異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第五十八話 シュラス錬金術研究所⑪
二日後。
僕たちは旅団と一緒に機械都市エノシアスタへと向かうこととなった。
エノシアスタへ向かうにはトラックを用いる。トラックが合計四台。荷物を載せているものが三台と人を乗せるために荷台部分を改造したものが一台となっている。人員はそれほど割かれているわけではなく、僕たちを除くと十人程度しか居ない。
そもそも一台――その人を乗せるためのトラックだけ明らかに巨大だった。もともとはダンプカーだったのかもしれないが、そうだとしても改造度合が半端ない。とにかく、人を乗せるためにいろいろな改造をとことんやってのけた、という感じがする。
「それにしても、こんな若い人が俺たちの護衛についてきてくれるとはね」
僕たちの居た部屋――と言っても間仕切りが殆どされていないので、部屋という空間と言っていいかどうか微妙なところだが――そこに入ってきた兵士はそう言った。
兵士――と言ってもそれはあくまでも推測しただけに過ぎない。本人から兵士だと聞いたわけではないからだ。ただ、ほかの人間に比べて若干装備が重装備に見えた。だから、そうかな、と思っただけに過ぎない。
「あ、俺のことかな? おかしいなあ、自己紹介していなかったっけ……。あ、していなかったかもしれないな。俺の名前はシド。こういう身なりをしているが、俺も商人の端くれだ。まあ、よろしく頼むよ」
「……よろしく」
シドさんが手を差し出してきたので、僕もそれに答える。きちんと答えないと意味が無いからね。それについては今から少しでも良い関係を築いておかないとギスギスしてしまうし。
シドさんの話は続く。
「まあ、君たちの実力を否定しているわけではないけれどさ。実際にその目で見たわけじゃないから、それを否定することも間違っていると思うしね。……取り敢えず、お近づきのしるしにどうぞ」
そう言って、シドさんは僕たちにキャンディを差し出す。
それを受け取ってそのままポケットに仕舞い込んだ。
「俺はいろいろと嗜好品を取り扱っていてね。まあ、別に珍しい話じゃないと思うけれど。特にここ最近嗜好品の売り上げが増えてきた。好調、とでも言えばいいかな」
「へえ、何故ですか? やはり、メタモルフォーズに対する不安?」
「そうとも言えるし、そうとも言えないかもしれない。メタモルフォーズは不安になる材料ではあるけれど、商業としては一番いいところを持ってきてくれるからねえ。何というの? その、災害特需、ってやつ? そういうことも多いわけだよ。今から向かうところも、確か一応メタモルフォーズの攻撃を受けてしまったために一部被災しているエリアがあるわけだが、そういう場所というのはもう何もかも足りないわけだ。人はもうあまりまくっているというらしいがね」
「人は余っている……?」
「『助けたい精神』の骨頂というやつだよ。助けたいけれど、何も出すものが無い……。だから自分の身体だけでも、という人間のこと。そういう人間は確かに有難いよ。人は多ければ多いほうがいい。けれどそれはあくまでも仮定に過ぎない。実際問題、増え続けてしまえばそれは過多になってしまう。食料の供給もまともに無い、寝る場所も少ない、まともに眠ることの出来る人間すら少ないというのに、人が増え続けてしまう。そうなったら、何が生まれると思う?」
その先に何が生まれるか。
ええと、おそらくきっと……。
「答えは簡単だ。供給と需要が割に合わなくなり、食料は益々減ることだろう。おそらく、寝るところも衣服も……何もかも足りなくなる。そういう場所に売りに行くのが……俺たち商人、というわけ」
「ボランティア……無料で提供しようというつもりはない、ということですか?」
「あるわけないでしょう。だって、ビジネスチャンスの一つだよ? そんなチャンスを逃がしてまで商品を出すわけにはいかない。世界の仕組みというのは、案外そういうものだよ。まあ、君たちのような子供にはあまり解らないかもしれないが……」
「けれど、それは理屈でしょう? ボランティアとは言わずとも、せめて安く提供することだって……」
「そんなことを言ってもね、俺だって、こっちだって商売だ。飯を食うために、そして何より生きていくために働いている。物を売っているわけだよ。もちろんなるべく安くしているつもりだ。けれど、これ以上安くしてしまえば俺だって生きていけなくなる。不謹慎? 悪者? そんなことを言う人だっているさ。けれど、そんなことですべて萎縮してしまったら世界もろとも暗い雰囲気に包まれてしまうとは思わないか?」
「それは……」
それについて、僕ははっきりと答えることは出来なかった。
無料で提供すること。それは出来なくても、安くすることは出来ないのか――ということについて。
それはきっとやろうと思えば簡単に出来ることなのだと思う。けれど、それを実際にしてしまえば今度は商人が生きていけなくなってしまう。そうなってしまうと経済がうまく回らなくなり、世界的に経済が破綻してしまう。要するに、一つの災害で世界を崩壊させてはならない……そういうことなのだろう。
僕たちは旅団と一緒に機械都市エノシアスタへと向かうこととなった。
エノシアスタへ向かうにはトラックを用いる。トラックが合計四台。荷物を載せているものが三台と人を乗せるために荷台部分を改造したものが一台となっている。人員はそれほど割かれているわけではなく、僕たちを除くと十人程度しか居ない。
そもそも一台――その人を乗せるためのトラックだけ明らかに巨大だった。もともとはダンプカーだったのかもしれないが、そうだとしても改造度合が半端ない。とにかく、人を乗せるためにいろいろな改造をとことんやってのけた、という感じがする。
「それにしても、こんな若い人が俺たちの護衛についてきてくれるとはね」
僕たちの居た部屋――と言っても間仕切りが殆どされていないので、部屋という空間と言っていいかどうか微妙なところだが――そこに入ってきた兵士はそう言った。
兵士――と言ってもそれはあくまでも推測しただけに過ぎない。本人から兵士だと聞いたわけではないからだ。ただ、ほかの人間に比べて若干装備が重装備に見えた。だから、そうかな、と思っただけに過ぎない。
「あ、俺のことかな? おかしいなあ、自己紹介していなかったっけ……。あ、していなかったかもしれないな。俺の名前はシド。こういう身なりをしているが、俺も商人の端くれだ。まあ、よろしく頼むよ」
「……よろしく」
シドさんが手を差し出してきたので、僕もそれに答える。きちんと答えないと意味が無いからね。それについては今から少しでも良い関係を築いておかないとギスギスしてしまうし。
シドさんの話は続く。
「まあ、君たちの実力を否定しているわけではないけれどさ。実際にその目で見たわけじゃないから、それを否定することも間違っていると思うしね。……取り敢えず、お近づきのしるしにどうぞ」
そう言って、シドさんは僕たちにキャンディを差し出す。
それを受け取ってそのままポケットに仕舞い込んだ。
「俺はいろいろと嗜好品を取り扱っていてね。まあ、別に珍しい話じゃないと思うけれど。特にここ最近嗜好品の売り上げが増えてきた。好調、とでも言えばいいかな」
「へえ、何故ですか? やはり、メタモルフォーズに対する不安?」
「そうとも言えるし、そうとも言えないかもしれない。メタモルフォーズは不安になる材料ではあるけれど、商業としては一番いいところを持ってきてくれるからねえ。何というの? その、災害特需、ってやつ? そういうことも多いわけだよ。今から向かうところも、確か一応メタモルフォーズの攻撃を受けてしまったために一部被災しているエリアがあるわけだが、そういう場所というのはもう何もかも足りないわけだ。人はもうあまりまくっているというらしいがね」
「人は余っている……?」
「『助けたい精神』の骨頂というやつだよ。助けたいけれど、何も出すものが無い……。だから自分の身体だけでも、という人間のこと。そういう人間は確かに有難いよ。人は多ければ多いほうがいい。けれどそれはあくまでも仮定に過ぎない。実際問題、増え続けてしまえばそれは過多になってしまう。食料の供給もまともに無い、寝る場所も少ない、まともに眠ることの出来る人間すら少ないというのに、人が増え続けてしまう。そうなったら、何が生まれると思う?」
その先に何が生まれるか。
ええと、おそらくきっと……。
「答えは簡単だ。供給と需要が割に合わなくなり、食料は益々減ることだろう。おそらく、寝るところも衣服も……何もかも足りなくなる。そういう場所に売りに行くのが……俺たち商人、というわけ」
「ボランティア……無料で提供しようというつもりはない、ということですか?」
「あるわけないでしょう。だって、ビジネスチャンスの一つだよ? そんなチャンスを逃がしてまで商品を出すわけにはいかない。世界の仕組みというのは、案外そういうものだよ。まあ、君たちのような子供にはあまり解らないかもしれないが……」
「けれど、それは理屈でしょう? ボランティアとは言わずとも、せめて安く提供することだって……」
「そんなことを言ってもね、俺だって、こっちだって商売だ。飯を食うために、そして何より生きていくために働いている。物を売っているわけだよ。もちろんなるべく安くしているつもりだ。けれど、これ以上安くしてしまえば俺だって生きていけなくなる。不謹慎? 悪者? そんなことを言う人だっているさ。けれど、そんなことですべて萎縮してしまったら世界もろとも暗い雰囲気に包まれてしまうとは思わないか?」
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それについて、僕ははっきりと答えることは出来なかった。
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