異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第百三十話 一万年前の君へ⑨
『……! それは、どういうことですか。つまり、あなたは2047年にコールドスリープされたわけではない、と……』
「だから言ったじゃないか。僕は2015年からやってきたんだ。だからその話は間違っているはずなんだよ」
それを聞いたアリスは表情を曇らせる。――いや、それは嘘だった。仮に人間であるならば表情を曇らせるかもしれないというだけで、アンドロイドの彼女には表情を変えることなど出来ず、ただ無表情を貫くだけに過ぎなかった。
『しかし、それは有り得ません。あなたは「ホープ・リスト」に明記されています。それを鑑みるにあなたは2047年からコールドスリープされていないとおかしい。いえ、されているはずなのですから』
「でも……!」
だからといって、証拠が無い。
アリスにはDNA情報という確固たる証拠があるけれど、それに対して僕には何も証拠が無い。その状況だけ考えてみるとアリスが有利であることは火を見るよりも明らかだ。
いや、それどころか。長くこの世界に来ているからか、徐々にその記憶が薄れてしまっていることも事実。もしかしたら2015年ではなくて、ほんとうにアリスの言うことが正しいのでは無いか?
いや、待てよ。……いまさっき、ホープ・リストには五万人もの人間が居ると聞いたけれど、それっていったいどういうことだ?
「ちょっと待ってくれ。もし、僕がホープ・リストに名前のあった人間だとして、残りの四万九千九百九十九人はどこに行ってしまったんだ? 流石に全員消えてしまったとか、そういうことではないよな?」
『……確かに、そう言われてみると残りの方々はどこへ消えてしまったのでしょうか? でも、あなたはこの世界に居る。流石に全員が失敗したとは考えにくいのですが……』
言いたいことは解る。
けれど、僕たちだって知らないこともあるし、僕だって気が付けばラドーム学院の自分の部屋に居た。だからどれくらいの人間が僕と同時にこの世界にやってきたかどうかなんて定かでは無い。はっきりとしない、とでも言えばいいかな。けれど、もし同じ言語を話す人間が周りに居るとすればどちらかが気付くはずだ。そしてレスポンスがやってくるはずだった。それが来ない、ということは僕以外の人間はこの世界にやってきていない、ということになる。はっきり言って、それは自明なことだと言えるだろう。
「……確かにラドーム学院に、フルのような人間はフルしか居なかった。だからそれは正しいと思う。この世界には……正確に言えばこの時代にはフルしかやってきていないのではないかしら?」
言ったのはメアリーだった。メアリーの発言には僕も完全に同意だ。それにメアリーの発言には理由がある。
彼女はラドーム学院の学生だ。だから学校のことはある程度理解しているはずである。そして、僕がやってきたのは昔から知っているとどこかで聞いた覚えがある。もし、その時にほかの人も出てきていることを知っているならば――仮に日本人が居れば、という話にもなってしまうが――日本語を話すことの出来るメアリーに興味を示すはずだ。
それが無いとみれば――メアリーもそれを理解しているのだろう。僕のような人間は、僕しかいなかった、ということに。
『いや、しかし……。それは有り得ません。成功率は九十九パーセント以上。そう設計されてテストも実行されて、その後に五万人のコールドスリープが実行されたはずです』
「ねえ。コールドスリープがどういうことなのかよく解らないけれど……、時間がずれていた、とかそういうことはないのかな? 例えば、フルだけコールドスリープの時間が一万年になっていて、ほんとうは違うとか……」
『それは考えられません。それに、コールドスリープは冷凍保存のことですね。人体を冷凍して、仮死状態で保存する。そうすればほぼ永遠の時間その身体を保持することが出来るのです』
即座に否定されたルーシーはばつの悪そうな表情を示す。そりゃそうだ、あれほど本気で考えた意見をそのまますぐに否定されてしまえばテンションが下がるのも当然だろう。
結局のところ、今までのことを整理するとやっぱり僕以外の人間はコールドスリープが失敗したのではないか、という結論になってしまう。だってそれ以外の人間は見られないのだから、そういう考えに至るのは至極当然なことだと思う。
アリスの事実を聞いて、僕たちは情報を整理しきれずに手詰まり感を覚えた――ちょうどその時だった。
僕の身体が、ふわりと浮かび上がった。
「フル!!」
メアリーが叫んで、僕の身体を地面へ戻そうとする。
けれど浮かび上がる力のほうが強く、メアリーの手も離れて行ってしまう。
「これはいったい……!」
「ついに予言の勇者を手に入れたわ」
上空には小さな飛空艇が飛んでいた。一人乗りのそれには、ある女性が腰かけていた。
「リュージュ……!」
そう。
そこに居たのは、今回の黒幕であるリュージュだった。
リュージュに手を取られ、そのまま強引に飛空艇に載せられてしまう。
「リュージュ! フルを返せ!」
ルーシーが声を上げるも、リュージュは聞く耳を持たない。
「何を言っているのかしら。ついに手に入れたというものを手放すわけがないでしょう? さあ、向かいましょう。予言の勇者。この物語を終わらせるために」
そして僕は何も出来ないまま――リュージュの乗る飛空艇に載せられて、メアリーたちの場所を後にするのだった。
「だから言ったじゃないか。僕は2015年からやってきたんだ。だからその話は間違っているはずなんだよ」
それを聞いたアリスは表情を曇らせる。――いや、それは嘘だった。仮に人間であるならば表情を曇らせるかもしれないというだけで、アンドロイドの彼女には表情を変えることなど出来ず、ただ無表情を貫くだけに過ぎなかった。
『しかし、それは有り得ません。あなたは「ホープ・リスト」に明記されています。それを鑑みるにあなたは2047年からコールドスリープされていないとおかしい。いえ、されているはずなのですから』
「でも……!」
だからといって、証拠が無い。
アリスにはDNA情報という確固たる証拠があるけれど、それに対して僕には何も証拠が無い。その状況だけ考えてみるとアリスが有利であることは火を見るよりも明らかだ。
いや、それどころか。長くこの世界に来ているからか、徐々にその記憶が薄れてしまっていることも事実。もしかしたら2015年ではなくて、ほんとうにアリスの言うことが正しいのでは無いか?
いや、待てよ。……いまさっき、ホープ・リストには五万人もの人間が居ると聞いたけれど、それっていったいどういうことだ?
「ちょっと待ってくれ。もし、僕がホープ・リストに名前のあった人間だとして、残りの四万九千九百九十九人はどこに行ってしまったんだ? 流石に全員消えてしまったとか、そういうことではないよな?」
『……確かに、そう言われてみると残りの方々はどこへ消えてしまったのでしょうか? でも、あなたはこの世界に居る。流石に全員が失敗したとは考えにくいのですが……』
言いたいことは解る。
けれど、僕たちだって知らないこともあるし、僕だって気が付けばラドーム学院の自分の部屋に居た。だからどれくらいの人間が僕と同時にこの世界にやってきたかどうかなんて定かでは無い。はっきりとしない、とでも言えばいいかな。けれど、もし同じ言語を話す人間が周りに居るとすればどちらかが気付くはずだ。そしてレスポンスがやってくるはずだった。それが来ない、ということは僕以外の人間はこの世界にやってきていない、ということになる。はっきり言って、それは自明なことだと言えるだろう。
「……確かにラドーム学院に、フルのような人間はフルしか居なかった。だからそれは正しいと思う。この世界には……正確に言えばこの時代にはフルしかやってきていないのではないかしら?」
言ったのはメアリーだった。メアリーの発言には僕も完全に同意だ。それにメアリーの発言には理由がある。
彼女はラドーム学院の学生だ。だから学校のことはある程度理解しているはずである。そして、僕がやってきたのは昔から知っているとどこかで聞いた覚えがある。もし、その時にほかの人も出てきていることを知っているならば――仮に日本人が居れば、という話にもなってしまうが――日本語を話すことの出来るメアリーに興味を示すはずだ。
それが無いとみれば――メアリーもそれを理解しているのだろう。僕のような人間は、僕しかいなかった、ということに。
『いや、しかし……。それは有り得ません。成功率は九十九パーセント以上。そう設計されてテストも実行されて、その後に五万人のコールドスリープが実行されたはずです』
「ねえ。コールドスリープがどういうことなのかよく解らないけれど……、時間がずれていた、とかそういうことはないのかな? 例えば、フルだけコールドスリープの時間が一万年になっていて、ほんとうは違うとか……」
『それは考えられません。それに、コールドスリープは冷凍保存のことですね。人体を冷凍して、仮死状態で保存する。そうすればほぼ永遠の時間その身体を保持することが出来るのです』
即座に否定されたルーシーはばつの悪そうな表情を示す。そりゃそうだ、あれほど本気で考えた意見をそのまますぐに否定されてしまえばテンションが下がるのも当然だろう。
結局のところ、今までのことを整理するとやっぱり僕以外の人間はコールドスリープが失敗したのではないか、という結論になってしまう。だってそれ以外の人間は見られないのだから、そういう考えに至るのは至極当然なことだと思う。
アリスの事実を聞いて、僕たちは情報を整理しきれずに手詰まり感を覚えた――ちょうどその時だった。
僕の身体が、ふわりと浮かび上がった。
「フル!!」
メアリーが叫んで、僕の身体を地面へ戻そうとする。
けれど浮かび上がる力のほうが強く、メアリーの手も離れて行ってしまう。
「これはいったい……!」
「ついに予言の勇者を手に入れたわ」
上空には小さな飛空艇が飛んでいた。一人乗りのそれには、ある女性が腰かけていた。
「リュージュ……!」
そう。
そこに居たのは、今回の黒幕であるリュージュだった。
リュージュに手を取られ、そのまま強引に飛空艇に載せられてしまう。
「リュージュ! フルを返せ!」
ルーシーが声を上げるも、リュージュは聞く耳を持たない。
「何を言っているのかしら。ついに手に入れたというものを手放すわけがないでしょう? さあ、向かいましょう。予言の勇者。この物語を終わらせるために」
そして僕は何も出来ないまま――リュージュの乗る飛空艇に載せられて、メアリーたちの場所を後にするのだった。
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