人形の彼女と紡ぎ手の僕

識詠 碧月

第1章 第四話〈もしも、運命を変えられるとしたら〉

 真っ暗で、いくら目を凝らしても何も見えない世界。
 別に死後の世界を信じていたわけじゃないけれど、もっとこう…常に太陽が登っていて、お茶を啜りながら日向ぼっことかするんだと思っていただけに、がっかりした。

「お茶に日向ぼっことは…君、意外に年寄り何だね?」

 考えていた事を読まれた上に、脳に直接響くその声に思わず体が固まる。
「そんなに驚かなくても良いだろう?どれだけ目を凝らしても私は見えないよ、姿を持たないからね」
 姿を持たないって何?声は子供っぽいけど…頭が現状を理解しようとしてフル回転する、もっとも死んでいるんだから脳も何も無いけれど。

「色々聞きたい事があるみたいだね、でもあまり時間が無いから手短に済ませるよ」
 未だに思考が追い付いていない僕を無視して、その気配は語り出す。
「まず、ここは正確には魂の通り道、本来は器から離れた魂が次の器に乗り移る為にあるんだ」
 転生用のトンネル…みたいなものなのかな?

「その認識で大体あってるよ、そしてここからが大事だからちゃんと聞いてね。
 君の暮らしていた世界で、不可解な出来事が頻発してるんだ」
 不可解…?事件や事故とかならよく聞くけれど…大体は犯人や原因もわかっているし…

「これはあまり言っちゃいけない事なんだけど、君たちの周りで起こるすべての事象はあらかじめ決まっているんだよ。人の生死から石ころ一つの配置まで…勿論、事件や事故も例外じゃない」
 あぁ、そういう事を言う宗教も聞いたことあるなぁ…もしそうなら僕が四季の変わりにトラックに轢かれたのも決まっていたのかな。
「それ、それがさっき言った不可解な出来事なんだよ。本当ならあの時に君が死ぬ事は無かった、彼女が死ぬ事もね」

 …はい?本当は死ななかった?なら僕が実際にトラックに轢かれてこの有様なのは何で?

「あの時、彼女…萩野 四季が渡るはずの信号器は青だった。そして君が彼女を助けて変わりに轢かれた筈のトラックは≪存在しなかった≫君も違和感を感じただろう?あれほど見通しの良い道で運転手が彼女見て止まるどころか、速度を上げる事なんてそれこそ狙わないとあり得ない。」
 トラックの運転手は萩野をもともと轢くつもりだった…?でも存在しなかったっていうのは…?

「混乱してるようだね、答えは単純な物だよ。≪運転手なんて居なかった≫これが正解。トラックは完全な無人だった、そして目撃者の思い込みで居もしない犯人が創り出されて、事件は迷宮入り。そういうことなんだよ」
 トラックが無人で走る?そんなことある訳が無い。そう考えた僕はこの気配の言ったある単語を思い出した。

≪不可解な出来事≫

「察しが良い子は好きだよ?結論はそういう事、君はその出来事に巻き込まれて、そして死んだ。実に単純明快だね。」
 死ななくて良いはずなのに死んだ…そう聞かされた瞬間、色々な未練が湧いてきた…そしてほんの少しばかりの怒りの感情も。

「君の未練や怒りも分かるよ…止める事の出来なかった私にも責任がある、そしてこんな頼み事をするのも心苦しい。それでも、それを承知で君にお願いしなくちゃならない…」
 少しだけ、その気配が悲しい顔をした…気がする。
 …頼み事ってどんな事。

「この異変を解決して欲しい、勿論お礼はするし、私に出来る最大限の補助もする。だからどうか…これ以上無垢な魂を散らせない為に、協力してくれないかな…」

『うん、いいよ。』

 僕は2つ返事で返していた。どうやって声を出したのかもわからない。
 僕だけなら構わない、でもそれに萩野や家族達が巻き込まれるのは許せない、認めない。

「…ありがとう。君はやっぱり強いんだね…」

 僕は強くなんてないよ、誰よりも弱い。それでもお世話になった皆に恩返しができるなら、出来る限りしたいんだ。

「そっか…そろそろ時間だ、余りここに留まっていると魂が変質しちゃうからね。」
 !?何かすごく怖い事を言われた!

「あはは、大丈夫だよ、まだ少し時間は残ってるから。ちゃんと聞いてね?」
 記憶力には自信が…多分大丈夫なはず…
「まず、君は異変に巻き込まれたことにより、ある力を発現しているんだ。使い方は君自身が覚えているから、何となく使えると思う。

 君の趣味や特技が元になっているから、使いこなせないなんて事も無い。
 でも、君の魂に負荷が掛かるから、むやみに使うと…まぁ、注意してね。
 そして、一番大事な異変について。
 幻世の事象が干渉して異変を起こすから、必然と現世と似たような事象を探すことになる。
 大体は噂や伝承として人々が語り継いでる事が多いから、人の話に耳を傾けることをお勧めするよ。」

 怒涛の説明ラッシュだった…何とか覚えてられるけど、早めにメモするなりしないと忘れそう…
「っとと、もう時間みたい…君には苦労掛けるけど、何かあれば助けるからね…」

 だんだんと声が遠のいていく…
 僕は少しだけワクワクしながら、眠るように意識を手放した…
  

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