アリアドネの糸により迷宮を抜けた者たち。

ノベルバユーザー173744

その2、意外な出生に、周囲は唖然としています。

「はぁ‼圭吾けいごさんって、月英げつえいの従兄?」
「あぁ、兄さんはいい人なんだが、叔父叔母がな……」

りょうは、月英に新しい公式衣装の寸法を測られている。

「……おい、亮。また時間忘れてレッスンだの、生徒の指導に、圭吾兄さんが脱走したから代わりに授業とかして、食事とってないんだな?」
「そ、それはないよ?」
「視線そらすな‼役にのめり込んだら、お前は本当に亮か!?と思うほどなりきるのに」

身長差があるため、背中を殴る。

「またウエストが痩せた‼馬鹿が‼」
「い、いや太るよりも、いいと思うんだ‼うん‼」
「アホか‼お前はオペラ歌手だろう‼ある程度の体でないと、演技で女性歌手を抱き上げたり……」
「まぁ、大丈夫だよ?その点は。家の兄姉弟担げるし」
「そういうんじゃねぇ‼威厳も迫力もつかねぇじゃないか‼」

月英は怒るが、意味がある。
母の瑠璃るりは、モデルの仕事をしつつオペラ歌手を続けてきたが、変声後そのまま引退に近い状態で過ごしていた亮である。
元々基礎的なことはずっと続けてきたものの、他の勉強をしていて現役復帰まで時間の空いた亮を侮る人間も多い。
その上、春の国の公女とどういう繋がりだったのか、婚約し、結婚したばかりである。
本人は、琉璃りゅうりといたら次期公主になってしまった。
のだが、周囲は、

『妻の権力を利用して復帰したオペラ歌手』
『口パクで自分では歌っていない』

等と言って嫌がらせもある。
一度ならず、ファンレターの中にカミソリが入っており、時々絆創膏を貼っていたのだがある時、元直げんちょくが、部屋に入ると、血がしたたるほどの怪我をしているのに、

「タオルだとタオルが汚れるしティッシュ……」

と動き回っている亮を叱りつけ、止血後に病院に運び込んだ。
筋などに影響があるような、音楽家の致命傷になるような傷ではなかったが、何ヵ所かの傷に、はるかが珍しく激怒し、

「亮。君は、次からファンレターに触ってはいけない‼日本から、一通一通内部に危険物が入っていないか確認する装置を用意していただくことだ。それと、これは犯罪だ‼この国には警察はないが警ら隊に、SPをつけておくことをおすすめする」
「で、ですが、本当のファンの……」
「中身が安全なものは、すぐに君のもとに渡してもらうようにする。でも、これがもし悪化して、琉璃に災いが及んでは駄目だ。いいかい?元とは言え、警備のプロだった私が言う。君は、一般の人間じゃない。この国の次期国主であり、その仕事と琉璃や可愛い子供たちの父親、そして教師、オペラ歌手だ。君は絶対に失ってもらったら困る。私が公主に伝えておく。多分、儁乂しゅんがいが選ばれるだろうな」
「儁乂さん?どうしてでしょう?」

亮の言葉に、遼は真顔で、

「儁乂は本能で動くタイプだ。その俊敏さは一流だ。それに、馬鹿ではない。例えば君が視線を動かすと、確認して気になるなら反応する。そういう人間がいれば、他よりも少ない人間だけですむ」
「ですが、儁乂さんに迷惑では……」
「逆に喜ぶ。あいつなら」

その後、呼ばれた青年は、

「はる、茶~‼日本茶‼今日は玉露じゃなくて、玄米茶~‼」
「じゃぁ、食べたいのはせんべいか?」
「うーん。そうだな」

ソファに座り、目の前の亮の両手を見る。
ぎょっとして、

「どうしたんだ⁉それ‼お前仕事に必要だからと大事にしてきただろ?」
「えっと……」

困った顔をする青年から、お茶とお菓子を準備してきた幼馴染みを見る。

「おい、はる。これなんだ?」
「元直が大丈夫大丈夫と言う亮を連れてきてくれたんだ。詳しく聞くと、ファンレターと見せかけて……」
「あぁ、えげつないやつらの仕業な?んじゃぁ、警らの仕事の合間に……」
「と言うよりも、公主にお願いして、亮専任のSPになればいい」
「はぁ?この俺がなれるかよ、一発で落ちる‼あの一件でな」

儁乂は首をすくめる。

「医大卒である遼よりも位が下なのは、あの馬鹿を撃とうとしたからだよ」
「馬鹿?」
「オリンピック選手に選ばれて壮行会に出席したうららを連れ込んで、嫌がる麗を襲おうとしたから、上に向けて発砲した。駆けつけてきた人々はオリンピック委員会のお偉いさんや政治家とかでな。ついでにそういう方々にその格好を見せてやろうと拳銃突きつけてな『動くな‼』ってやってやった」
「その馬鹿は……」
「わかるだろ?首相の馬鹿息子や政治家お偉いさんの孫とかだよ。で、揉み消され、俺は飛ばされたってわけだ」

その言葉で、ピキッと眉間にシワが寄り、

「解りました。儁乂さん……アァ面倒ですので儁乂兄さん。警ら隊やめて即、私の警護をお願いします。奥さんの麗さんと共に後宮の一角に部屋を用意します。今、受け取っている給料はおいくらですか?」
「え、えっと……」
「安すぎる‼給料は、後で、計算しますが、麗さんも、後進の教育兼、琉璃の警備もお願いしたいので、宜しくお願いいたします」
「ちょ、ちょっと待て‼それで決めて良いのか‼もし何かあったら……」
「そのための警備ですから」

亮は、警ら隊に電話をして、儁乂に別の仕事を頼むことにしたと伝え、今日中に退職することを伝える。

「これで構いません。後で麗さんにもお伝えしますから、明日から宜しくお願いいたします」

あれよあれよと決まっていった内容に、儁乂は、

「あ、うん……宜しく。えーと、明日何処に行けば……」
「麗さんには実はお願いしていることがあります。明日、それも解決しそうですので、ご安心ください」

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