異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第百四十話 目覚めへのトリガー⑩
リュージュは困っていた。
いかにして予言の勇者に、かの魔法を使わせればいいか、ということについてだ。それだけで状況はあっという間に好転してしまうというのに、しかしながら、それを実現することができない。実現することができないのならばリュージュの考えていることはただの夢物語に過ぎない。
夢物語を夢物語で終わらせたくないのは、リュージュの強い思いだった。ここまでやってきたというのに、ここで終わってしまうことが許せなかった。
「……僕にいい考えがあります」
言ったのはバルト・イルファだった。酷く丁寧な口調で言ったため、リュージュはバルト・イルファが何か裏があるのではないか――なんてことを勘繰ってしまう程だった。
対して、丁重に頭を下げつつも、話を始めるバルト・イルファ。
「どういう風にしていくのかしら?」
リュージュは疑心暗鬼になりながらもバルト・イルファの発言を聞いていた。
「簡単なことです。……『幻術』を使うのですよ」
そうして、バルト・イルファはにっこりと笑みを浮かべた。
その笑顔は玩具を手に入れた子供のように無垢であり、それにどこか恐ろしさを覚える程でもあった。
◇◇◇
僕が目を覚ますと、そこは花畑だった。
夢か何かかと思ってしまったけれど、そんなことは今の僕にはどうでもよかった。
あの拷問から解放されているのならば、夢だろうが現実だろうがどうだって良かった。
「ねえ、フル」
声が聞こえた。
そこに居たのは、メアリーだった。
メアリーが僕の目の前に立っていた。
「メアリー……。どうしたんだい」
「ねえ、私……あの魔法を聞きたいな」
「あの……魔法?」
メアリーは僕に口づけする。
長い口づけののち、メアリーは僕を見つめる。
どこか甘い口づけだった。
メアリーは再び僕に言った。
「ねえ、私、あの魔法が知りたいの。というよりも、あなたが知ったあの魔導書のすべてが知りたい」
そうして。
そうして、僕は深い眠りに落ちていった――。
◇◇◇
「……まさか、これ程までに簡単に手に入るとはね」
リュージュとバルト・イルファは廊下を歩いていた。
「ええ、流石に僕もここまでうまくいくとは思いませんでしたよ」
リュージュがその魔法を手に入れるために、何をしたのか。
バルト・イルファが考えた作戦をそのまま実行しただけに過ぎなかった。バルト・イルファは炎を使うことが出来る。だから、バルト・イルファは炎で『幻影』を見せた。その幻影は予言の勇者が一番信頼している存在であった。
そして『雰囲気作り』はリュージュの出番だ。麻薬にも似た効果を持つ魔術(同じく幻影を見せることが出来る)を予言の勇者にかけることで完璧なカモフラージュを行った、ということだ。
とどのつまり、予言の勇者にはある姿が見えているのだが、傍から見ればただ予言の勇者が独り言を呟いているだけになる。
「……はてさて、あとはこれをうまく使うだけね。まあ、とはいってももう解放されたことには変わりないけれど」
彼女たちは気づいていたが、今まで何も言いださなかった。
さっきから地面を揺さぶる、大きな振動が。
「この振動が……オリジナルフォーズが目覚めつつある合図である、と?」
「その通り、バルト・イルファ。もう私の野望が達成される日も近いわよ。準備なさい、決戦のお時間よ」
リュージュは早足でどこかに消えていった。
バルト・イルファはぽつりと呟いた。
「……これで漸く違う世界、か」
彼の言葉は、だれにも聞こえることはなかった。
◇◇◇
メアリーたちを乗せた船がその島に到着したのは、リーガル城を出発した次の日の朝のことだった。
既に島は火山が噴火する直前のような地響きが一定間隔で鳴り響いていた。
「これは不味いわ……。でも、いったいどういうこと? まさかフルが魔法を言った、ということ?」
「そうとしか考えられないけれど……。出来ることならあまり考えたくないね。フルはそんな弱い奴じゃないと思っているから」
「この振動は……。ううむ、リュージュめ。まさかこのような島に作り替えているとは思いもしなかった」
「陛下。あまり騒がないほうが……。ごめんなさい、みなさん。私はここで国王とともに居ます。何が起きるか、解りませんから」
カーラの言葉を聞いてメアリーは頷く。彼女たちにとってもそちらのほうが有り難いと思ったからだ。それに探索をしていく上でははっきり言って邪魔な存在になりかねない。
いかにして予言の勇者に、かの魔法を使わせればいいか、ということについてだ。それだけで状況はあっという間に好転してしまうというのに、しかしながら、それを実現することができない。実現することができないのならばリュージュの考えていることはただの夢物語に過ぎない。
夢物語を夢物語で終わらせたくないのは、リュージュの強い思いだった。ここまでやってきたというのに、ここで終わってしまうことが許せなかった。
「……僕にいい考えがあります」
言ったのはバルト・イルファだった。酷く丁寧な口調で言ったため、リュージュはバルト・イルファが何か裏があるのではないか――なんてことを勘繰ってしまう程だった。
対して、丁重に頭を下げつつも、話を始めるバルト・イルファ。
「どういう風にしていくのかしら?」
リュージュは疑心暗鬼になりながらもバルト・イルファの発言を聞いていた。
「簡単なことです。……『幻術』を使うのですよ」
そうして、バルト・イルファはにっこりと笑みを浮かべた。
その笑顔は玩具を手に入れた子供のように無垢であり、それにどこか恐ろしさを覚える程でもあった。
◇◇◇
僕が目を覚ますと、そこは花畑だった。
夢か何かかと思ってしまったけれど、そんなことは今の僕にはどうでもよかった。
あの拷問から解放されているのならば、夢だろうが現実だろうがどうだって良かった。
「ねえ、フル」
声が聞こえた。
そこに居たのは、メアリーだった。
メアリーが僕の目の前に立っていた。
「メアリー……。どうしたんだい」
「ねえ、私……あの魔法を聞きたいな」
「あの……魔法?」
メアリーは僕に口づけする。
長い口づけののち、メアリーは僕を見つめる。
どこか甘い口づけだった。
メアリーは再び僕に言った。
「ねえ、私、あの魔法が知りたいの。というよりも、あなたが知ったあの魔導書のすべてが知りたい」
そうして。
そうして、僕は深い眠りに落ちていった――。
◇◇◇
「……まさか、これ程までに簡単に手に入るとはね」
リュージュとバルト・イルファは廊下を歩いていた。
「ええ、流石に僕もここまでうまくいくとは思いませんでしたよ」
リュージュがその魔法を手に入れるために、何をしたのか。
バルト・イルファが考えた作戦をそのまま実行しただけに過ぎなかった。バルト・イルファは炎を使うことが出来る。だから、バルト・イルファは炎で『幻影』を見せた。その幻影は予言の勇者が一番信頼している存在であった。
そして『雰囲気作り』はリュージュの出番だ。麻薬にも似た効果を持つ魔術(同じく幻影を見せることが出来る)を予言の勇者にかけることで完璧なカモフラージュを行った、ということだ。
とどのつまり、予言の勇者にはある姿が見えているのだが、傍から見ればただ予言の勇者が独り言を呟いているだけになる。
「……はてさて、あとはこれをうまく使うだけね。まあ、とはいってももう解放されたことには変わりないけれど」
彼女たちは気づいていたが、今まで何も言いださなかった。
さっきから地面を揺さぶる、大きな振動が。
「この振動が……オリジナルフォーズが目覚めつつある合図である、と?」
「その通り、バルト・イルファ。もう私の野望が達成される日も近いわよ。準備なさい、決戦のお時間よ」
リュージュは早足でどこかに消えていった。
バルト・イルファはぽつりと呟いた。
「……これで漸く違う世界、か」
彼の言葉は、だれにも聞こえることはなかった。
◇◇◇
メアリーたちを乗せた船がその島に到着したのは、リーガル城を出発した次の日の朝のことだった。
既に島は火山が噴火する直前のような地響きが一定間隔で鳴り響いていた。
「これは不味いわ……。でも、いったいどういうこと? まさかフルが魔法を言った、ということ?」
「そうとしか考えられないけれど……。出来ることならあまり考えたくないね。フルはそんな弱い奴じゃないと思っているから」
「この振動は……。ううむ、リュージュめ。まさかこのような島に作り替えているとは思いもしなかった」
「陛下。あまり騒がないほうが……。ごめんなさい、みなさん。私はここで国王とともに居ます。何が起きるか、解りませんから」
カーラの言葉を聞いてメアリーは頷く。彼女たちにとってもそちらのほうが有り難いと思ったからだ。それに探索をしていく上でははっきり言って邪魔な存在になりかねない。
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