異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第百二十二話 一万年前の君へ①
ハイダルク。
僅かな期間しか離れていないような感じに見えたけれど、いざ向かってみると随分と久しぶりな感じがしてならない。まあ、それについては別にどうだっていいのかもしれないけれど、ついにリュージュと直接対決するとなるとそれなりに緊張してしまうものだ。
ルーシーを見てみると、武者震いをしていた。興奮しているのかもしれない。メアリー以外の僕たちは一度リュージュを目の当たりにしている。会話もしている。だからこそ、リュージュという存在がどれほどに大きい存在であるかは理解していた。
「……何か、寂しいね」
レイナとシュルツさんは、レガドールで分かれることとなった。
だからこの広い船で僕たち三人だけ、ということになっている。
どうして分かれてしまったかと言えば、それは僕から言ったことになるのだけれど、結局のところ、僕たちがリュージュを倒すために行動している。そういう目的をもって行動しているのだ。
しかしながら、シュルツさんとレイナはそれぞれ別の目的があったために、僕たちと坑道していた。
そして、その目的はこのレガドールで達成出来てしまった。
二人はこれからも付いていくという言葉を僕たちに言ってくれたけれど、これ以上僕たちの我儘に振り回されてはいけない。そう思って僕たち三人で決めた結果だった。
……はずだったのだけれど。
「……なあ、レイナ。どうして君はここに居るんだい?」
厨房の奥にある倉庫。その奥の箱にレイナは隠れていた。どうやら資材の搬入に合わせてうまく紛れ込んだらしい。資材の搬入をした人も言ってくれればいいのに、レイナの口車にうまく載せられたようだ。
それはどうだっていい。問題は、
「どうしてここに居るか、ですって? 簡単よ。私も一緒に世界を救いたい。そう思ったから。シュルツさんなら、居ないわよ。確か『僕はここでやることがある』って言っていたけれど、何がしたいのかしら? まあ、たぶんシュルツさんもシュルツさんでフルたちに力添えしようと何か策を考えていると思うけれど」
「そうじゃなくて……!」
僕が言いたいのはそうじゃない。
助けてくれる。尽力してくれる。はっきり言ってそれはとても有難い。
しかしながら、問題はそうでは無かった。どうしてついてこなくていい、と言ったのについてきたのか、それが問題だった。
「言いたいこともあると思うけれど、はっきり言ってあれでついてこない人間が居るというのがおかしな話だとは思わないかしら? だって私たちはあなたたちとずっと旅をしてきた。いわば旅の仲間だった。けれど、急に『これからは僕たちの戦いだから』ですって? そんなこと、許容できるとでも思っているの。それとも、私とシュルツさんは仲間ではないと言いたいわけ?」
レイナは怒っているようだった。
しかしながら、彼女の言い分ももっともだった。実際問題、彼女のことを見捨てたわけではない。むしろ、これからの戦いで傷ついてほしくないと思ったからこそ、そう言っただけだった。気遣いに近い発言だった、と言ってもいい。
しかしながらその発言は彼女には通らなかった。うまく伝わらなかったどころか、突き放されたと思われてしまった、ということだ。別にそういうことを思ったわけでは無かったのだけれど、そう言われてしまうとつらい。
「……フル。もう仕方ないんじゃないかな」
僕に助け船を出したのはメアリーだった。
メアリーは背中に両手を回して、
「この船に乗ってきた、ということは彼女にもそれなりの考えがあったからだと思うよ。そうでしょう、レイナ? あなただって矜持がある。その矜持を守るために、フルが僕たちの戦いだと宣言しても付いていこうと思った。だからあなたは今ここに居る。そうでは無くて」
「……やっぱり、メアリーは頭がいいよね。隠し通せないよ」
そう言ってレイナは照れくさかったのか、頭を掻きながら笑みを浮かべた。
「そんなことは無いよ。……ねえ、フル。レイナはここまでしてついてきてくれた。それを鑑みてはどうかな。別に引き返してもいいかもしれない。けれど、時間が無いこともまた事実でしょう? だったら正直なところ、もう選択肢としては一つしか無いのかな、って」
メアリーは僕を後押しするように、そう言った。
そして、ルーシーも同意するように頷いていた。
僕はそれを見て、大きくゆっくりと頷いた。
「……うん、そうだね。レイナ、ここまでして、僕たちについてきてくれてありがとう。僕は君のことを仲間じゃないなんて思ったことは無いよ。もし、出来るなら……、これからの戦いもついてきてくれるかい?」
その言葉に、レイナは大きく頷いた。
「あ、見えてきたよ……!」
その返答と同時にメアリーは言った。
それを聞いて僕たちはメアリーの居るほうへと向かう。
メアリーが居たところからは、あるものが見えていた。
リーガル城。ハイダルクの中心にある、立派な城だった。
その城が、燃えていた。
「なんてことだ……!」
リーガル城が燃えている、その姿が僕たちの前に、疑いようのない事実として、襲い掛かった。
僅かな期間しか離れていないような感じに見えたけれど、いざ向かってみると随分と久しぶりな感じがしてならない。まあ、それについては別にどうだっていいのかもしれないけれど、ついにリュージュと直接対決するとなるとそれなりに緊張してしまうものだ。
ルーシーを見てみると、武者震いをしていた。興奮しているのかもしれない。メアリー以外の僕たちは一度リュージュを目の当たりにしている。会話もしている。だからこそ、リュージュという存在がどれほどに大きい存在であるかは理解していた。
「……何か、寂しいね」
レイナとシュルツさんは、レガドールで分かれることとなった。
だからこの広い船で僕たち三人だけ、ということになっている。
どうして分かれてしまったかと言えば、それは僕から言ったことになるのだけれど、結局のところ、僕たちがリュージュを倒すために行動している。そういう目的をもって行動しているのだ。
しかしながら、シュルツさんとレイナはそれぞれ別の目的があったために、僕たちと坑道していた。
そして、その目的はこのレガドールで達成出来てしまった。
二人はこれからも付いていくという言葉を僕たちに言ってくれたけれど、これ以上僕たちの我儘に振り回されてはいけない。そう思って僕たち三人で決めた結果だった。
……はずだったのだけれど。
「……なあ、レイナ。どうして君はここに居るんだい?」
厨房の奥にある倉庫。その奥の箱にレイナは隠れていた。どうやら資材の搬入に合わせてうまく紛れ込んだらしい。資材の搬入をした人も言ってくれればいいのに、レイナの口車にうまく載せられたようだ。
それはどうだっていい。問題は、
「どうしてここに居るか、ですって? 簡単よ。私も一緒に世界を救いたい。そう思ったから。シュルツさんなら、居ないわよ。確か『僕はここでやることがある』って言っていたけれど、何がしたいのかしら? まあ、たぶんシュルツさんもシュルツさんでフルたちに力添えしようと何か策を考えていると思うけれど」
「そうじゃなくて……!」
僕が言いたいのはそうじゃない。
助けてくれる。尽力してくれる。はっきり言ってそれはとても有難い。
しかしながら、問題はそうでは無かった。どうしてついてこなくていい、と言ったのについてきたのか、それが問題だった。
「言いたいこともあると思うけれど、はっきり言ってあれでついてこない人間が居るというのがおかしな話だとは思わないかしら? だって私たちはあなたたちとずっと旅をしてきた。いわば旅の仲間だった。けれど、急に『これからは僕たちの戦いだから』ですって? そんなこと、許容できるとでも思っているの。それとも、私とシュルツさんは仲間ではないと言いたいわけ?」
レイナは怒っているようだった。
しかしながら、彼女の言い分ももっともだった。実際問題、彼女のことを見捨てたわけではない。むしろ、これからの戦いで傷ついてほしくないと思ったからこそ、そう言っただけだった。気遣いに近い発言だった、と言ってもいい。
しかしながらその発言は彼女には通らなかった。うまく伝わらなかったどころか、突き放されたと思われてしまった、ということだ。別にそういうことを思ったわけでは無かったのだけれど、そう言われてしまうとつらい。
「……フル。もう仕方ないんじゃないかな」
僕に助け船を出したのはメアリーだった。
メアリーは背中に両手を回して、
「この船に乗ってきた、ということは彼女にもそれなりの考えがあったからだと思うよ。そうでしょう、レイナ? あなただって矜持がある。その矜持を守るために、フルが僕たちの戦いだと宣言しても付いていこうと思った。だからあなたは今ここに居る。そうでは無くて」
「……やっぱり、メアリーは頭がいいよね。隠し通せないよ」
そう言ってレイナは照れくさかったのか、頭を掻きながら笑みを浮かべた。
「そんなことは無いよ。……ねえ、フル。レイナはここまでしてついてきてくれた。それを鑑みてはどうかな。別に引き返してもいいかもしれない。けれど、時間が無いこともまた事実でしょう? だったら正直なところ、もう選択肢としては一つしか無いのかな、って」
メアリーは僕を後押しするように、そう言った。
そして、ルーシーも同意するように頷いていた。
僕はそれを見て、大きくゆっくりと頷いた。
「……うん、そうだね。レイナ、ここまでして、僕たちについてきてくれてありがとう。僕は君のことを仲間じゃないなんて思ったことは無いよ。もし、出来るなら……、これからの戦いもついてきてくれるかい?」
その言葉に、レイナは大きく頷いた。
「あ、見えてきたよ……!」
その返答と同時にメアリーは言った。
それを聞いて僕たちはメアリーの居るほうへと向かう。
メアリーが居たところからは、あるものが見えていた。
リーガル城。ハイダルクの中心にある、立派な城だった。
その城が、燃えていた。
「なんてことだ……!」
リーガル城が燃えている、その姿が僕たちの前に、疑いようのない事実として、襲い掛かった。
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