異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第百六十話 終わりの世界、始まりの少年⑦
「つまり……人間が滅びてしまうのも、仕方ないことだと言いたいのか?」
僕は、バルト・イルファに問いかける。
バルト・イルファが返答をするのを待つことは無かった。
バルト・イルファにつかみかかり、僕は言葉を投げる。投げかける、のではない。それはデッドボールに近いものだったと思う。言葉のキャッチボールなんて最初から望んじゃいない。それよりも、僕は真実を知りたかった。
「だから、言っているだろう。……人間は滅びるべくして滅んだ。そして僕たちが生き残った。まあ、正確に言えば僕は人間じゃないよ。どちらかといえばメタモルフォーズに近い存在だ。それはそれとして……、一つの言葉を投げかけることにしよう。キャッチボールをするつもりが無いのならば、当然、こちらだってそうしても構わないだろう?」
「?」
「フル・ヤタクミ。君が世界を救いたいのか、愛した女性を助けたいのか、それとも元の世界に戻りたいのか……。君の理想はどうなっているだろうか、それを聞いておきたい。もとの世界に戻るのも構わない。愛した女性を助けるならば、僕は引き止めない。けれど、この世界を救うことが先ずは一番だと思うよ。もとの世界に戻ろうと考えたとしても、手段が見つからないのならば、何も出来ないことと同義なのだから」
◇◇◇
僕は一先ず部屋に戻ってきた。
ベッドに横になり、これまでのことを整理する。
……はっきり言って、直ぐに整理出来るほどの情報量ではないことは確かだけれど。
十年後の世界。復りの刻。世界を元に戻すにはオリジナルフォーズを再度封印するしかない。
「そして、その封印の術を知っているのが……、僕だけ、ということか」
僕は自分の頭を指さして、誰に聞こえるでもない言葉を呟いた。
いったい、僕はどうすればいいのだろうか。
バルト・イルファの言葉を思い返す。
バルト・イルファが提示した選択肢は次の三つだった。
一つ、この世界を救うこと。それはオリジナルフォーズを再度封印するということだった。非常にシンプルではあるけれど、問題はそれをほんとうに成功させることが出来るのか? という点について。世界は壊れてしまった。それが、オリジナルフォーズを封印させることだけで復興させることが、復りの刻という現象にピリオドを打つことが出来るのだろうか。
二つ、愛した女性を助けること。これはきっと……メアリーのことを言っているのだろう。バルト・イルファがなぜそのことについて知っているのかは定かでは無いが、メアリーとルーシーについては合流してまた話を聞く必要があるだろう。少なくとも、この十年間に何が起きたのか、ということについて。
そして――最後、元の世界に戻るという選択肢。
そもそもそれは可能なのだろうか。まだ手段が見つかっていない、バルト・イルファはそう言っていた。ならば、先ずはそれを探さないといけない。普通、ゲームならばクリアすれば元に戻ることが出来るだろうけれど、残念ながらこれは現実世界だから、それは不可能だ。ならば自分で探さないといけない。この世界に僕を連れてきた人物が、きっとこの世界に居るはずだ。居なかったとしても、目的があるならば僕を『監視』していてもおかしくない。そしてその目的を脅かされるようなことがあれば、必ず『修正』させるはずだ――そう推測した。
まあ、あくまでもそれは机上の空論に過ぎない。
「最後は一先ず放置するとして……、二つ目は確かに話だけでもきちんと聞いておきたい。メアリーとルーシー……レイナの様子も気になるな。十年間でみんな、どうしてあんなに変わってしまったのか」
ふと、自分の手を見つめる。
オリジナルフォーズを復活させる魔術は、ガラムドの書に記載されている。
そして、ガラムドの書の記憶は僕が保持している。
そこから導かれる結論は、あまりにも単純だった。
「……つまり、十年前にオリジナルフォーズを復活させたのは……、」
「その通り」
声が聞こえて、僕は勢いよく体を起こした。
そこに居たのは、ルチアだった。……確か、そんな名前だったと思う。
「ノックくらいしようかと思って、したはいいものの反応が一切無かったから入ったのだけれど、何か考え事をしているようだったから、気付くようにしたのだけれど。それにしても、いまさら十年前の主犯に気付くなんて、あなたはどれほど頭が悪いのかしら? 予言の勇者ならもう少し勘がよくてもいいものだと思うけれど」
「予言の勇者であることと、勘が良いことは関係ないだろ……。それより、ルチアだったな。教えてくれ。やはり十年前に復活させたのは」
「あら? メアリーやお兄ちゃんが説明していなかったの? ……だとすればとんでもない秘密主義ね。それとも、罪の意識をさせないつもりだったのかしら。罪の意識をさせたらどうなるか解らなかったから……とか。だとすればとんでもない甘やかしよね。笑っちゃう。あのお兄ちゃんが、そんなことをするなんて。アドバリー家の面汚しよね。ま、きっとお兄ちゃんも同じことを口にするのだろうけれど」
僕は、バルト・イルファに問いかける。
バルト・イルファが返答をするのを待つことは無かった。
バルト・イルファにつかみかかり、僕は言葉を投げる。投げかける、のではない。それはデッドボールに近いものだったと思う。言葉のキャッチボールなんて最初から望んじゃいない。それよりも、僕は真実を知りたかった。
「だから、言っているだろう。……人間は滅びるべくして滅んだ。そして僕たちが生き残った。まあ、正確に言えば僕は人間じゃないよ。どちらかといえばメタモルフォーズに近い存在だ。それはそれとして……、一つの言葉を投げかけることにしよう。キャッチボールをするつもりが無いのならば、当然、こちらだってそうしても構わないだろう?」
「?」
「フル・ヤタクミ。君が世界を救いたいのか、愛した女性を助けたいのか、それとも元の世界に戻りたいのか……。君の理想はどうなっているだろうか、それを聞いておきたい。もとの世界に戻るのも構わない。愛した女性を助けるならば、僕は引き止めない。けれど、この世界を救うことが先ずは一番だと思うよ。もとの世界に戻ろうと考えたとしても、手段が見つからないのならば、何も出来ないことと同義なのだから」
◇◇◇
僕は一先ず部屋に戻ってきた。
ベッドに横になり、これまでのことを整理する。
……はっきり言って、直ぐに整理出来るほどの情報量ではないことは確かだけれど。
十年後の世界。復りの刻。世界を元に戻すにはオリジナルフォーズを再度封印するしかない。
「そして、その封印の術を知っているのが……、僕だけ、ということか」
僕は自分の頭を指さして、誰に聞こえるでもない言葉を呟いた。
いったい、僕はどうすればいいのだろうか。
バルト・イルファの言葉を思い返す。
バルト・イルファが提示した選択肢は次の三つだった。
一つ、この世界を救うこと。それはオリジナルフォーズを再度封印するということだった。非常にシンプルではあるけれど、問題はそれをほんとうに成功させることが出来るのか? という点について。世界は壊れてしまった。それが、オリジナルフォーズを封印させることだけで復興させることが、復りの刻という現象にピリオドを打つことが出来るのだろうか。
二つ、愛した女性を助けること。これはきっと……メアリーのことを言っているのだろう。バルト・イルファがなぜそのことについて知っているのかは定かでは無いが、メアリーとルーシーについては合流してまた話を聞く必要があるだろう。少なくとも、この十年間に何が起きたのか、ということについて。
そして――最後、元の世界に戻るという選択肢。
そもそもそれは可能なのだろうか。まだ手段が見つかっていない、バルト・イルファはそう言っていた。ならば、先ずはそれを探さないといけない。普通、ゲームならばクリアすれば元に戻ることが出来るだろうけれど、残念ながらこれは現実世界だから、それは不可能だ。ならば自分で探さないといけない。この世界に僕を連れてきた人物が、きっとこの世界に居るはずだ。居なかったとしても、目的があるならば僕を『監視』していてもおかしくない。そしてその目的を脅かされるようなことがあれば、必ず『修正』させるはずだ――そう推測した。
まあ、あくまでもそれは机上の空論に過ぎない。
「最後は一先ず放置するとして……、二つ目は確かに話だけでもきちんと聞いておきたい。メアリーとルーシー……レイナの様子も気になるな。十年間でみんな、どうしてあんなに変わってしまったのか」
ふと、自分の手を見つめる。
オリジナルフォーズを復活させる魔術は、ガラムドの書に記載されている。
そして、ガラムドの書の記憶は僕が保持している。
そこから導かれる結論は、あまりにも単純だった。
「……つまり、十年前にオリジナルフォーズを復活させたのは……、」
「その通り」
声が聞こえて、僕は勢いよく体を起こした。
そこに居たのは、ルチアだった。……確か、そんな名前だったと思う。
「ノックくらいしようかと思って、したはいいものの反応が一切無かったから入ったのだけれど、何か考え事をしているようだったから、気付くようにしたのだけれど。それにしても、いまさら十年前の主犯に気付くなんて、あなたはどれほど頭が悪いのかしら? 予言の勇者ならもう少し勘がよくてもいいものだと思うけれど」
「予言の勇者であることと、勘が良いことは関係ないだろ……。それより、ルチアだったな。教えてくれ。やはり十年前に復活させたのは」
「あら? メアリーやお兄ちゃんが説明していなかったの? ……だとすればとんでもない秘密主義ね。それとも、罪の意識をさせないつもりだったのかしら。罪の意識をさせたらどうなるか解らなかったから……とか。だとすればとんでもない甘やかしよね。笑っちゃう。あのお兄ちゃんが、そんなことをするなんて。アドバリー家の面汚しよね。ま、きっとお兄ちゃんも同じことを口にするのだろうけれど」
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