異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第四話 三人旅と上級生①
それから数日が経過した。
どうやら僕が最初に目を覚ました場所は寮だったようで――しかも一人部屋だった。
はっきり言ってそれはとても有難いことだった。もしペアが居たとすれば会話に困っていたからだ。だってすぐに考えてみれば帰結することになるのだが、話すことのできない人間がペアに居れば部屋にいる間の時間がとても長く感じるはずだし、とても辛かったはずだ。
そして僕もなんとなくこの世界の言語を理解できるようになってきた。
その日の授業にて、先生――サリー先生が、こんなことを言ってきた。
「今日からフィールドワークを実施します。三人で一グループとなり、上級生を一人つける形になります。だから、合計四名で旅をするということになるかしらね」
それを聞いて学生たちは騒然とし始める。
まあ、当然のことといえば、当然かもしれない。これが仮に予告されているものならばよかったのだが、前日にすら予告が無かった。きっと先生からしてみればサプライズの一面もあったのかもしれないが、だとしても少々悪質なところがあるのも否めなかった。
「静かにしなさい。別に、フィールドワークといってもこの島――レキギ島から出ることはありません。だから安心してください。あなたたちに危険が及ばないように、配慮はしています。だから、落ち着いて」
そういわれても納得できないものもある。
「それじゃあ、班を決めましょうか。班はくじで決めるわ。同じ数字のくじの人とメンバーを組んでね」
「ええー!?」
再びブーイングの嵐が起こる。思えばもともとの僕の世界でも、仲の良いメンバーと組みたがる性質があった。そういう性質はどこの世界でも変わらないのかもしれない。
「静かにしなさい! いいから並んで、くじを引いて」
そう言ってサリー先生は予め用意していたと思われる箱を取り出した。
その箱を見て、もう学生たちは仕方がないと思ったのだろう。教壇にぞろぞろと向かっていく。それを見てメアリーも諦めたようで、小さく溜息を吐いて、そちらへと向かっていった。
くじを引いた結果、僕とメアリーは同じ番号だった。それは充分有難いことだった。別に、メアリーから教えてもらったから言葉が話せないというわけではない。問題は、誰も知らない空間において、顔も見たことのない人間三人と旅をするのは正直言って苦痛だった。
もともと人見知りがあるとはいえ、そうであったとしても知っている人と、できればコンビを組みたかった。
「……フル、よかったね、一緒で」
それを聞いてこくりと頷く僕。確かにその通りだった。メアリーは優秀だと自負しているしその通りだと思っている。だからこそ、同じメンバーにメアリーが居るというのはとても心強い。
さて、覚えているだろうか。
メンバーは二人ではなく、三人であるということを。
「……3番はここかい?」
それを聞いて、僕は振り返る。
そこに立っていたのは、やはり黒髪の少年だった。あどけなさが残る顔つき、柔和な笑みを浮かべていた彼は、訊ねる。
「なあ、聞かせてくれないか? 3番はここで間違いないか?」
それを聞いて、僕は――一瞬考えて、頷く。
「ああ、ここが3番だ。ちなみに彼女も同じく3番だよ」
「彼女……」
彼はメアリーのほうを一瞥して、頷く。
「よろしく頼むよ、僕の名前はルーシー。ルーシー・アドバリーだ」
そう、彼――ルーシーは僕とメアリーのほうを見て言った。
「さて、挨拶も軽く済ませたところで……次は行き先を選定するわよ! もちろん、こちらもくじで決定します」
サリー先生の言葉を聞いて、再び学生からはブーイングの嵐が起こる。
行く場所くらい自分で決めさせてくれ――とかそんなことを思っているのかもしれないが、僕から言わせてみればすべてが『異世界』で『行ったことのない場所』になるので、別にどこでもいいところだった。
「静かにしなさい!」
再び、サリー先生は場を鎮めるために大声を出した。
しん、と静まり返る教室。
サリー先生は息を吸って、話を続けた。
「いい? くじは偶然で決まるのよ、偶然は運命、そして運命は必然。運命はあなたたちがすべきことを教えてくれる……それは授業でも教えたでしょう? だから、くじが一番いいことなのよ」
そう言われて、学生たちは再び箱のほうへ向かう。
なんというか、ここの学生はどこか理解が早い。そういう印象がある。
「さあ、くじを引いてちょうだい。あ、一応言っておくけれど、さきほどのくじで番号に丸がついている人がリーダーになるから、よろしくね!」
そう聞いてそれぞれが先ほどのカードを見つめる。
メアリーとルーシーは丸がついていないようだった。ということは……。
……想像通り、僕のカードの番号には丸がついていた。
それを二人に見せて、
「どうやら、僕がリーダーのようだ」
そう言った。
メアリーとルーシーは何も言わなかったが、僕の言葉を聞いて強く頷いた。
くじを引いた結果、またもや3番だった。どうやら3の数字に愛されているようだ。
……そんな冗談を言えるようになったということは、どうやら僕もこの世界に馴染んできたのかもしれない。
「行き先はここに記してあるので、それを見てちょうだい」
そう言って、サリー先生は黒板に張り出してある地図を指さした。いったいいつの間にそんなものを張り出したのか解らなかったが、今は質問する必要も無いだろう。別に必要なことでもないし。
地図を見に行くために、僕はそちらへと向かう。僕が地図を見ていると、その背後にメアリーとルーシーもやってきた。
「番号は何番だい?」
ルーシーの問いに、僕はカードを見せつけることで答えた。
「3番……ええと、これかな。トライヤムチェン族の集落……」
「トライヤムチェン族といえば先住民族ね。確か世界がいつに滅ぶとか言っていたような……」
「今年だよ。ガラムド暦二〇一五年。今年のどこかに災厄が起きて、世界が滅ぶってこと。まあ、彼らの祖先がカレンダーをそこまでしか作っていなかったから、というのが理由らしいけれど、普通に考えると、二千年以上昔に、二千年分のカレンダーを作るだけでも大変だというのに、きっとそのあたりで飽きたからだと思うのだけれどね。意外と真実って、つまらないものだというのが相場だし」
よく解らないけれど、先住民族か。
何を見に行くのか解らないけれど、取り敢えずこのメンバーならば何とかやっていけそうだ。僕はなんとなく、そんなことを思うのだった。
どうやら僕が最初に目を覚ました場所は寮だったようで――しかも一人部屋だった。
はっきり言ってそれはとても有難いことだった。もしペアが居たとすれば会話に困っていたからだ。だってすぐに考えてみれば帰結することになるのだが、話すことのできない人間がペアに居れば部屋にいる間の時間がとても長く感じるはずだし、とても辛かったはずだ。
そして僕もなんとなくこの世界の言語を理解できるようになってきた。
その日の授業にて、先生――サリー先生が、こんなことを言ってきた。
「今日からフィールドワークを実施します。三人で一グループとなり、上級生を一人つける形になります。だから、合計四名で旅をするということになるかしらね」
それを聞いて学生たちは騒然とし始める。
まあ、当然のことといえば、当然かもしれない。これが仮に予告されているものならばよかったのだが、前日にすら予告が無かった。きっと先生からしてみればサプライズの一面もあったのかもしれないが、だとしても少々悪質なところがあるのも否めなかった。
「静かにしなさい。別に、フィールドワークといってもこの島――レキギ島から出ることはありません。だから安心してください。あなたたちに危険が及ばないように、配慮はしています。だから、落ち着いて」
そういわれても納得できないものもある。
「それじゃあ、班を決めましょうか。班はくじで決めるわ。同じ数字のくじの人とメンバーを組んでね」
「ええー!?」
再びブーイングの嵐が起こる。思えばもともとの僕の世界でも、仲の良いメンバーと組みたがる性質があった。そういう性質はどこの世界でも変わらないのかもしれない。
「静かにしなさい! いいから並んで、くじを引いて」
そう言ってサリー先生は予め用意していたと思われる箱を取り出した。
その箱を見て、もう学生たちは仕方がないと思ったのだろう。教壇にぞろぞろと向かっていく。それを見てメアリーも諦めたようで、小さく溜息を吐いて、そちらへと向かっていった。
くじを引いた結果、僕とメアリーは同じ番号だった。それは充分有難いことだった。別に、メアリーから教えてもらったから言葉が話せないというわけではない。問題は、誰も知らない空間において、顔も見たことのない人間三人と旅をするのは正直言って苦痛だった。
もともと人見知りがあるとはいえ、そうであったとしても知っている人と、できればコンビを組みたかった。
「……フル、よかったね、一緒で」
それを聞いてこくりと頷く僕。確かにその通りだった。メアリーは優秀だと自負しているしその通りだと思っている。だからこそ、同じメンバーにメアリーが居るというのはとても心強い。
さて、覚えているだろうか。
メンバーは二人ではなく、三人であるということを。
「……3番はここかい?」
それを聞いて、僕は振り返る。
そこに立っていたのは、やはり黒髪の少年だった。あどけなさが残る顔つき、柔和な笑みを浮かべていた彼は、訊ねる。
「なあ、聞かせてくれないか? 3番はここで間違いないか?」
それを聞いて、僕は――一瞬考えて、頷く。
「ああ、ここが3番だ。ちなみに彼女も同じく3番だよ」
「彼女……」
彼はメアリーのほうを一瞥して、頷く。
「よろしく頼むよ、僕の名前はルーシー。ルーシー・アドバリーだ」
そう、彼――ルーシーは僕とメアリーのほうを見て言った。
「さて、挨拶も軽く済ませたところで……次は行き先を選定するわよ! もちろん、こちらもくじで決定します」
サリー先生の言葉を聞いて、再び学生からはブーイングの嵐が起こる。
行く場所くらい自分で決めさせてくれ――とかそんなことを思っているのかもしれないが、僕から言わせてみればすべてが『異世界』で『行ったことのない場所』になるので、別にどこでもいいところだった。
「静かにしなさい!」
再び、サリー先生は場を鎮めるために大声を出した。
しん、と静まり返る教室。
サリー先生は息を吸って、話を続けた。
「いい? くじは偶然で決まるのよ、偶然は運命、そして運命は必然。運命はあなたたちがすべきことを教えてくれる……それは授業でも教えたでしょう? だから、くじが一番いいことなのよ」
そう言われて、学生たちは再び箱のほうへ向かう。
なんというか、ここの学生はどこか理解が早い。そういう印象がある。
「さあ、くじを引いてちょうだい。あ、一応言っておくけれど、さきほどのくじで番号に丸がついている人がリーダーになるから、よろしくね!」
そう聞いてそれぞれが先ほどのカードを見つめる。
メアリーとルーシーは丸がついていないようだった。ということは……。
……想像通り、僕のカードの番号には丸がついていた。
それを二人に見せて、
「どうやら、僕がリーダーのようだ」
そう言った。
メアリーとルーシーは何も言わなかったが、僕の言葉を聞いて強く頷いた。
くじを引いた結果、またもや3番だった。どうやら3の数字に愛されているようだ。
……そんな冗談を言えるようになったということは、どうやら僕もこの世界に馴染んできたのかもしれない。
「行き先はここに記してあるので、それを見てちょうだい」
そう言って、サリー先生は黒板に張り出してある地図を指さした。いったいいつの間にそんなものを張り出したのか解らなかったが、今は質問する必要も無いだろう。別に必要なことでもないし。
地図を見に行くために、僕はそちらへと向かう。僕が地図を見ていると、その背後にメアリーとルーシーもやってきた。
「番号は何番だい?」
ルーシーの問いに、僕はカードを見せつけることで答えた。
「3番……ええと、これかな。トライヤムチェン族の集落……」
「トライヤムチェン族といえば先住民族ね。確か世界がいつに滅ぶとか言っていたような……」
「今年だよ。ガラムド暦二〇一五年。今年のどこかに災厄が起きて、世界が滅ぶってこと。まあ、彼らの祖先がカレンダーをそこまでしか作っていなかったから、というのが理由らしいけれど、普通に考えると、二千年以上昔に、二千年分のカレンダーを作るだけでも大変だというのに、きっとそのあたりで飽きたからだと思うのだけれどね。意外と真実って、つまらないものだというのが相場だし」
よく解らないけれど、先住民族か。
何を見に行くのか解らないけれど、取り敢えずこのメンバーならば何とかやっていけそうだ。僕はなんとなく、そんなことを思うのだった。
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