異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第百五十二話 新世界 -Alone prologue-②
人間と『復りの人間』が出会うと、コミュニティを形成している復りの人間は、コミュニティが侵略されると思い込み、人間に襲い掛かる。
対して人間にとって復りの人間はかつて同じ世界を生きていた人間そのものであり、大切な人間だったそのままの姿で出会うこととなる。だから、たとえ攻撃してこようとも反撃することが出来ない。
そして、『復りの刻』が終わるのは――日の出と同じタイミングであった。
「復りの刻が終わるまで……僕たち人間があの地平に降り立つことは出来ない。それは運命めいたものでもあるけれど、実際は違う。かつてはあの地平も、僕たちが暮らしていた」
復りの人間に対する策は未だ見つかっていない。
それは即ち、今の人類が地上に立つことを許されない――それを意味していた。
「人類はかつての英雄に対して危険視する考えも少なくない」
ルーシーは言って、地平を眺める。
地平に広がる赤い液体は人間や生物の形となり、まるでいままでと同じように動き始める。それが復りの刻以降の世界だった。
地平を追われた人類は、空へと逃げることになった。
空にも逃げることが出来なかった人類は、赤に染まっていない僅かな安全圏に住まうようになり、『抵抗軍』と呼ばれるようになった。
「抵抗軍が地位を確保出来るのは、その区域が偶然赤に染まっていなかったから。その場所はかつて『リーガル城』と呼ばれる巨大な城があった場所、それにエノシアスタの周辺だったか。その僅かな区域と、地平を捨ててこのように空を飛んでいる船で移動しているか。そのいずれかになってしまった」
なおも、彼は地平を眺める。
それを見て、少女は告げた。
「この世界を……元に戻すことは出来るのでしょうか」
「それは可能かどうか、未だに解らない。だが……、僕たちは彼に会わなければならない」
踵を返し、再び船室へと戻る。
それを見て少女もルーシーの後を追った。
「――かつて予言の勇者と謳われた、彼を探さねばならない」
◇◇◇
宇宙。
それはかつて人類が進出しようと試みた、地球の何万倍にも広い空間。
完全に無で、星々が散りばめられている以外は空気も重力も存在しない。
惑星『アース』の中心には五つの星々が散らばっていて、それがアースの周りを定期的に周回している。
その星の一つにある廃墟。かつては何かを研究していたのだろうか。その施設に足を踏み入れた一人の少女が居た。少女は宇宙空間であるにも関わらず何も装着せずに闊歩していた。
それが出来るのは、その星に僅かながら酸素の層が出来ていたことと、彼女の錬金術により水から酸素を取り出し、それを薄膜のように彼女の身体に纏わせたことが理由だった。
それが錬金術だけで出来るかと言われるとそうでもない。錬金術で同時に実行出来るのは一つだけと限られている。酸素を取り出すことと、それを身体に纏わせることは、錬金術で可能であったとしても、それぞれひとつしか実行できない。要するに複数のことを同時に実行できないのが錬金術のデメリットと言えるだろう。
「……こんなところに、彼が居るの?」
少女の隣には、また別の少女が立っていた。
「ええ。『ユグドラシル』の予測が正しければ、ここに眠っているはずですよ。彼はずっと眠っていたのでしょうね。長い間、この世界がどうなっているのか、知る由もなく……」
「ユグドラシル……。あれは随分便利だけれど、ほんとうに正しい予測演算をしているの? 確か、エノシアスタの地下に眠っていた量子? コンピューターとか言っていたけれど。実際のところ、そこまで有能なのかしら。科学技術についてはさっぱり解らないものだから」
「それは知らない。けれど、私にとって、いいや、正確に言えばあなたにとって『彼』の所在は一番気になっているポイントでもあるでしょう? それがユグドラシルによって裏付けられたとすれば、それは一番いいことじゃない。見つからなかったとしても、こんな世界にやってくることはかなり珍しいことでもあるのだから」
そう結論付けて、少女は入っていく。
もう一人の少女は、ばつの悪そうな表情をして、その少女についていくのだった。
対して人間にとって復りの人間はかつて同じ世界を生きていた人間そのものであり、大切な人間だったそのままの姿で出会うこととなる。だから、たとえ攻撃してこようとも反撃することが出来ない。
そして、『復りの刻』が終わるのは――日の出と同じタイミングであった。
「復りの刻が終わるまで……僕たち人間があの地平に降り立つことは出来ない。それは運命めいたものでもあるけれど、実際は違う。かつてはあの地平も、僕たちが暮らしていた」
復りの人間に対する策は未だ見つかっていない。
それは即ち、今の人類が地上に立つことを許されない――それを意味していた。
「人類はかつての英雄に対して危険視する考えも少なくない」
ルーシーは言って、地平を眺める。
地平に広がる赤い液体は人間や生物の形となり、まるでいままでと同じように動き始める。それが復りの刻以降の世界だった。
地平を追われた人類は、空へと逃げることになった。
空にも逃げることが出来なかった人類は、赤に染まっていない僅かな安全圏に住まうようになり、『抵抗軍』と呼ばれるようになった。
「抵抗軍が地位を確保出来るのは、その区域が偶然赤に染まっていなかったから。その場所はかつて『リーガル城』と呼ばれる巨大な城があった場所、それにエノシアスタの周辺だったか。その僅かな区域と、地平を捨ててこのように空を飛んでいる船で移動しているか。そのいずれかになってしまった」
なおも、彼は地平を眺める。
それを見て、少女は告げた。
「この世界を……元に戻すことは出来るのでしょうか」
「それは可能かどうか、未だに解らない。だが……、僕たちは彼に会わなければならない」
踵を返し、再び船室へと戻る。
それを見て少女もルーシーの後を追った。
「――かつて予言の勇者と謳われた、彼を探さねばならない」
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宇宙。
それはかつて人類が進出しようと試みた、地球の何万倍にも広い空間。
完全に無で、星々が散りばめられている以外は空気も重力も存在しない。
惑星『アース』の中心には五つの星々が散らばっていて、それがアースの周りを定期的に周回している。
その星の一つにある廃墟。かつては何かを研究していたのだろうか。その施設に足を踏み入れた一人の少女が居た。少女は宇宙空間であるにも関わらず何も装着せずに闊歩していた。
それが出来るのは、その星に僅かながら酸素の層が出来ていたことと、彼女の錬金術により水から酸素を取り出し、それを薄膜のように彼女の身体に纏わせたことが理由だった。
それが錬金術だけで出来るかと言われるとそうでもない。錬金術で同時に実行出来るのは一つだけと限られている。酸素を取り出すことと、それを身体に纏わせることは、錬金術で可能であったとしても、それぞれひとつしか実行できない。要するに複数のことを同時に実行できないのが錬金術のデメリットと言えるだろう。
「……こんなところに、彼が居るの?」
少女の隣には、また別の少女が立っていた。
「ええ。『ユグドラシル』の予測が正しければ、ここに眠っているはずですよ。彼はずっと眠っていたのでしょうね。長い間、この世界がどうなっているのか、知る由もなく……」
「ユグドラシル……。あれは随分便利だけれど、ほんとうに正しい予測演算をしているの? 確か、エノシアスタの地下に眠っていた量子? コンピューターとか言っていたけれど。実際のところ、そこまで有能なのかしら。科学技術についてはさっぱり解らないものだから」
「それは知らない。けれど、私にとって、いいや、正確に言えばあなたにとって『彼』の所在は一番気になっているポイントでもあるでしょう? それがユグドラシルによって裏付けられたとすれば、それは一番いいことじゃない。見つからなかったとしても、こんな世界にやってくることはかなり珍しいことでもあるのだから」
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