異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第四十七話 はじまりの島③
「ガラムドが、このような事態を予測していて、勇者の手に渡るようにしていた……と?」
「可能性は充分に有り得る」
「面倒なことをして……!」
「面倒なこと、というのは仕方ないことだ。物事が簡単にすべて上手くいってしまったら意味がないだろう? だからこそ、それこそ楽しいんだよ。障害があればあるほど、燃える! それが男というものだ」
はあ、と深い溜息を吐いてクラリスはバルト・イルファを指さした。
「あなたはそう思っているかもしれないけれど、私は女ですから。あと、あなたが思っている以上に私だって強いのですよ?」
それを聞いて頭を掻くバルト・イルファ。
どうやらいつもこのようなやり取りをしているようだった。
バルト・イルファは少し頭をリフレッシュさせたのか、オリジナルフォーズを見つめたまま舌打ちをする。
「……このままだと何も解決策が浮かばない。だったら、もうここには用がない。きっと彼らが魔導書を回収してくれると思うのだが」
「彼ら、って……予言の勇者のこと?」
「それ以外に誰が居るというのだ。予言の勇者は、きっと、いや、確実に魔導書を手に入れるはずだ。そこからどうやってあの魔法を使わせるか……それが問題だ」
「詳しいねえ、バルト・イルファ。まるで、これから起きる出来事をすべて理解しているようだ」
確かに。
バルト・イルファの発言を先ほどから聞いているだけだと、すべてこれからのことを理解しているようにしか聞こえない。つまり、的を射た発言ばかりだということになる。
しかし、未来を予言することなど『祈祷師』以外に出来ることではない。
祈祷師の素質があるのは、この世界ではガラムドの血筋を持つ人間だけとなっている。そして、その血筋を持つ人間は厳正に管理されていて、バルト・イルファのような管理から零れた存在が出てくることは有り得ない。それこそ、祈祷師の中でも上位に立つ人間が故意にそのような行動をしなければ、の話になるが。
問題として提起すべき議題でないことはクラリスも重々理解しているのだが、しかし彼女の中でバルト・イルファの発言はどこか引っ掛かるものが多かった。
とはいえ、バルト・イルファの発言の真偽を確かめる術など無い。可能性だけを考慮するならば祈祷師に直接話を聞くことが残されているが、そもそも彼女の地位では祈祷師と謁見することは不可能に近い。それに対して、祈祷師に気に入られているバルト・イルファのほうが出会いやすい。
「……まあ、それについては一旦おいておきましょう。あなたの発言がほんとうであるか、それともただの出任せなのか、は」
「自己完結かい? 君らしくないなあ。まあ、僕の発言の真偽を確かめる術が見当たらなかったから、仕方なく受け入れた……というオチだろうけれど。どちらにせよ、僕の発言は本当だよ。僕が保証する。これは確証をもって行動しているのだから」
そうしてバルト・イルファは歩き始める。
クラリスもまた、ここでやることなど無いと結論付け、バルト・イルファの後を追った。
◇◇◇
「……ねえ、フル」
場所は変わり、バイタスの港に仮設された宿泊所にて。
フルの隣で眠っているルーシーは、彼に問いかけた。それは彼がまだ眠りについていないからだという予測と、周りの人間がすべて眠っているから二人きりで話をするなら今の内だと思ったからだ。
フルは背中を向けたまま、何も答えない。
もしかして眠ってしまったのかな――ルーシーはそう思って、布団に深く潜る。
「ごめんね、フル。もし眠っていたのならば、申し訳ない。これは僕のただの独り言だからさ。つまらなかったら聞いてもらわなくて構わない。けれど、これからのことに重要だと思うんだ。もし、起きているならば、話だけでも聞いてもらいたい」
そう長ったらしい前口上を終えて、ルーシーは話を続けた。
「メアリーはどうして攫われてしまったのだろうか? 僕はずっと気になっていたんだ。そうして、僕はずっと考えていた。どうしてメアリーが攫われないといけないのか。普通に考えてみると、予言の勇者と言われているフル、君が狙われるべきだろう? 戦力を削ぐという可能性もあったかもしれない。メアリーを攫うことでフルの動揺を狙ったため? ……いいや、どれもちょっと詰まるところがある。要するに、それが確たる理由ではないと思うんだ」
フルは起きていた。
そしてルーシーの話を聞いていた。
だからこそ、ルーシーの言葉から、彼なりの構想を考え直すことが出来た。確かにルーシーの言う通り、メアリーが狙われた理由がいまいちわからなかったのだ。
そうして、ルーシーは言葉を投げかける。
「フル。覚えているかい? ――メアリーは祈祷師の子供だ」
それを聞いて、彼は思い出す。
ラドーム学院での夜。彼女から語られた、フルを助けているその理由。その中で彼女はそう言っていた。自分は祈祷師の子供である、と。
「何で僕がそれを知っているのか、ってことに繋がるかもしれないけれど――実はあの時、僕も少しだけ聞こえていたんだ。だから、知っている。そして、メアリーが祈祷師の子供であるということを、あのバルト・イルファも知っていたならば――」
メアリーを攫ったことに、一応の理由として説明がつく。
フルはそう思って、心の中で頷いた。
ルーシーは大きく欠伸をして、さらに布団に潜っていく。
「……まあ、それがどこまで本当かは解らないけれどね。いずれにせよ、あのバルト・イルファがどこへ向かったかは定かではない。……けれど、僕たちは前に進まないといけない。それは君が予言の勇者だから。そして世界に危機が徐々に迫ってきている、その予兆があるから。……まあ、明日メアリーが泊まっていた部屋を見てみないと何も言えないけれどね」
おやすみ、フル。
そう彼は言って、以降ルーシーは何も言わなくなった。
フルもルーシーの言葉に従って、深い眠りへ落ちていった。
「可能性は充分に有り得る」
「面倒なことをして……!」
「面倒なこと、というのは仕方ないことだ。物事が簡単にすべて上手くいってしまったら意味がないだろう? だからこそ、それこそ楽しいんだよ。障害があればあるほど、燃える! それが男というものだ」
はあ、と深い溜息を吐いてクラリスはバルト・イルファを指さした。
「あなたはそう思っているかもしれないけれど、私は女ですから。あと、あなたが思っている以上に私だって強いのですよ?」
それを聞いて頭を掻くバルト・イルファ。
どうやらいつもこのようなやり取りをしているようだった。
バルト・イルファは少し頭をリフレッシュさせたのか、オリジナルフォーズを見つめたまま舌打ちをする。
「……このままだと何も解決策が浮かばない。だったら、もうここには用がない。きっと彼らが魔導書を回収してくれると思うのだが」
「彼ら、って……予言の勇者のこと?」
「それ以外に誰が居るというのだ。予言の勇者は、きっと、いや、確実に魔導書を手に入れるはずだ。そこからどうやってあの魔法を使わせるか……それが問題だ」
「詳しいねえ、バルト・イルファ。まるで、これから起きる出来事をすべて理解しているようだ」
確かに。
バルト・イルファの発言を先ほどから聞いているだけだと、すべてこれからのことを理解しているようにしか聞こえない。つまり、的を射た発言ばかりだということになる。
しかし、未来を予言することなど『祈祷師』以外に出来ることではない。
祈祷師の素質があるのは、この世界ではガラムドの血筋を持つ人間だけとなっている。そして、その血筋を持つ人間は厳正に管理されていて、バルト・イルファのような管理から零れた存在が出てくることは有り得ない。それこそ、祈祷師の中でも上位に立つ人間が故意にそのような行動をしなければ、の話になるが。
問題として提起すべき議題でないことはクラリスも重々理解しているのだが、しかし彼女の中でバルト・イルファの発言はどこか引っ掛かるものが多かった。
とはいえ、バルト・イルファの発言の真偽を確かめる術など無い。可能性だけを考慮するならば祈祷師に直接話を聞くことが残されているが、そもそも彼女の地位では祈祷師と謁見することは不可能に近い。それに対して、祈祷師に気に入られているバルト・イルファのほうが出会いやすい。
「……まあ、それについては一旦おいておきましょう。あなたの発言がほんとうであるか、それともただの出任せなのか、は」
「自己完結かい? 君らしくないなあ。まあ、僕の発言の真偽を確かめる術が見当たらなかったから、仕方なく受け入れた……というオチだろうけれど。どちらにせよ、僕の発言は本当だよ。僕が保証する。これは確証をもって行動しているのだから」
そうしてバルト・イルファは歩き始める。
クラリスもまた、ここでやることなど無いと結論付け、バルト・イルファの後を追った。
◇◇◇
「……ねえ、フル」
場所は変わり、バイタスの港に仮設された宿泊所にて。
フルの隣で眠っているルーシーは、彼に問いかけた。それは彼がまだ眠りについていないからだという予測と、周りの人間がすべて眠っているから二人きりで話をするなら今の内だと思ったからだ。
フルは背中を向けたまま、何も答えない。
もしかして眠ってしまったのかな――ルーシーはそう思って、布団に深く潜る。
「ごめんね、フル。もし眠っていたのならば、申し訳ない。これは僕のただの独り言だからさ。つまらなかったら聞いてもらわなくて構わない。けれど、これからのことに重要だと思うんだ。もし、起きているならば、話だけでも聞いてもらいたい」
そう長ったらしい前口上を終えて、ルーシーは話を続けた。
「メアリーはどうして攫われてしまったのだろうか? 僕はずっと気になっていたんだ。そうして、僕はずっと考えていた。どうしてメアリーが攫われないといけないのか。普通に考えてみると、予言の勇者と言われているフル、君が狙われるべきだろう? 戦力を削ぐという可能性もあったかもしれない。メアリーを攫うことでフルの動揺を狙ったため? ……いいや、どれもちょっと詰まるところがある。要するに、それが確たる理由ではないと思うんだ」
フルは起きていた。
そしてルーシーの話を聞いていた。
だからこそ、ルーシーの言葉から、彼なりの構想を考え直すことが出来た。確かにルーシーの言う通り、メアリーが狙われた理由がいまいちわからなかったのだ。
そうして、ルーシーは言葉を投げかける。
「フル。覚えているかい? ――メアリーは祈祷師の子供だ」
それを聞いて、彼は思い出す。
ラドーム学院での夜。彼女から語られた、フルを助けているその理由。その中で彼女はそう言っていた。自分は祈祷師の子供である、と。
「何で僕がそれを知っているのか、ってことに繋がるかもしれないけれど――実はあの時、僕も少しだけ聞こえていたんだ。だから、知っている。そして、メアリーが祈祷師の子供であるということを、あのバルト・イルファも知っていたならば――」
メアリーを攫ったことに、一応の理由として説明がつく。
フルはそう思って、心の中で頷いた。
ルーシーは大きく欠伸をして、さらに布団に潜っていく。
「……まあ、それがどこまで本当かは解らないけれどね。いずれにせよ、あのバルト・イルファがどこへ向かったかは定かではない。……けれど、僕たちは前に進まないといけない。それは君が予言の勇者だから。そして世界に危機が徐々に迫ってきている、その予兆があるから。……まあ、明日メアリーが泊まっていた部屋を見てみないと何も言えないけれどね」
おやすみ、フル。
そう彼は言って、以降ルーシーは何も言わなくなった。
フルもルーシーの言葉に従って、深い眠りへ落ちていった。
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