人形の彼女と紡ぎ手の僕

識詠 碧月

第1章 第五話〈初めまして、異世界〉

目を覚ますと、綺麗な青空が見えた…
手を掲げて握ったり開いたりして、ちゃんと動くこと確認する

「生きてる…本当に生きてるんだ…トラックに轢かれたのが嘘みたい…」

体が無事なのも確認したし、状況を確認しようと体を起こして辺りを見渡す…が
見渡す限りの緑で舗装された道どころか、獣道すら見当たらない…

「これ…どうすれば良いのかな…≪適当に歩いたら村に着く≫とか無いよね…まぁそう言っても、そうするしかないよね…」

自ら言った通りに、あても無く森に入って行くと思ったより森は深くなかったのか、十分と掛からずに村のような場所に辿り着くことが出来た。

「思ったより簡単に見つかったなぁ…全然見つからなくて、何日も森を彷徨うことにならなくて良かった…」

僕が胸を撫で下ろすと、村の方から1人の男の人が歩いてくるのが見える。
鎧とかは着てないけど…腰に剣見たいなのを下げてる!しかも今にも抜きそうになってるし!!
もしかして、怪しまれてる!?どうしよう!説明したほうがいいよね!?あっでも言葉通じないかも…なら頭下げたりすれば分かってもらえるかな!?
僕が慌てていると、男の人は目の前まで来ていて

「少年、何しにこの村に来た?どこから来て何をしに来たのか言えなければ、悪いが村に入れる事は出来ない」

日本語だった!
「あっ、えっと…実は気が付いたらそこの森で目を覚まして…どうすれば良いのか分からないまま歩いてたらここに着いたって言うか…」
「何だ?もしかして記憶が無いのか?…見たところ大した装備もしてないみたいだし…少なくとも魔物の類じゃなさそうだな…」
男の人は僕を見定める様にじっと見つめると…急に破顔して、頭をがしがしと撫で始めた!
「そうか!そりゃ大変だったな!困った時はお互いさまだ、記憶が戻るまで家に泊まって行きな!」
「えっ!えっ!?」と混乱している僕の腕を男の人は掴んで村へと引きずって行った…
連れてこられたのは村の中の1軒の家だった。

男の人は「帰ったぞー!」と言いながら家に入ると僕を近くの椅子に座らせて、自分は隣に座った。
直ぐに奥の部屋から女の人が出てきて僕を見て驚いて固まる…

「カーリア、今日から家に住むことになった…あ、名前聞いてなかったな?」
「えっと…優月 綴です」
「ユウヅキ ツヅリ?珍しい名前だな…まぁそれはともかくツヅリって言うらしい!少しの間家に置いてやってくれ!」

凄い勢いで話して手を合わせる男の人を見た女の人は、溜息を付きながら向かいの椅子に座った

「さっき聞いたと思うけれど、カーリアよ。この人の事だから、何の説明も無しに連れてこられたんでしょう?驚かせちゃってごめんなさいね」

カーリアさんの話しぶりからすると、この人は普段からこうなんだろうなぁ…悪い人じゃないみたい…

「…いえ、これからどうすればいいか分からなかったので、助かりました。えっと…」

そう言えばこの人の名前聞いてなかったな、と思って顔を見ると、男の人はまたニカッと笑って自己紹介をしてくれた

「おっと、そういやまだ名乗って無かったな俺はジハードって名前でな、一応この村を守る≪衛士≫をやってる。さっきは疑って悪かったな、仕事柄一応ああいう対応しなきゃならないんだ」
「衛士…もしかして盗賊とかが出るんですか…?」
「いいえ、この辺りには盗賊や山賊は来ないのよ。大して盗る物もないからね」
「どっちかってーと、獣や魔獣だな。坊主が出てきた森は〈迷い森〉って言ってな、あそこは何故か魔物が集まりやすくてな、それで警戒してたんだ。まぁ、坊主が話を出来た時点でその心配は無くなったがな」

なるほど…魔物?が化けてる可能性もあったから剣を構えてたんだ。魔物は人の言葉を話せないんだね。

「ところでツヅリ…君?あの森から来たの?何であんな所に居たのかしら?というか、良くあの森から出てこられたわね…?」

あ、忘れてたけど、どうやって説明すればいいんだろう…別の世界から転生してきましたなんて言っても信じてくれないだろうし…
そうだ、ジルバさんもそう思ってるみたいだし、記憶喪失ってことにしよう。

「気が付いたらあの森に居て…村とかに辿り着きたいなって思いながら歩いたら、村に着いたんです」

僕がそう説明すると、二人は顔を見合わせて驚いたような顔をした。

「坊主…今、何て言った…?」
「聞き間違いじゃなければ…村に行きたいって思ったらって言ったわね…?」
「え?確かにそう言いましたけど…何か変な事でもありましたか?」

次の瞬間、ジハードさんが腹を抱えて笑いだした。

「坊主はもしかしたら凄い奴かもしれないな!あの森を《抜けたいと思った》だけで出てきちまうとはな!」

あっけに取られている僕を見て、カーリアさんが苦笑いしながら教えてくれる

「さっきも言ったけど、あそこは〈迷い森〉って呼ばれてて足を踏み入れたが最後、腕利きの魔術師が居なければ二度と出てこられないって言われてるのよ」

あの森…そんなに危ない所だったんだ、偶然とは言え出てこれて良かった…
ひとしきり笑い終えたのか、やっと笑いが収まったジハードさんがまた僕の腕を引っ張って立たせる

「さぁ!そろそろ日が暮れちまうし、行くか!」
「行くって何処にですか!?」
「決まってるだろ?〈ご近所さんへの挨拶〉だよ!」

そうして僕の異世界1日目はご近所さん達に挨拶をして回る事に決まった…

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