異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第六十二話 シュラス錬金術研究所⑮
噂。
噂、か。
人の噂も七十五日とは良く聞いたことのある話ではあるけれど、しかし存外噂というのはその日付以上に流通してしまうものだと思う。実際問題、それはよくある話だと思うし、間違っていないことだと思う。怖がることも面白がることも、興味が失せるタイミングまでずっとそのままでいると思うし、もしかしたらうまくずっと長く続けていられるかもしれない。広告的手法でも使えることだ。なぜ僕がそのようなことを知っているのかといえば、興味があることというよりも目についたものを片っ端から調べていたことがあったので、それで調べたからである。そのことの殆どは実際に役立つことは無かったけれど、まさかこのようなタイミングで、そこで調べた知識を思い出すことになるとは思いもしなかった。
知識を得ることに間違いなんて存在しない。だって、普通に考えてみて、知識を得ることで失敗した経験なんて無いからだ。それは僕が経験した、ただそれだけのことかもしれないけれど、それについては僕が保証する――なんて言ったとしてもそれはたったのこれっぽっちも認めてくれることはない。結局、ただの個人の自信なんてそのようなものだ。ただのハリボテと変わりない。
ハリボテと変わりないなら、結局そのハリボテをハリボテと思われないようにする。そういう風に思う人間だっているし、それを地で行く人間もいることもまた事実だと思う。現にこの世界に来ただけでもどれくらいの人間がそういう精神でやってきた人間が居るだろうか。数えたことも考えたこともないけれど、おそらくそれが世界の一般的な常識なのだと思う。
それが世界の普通で。
それが一般的な常識で。
僕にとってそれは普通じゃない、また何か違うことのように思えたけれど。
「でもそう思うことって間違いなんだろうな……」
「うん? 何かあった?」
「あ、いや。何でもないです。ありがとうございます」
貴重な情報を手に入れて、僕は頭を下げる。そうしてルーシーに声をかける。
「どうやら、行先はきまったようだぞ、ルーシー」
「……裏の研究施設がある、という噂のことか? まさかそれを全体的に信用するつもりなんじゃないだろうな?」
「それしか手段はないと思うよ。だって、現状の情報はそれしかない。だったら、そこに向かうしかないでしょう? 問題は、そこにどうやって向かうか、だけど……。やっぱり歩くしかないのかな」
「まあ、そうなるよな……。しかし、徒歩か。何かいい手段無いかなあ……」
僕とルーシーが頭を抱えていた、ちょうどその時だった。
「そういえば、さっき見たんだけど。この町、行商が多いよね。もしかしたら、それって使えない?」
そう言ったのはレイナだった。
行商? そんな情報、どこで入手したんだ。それにしても、その情報はほんとうに有り難い。
「行商……か。もし徒歩で行くならば、そちらのほうが問題ないといえば問題ない気はする。……なら、一度探してみる? それで良い条件の行商が見つかればいいけれど」
生憎今はそれなりの路銀を確保している。契約の時の値が若干張るものだったとしても、多少は何とかなると思う。
そう思って僕たちはタワーを降りて、行商のもとへと向かった。
行商通り。
実際には何か花の名前がついた名前らしいけれど、行商の家が多いためこのような名前がニックネームのような感じでつけられて、それが正式名称のようになっているらしい。
そして通りにはその名前を裏付けるように、馬車の車庫が多く面していた。
「しかし科学技術がここまで発展しているのに、まだ馬車が混在しているんだな……。もっと、何か無かったのかな。トラックとか」
確かに。
ラルースの人間でもトラックを使用しているのに、この行商通りの人間は殆ど馬車を使用している。まあ、全員が全員使用しているわけではないけれど、それでも馬車は未だ根強い。
「多分それって、この世界が未だ馬車のほうが主流だからじゃないか? だって、主流じゃないものを使い続けるわけにもいかないだろ。実際、同じスノーフォグですらこの町しか科学技術は発展していなくて、あとは横並びってくらいだし。だから、その横並びから突出していることを見られないためにも馬車を使っているとか。あとはメインテナンスの問題じゃないかな。何かあったとき別の町でも何とかなるじゃないか。ただトラックとか、この町特有の何かだったら別の町で故障した時も何か大変なことになるんだろうし」
「そうか……。まあ、確かに間違いではないだろうなあ。ま、別に馬車になろうが馬車以外になろうが問題ないよ。問題はメタモルフォーズの巣に進んで行ってくれる行商が居るかどうか、というだけ」
僕はシニカルに微笑むと、ルーシーもその通りだと頷いた。
実際問題、トラックだろうが何だろうがそこについてはどうだっていい。問題はメタモルフォーズの巣に僕たちがこれから向かう、ということだ。
メタモルフォーズの巣はこの世界の人間が考える危険地帯の一つだ。その場所だけじゃない、そこへ向かうまでの道のりも酷いものだと思う。果たしてそこに進んで向かってくれる人がいるだろうか? そう考えたときに、大分幅が狭くなってくると思う。
まあ、それよりも――実際にやってみないと解らない。
だから僕たちは行商を確保するために、行商通りにある店に向かうのだった。
噂、か。
人の噂も七十五日とは良く聞いたことのある話ではあるけれど、しかし存外噂というのはその日付以上に流通してしまうものだと思う。実際問題、それはよくある話だと思うし、間違っていないことだと思う。怖がることも面白がることも、興味が失せるタイミングまでずっとそのままでいると思うし、もしかしたらうまくずっと長く続けていられるかもしれない。広告的手法でも使えることだ。なぜ僕がそのようなことを知っているのかといえば、興味があることというよりも目についたものを片っ端から調べていたことがあったので、それで調べたからである。そのことの殆どは実際に役立つことは無かったけれど、まさかこのようなタイミングで、そこで調べた知識を思い出すことになるとは思いもしなかった。
知識を得ることに間違いなんて存在しない。だって、普通に考えてみて、知識を得ることで失敗した経験なんて無いからだ。それは僕が経験した、ただそれだけのことかもしれないけれど、それについては僕が保証する――なんて言ったとしてもそれはたったのこれっぽっちも認めてくれることはない。結局、ただの個人の自信なんてそのようなものだ。ただのハリボテと変わりない。
ハリボテと変わりないなら、結局そのハリボテをハリボテと思われないようにする。そういう風に思う人間だっているし、それを地で行く人間もいることもまた事実だと思う。現にこの世界に来ただけでもどれくらいの人間がそういう精神でやってきた人間が居るだろうか。数えたことも考えたこともないけれど、おそらくそれが世界の一般的な常識なのだと思う。
それが世界の普通で。
それが一般的な常識で。
僕にとってそれは普通じゃない、また何か違うことのように思えたけれど。
「でもそう思うことって間違いなんだろうな……」
「うん? 何かあった?」
「あ、いや。何でもないです。ありがとうございます」
貴重な情報を手に入れて、僕は頭を下げる。そうしてルーシーに声をかける。
「どうやら、行先はきまったようだぞ、ルーシー」
「……裏の研究施設がある、という噂のことか? まさかそれを全体的に信用するつもりなんじゃないだろうな?」
「それしか手段はないと思うよ。だって、現状の情報はそれしかない。だったら、そこに向かうしかないでしょう? 問題は、そこにどうやって向かうか、だけど……。やっぱり歩くしかないのかな」
「まあ、そうなるよな……。しかし、徒歩か。何かいい手段無いかなあ……」
僕とルーシーが頭を抱えていた、ちょうどその時だった。
「そういえば、さっき見たんだけど。この町、行商が多いよね。もしかしたら、それって使えない?」
そう言ったのはレイナだった。
行商? そんな情報、どこで入手したんだ。それにしても、その情報はほんとうに有り難い。
「行商……か。もし徒歩で行くならば、そちらのほうが問題ないといえば問題ない気はする。……なら、一度探してみる? それで良い条件の行商が見つかればいいけれど」
生憎今はそれなりの路銀を確保している。契約の時の値が若干張るものだったとしても、多少は何とかなると思う。
そう思って僕たちはタワーを降りて、行商のもとへと向かった。
行商通り。
実際には何か花の名前がついた名前らしいけれど、行商の家が多いためこのような名前がニックネームのような感じでつけられて、それが正式名称のようになっているらしい。
そして通りにはその名前を裏付けるように、馬車の車庫が多く面していた。
「しかし科学技術がここまで発展しているのに、まだ馬車が混在しているんだな……。もっと、何か無かったのかな。トラックとか」
確かに。
ラルースの人間でもトラックを使用しているのに、この行商通りの人間は殆ど馬車を使用している。まあ、全員が全員使用しているわけではないけれど、それでも馬車は未だ根強い。
「多分それって、この世界が未だ馬車のほうが主流だからじゃないか? だって、主流じゃないものを使い続けるわけにもいかないだろ。実際、同じスノーフォグですらこの町しか科学技術は発展していなくて、あとは横並びってくらいだし。だから、その横並びから突出していることを見られないためにも馬車を使っているとか。あとはメインテナンスの問題じゃないかな。何かあったとき別の町でも何とかなるじゃないか。ただトラックとか、この町特有の何かだったら別の町で故障した時も何か大変なことになるんだろうし」
「そうか……。まあ、確かに間違いではないだろうなあ。ま、別に馬車になろうが馬車以外になろうが問題ないよ。問題はメタモルフォーズの巣に進んで行ってくれる行商が居るかどうか、というだけ」
僕はシニカルに微笑むと、ルーシーもその通りだと頷いた。
実際問題、トラックだろうが何だろうがそこについてはどうだっていい。問題はメタモルフォーズの巣に僕たちがこれから向かう、ということだ。
メタモルフォーズの巣はこの世界の人間が考える危険地帯の一つだ。その場所だけじゃない、そこへ向かうまでの道のりも酷いものだと思う。果たしてそこに進んで向かってくれる人がいるだろうか? そう考えたときに、大分幅が狭くなってくると思う。
まあ、それよりも――実際にやってみないと解らない。
だから僕たちは行商を確保するために、行商通りにある店に向かうのだった。
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