異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第二十一話 妖精の村⑥
ミシェラは復讐がしたいと言った。
けれど、その発言は出来る限り通したくない発言だった。
復讐は復讐しか生み出さない。それはどこかの誰かが言っていたような気がした。その発言通りであるならば、ミシェラが復讐をすることを止めたほうがいいと思ったからだ。
けれど、それをそのまま伝えても逆上されるだけだろうし、彼女が諦めてくれるとは思えない。僕たちじゃなくても別の旅人を捕まえてでも、最悪一人でも復讐の旅に向かうはずだ。
けれども、それを言える立場は僕にはない。
僕はこの世界にきてまだ日が浅い。そんな僕が、彼女に『復讐なんてやめたほうがいい』なんて言っても問題ないのだろうか? きっと、受け入れてもらえるはずがない。
「……まあ、これを言ってもきっと君には関係ないと言われるかもしれないけれどね。でも、もし受け入れてくれるのならば、私も旅の仲間に入れてほしい」
僕は彼女の強い眼差しに、ただ頷くしか無かった。
彼女の意志はとても強いものだった。
だから、僕が断ったとしても、きっと彼女は一人で旅に出る。
そうしたとき、仮に――モンスターの攻撃で死んでしまったら、それこそ後味が悪い。
だから僕は、その言葉に頷いた。
それは話を聞いてしまった責任かもしれないけれど、きっとメアリーたちはそう言ったとしても信用してくれないだろうなあ。『お人よし』の一言で済ませてしまうかもしれない。まあ、それで済ませてくれるのであれば、とっても嬉しい話ではあるけれど。
◇◇◇
「それでミシェラという子の話を受け入れたわけ? お人よしよ、フル。さすがにそれはどうかと思うわ」
帰ってきて、次の日の朝。メアリーは想像通りの言葉を口にした。
予想していた通りと言えばその通りではあるのだけれど、いざ言われると申し訳ない気分になる。いや、昨日の時点ではしっかり彼女の話を伝えて、メンバーに入れたいという意向をはっきりと伝えるつもりだったのだけれど、どうもメアリーと話すとうまく自分の意見が反映されないことが多々ある。それはメアリーがうまくメンバーのかじ取りをしているということでもあるのだけれど。
ルーシーは頭を掻いて、メアリーの後に続ける。
「あのな、フル? 君がどういう考えをもって行動しているのか、あんまり考えたことは無いけれどさ、だとしてもこれはどうかと思うぜ? メンバーを入れること、まあそれについては百歩譲って認めるとしても、それをせめてこちらに一回話をしてくれることくらい考えてもらっても良かったんじゃないか?」
「それは……確かに申し訳ないと思っている」
「まあ、いいわ」
メアリーは深い溜息を吐いて、僕のほうを改めて見つめてきた。
「フルが決めたんだもの。そして今はフルがリーダー。私たちのメンバーは、トライヤムチェン族の集落へ向かった時からずっと変わらないと思っていたけれど……、それでも、フルが認めたのならば、私たちも認めましょう」
一蓮托生、という言葉がある。
確か、善悪に限らず仲間として行動や運命を共にする――そんな意味だったと思う。
メアリーの世界にそんな言葉があるとは思えないけれど、それは即ち、一蓮托生ということなのだろう。
ルーシーもメアリーの反応を見て、頷く。
「メアリーが良いというならば、僕も構わないよ。それに、回復魔法を使うことが出来るのだろう? だったら、今後の旅に打って付けじゃないか。まあ、そんな危険な旅になるかどうかは未だ解らないけれどね」
「メアリー、ルーシー、有難う……」
僕は、無茶なことを認めてくれたメアリーとルーシーに頭を下げた。
仲間という言葉がとても嬉しかった。
仲間という言葉がとても有難かった。
「……ところで、エルファスの町長に頼まれた件、忘れていないでしょうね?」
「それももう決定しているよ。頼まれたからには、行動するしかない。僕はそう思っている」
「つまり、やるってことね……。まあ、そういうと思っていたわ、フルのことだから」
「確かに、メアリーの言った通りのことになったね。まあ、それはそれで全然構わないけれど」
頷いて、ルーシーも僕のほうを見た。
それに答えるように、僕も――はっきりと頷いた。
そうして、僕たちは了承した。
ただし、一つの条件を付加して。
「……ミシェラも連れていく、ということですか?」
その条件に一番反応したのは紛れもない、カーラだった。
その言葉に僕は頷く。少し遅れてミシェラも頷いた。
「ミシェラ。確かカーラの妹だったか。何故、そのようなことを望むのか、私に聞かせてくれないか?」
町長の言葉を聞いて、彼女は小さく頷いた。
そしてミシェラは、昨晩僕に言ったことを、そのまま告げた。さすがに一言一句一緒とまでは行かなかったけれど、彼女は、彼女の言葉でそのことを告げた。
ミシェラの言葉を聞いたのち、町長は頷く。
「……そうか。君はずっとそういう思いを抱いていたのだな。済まなかったな、気付けなくて。まったく、大人として恥ずかしいよ。こんなことにも気付けなかったのだから」
「町長。そのようなことは……」
「カーラ、君にはこの四人のサポートをしてもらいたい」
町長は踵を返し、カーラにそう言った。
「私が……ですか?」
「不服かね?」
町長の言葉に、首を横に振るカーラ。
「いえ、そのようなことはございません」
「ならば問題なかろう。生憎、場所は解らない。しかしカーラ、君なら道案内が出来るはずだ。本来であるならば、私が出向きたいところではあるのだが、私は町長だ。この町を離れるわけにはいかない」
けれど、その発言は出来る限り通したくない発言だった。
復讐は復讐しか生み出さない。それはどこかの誰かが言っていたような気がした。その発言通りであるならば、ミシェラが復讐をすることを止めたほうがいいと思ったからだ。
けれど、それをそのまま伝えても逆上されるだけだろうし、彼女が諦めてくれるとは思えない。僕たちじゃなくても別の旅人を捕まえてでも、最悪一人でも復讐の旅に向かうはずだ。
けれども、それを言える立場は僕にはない。
僕はこの世界にきてまだ日が浅い。そんな僕が、彼女に『復讐なんてやめたほうがいい』なんて言っても問題ないのだろうか? きっと、受け入れてもらえるはずがない。
「……まあ、これを言ってもきっと君には関係ないと言われるかもしれないけれどね。でも、もし受け入れてくれるのならば、私も旅の仲間に入れてほしい」
僕は彼女の強い眼差しに、ただ頷くしか無かった。
彼女の意志はとても強いものだった。
だから、僕が断ったとしても、きっと彼女は一人で旅に出る。
そうしたとき、仮に――モンスターの攻撃で死んでしまったら、それこそ後味が悪い。
だから僕は、その言葉に頷いた。
それは話を聞いてしまった責任かもしれないけれど、きっとメアリーたちはそう言ったとしても信用してくれないだろうなあ。『お人よし』の一言で済ませてしまうかもしれない。まあ、それで済ませてくれるのであれば、とっても嬉しい話ではあるけれど。
◇◇◇
「それでミシェラという子の話を受け入れたわけ? お人よしよ、フル。さすがにそれはどうかと思うわ」
帰ってきて、次の日の朝。メアリーは想像通りの言葉を口にした。
予想していた通りと言えばその通りではあるのだけれど、いざ言われると申し訳ない気分になる。いや、昨日の時点ではしっかり彼女の話を伝えて、メンバーに入れたいという意向をはっきりと伝えるつもりだったのだけれど、どうもメアリーと話すとうまく自分の意見が反映されないことが多々ある。それはメアリーがうまくメンバーのかじ取りをしているということでもあるのだけれど。
ルーシーは頭を掻いて、メアリーの後に続ける。
「あのな、フル? 君がどういう考えをもって行動しているのか、あんまり考えたことは無いけれどさ、だとしてもこれはどうかと思うぜ? メンバーを入れること、まあそれについては百歩譲って認めるとしても、それをせめてこちらに一回話をしてくれることくらい考えてもらっても良かったんじゃないか?」
「それは……確かに申し訳ないと思っている」
「まあ、いいわ」
メアリーは深い溜息を吐いて、僕のほうを改めて見つめてきた。
「フルが決めたんだもの。そして今はフルがリーダー。私たちのメンバーは、トライヤムチェン族の集落へ向かった時からずっと変わらないと思っていたけれど……、それでも、フルが認めたのならば、私たちも認めましょう」
一蓮托生、という言葉がある。
確か、善悪に限らず仲間として行動や運命を共にする――そんな意味だったと思う。
メアリーの世界にそんな言葉があるとは思えないけれど、それは即ち、一蓮托生ということなのだろう。
ルーシーもメアリーの反応を見て、頷く。
「メアリーが良いというならば、僕も構わないよ。それに、回復魔法を使うことが出来るのだろう? だったら、今後の旅に打って付けじゃないか。まあ、そんな危険な旅になるかどうかは未だ解らないけれどね」
「メアリー、ルーシー、有難う……」
僕は、無茶なことを認めてくれたメアリーとルーシーに頭を下げた。
仲間という言葉がとても嬉しかった。
仲間という言葉がとても有難かった。
「……ところで、エルファスの町長に頼まれた件、忘れていないでしょうね?」
「それももう決定しているよ。頼まれたからには、行動するしかない。僕はそう思っている」
「つまり、やるってことね……。まあ、そういうと思っていたわ、フルのことだから」
「確かに、メアリーの言った通りのことになったね。まあ、それはそれで全然構わないけれど」
頷いて、ルーシーも僕のほうを見た。
それに答えるように、僕も――はっきりと頷いた。
そうして、僕たちは了承した。
ただし、一つの条件を付加して。
「……ミシェラも連れていく、ということですか?」
その条件に一番反応したのは紛れもない、カーラだった。
その言葉に僕は頷く。少し遅れてミシェラも頷いた。
「ミシェラ。確かカーラの妹だったか。何故、そのようなことを望むのか、私に聞かせてくれないか?」
町長の言葉を聞いて、彼女は小さく頷いた。
そしてミシェラは、昨晩僕に言ったことを、そのまま告げた。さすがに一言一句一緒とまでは行かなかったけれど、彼女は、彼女の言葉でそのことを告げた。
ミシェラの言葉を聞いたのち、町長は頷く。
「……そうか。君はずっとそういう思いを抱いていたのだな。済まなかったな、気付けなくて。まったく、大人として恥ずかしいよ。こんなことにも気付けなかったのだから」
「町長。そのようなことは……」
「カーラ、君にはこの四人のサポートをしてもらいたい」
町長は踵を返し、カーラにそう言った。
「私が……ですか?」
「不服かね?」
町長の言葉に、首を横に振るカーラ。
「いえ、そのようなことはございません」
「ならば問題なかろう。生憎、場所は解らない。しかしカーラ、君なら道案内が出来るはずだ。本来であるならば、私が出向きたいところではあるのだが、私は町長だ。この町を離れるわけにはいかない」
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