異世界で、英雄譚をはじめましょう。

巫夏希

第七十六話 決戦、エノシアスタ④


 次に僕たちが目を覚ました時、それは扉が開かれてそこから部下とみられる男が姿を見せたときだった。

「外に出ろ」

 僕たちはその言葉に、ただ従うしか無かった。
 廊下を歩き、僕たちは一つの部屋へと到着する。

「失礼します」

 ドアをノックしたのち、部下とみられる男は中へ入っていった。
 そして僕たちも背中に銃を突き付けられ、半ば強引に中に入っていった。
 そこにはリクライニングチェアに腰かけていたアドハムの姿があった。

「お前は……!」
「君たちに、なぜここに呼んだかというと簡単なことだ。私の目的を少しでも知ってもらおうと思ってね。まあ、理解してもらおうなどとは思っていない。ただ知ってもらうだけの話だ。ハードルはたいして高いものではない」

 そうして僕たちは立ったまま、アドハムの話を聞くこととなった。

「簡単に話を進めるために、前提条件というか、そういうものを話していくこととしよう。この世界に起きている問題を、君たちはどれくらい知っているかね?」
「問題、って……ええと、貧困とか?」
「貧困。確かにそれも多い。現にこの町ではそれがピックアップされていないが、この町以外では貧困に苦しむ子供が多いといわれている。現に一般人の月収の十分の一未満で生活をしている人が世界人口の二割を占めるともいわれ、これは増加傾向にある。これは由々しき事態だよ。本来ならば世界で考えていかねばならない問題のはずだ。だが、国のトップは何も考えちゃいない。ただ私腹を肥やしているだけ……いいや、違う。それ以上の問題を孕んでいる」
「何で貧困になるんだ……?」
「いい質問だな、予言の勇者。それはシンプルにこう捉えることが出来る。『肥沃な土地が不足している』からだ。この世界の七割は土地の養分が少ない。だから食べ物を生産するのも難しい。エノシアスタでは人工植物を作りカバーしていることはしているが……、まだ大量生産には至っていない。この言葉の意味が理解できるか? まだ、世界の人間を養うほどの食べ物は、我々でも作ることが難しいということだ。かつて肥沃だった土地は、偉大なる戦いのとき、すべて分割して宇宙に放たれてしまったのだから」

 肥沃な土地が不足している。
 だから、そこで食べ物を作ることができない。
 そして、食べ物を作ることができないけれど、限られた人が食べ物を寡占している。
 結果として、貧富の差が広がっていく。
 まるで僕がいた世界とあまり変わらない。いや、それどころかほぼ同じだと思う。
 アドハムの話は続く。

「この世界は、裏ではリュージュ……スノーフォグが操っている。一応国としては三つに分かれているのだが、裏を見ている人間からすればそんなものはうわべだけに過ぎない。重要そうなことにかんしてはすべて、リュージュを通して実行される。彼奴がこの世界の王と言っても何ら過言ではないだろう」
「リュージュが……この世界の王……?」

 ならば今、この世界がこうなっているのはリュージュが原因ということになるのか?

「そういうことになるだろう」

 アドハムは、まるで僕が考えていたことを理解していたかのように、頷いた。
 ただし、と言ってアドハムは話をさらに続ける。

「リュージュはこの世界では賢王だ。人々に愛され、リュージュも民を愛している。だから、人々からみればリュージュが政治を執り行うことは別に珍しい話ではないし、むしろ素晴らしいことだと思う人間が多いことだろう」
「……けれど、世界の裏ではリュージュが糸を引いている、と?」
「そういうことだ。だが、リュージュは何もしようとしない。正確に言えば、軍事力にその力を割いている、といっても過言ではないだろう」
「?」
「彼奴もまた、この世界の状況については理解している。なぜなら彼奴は祈祷師だ。未来を予言することができる。未来がどうなっていくかを一番理解することができる。だから、どうすれば未来を変えることができるかを、理解できるわけだ」
「……つまり?」

 どんどん状況がおかしくなっていくのが、僕にも理解できた。

「この世界を変えるためにどうすればいいのか……いろいろと考えたのだろうが、彼女もまた最悪の指針を選択した、ということになる。リュージュはスノーフォグを軍事大国にして、どうしようと思っているか、分かるかね?」
「いったい何を……」
「リュージュはレガドールとハイダルクを滅ぼし、この世界を真に統一しようと考えている。いいや、そんな甘い話だけではない。そこで人々を選び……最終的にこの世界でシミュレートして生きていける人間の数だけ残すようにする。選民主義の国が誕生する、ということになる」
「選民主義の国……だって?」

 アドハムの言ったことは、どちらかといえばあまり現実的なものではなかった。
 けれど、もしそれが本当だったとすれば、リュージュはあまりにもとんでもないことを仕出かすのだということは、僕たちにも簡単に理解できることだった。

「でも、……どうすればいいんだ? 相手は一国の主だぞ。それを食い止めるとしたって……」
「そのために、我々は行動している。逆のことをしてしまえばいい。リュージュを倒すことで、この世界が守られるのならば、その犠牲は少なく済む。いや、もっと言えば……」
「?」

 アドハムが一瞬言葉を躊躇ったので、僕は首を傾げた。
 そして数瞬の時を置いて、アドハムはその続きを話した。

「……スノーフォグの人間を滅ぼす。この科学技術を、この世界には有り余るほどの科学技術を生み出したエノシアスタを滅ぼす。そのために我々はここにいるのだよ、予言の勇者よ」

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