる存在は、使徒の中でも一番の古株らしく、そのせいもあってかどこかお節介焼きなところがある。
風間修一の知識を手に入れてもなお、この世界のことは解らないことが多すぎる。そもそも、この風間修一ですら記憶喪失で自分のことを殆ど覚えていないという困りものだ。
となると、知識に頼るのはほぼ不可能と言ってもいいだろう。
「……おーい、風間修一?」
そこで僕は我に返った。
耳に響いたのは、木隠の声だった。
「うん? どうかしましたか」
「いや……。心ここに在らず、と言った感じだったからのう。心配したまでだよ。……お前さん、ほんとうに大丈夫だろうな?」
「心配してもらうのは有難いですけれど、ほんとうに何でもないですよ。ですから、安心してください」
それならいいのだけれど、と言って木隠は漸く僕の傍から離れていった。
何というか――あの人の目を見ていると吸い込まれそうな気分になる。もっといえば、嘘が吐けなくなるような状態とでも言えばいいだろうか――。
それにしても、この町はどこか特殊な空間だ。僕が住んでいるこの場所は、今いるような石造りの家が犇き合っていて、結局のところ集合住宅のような形を成している。
それだけではない。その家一つ一つはとても狭く、ワンルームマンションのような仕組みになっている。隣人間のトラブルが無いに等しいという利点もあるが、だとしても少々息苦しい空間だと思う。
しかも、何があれって、その家に暮らしているのが――。
「あの……修一クン。ごはんとか、大丈夫かな? お腹空いていない?」
……あの転校生、木葉秋穂だった。
いや、そもそもあの時間軸がガラムドの作り出した空想という可能性が捨てきれないし、それが確定であるとするならば、モデルは彼女からとられたということなのだろうか? だとしても都合が良すぎる。そんな実在の人物をまんま使用するものだろうか? それとも、それくらいガラムドにとって見知っている人物だった?
そんなことを考えていたのも、実はついさっきまでだった。
風間修一と木葉秋穂の間には一人の娘が居た。まあ、簡単に言えば可愛い娘だった。
問題はその娘の顔だった。
見た目が――ガラムドそっくりだった。
「……おとーさん、おとーさん。わたし、お腹すいたよー」
ガラムド(仮)が僕の前でぴょんぴょん跳ねながらそう言った。
そこで僕は我に返って、木葉秋穂とガラムド(仮)の言葉に頷くのだった。
ガラムド暦元年に起きたといわれている大災厄。
そしてガラムドが神としてあがめられるようになった直接的要因ともいわれている。
それはあくまでも教科書の中でしか語られることはなかった。当然だ、二千年前の出来事を実際に経験した人間なんているはずがないし、ありえない。
しかし、今――僕はその大地に立っている。
◇◇◇
目を覚ますと、僕はガラムドが言っていた通り別の誰かの身体の中に入っていた。
入っていた、というよりも身体だけを借りて――まさしく追体験をしていると言った感じだった。
ジャパニアのナゴミという市に僕たちは住んでいた。僕たち、というのはそこには旧時代――簡単に言えば随分と昔からコールドスリープを施されているようで、その昔、という意味を指している――からやってきた人たちばかりが暮らしているということになる。
コールドスリープ。
文字通り、人体を冷凍して仮死状態にしてそれを保持することで人間の寿命以上に人間の身体を維持することが出来る――確かそういう技術だったはずだ。
いずれにせよ、コールドスリープは冷凍した場所が何千年後に残っているかどうかも定かではないし、場合によっては解凍する技術が無いまま冷凍されるケースもあるらしい。あまりにも未来技術過ぎて、或いは夢がある技術として知られていて時折偉人の身体がコールドスリープされて庭に埋められている、等といった都市伝説に使われることがある。
まさか、そんなコールドスリープを自分――正確には自分の意識が宿っているその身体――が経験することになるとは思いもしなかった。
「どうしたかの、風間修一。そのようなみすぼらしい顔をしていちゃあ、気分が悪いのかと錯覚してしまうだろう。それとも、ほんとうに気分が悪いのか?」
そう言って僕に声をかけてきたのは、和服に身を包んだおかっぱ頭の少女だった。
その風貌は僕がもともといた世界でも見たことは少ない。しかしながら知識の中にはそれが残されている。そして、彼女の名前は――。
「いや、大丈夫ですよ。木隠。それにしても……あなたが心配してくれるなんて、珍しいですね?」
木隠。
僕――風間修一は彼女のことをそう言った。もちろん、意識の中にある僕は覚えていないけれど、風間修一の知識としてそれは覚えている。
大神道会という宗教組織の中でも『使徒』と呼ばれる地位に立つ木隠と呼ばれる存在は、使徒の中でも一番の古株らしく、そのせいもあってかどこかお節介焼きなところがある。
風間修一の知識を手に入れてもなお、この世界のことは解らないことが多すぎる。そもそも、この風間修一ですら記憶喪失で自分のことを殆ど覚えていないという困りものだ。
となると、知識に頼るのはほぼ不可能と言ってもいいだろう。
「……おーい、風間修一?」
そこで僕は我に返った。
耳に響いたのは、木隠の声だった。
「うん? どうかしましたか」
「いや……。心ここに在らず、と言った感じだったからのう。心配したまでだよ。……お前さん、ほんとうに大丈夫だろうな?」
「心配してもらうのは有難いですけれど、ほんとうに何でもないですよ。ですから、安心してください」
それならいいのだけれど、と言って木隠は漸く僕の傍から離れていった。
何というか――あの人の目を見ていると吸い込まれそうな気分になる。もっといえば、嘘が吐けなくなるような状態とでも言えばいいだろうか――。
それにしても、この町はどこか特殊な空間だ。僕が住んでいるこの場所は、今いるような石造りの家が犇き合っていて、結局のところ集合住宅のような形を成している。
それだけではない。その家一つ一つはとても狭く、ワンルームマンションのような仕組みになっている。隣人間のトラブルが無いに等しいという利点もあるが、だとしても少々息苦しい空間だと思う。
しかも、何があれって、その家に暮らしているのが――。
「あの……修一クン。ごはんとか、大丈夫かな? お腹空いていない?」
……あの転校生、木葉秋穂だった。
いや、そもそもあの時間軸がガラムドの作り出した空想という可能性が捨てきれないし、それが確定であるとするならば、モデルは彼女からとられたということなのだろうか? だとしても都合が良すぎる。そんな実在の人物をまんま使用するものだろうか? それとも、それくらいガラムドにとって見知っている人物だった?
そんなことを考えていたのも、実はついさっきまでだった。
風間修一と木葉秋穂の間には一人の娘が居た。まあ、簡単に言えば可愛い娘だった。
問題はその娘の顔だった。
見た目が――ガラムドそっくりだった。
「……おとーさん、おとーさん。わたし、お腹すいたよー」
ガラムド(仮)が僕の前でぴょんぴょん跳ねながらそう言った。
そこで僕は我に返って、木葉秋穂とガラムド(仮)の言葉に頷くのだった。
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