異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第百三十七話 目覚めへのトリガー⑦
何回気絶していたかどうかも忘れてしまうくらいだった。
ただ窓の景色がまだ暗かったことを見ると、それほど長い時間拷問を受けていないようだった。
だからといっても、その拷問をうまく逃げ切れた――とは思えていないこともまた事実。ただし次の日からまたどのような拷問を受けるか解ったものではないが。
リュージュたちの目的はただ一つ。
オリジナルフォーズを復活させるための魔法を僕から聞き出すこと。
簡単ではあるけれど、だからといってそれを素直に聞くほど頭は悪くない。それによってどのような被害が起きるか――考えただけで身震いしてしまうくらいだ。
「だから、絶対にその魔法を伝えてはいけない……」
それは解っている。
でも、裏を返せば。
その魔法さえ言ってしまえば、僕は解放される――ということだ。
その一言さえ口に出してしまえば、僕はこの苦しみから解放される。
しかし、オリジナルフォーズは復活してしまう。世界には、闇が広がる。
「やっぱり、だめだ。そんなこと……。絶対に、絶対に『それ』を伝えちゃいけない……!」
「へえ、強気だねえ。君は」
気が付けば、扉が開いていた。
そしてそこから誰かが入ってきていた。
それは人間でない、ということは直ぐに理解できた。なぜならその姿は氷像に似ていたからだ。正確に言えば人間の身体すべてが氷で出来ているようなそんな感じだった。
氷像人間は笑みを浮かべる。
「……どうやら、覚えちゃいないようだね。それもそうか。この姿で出会うことは初めてだったかな?」
ニヒルな笑みを浮かべたまま、もう一歩近付く。
「僕の名前はアイスン。かつて、ハイダルク国軍に所属していたゴードン・グラム……と言えば伝わるかな?」
ゴードン・グラム。
その名前を知らないわけがなかった。リーガル城で出会った兵士。そして、メタモルフォーズとの戦いののち、メタモルフォーズへの『反応』が見られてしまい、そのまま殺されたはずだった。
でも、ゴードンさん――アイスンはいま目の前に立っている。
はっきり言って信じられなかった。夢かと思った。
だからこそ、アイスンを見て、僕はずっと目を見開いていた。
「ありえないことはありえない」
ぽつり、とアイスンは言った。
「僕が所属する魔法科学組織『シグナル』の信条……とでもいえばいいかな。これは確かにその通りだと思っているよ。実際問題、シグナルはそれを実現している。僕たちが新しい世界が始まる、そのシグナルとなるのだよ」
「僕は……ゴードンさん、あなたが言っていることが解りませんよ」
「だから言っているだろう」
溜息を吐いたのち、ゴードンさん――アイスンは言った。
「僕はゴードン・グラムであってゴードン・グラムではない。今はアイスンというメタモルフォーズだ。そして、今はリュージュ様に忠誠を誓っている。つまり君とは敵という間柄になるね」
「アイスン。あまり長い話をしないことね」
アイスンの背後に立っていたのはリュージュだった。
「リュージュ。こんな夜遅くまでお前自らが出てくるとはな。よっぽど暇なのか、或いは余裕が無いのか。そのいずれかになるのか?」
「そうね。精々言っているといいわ。……まあ、その余裕を言っていられるのはいつまでかしら。そんなことを言っている場合じゃないのよ、アイスン。予言の勇者の鎖を外して。ああ、一応言っておくけれど手枷足枷はそのままにしておくのよ。当然だけれど、逃げる可能性は未だに充分とあるわけだから」
手枷足枷を外されて、僕は通路を歩いていた。先頭にはリュージュ、後方にはアイスンが歩いている状態となっている。時々通り過ぎるメタモルフォーズか人間か解らないような存在には、僕の姿を見て失笑している。そんなに人間が手枷足枷されていることが面白いのか。はっきり言って、つまらない。
だが、シグナルの連中にとってみれば僕は敵の親玉。敵の親玉を捕まえて喜んでいるのかもしれない。これで自分たちの目的に対する不安要素は無い、ということなのだから。
「着いたわ」
リュージュが言ったので、僕はそちらを見る。
そこにあったのは鉄の扉だった。魔法世界には似つかわしくないそれを見て、
「……ほんとうに、この世界って科学と魔法がごちゃ混ぜになっているんだな」
呟いただけだったが、その直後、後方から蹴りを入れられた。
「静かにしているんだな。君が現在置かれている立場を弁えたほうがいい」
「アイスン……いや、ゴードンさん。変わってしまいましたね、あなたも。メタモルフォーズになってしまってから、人間の心もなくしてしまった形ですか?」
「そう思ってもらって構わない。メタモルフォーズと人間は似ているようで違うのだから」
「そうね。アイスンのいう通り。人間からメタモルフォーズになってしまった存在というのは、大抵その前の記憶を保持している。けれど、感情や心情といったものは人間のようで人間じゃない、どこか冷めた感情……というのは言い方がよくないかもしれないわね。似たような感情ではあるのだけれど、どこか人間とは距離を置いた感情ということになる。やはり、人間は人間を一から作ることは出来ないのだろう。それこそ、『神様が作り出した方法』以外には」
リュージュが扉の脇にあるボックスに手を置く。
するとピンポン、という短い電子音の後に続いて、ゆっくりと扉が開かれていった。
扉の中は暗い道が続いていた。
しかしリュージュはすたすたと中に入っていった。
進むしか、今の僕に選択肢は残されていないのだろう。そう思い、僕はゆっくりとリュージュの後を追いかけていった。
ただ窓の景色がまだ暗かったことを見ると、それほど長い時間拷問を受けていないようだった。
だからといっても、その拷問をうまく逃げ切れた――とは思えていないこともまた事実。ただし次の日からまたどのような拷問を受けるか解ったものではないが。
リュージュたちの目的はただ一つ。
オリジナルフォーズを復活させるための魔法を僕から聞き出すこと。
簡単ではあるけれど、だからといってそれを素直に聞くほど頭は悪くない。それによってどのような被害が起きるか――考えただけで身震いしてしまうくらいだ。
「だから、絶対にその魔法を伝えてはいけない……」
それは解っている。
でも、裏を返せば。
その魔法さえ言ってしまえば、僕は解放される――ということだ。
その一言さえ口に出してしまえば、僕はこの苦しみから解放される。
しかし、オリジナルフォーズは復活してしまう。世界には、闇が広がる。
「やっぱり、だめだ。そんなこと……。絶対に、絶対に『それ』を伝えちゃいけない……!」
「へえ、強気だねえ。君は」
気が付けば、扉が開いていた。
そしてそこから誰かが入ってきていた。
それは人間でない、ということは直ぐに理解できた。なぜならその姿は氷像に似ていたからだ。正確に言えば人間の身体すべてが氷で出来ているようなそんな感じだった。
氷像人間は笑みを浮かべる。
「……どうやら、覚えちゃいないようだね。それもそうか。この姿で出会うことは初めてだったかな?」
ニヒルな笑みを浮かべたまま、もう一歩近付く。
「僕の名前はアイスン。かつて、ハイダルク国軍に所属していたゴードン・グラム……と言えば伝わるかな?」
ゴードン・グラム。
その名前を知らないわけがなかった。リーガル城で出会った兵士。そして、メタモルフォーズとの戦いののち、メタモルフォーズへの『反応』が見られてしまい、そのまま殺されたはずだった。
でも、ゴードンさん――アイスンはいま目の前に立っている。
はっきり言って信じられなかった。夢かと思った。
だからこそ、アイスンを見て、僕はずっと目を見開いていた。
「ありえないことはありえない」
ぽつり、とアイスンは言った。
「僕が所属する魔法科学組織『シグナル』の信条……とでもいえばいいかな。これは確かにその通りだと思っているよ。実際問題、シグナルはそれを実現している。僕たちが新しい世界が始まる、そのシグナルとなるのだよ」
「僕は……ゴードンさん、あなたが言っていることが解りませんよ」
「だから言っているだろう」
溜息を吐いたのち、ゴードンさん――アイスンは言った。
「僕はゴードン・グラムであってゴードン・グラムではない。今はアイスンというメタモルフォーズだ。そして、今はリュージュ様に忠誠を誓っている。つまり君とは敵という間柄になるね」
「アイスン。あまり長い話をしないことね」
アイスンの背後に立っていたのはリュージュだった。
「リュージュ。こんな夜遅くまでお前自らが出てくるとはな。よっぽど暇なのか、或いは余裕が無いのか。そのいずれかになるのか?」
「そうね。精々言っているといいわ。……まあ、その余裕を言っていられるのはいつまでかしら。そんなことを言っている場合じゃないのよ、アイスン。予言の勇者の鎖を外して。ああ、一応言っておくけれど手枷足枷はそのままにしておくのよ。当然だけれど、逃げる可能性は未だに充分とあるわけだから」
手枷足枷を外されて、僕は通路を歩いていた。先頭にはリュージュ、後方にはアイスンが歩いている状態となっている。時々通り過ぎるメタモルフォーズか人間か解らないような存在には、僕の姿を見て失笑している。そんなに人間が手枷足枷されていることが面白いのか。はっきり言って、つまらない。
だが、シグナルの連中にとってみれば僕は敵の親玉。敵の親玉を捕まえて喜んでいるのかもしれない。これで自分たちの目的に対する不安要素は無い、ということなのだから。
「着いたわ」
リュージュが言ったので、僕はそちらを見る。
そこにあったのは鉄の扉だった。魔法世界には似つかわしくないそれを見て、
「……ほんとうに、この世界って科学と魔法がごちゃ混ぜになっているんだな」
呟いただけだったが、その直後、後方から蹴りを入れられた。
「静かにしているんだな。君が現在置かれている立場を弁えたほうがいい」
「アイスン……いや、ゴードンさん。変わってしまいましたね、あなたも。メタモルフォーズになってしまってから、人間の心もなくしてしまった形ですか?」
「そう思ってもらって構わない。メタモルフォーズと人間は似ているようで違うのだから」
「そうね。アイスンのいう通り。人間からメタモルフォーズになってしまった存在というのは、大抵その前の記憶を保持している。けれど、感情や心情といったものは人間のようで人間じゃない、どこか冷めた感情……というのは言い方がよくないかもしれないわね。似たような感情ではあるのだけれど、どこか人間とは距離を置いた感情ということになる。やはり、人間は人間を一から作ることは出来ないのだろう。それこそ、『神様が作り出した方法』以外には」
リュージュが扉の脇にあるボックスに手を置く。
するとピンポン、という短い電子音の後に続いて、ゆっくりと扉が開かれていった。
扉の中は暗い道が続いていた。
しかしリュージュはすたすたと中に入っていった。
進むしか、今の僕に選択肢は残されていないのだろう。そう思い、僕はゆっくりとリュージュの後を追いかけていった。
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