アリアドネの糸により迷宮を抜けた者たち。

ノベルバユーザー173744

その1、忘れていませんか?これを。

「はぁぁ!?け、結婚式?誰がです?」

柚須浦実綱ゆすうらさねつなの名前がしっくりし始めた頃、自分よりも年上なのに、何故かドリーマーな義父の圭吾けいごが、

「何言ってるの‼采明あやめと綱君だよ~‼」

と叫ぶ。
圭吾の普段、意識は本当にドリーマーで、とんちんかんなことを言うのだが、それが本当だったときの衝撃は恐ろしい……。
しかし、咲夜さくやの愛犬の柚子姫ゆずひめは、考え事……と言って逃走を考えている圭吾が面白いらしく、良く飛びかかられ、ゴーンっと机の角で頭を打つ。

「病院に‼」
「ヤーダーよ。僕は病院嫌い」
「いや、たんこぶになってきてます‼行きましょう‼」

と何度か抱え込んだが、

「ただのたんこぶですよ。毎回毎回良く頭打って、たんこぶですんでいる方が奇跡ですよ。それにひどい場合は、怪我していた方がいい場合もあるのに」

丁度暇をもて余していた小児科のゆかりは告げる。

「怪我をしていた方がいいと言うのは?」
「ん?だから、言葉通りでたんこぶになるとたちが悪い場合。ゴーンって打った場所が悪くて、骨折してたりね?それとか皮下出血とか。あるんだよ~?実家の病院の患者で、昔、小さいときに道を歩いていたら、瓦が一枚落ちてきてね。そうしたら、ゴーンって衝撃で倒れるでしょ?頭に大きなたんこぶができたんだよ」
「あの……何で落ちてきたんですか?」
「雨漏りがするからって見てもらってたら、業者さんが足滑らせて、ご本人は自分の体勢立て直して、でも一枚の瓦が下を歩いていた女の子にゴーンって。当たるんだねぇ」

あははは……。

笑う紫に、

「その子は?」
「大きなたんこぶに、倒れたでしょ?家にかつぎ込まれて、すぐ近くの病院に連れていかれたら、午後から休診。本人は『自分は帰れます。妹の面倒を見てくださってありがとうございました』って帰ろうとするから、親が待っているのかと思ったら、『電車で帰ります。本当にありがとうございました』って帰るから着いていって、親に事情を説明して、親が救急病院に連れていったら……」
「連れていったら?」
「今日は忙しいから見られない。明日担当の先生が来るからって、一応痛み止貰って帰って翌日行ったら『骨も折れてないし、丈夫な頭で良かったですね。その程度でしたらしっぷなども要りませんよ』って、それで終わりだったって」

笑い転げる紫と圭吾に、実綱は、

「その子が可哀想ですね。痛い思いをして、それでも妹の面倒を見なきゃ。うちに帰らなきゃって……痛かっただろうに……」

と呟く。

「その医師も医師です。子供が大変な目に遭ってるのに、その程度って何ですか?私だったら食って掛かりますね」
「……さーくんは優しいねぇ」
「さーくんって何ですか?気持ち悪い」

紫の一言に腕をさする。
前まで着ていた着物の袖とは違い、邪魔は少ないが、何かを入れておくことは出来ない。
困っていると、采明が腰に回して使う、小さめのバッグを作ってくれた。

「本当に君を見ていると、はるか見ているようで、腹が立つ」
「えっ?」

聞き間違いかと思ったが、紫は真剣な瞳である。

「遼は本気で馬鹿だ‼あんなに才能があるのに、その才能を隠して警察で裏の仕事をやってて、位は上がらないのに、周囲に利用されて‼許せる?」
「と言うかさぁ、君だって利用してたじゃない」

圭吾は机に膝を置き顎をのせる。

「自分はやって良くて、他はダメっておかしくない?」
「私の弟です‼」
「私は自分が勝手をしてきたから言えないけど、それでも、采明と百合ゆり孔明こうめいを無理矢理利用しようと思っていないよ?まぁ、自慢できる親じゃないけど、君主と部下、臣下じゃあるまいし、年上だから威張るとか、あり得ないから」

圭吾は紫を見る。

「自分が勝てないからと言って、年齢や男女差をひけらかして、命令したりするのはすでに人権侵害だよ。はるちゃんが優しいから今のところは良いけれど、後になってごらん?泣くことになるのは自分だよ?」

圭吾の気迫に紫は息を飲む。
と、にっこり笑って、

「あ、そうそう。私は、本当は采明たちにも教えてないんだけれど、元の姓は光来こうらい承彦しょうげん伯父は、私の父方の伯父。伯父は本当に才能のある人だったけれど、弟の父は全くそんな才能はなくて、プライドだけは高かったよ」
「は、はぁ‼え、えぇぇぇぇ~‼あの‼」

紫は叫ぶ。

「『天災地変光来てんさいちへんこうらい‼』って……行方不明の⁉」
「学生結婚して、一人娘の蓮花れんげの家に婿養子~。両親亡くなっていて、こっちも親族に利用されかけてた蓮花をかっぱらって脱走‼お金は自分の特許とか、特許とか、本の出版で得たお金を全部伯父さんに預けてて、増やしてもらったんだ~」

それよりも思う。

『天変地異光来‼』

とはなんぞや?

と、紫は示す。

「この人は、学院総長の司馬しば先生と、帝王学長の諸葛しょかつ学長の上を行く変人天災だよ‼」
「は?あの先生方天才的な頭脳と才能の持ち主ですが、変人……とも違いますよ。言っていることを理解さえすれば、大丈夫ですし。時々遼と儁乂しゅんがいとも話すんです。儁乂はそのまま行ってやるか~‼で、物事が進むタイプですが、遼と私は、『これはこういう意味だな』『たぶんそうだろう、行くか‼』で進みます。二人でもある程度進みますが、儁乂の野性的な勘のお陰でなんとかなったときもあるので、たぶん、遼は武将兼参謀、儁乂は武将ですね。その傾向を当てはめれば、父上は参謀。司馬先生は、内政も参謀もこなせるでしょうし、諸葛先生は内政ですね。でも、私より年下ですが、りょうは万能タイプです。遼と戦えば競るんじゃないですかね」
「あれー?そんな風に私を見てたの?」
「と言うか、父上、私が変人と言いたいのは、あの国の変人首相です‼あれと一緒がよろしいですか?」
「うーん……。あの人ウザイからねぇ……ゆかりん。あの変人に毒でも盛ってきてよ」
「はぁ⁉そんなことしたら犯罪じゃないですか‼」

紫は首を振る。

「大丈夫‼私の作った例のあの薬とそこの資料の薬を調合したらほーらびっくり、死んじゃったよ~‼ですむよ?」
「嫌ですよ‼何で犯罪の片棒を担がなくちゃいけないんですか‼さーくんいるでしょ‼」
「綱くんは私の息子だもん。関係ないゆかりんやって‼」
「嫌ですってば‼」
「大丈夫‼完全犯罪成功‼最近、ゆかりんはゆうちゃんに怒られて、いたずら出来ないでしょ?やっちゃえー‼」

二人の言い合いに、

「いい加減にしなさい‼全く‼父上。孫が生まれるんですよ‼咲夜さくやはもうすぐです‼采明ももうすぐ安定期‼実明さねあきが真似したらどうするんですか‼それに紫も紫だ‼人の命を預かる人間には、ある程度冷静になる部分もあれば感情的な部分もあって必要だが、それがずれすぎだ‼それで遼に負けるのは嫌だ⁉冗談じゃない‼すでに人間性で負けている‼一回、山で修行してこい‼」
「えっ?あのこの間テレビでしていた?」

紫に真顔で、

「いいや、ずっと2000日、山々を歩き続ける修験者修行だが?私もやったことはあるが、厳しいものだった……」
「う、嘘だよね?」
「いや。酷いものは途中で下山するが、どこで下山できるか場所がわからず遭難したものもいるらしい。私は体力があったし、元々負けず嫌いで途中下山はあり得なかったから、踏破したが?」

免状見るか?

に、

「いい‼結構です‼私がやったら途中で行きだおれる……死にたいないです‼」
「その方がいい。半端な思いでは出来ん。と言うわけで、時々遼に苛めたり虐めたり苛めたりすると、今度は祐司ゆうじ院長に訴えるから、覚悟しておけ」
「ウギャァァ‼鬼だ‼」
「采明が、沙羅さらさんと仲良くなって、咲夜と3人で本当に嬉しそうに話していて、その回りで、実明がお姉ちゃんたちと遊んでいる。そんな幸せな場面を……ずっと見ていたいものだ……」

過去を思い返したのか痛々しく顔を歪める。
と、圭吾は、

「だから、過去を一旦終わらせて、前を向こうよってことで、父は娘の結婚式が見たいです‼子供もいるけど、ゆかりんも子持ち結婚だもんね~‼大丈夫大丈夫‼」

ニッコリと笑うのだった。

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