異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第五十二話 シュラス錬金術研究所⑤
路地に入ったところで、彼女は踵を返し――唐突に僕に銃口を向けた。
「……あんたたち、さっきから私のことをつけていたようだけれど、いったい何が目的? そういうプロにしてははっきり言って素人のような素振りだったし……」
「ちょっと待ってくれ。別にあんたを狙っているわけじゃない。まあ、つけていたことは事実だけど……。ちょっと聞きたい事があるんだ」
僕は必死に訂正した。
追いかけていたことは事実だけれど、先ずは彼女が僕たちについていいイメージを抱かせないといけない。正確に言えば敵意を消す、という感じかな。
「聞きたい事?」
警戒を解いてくれることはさすがにすぐにはしてくれなかったけれど、銃だけは僕の前から外してくれた。
しかしながらまだ目線は鋭い。ここはどうにかして警戒をもう少し解いてもらえるようにしないといけないのだけれど、そう簡単にうまくいくとは限らない。情報が手に入らない可能性もあるので、慎重に行動しなくてはいけない。
「……ああ。実は、メタモルフォーズに関する情報を知りたい」
「メタモルフォーズに関する情報……ねえ。そんなもの、聞いてどうするつもりだ? もしかしてお前たちも掃除屋か? 一端の掃除屋だったら同業者から何もなしで情報を得るなんてそんな暴挙簡単に出来ないと思うが」
「違う。そうではない。僕たちは掃除屋でも何でもないよ。けれど、情報は得たい。だから、出来れば情報を知っている人間を探していたのだけれど――」
「だから、言っているだろう?」
そう言って少女は僕に右手を差し出した。
その意味が解らなくて暫く彼女の右手を見つめていたのだが、
「まったく、何を意味しているのか言わないと解らないのか? あんまり言いたくないが、これだから何も知らない子供は……。見た感じ、それなりにいいところを出ているように見える。そうだろう? この世界でいい学校と言えば……、そうだな、ラドーム学院か。あそこの出ならば少なくとも常識くらいは知っているだろうが、しかしそれはあくまでも『表』の世界の常識。私たち掃除屋に代表されるような裏の世界の常識なんてまったく仕入れていないだろう? だから、そんな常識外……埒外なことが言える。それに私は腹を立てているのだよ。敢えて言おう、表の人間が必要以上に裏に干渉するな。これは警告だ。こう警告してくれる人間は居ないぞ」
「……じゃあ、解った。何をすれば情報を提供してくれる? まずはそこから始めようじゃないか」
「……そもそも、そこが問題だよね」
そう言って少女は僕の顔を指さす。
「対価を払わないとダメと言ったからと言って、対価さえ払えば問題ないというわけではない。私が知っているメタモルフォーズに関する情報は、長年の『掃除屋』としての経験から得たものが殆ど。それを教えるとは即ち私の掃除屋の経験そのものを伝えるということに等しいのよ。それの意味が理解できる?」
「……そうかもしれないけれど、こっちだって切羽詰まっているのよ」
そう言ったのはレイナだった。
レイナはどこか強い発言をすることが多い。というよりも発言がおのずと強くなってしまう、という感じだろうか。いずれにせよ、僕やルーシーのように強く言うことが出来ないタイミングでも言うことが出来るから、とてもそれについては有難いのだが。
しかして、こうもはっきり言われてしまうと当然相手の心情もどう行くか完全に二択になってしまう。
「……切羽詰まっている? どういうことよ」
首を傾げ、目を丸くする少女。
もしかしたら少しだけ話を聞いてくれるのではないか――僕はそんなことを思った。
そしてその『チャンス』を有効活用すべきだと思っていたのは、僕だけではなかった。
「私たちはメタモルフォーズを倒す必要がある。ね、そうでしょう? フル」
「あ、えーと、うん。そうだ」
唐突に会話の矛先を向けられてちょっと動揺してしまったが、ここでチャンスを逃がしてしまうとなかなか次のチャンスはやってこないだろう。
そう思うと、不思議と声は落ち着いてきた。
「僕たちはメタモルフォーズがどこからやってきたのか、それを探している。それが世界を破壊してしまう可能性があるから」
「まるで予言に示されていた勇者サマみたいな言い回しだな。……ほんとうに世界を救おうと考えているのか? あんたみたいな、学生風情が?」
「世界を救えるかどうかは解らない。けれど……メタモルフォーズはかつて世界の危機へと導いた存在だろう? ならば倒すのは当然だし、それがなぜ生まれてしまったのか突き止めなくちゃいけない。そのためにも……」
「ああ、いい。解った」
そこまで言ったところで少女は手を振った。
何か言っちゃまずいことを言ってしまったか――?
僕はそんなことを思ったが、少女は頷いて笑みを浮かべた。
「解った、解ったよ。けれど、あんたたち大馬鹿者だよ。どこへ向かいたいと思っているのか、解っているのか? メタモルフォーズの巣へ向かうと言っているんだぞ? そして、そこに進んでいく存在なんて居るわけがない。確かにこの世界はメタモルフォーズによって幾度か滅ぼされかけている。それは世界の歴史書にも示されている、殆どの人間が知る一般常識と言ってもいい。だが、その力は圧倒的すぎる。人間には到底倒すことが出来ない存在だったんだよ」
「解っている。解っているよ。……だが、どうにかしないといけない。そうしないと……助けられる人間も助けることが出来ないから」
「……あんたたち、さっきから私のことをつけていたようだけれど、いったい何が目的? そういうプロにしてははっきり言って素人のような素振りだったし……」
「ちょっと待ってくれ。別にあんたを狙っているわけじゃない。まあ、つけていたことは事実だけど……。ちょっと聞きたい事があるんだ」
僕は必死に訂正した。
追いかけていたことは事実だけれど、先ずは彼女が僕たちについていいイメージを抱かせないといけない。正確に言えば敵意を消す、という感じかな。
「聞きたい事?」
警戒を解いてくれることはさすがにすぐにはしてくれなかったけれど、銃だけは僕の前から外してくれた。
しかしながらまだ目線は鋭い。ここはどうにかして警戒をもう少し解いてもらえるようにしないといけないのだけれど、そう簡単にうまくいくとは限らない。情報が手に入らない可能性もあるので、慎重に行動しなくてはいけない。
「……ああ。実は、メタモルフォーズに関する情報を知りたい」
「メタモルフォーズに関する情報……ねえ。そんなもの、聞いてどうするつもりだ? もしかしてお前たちも掃除屋か? 一端の掃除屋だったら同業者から何もなしで情報を得るなんてそんな暴挙簡単に出来ないと思うが」
「違う。そうではない。僕たちは掃除屋でも何でもないよ。けれど、情報は得たい。だから、出来れば情報を知っている人間を探していたのだけれど――」
「だから、言っているだろう?」
そう言って少女は僕に右手を差し出した。
その意味が解らなくて暫く彼女の右手を見つめていたのだが、
「まったく、何を意味しているのか言わないと解らないのか? あんまり言いたくないが、これだから何も知らない子供は……。見た感じ、それなりにいいところを出ているように見える。そうだろう? この世界でいい学校と言えば……、そうだな、ラドーム学院か。あそこの出ならば少なくとも常識くらいは知っているだろうが、しかしそれはあくまでも『表』の世界の常識。私たち掃除屋に代表されるような裏の世界の常識なんてまったく仕入れていないだろう? だから、そんな常識外……埒外なことが言える。それに私は腹を立てているのだよ。敢えて言おう、表の人間が必要以上に裏に干渉するな。これは警告だ。こう警告してくれる人間は居ないぞ」
「……じゃあ、解った。何をすれば情報を提供してくれる? まずはそこから始めようじゃないか」
「……そもそも、そこが問題だよね」
そう言って少女は僕の顔を指さす。
「対価を払わないとダメと言ったからと言って、対価さえ払えば問題ないというわけではない。私が知っているメタモルフォーズに関する情報は、長年の『掃除屋』としての経験から得たものが殆ど。それを教えるとは即ち私の掃除屋の経験そのものを伝えるということに等しいのよ。それの意味が理解できる?」
「……そうかもしれないけれど、こっちだって切羽詰まっているのよ」
そう言ったのはレイナだった。
レイナはどこか強い発言をすることが多い。というよりも発言がおのずと強くなってしまう、という感じだろうか。いずれにせよ、僕やルーシーのように強く言うことが出来ないタイミングでも言うことが出来るから、とてもそれについては有難いのだが。
しかして、こうもはっきり言われてしまうと当然相手の心情もどう行くか完全に二択になってしまう。
「……切羽詰まっている? どういうことよ」
首を傾げ、目を丸くする少女。
もしかしたら少しだけ話を聞いてくれるのではないか――僕はそんなことを思った。
そしてその『チャンス』を有効活用すべきだと思っていたのは、僕だけではなかった。
「私たちはメタモルフォーズを倒す必要がある。ね、そうでしょう? フル」
「あ、えーと、うん。そうだ」
唐突に会話の矛先を向けられてちょっと動揺してしまったが、ここでチャンスを逃がしてしまうとなかなか次のチャンスはやってこないだろう。
そう思うと、不思議と声は落ち着いてきた。
「僕たちはメタモルフォーズがどこからやってきたのか、それを探している。それが世界を破壊してしまう可能性があるから」
「まるで予言に示されていた勇者サマみたいな言い回しだな。……ほんとうに世界を救おうと考えているのか? あんたみたいな、学生風情が?」
「世界を救えるかどうかは解らない。けれど……メタモルフォーズはかつて世界の危機へと導いた存在だろう? ならば倒すのは当然だし、それがなぜ生まれてしまったのか突き止めなくちゃいけない。そのためにも……」
「ああ、いい。解った」
そこまで言ったところで少女は手を振った。
何か言っちゃまずいことを言ってしまったか――?
僕はそんなことを思ったが、少女は頷いて笑みを浮かべた。
「解った、解ったよ。けれど、あんたたち大馬鹿者だよ。どこへ向かいたいと思っているのか、解っているのか? メタモルフォーズの巣へ向かうと言っているんだぞ? そして、そこに進んでいく存在なんて居るわけがない。確かにこの世界はメタモルフォーズによって幾度か滅ぼされかけている。それは世界の歴史書にも示されている、殆どの人間が知る一般常識と言ってもいい。だが、その力は圧倒的すぎる。人間には到底倒すことが出来ない存在だったんだよ」
「解っている。解っているよ。……だが、どうにかしないといけない。そうしないと……助けられる人間も助けることが出来ないから」
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