異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第百四十九話 目覚めへのトリガー⑲
そして、それはメアリーも理解していた。していたからこそ、次に何をしなければならないかを考えていた。
「……このままだと、蒸し鶏みたいになってしまう。それだけは避けないと……、けれど、どうやって? どうすればその状態を回避することが……。ああ、ダメ! 頭がまともに働かない……」
メアリーが独り言のトーンにしては大き過ぎるほどのトーンで言った。それは最早『呟く』ではなくて『言う』になっているのだが。
だからと言って、メアリーだけが何も考えている訳ではない。
「メアリー」
言ったのはルーシーだった。
「ルーシー……」
「きっと何か策があるはずだ。諦めてはいけない。それに……一人で抱えることは無いよ。ここには僕と、レイナがいる。フルが言っていただろ? 三人揃えば何とやら、って。だから、みんなで考えるんだ。君だけじゃ無い。僕の考えも、レイナの考えも。三人も居るんだ、きっと何かいい考えが浮かぶはずだよ」
「ルーシー……レイナ……」
メアリーはそれぞれ二人の顔を見合わせて、そう言った。
「それに……レイナは何か策を考え付いたようだよ?」
メアリーにとって、ルーシーから知らされたその言葉はビッグニュースにほかならなかった。
レイナはルーシーの言葉を聞いて大きく頷くと、
「……これが実際どこまで出来るかどうかは解らないけれど、たぶん原理的に出来ると思う。私はそれが出来ないから、メアリーとルーシーで協力すれば……」
「教えて、レイナ」
まだ彼女は彼女の考えたアイディアに自信を持っていないようだった。
しかしながら、それを後押しするように、メアリーは訊いた。
「でも……ほんとうにどこまでいくかは解らないよ? けれど、これをすれば何とかなると思うのよ……」
「うん。私が聞きたいのはそれ。……もしかして、レイナ、リスクを恐れているのかしら? 失敗したら自分のせいにされると思っている? だとすれば、それは大きな間違いよ。仮にそのアイディアが間違っていたとしても、あなたに罪を被せることは無いし、あなたのことを悪いとも思わない。先ずはチャレンジしてみないと失敗も無いからね」
メアリーは優しくレイナを諭した。
それを聞いた彼女はゆっくりと頷くと、メアリーとルーシーにそのプランを話し始めた。
◇◇◇
人の呼気には水蒸気が含まれる。
例えばビニール袋を膨らましていって、暫くすると水滴がついていることがあるだろう。それが水蒸気である。
メアリーたちが居るバリアー空間もまさにその状態になっていた。
とどのつまり、空気が循環される空間ならばそのようなことは無いのだが、メアリーの張ったバリアーは閉鎖空間のそれと同じだ。即ち、空気が循環しておらず、酸素が供給されることも無いということを示していた。
「……白くなって、見えなくなったわね」
フェトーの目からも徐々に焦りが見え始める。時間が惜しいのか、或いはまた別の何かがあるのか。それは定かとはなっていないが、注目の的となっているのは確かだった。
水蒸気によって見えなくなっていることも知っていたし、それを見てあとどれくらいかで相手が戦闘不能に陥るかも解っていた。それは彼女の経験だった。
だからこそ、彼女はただ待つだけでよかった。或いは少し油断していたのかもしれない。あとは待つだけで戦いが終わるのだから、そう思うのは当然だろう。
そのシールドが割れた瞬間は、彼女が一番驚いた。
それは彼女にとってまったく想像出来なかったことだったからだ。なぜそんなことになってしまったか、ということよりもなぜ自分がそんなことも想像出来なかったのか、後悔のほうが大きいだろう。
この煙が出ている以上、簡単にメアリーたちを探すことが出来ない。それは即ち、彼女がこの戦いの中で初めて『失敗』した瞬間だった。
「……まずい。まずい、まずい、まずい! 何とかしてあの煙を打破せねば……」
「もう遅い」
それを聞いて、彼女は声のした方を向いた。
その方向を向いた瞬間、彼女の視界は唐突に閉ざされた。
「……何を!」
「目眩し。と言っても少々強力なものになるかしら。人間規格のものが通用するかどうか解らなかったけれど……案外通用するものね。もしかしてあなた、メタモルフォーズじゃなくてただの人間?」
「私が……、私が! メタモルフォーズなわけがあるまい! ああ、そうだ。そうだとも! 私はただの人間だ。メタモルフォーズに比べれば小っぽけで弱くて愚かな人間だ!」
はっきりと。
フェトーははっきりとそう言った。
彼女の言葉から推測するに……彼女は人間に執着しているようにも見えた。正確に言えば、執着よりも優位性を示したかった、或いは劣等感を意識していたかのいずれかになるのだろう。
「……私を蔑むか? 能力を持たない、この私を! 槍……この魔装具さえ無ければ、ただの人間と変わりないということを!」
「つまり、あなたは……『無能力者』ということ?」
フェトーはそれについて、何も反応することは無かった。
無能力者。
名前の通り、魔術にも錬金術にも召喚術にも才能を見出せなかった人間のことを言う。大抵の人間はどれかの術の才能を持っている。その才能が開花したあとの進化、つまりはいかに成長出来るかは本人の努力次第と言えるかもしれない(とはいえ才能を持っていない分野の才能を無理矢理開花させるには、それこそ血の滲むほどの努力を必要とする。それでも、ほんとうにその才能が開花するかは確定事項では無い。あくまでも生まれ持った才能は、その才能が開花しやすいだけなのだ)。
しかしながら無能力者は、それに照らし合わせるとすれば、開花出来る才能を持ち合わせていないということになる。そして、それが意味することは……。
「無能力者は、この社会に適合していないとして『烙印』を押される……。だから、そのあとも無能力者は無能力者らしく生活していかざるを得ない……」
ルーシーは社会の授業で習ったことをそのまま呟いた。
「……このままだと、蒸し鶏みたいになってしまう。それだけは避けないと……、けれど、どうやって? どうすればその状態を回避することが……。ああ、ダメ! 頭がまともに働かない……」
メアリーが独り言のトーンにしては大き過ぎるほどのトーンで言った。それは最早『呟く』ではなくて『言う』になっているのだが。
だからと言って、メアリーだけが何も考えている訳ではない。
「メアリー」
言ったのはルーシーだった。
「ルーシー……」
「きっと何か策があるはずだ。諦めてはいけない。それに……一人で抱えることは無いよ。ここには僕と、レイナがいる。フルが言っていただろ? 三人揃えば何とやら、って。だから、みんなで考えるんだ。君だけじゃ無い。僕の考えも、レイナの考えも。三人も居るんだ、きっと何かいい考えが浮かぶはずだよ」
「ルーシー……レイナ……」
メアリーはそれぞれ二人の顔を見合わせて、そう言った。
「それに……レイナは何か策を考え付いたようだよ?」
メアリーにとって、ルーシーから知らされたその言葉はビッグニュースにほかならなかった。
レイナはルーシーの言葉を聞いて大きく頷くと、
「……これが実際どこまで出来るかどうかは解らないけれど、たぶん原理的に出来ると思う。私はそれが出来ないから、メアリーとルーシーで協力すれば……」
「教えて、レイナ」
まだ彼女は彼女の考えたアイディアに自信を持っていないようだった。
しかしながら、それを後押しするように、メアリーは訊いた。
「でも……ほんとうにどこまでいくかは解らないよ? けれど、これをすれば何とかなると思うのよ……」
「うん。私が聞きたいのはそれ。……もしかして、レイナ、リスクを恐れているのかしら? 失敗したら自分のせいにされると思っている? だとすれば、それは大きな間違いよ。仮にそのアイディアが間違っていたとしても、あなたに罪を被せることは無いし、あなたのことを悪いとも思わない。先ずはチャレンジしてみないと失敗も無いからね」
メアリーは優しくレイナを諭した。
それを聞いた彼女はゆっくりと頷くと、メアリーとルーシーにそのプランを話し始めた。
◇◇◇
人の呼気には水蒸気が含まれる。
例えばビニール袋を膨らましていって、暫くすると水滴がついていることがあるだろう。それが水蒸気である。
メアリーたちが居るバリアー空間もまさにその状態になっていた。
とどのつまり、空気が循環される空間ならばそのようなことは無いのだが、メアリーの張ったバリアーは閉鎖空間のそれと同じだ。即ち、空気が循環しておらず、酸素が供給されることも無いということを示していた。
「……白くなって、見えなくなったわね」
フェトーの目からも徐々に焦りが見え始める。時間が惜しいのか、或いはまた別の何かがあるのか。それは定かとはなっていないが、注目の的となっているのは確かだった。
水蒸気によって見えなくなっていることも知っていたし、それを見てあとどれくらいかで相手が戦闘不能に陥るかも解っていた。それは彼女の経験だった。
だからこそ、彼女はただ待つだけでよかった。或いは少し油断していたのかもしれない。あとは待つだけで戦いが終わるのだから、そう思うのは当然だろう。
そのシールドが割れた瞬間は、彼女が一番驚いた。
それは彼女にとってまったく想像出来なかったことだったからだ。なぜそんなことになってしまったか、ということよりもなぜ自分がそんなことも想像出来なかったのか、後悔のほうが大きいだろう。
この煙が出ている以上、簡単にメアリーたちを探すことが出来ない。それは即ち、彼女がこの戦いの中で初めて『失敗』した瞬間だった。
「……まずい。まずい、まずい、まずい! 何とかしてあの煙を打破せねば……」
「もう遅い」
それを聞いて、彼女は声のした方を向いた。
その方向を向いた瞬間、彼女の視界は唐突に閉ざされた。
「……何を!」
「目眩し。と言っても少々強力なものになるかしら。人間規格のものが通用するかどうか解らなかったけれど……案外通用するものね。もしかしてあなた、メタモルフォーズじゃなくてただの人間?」
「私が……、私が! メタモルフォーズなわけがあるまい! ああ、そうだ。そうだとも! 私はただの人間だ。メタモルフォーズに比べれば小っぽけで弱くて愚かな人間だ!」
はっきりと。
フェトーははっきりとそう言った。
彼女の言葉から推測するに……彼女は人間に執着しているようにも見えた。正確に言えば、執着よりも優位性を示したかった、或いは劣等感を意識していたかのいずれかになるのだろう。
「……私を蔑むか? 能力を持たない、この私を! 槍……この魔装具さえ無ければ、ただの人間と変わりないということを!」
「つまり、あなたは……『無能力者』ということ?」
フェトーはそれについて、何も反応することは無かった。
無能力者。
名前の通り、魔術にも錬金術にも召喚術にも才能を見出せなかった人間のことを言う。大抵の人間はどれかの術の才能を持っている。その才能が開花したあとの進化、つまりはいかに成長出来るかは本人の努力次第と言えるかもしれない(とはいえ才能を持っていない分野の才能を無理矢理開花させるには、それこそ血の滲むほどの努力を必要とする。それでも、ほんとうにその才能が開花するかは確定事項では無い。あくまでも生まれ持った才能は、その才能が開花しやすいだけなのだ)。
しかしながら無能力者は、それに照らし合わせるとすれば、開花出来る才能を持ち合わせていないということになる。そして、それが意味することは……。
「無能力者は、この社会に適合していないとして『烙印』を押される……。だから、そのあとも無能力者は無能力者らしく生活していかざるを得ない……」
ルーシーは社会の授業で習ったことをそのまま呟いた。
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