異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第百八十六話 神殿への道⑰
素晴らしいこと。
バルト・イルファはそう言った。
けれど、僕はそれを素晴らしいこととは素直に思えなかった。
この世界を救うため――仕方ないことなんだ。僕はそう自分に言い聞かせるしかなかった。
「……君が気にすることではないよ、フル・ヤタクミ」
バルト・イルファが僕に声をかける。
肩を叩いて、まるで僕を慰めるかのように。
「別に悲しんでなどいないよ……。ただ、メアリーには迷惑をかけてしまった、ということ。これについて、ずっと自分の中で考えていただけ。ただそれだけの話だ」
「ほんとうにそうかな?」
バルト・イルファは鼻で笑っていた。
僕のことについて、ただ一笑に付すだけだった。それについては、僕は何も言いたくないことだったけれど、だとしても、それを指摘されたくなかった僕にとっては、バルト・イルファの言葉を、意志を、決断を、すべて無視してしまおうかとも思った。
しかしながら、バルト・イルファが居ないとこの先進めることが出来ない。
そう考えると、僕はそこで立ち止まることが出来た。
「……バルト・イルファ、いつまで言っている。僕はとにかく前に進まないといけない。前に進んで、この世界を救わないといけない。この世界を救うことが出来るのは、僕だけなのだから」
「そう言ってもらわないとね」
バルト・イルファは僕の言葉を聞いて、笑みを浮かべた。
彼も彼なりに考えがあって、僕を利用するために活動しているのだろう。
そして今は彼の計画通りに物事が進んでいる。確定ではないと思うが、誤差はほぼ無いとみていいだろう。そしてバルト・イルファは僕に笑みを浮かべている。それはこの計画が順調に進んでいるということ、それを僕に伝えたいのかもしれない。
「……ところで、花束を手に入れたはいいが、どうやって解除することが出来るんだ?」
僕はバルト・イルファに問いかける。
バルト・イルファは肩を竦めて、僕を見つめる。
「それが解れば苦労しないよ。ただ、神殿への道、そのバリアを解除するには花束が必要だということ。これしか判明していない。しかし、裏を返せば、花束を持っている今、一番近い存在に居るのは僕たちということだよ」
「何に?」
「そりゃあ、もちろん、神殿に……だよ」
「言いたいことは解るが、しかし、実際のところ、ここからどう行けばいいのか解らないだろ。……それともあれか。仮にこの違和感を抱いてしまう程微妙なスペースにこれを置いてみると……」
そうして、僕は石板にある微妙な窪みにそれを嵌め込んでみた。
すると意外にもあっさりその窪みに『花束』ががっちり嵌ってしまった。
「……あれ?」
それを見ていた僕はあまりの驚きに思わずバルト・イルファのほうを見ていた。
しかしながら、それはバルト・イルファにとっても想定外だったらしく、目を丸くしていた。
「それは……おい、いったいどういうことだ? フル・ヤタクミ、君はいったい何をした?」
「それが解れば苦労しない……! え、ええ? どういうことだ。なぜ花束はここに嵌った? まさか……、これが暗号を解く鍵だった、ってことか……?」
「となれば、話は早い!」
バルト・イルファは急いで祠の外へと出ていった。
僕もそれを追いかける。
そして外に出ると、バルト・イルファは神殿のほうの空を見つめていた。
さっきは靄がかっていたように見えた空も、澄んで見える。
「……まるで、何かの障壁が消えたかのように……」
「これならば、問題はない。急いで向かうぞ、神殿へ」
その言葉に、僕は大きく頷くのだった。
◇◇◇
そして、その異変を感じ取ったのは何もフルたちだけでは無い。
「……障壁が、消えた……?」
メアリーは空の異変を感じ取り、独りごちる。
メアリーの言葉を聞いてようやく理解するに至ったのは、その気配を感じ取れなかったルーシーだった。
しかしながら、彼自身も気配を感じ取れなかったわけではない。一人考え事を――正確に言えば、ハンターと二人で考え事をしていたからだ。
フル・ヤタクミを殺すことの出来る絶好のチャンスを逃がした。
フルを殺すことの出来るタイミング――それは数少ないものであることは理解していた。
否、正確に言えばフルが死んだことをバルト・イルファのせいに出来て、かつメアリーがフルのことを引き摺らないようにするポイントが数少ないというだけだ。
あまり引き摺ってしまうと、今度はメアリーが未亡人になりかねない。
それはルーシーにとってはあまり宜しくないことだった。
出来ることならば、この世界からフル・ヤタクミという存在、すべての記憶を消し去ってしまいたい。そう考えていた。
しかし、それができる数少ないチャンスを逃がしてしまった。
(……ハンター、お前が提起したタイミングを逃がしてしまったぞ。いったいいつフルを殺せるんだ?)
ルーシーは心の中でハンターに問いかける。流石に声に出して会話をするわけにもいかないので、そうやって会話をしていくしかなかった。
『ほんとうはそのタイミングで殺してしまいたかったんだよ?』
ハンターは姿を見せることなく、ルーシーの頭の中に直接語り掛けた。
バルト・イルファはそう言った。
けれど、僕はそれを素晴らしいこととは素直に思えなかった。
この世界を救うため――仕方ないことなんだ。僕はそう自分に言い聞かせるしかなかった。
「……君が気にすることではないよ、フル・ヤタクミ」
バルト・イルファが僕に声をかける。
肩を叩いて、まるで僕を慰めるかのように。
「別に悲しんでなどいないよ……。ただ、メアリーには迷惑をかけてしまった、ということ。これについて、ずっと自分の中で考えていただけ。ただそれだけの話だ」
「ほんとうにそうかな?」
バルト・イルファは鼻で笑っていた。
僕のことについて、ただ一笑に付すだけだった。それについては、僕は何も言いたくないことだったけれど、だとしても、それを指摘されたくなかった僕にとっては、バルト・イルファの言葉を、意志を、決断を、すべて無視してしまおうかとも思った。
しかしながら、バルト・イルファが居ないとこの先進めることが出来ない。
そう考えると、僕はそこで立ち止まることが出来た。
「……バルト・イルファ、いつまで言っている。僕はとにかく前に進まないといけない。前に進んで、この世界を救わないといけない。この世界を救うことが出来るのは、僕だけなのだから」
「そう言ってもらわないとね」
バルト・イルファは僕の言葉を聞いて、笑みを浮かべた。
彼も彼なりに考えがあって、僕を利用するために活動しているのだろう。
そして今は彼の計画通りに物事が進んでいる。確定ではないと思うが、誤差はほぼ無いとみていいだろう。そしてバルト・イルファは僕に笑みを浮かべている。それはこの計画が順調に進んでいるということ、それを僕に伝えたいのかもしれない。
「……ところで、花束を手に入れたはいいが、どうやって解除することが出来るんだ?」
僕はバルト・イルファに問いかける。
バルト・イルファは肩を竦めて、僕を見つめる。
「それが解れば苦労しないよ。ただ、神殿への道、そのバリアを解除するには花束が必要だということ。これしか判明していない。しかし、裏を返せば、花束を持っている今、一番近い存在に居るのは僕たちということだよ」
「何に?」
「そりゃあ、もちろん、神殿に……だよ」
「言いたいことは解るが、しかし、実際のところ、ここからどう行けばいいのか解らないだろ。……それともあれか。仮にこの違和感を抱いてしまう程微妙なスペースにこれを置いてみると……」
そうして、僕は石板にある微妙な窪みにそれを嵌め込んでみた。
すると意外にもあっさりその窪みに『花束』ががっちり嵌ってしまった。
「……あれ?」
それを見ていた僕はあまりの驚きに思わずバルト・イルファのほうを見ていた。
しかしながら、それはバルト・イルファにとっても想定外だったらしく、目を丸くしていた。
「それは……おい、いったいどういうことだ? フル・ヤタクミ、君はいったい何をした?」
「それが解れば苦労しない……! え、ええ? どういうことだ。なぜ花束はここに嵌った? まさか……、これが暗号を解く鍵だった、ってことか……?」
「となれば、話は早い!」
バルト・イルファは急いで祠の外へと出ていった。
僕もそれを追いかける。
そして外に出ると、バルト・イルファは神殿のほうの空を見つめていた。
さっきは靄がかっていたように見えた空も、澄んで見える。
「……まるで、何かの障壁が消えたかのように……」
「これならば、問題はない。急いで向かうぞ、神殿へ」
その言葉に、僕は大きく頷くのだった。
◇◇◇
そして、その異変を感じ取ったのは何もフルたちだけでは無い。
「……障壁が、消えた……?」
メアリーは空の異変を感じ取り、独りごちる。
メアリーの言葉を聞いてようやく理解するに至ったのは、その気配を感じ取れなかったルーシーだった。
しかしながら、彼自身も気配を感じ取れなかったわけではない。一人考え事を――正確に言えば、ハンターと二人で考え事をしていたからだ。
フル・ヤタクミを殺すことの出来る絶好のチャンスを逃がした。
フルを殺すことの出来るタイミング――それは数少ないものであることは理解していた。
否、正確に言えばフルが死んだことをバルト・イルファのせいに出来て、かつメアリーがフルのことを引き摺らないようにするポイントが数少ないというだけだ。
あまり引き摺ってしまうと、今度はメアリーが未亡人になりかねない。
それはルーシーにとってはあまり宜しくないことだった。
出来ることならば、この世界からフル・ヤタクミという存在、すべての記憶を消し去ってしまいたい。そう考えていた。
しかし、それができる数少ないチャンスを逃がしてしまった。
(……ハンター、お前が提起したタイミングを逃がしてしまったぞ。いったいいつフルを殺せるんだ?)
ルーシーは心の中でハンターに問いかける。流石に声に出して会話をするわけにもいかないので、そうやって会話をしていくしかなかった。
『ほんとうはそのタイミングで殺してしまいたかったんだよ?』
ハンターは姿を見せることなく、ルーシーの頭の中に直接語り掛けた。
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