住み込み就職 お仕事時々お遊び

わいず

心配性だとかそんな次元の話じゃありません 2

「ほんとに大丈夫か? 怪我とかないよな? 病院行くか? 精密検査受けるか?」
「なっちゃん、ほっほんと大丈夫だぜ? しっ心配しなくても良いよ」
「いやダメだ! これは心配かけた罰だ! 私は止をこれでもかと言う位心配してやるからな!」
「なっなんだそれっ、いっ意味分かんねぇ!」

……はい、先程からこんな感じで話しています。
病院とか、精密検査とか、大袈裟な事言ってますねぇ。

そう思いながら、座って眺めています。
止さんは、ツインテールをふりふり揺らしながら長門さんにうったえます。

「ゲーム買いに行きたくて仕事休んだのは、本当悪かった! おれの出来心だよ! だっだから……抱き付くな! 離れろ! 暑いんじゃんか!」

じたばた暴れる止さん。
ですが、力が弱いので未だ抱き締めている長門さんの腕を振りほどけません。

「うっうぅぅ。だって……止がぁ……」
「うっ……うぅ、くるちゃん、助けてくれよぉ」

泣き付く長門さんに耐え兼ねて、私に助けを求めてくる止さん。
いやぁ、助けてって言われても困るんですよね……どう助ければ良いか分からないですし。

とっ取り合えず、軽く声を掛けてみましょうか。

「あっあの、長門さん」
「悪いが黙っててくれないか? 今は止と話をしているんだ」
「あ、はい」

話し掛けたんですけど……この通り黙ってろと言われました。
しかも凄い剣幕でです、これは口出し出来ませんね。

止さんには悪いですけど、黙っていましょう。
ごめんなさい、止さん。
だから、そんな悲しそうな顔を見せてこないでください。

「止、私はな……めちゃめちゃ探したんだぞ」
「うっうん、それさっきから聞いてるぜ? 探してくれてありがとな」

苦笑する止さんは、スッとそっぽを向いて面倒臭そうな顔をしました。

……止さん、この状況って自業自得ですよね。
約束を守らないからこうなるんですよ。
自分の好きな物が目の前にあったても、時にはそれをぐっと堪える我慢が必要なんです。

止さんはそれを知るべきでしたね……って、何を私は会って間もない人に心の中で説教してるんでしょう。

それに……好きな物を目の前にして我慢できずに4000円も注ぎ込んだ私が思う事じゃありませんよね。

……私も反省しないといけませんね。
ただ、この事は長門さんには黙っておきましょう、絶対に色々と言われますから。

「本当に探したんだからな? 胡桃と七瀬も探してくれたんだからな! 私なんて部下1000人引き連れて此処等一帯を探したんだからな!」

えっ……1000人? そんなに引き連れてですか? ははっ、ははは。
いやぁ……電話でそれらしい事を言ってましたが、まさか実際にやってるとは思いませんでしたよ。

そして想像の10倍の人数で探してましたね……1000人って、結構な人数ですよ?

「うぇ! またそんな人数で探したのか? 止めてくれって言ったじゃんか!」
「だって、それほどまでに心配だったんだ!」

またって……前にもそんな事があったんですね。

「なっちゃん……おれもう子供じゃないぜ? だからそんなに心配しなくても」
「馬鹿者! 心配して何が悪い!」

かっ! 目を見開いて長門さん。
おぉ……今の名言っぽいですね、その長門さんの言葉に止さんは、きょとんとした顔になって「なっちゃん……」と呟きます。

感激してるんですね……私も感激しています。
長門さんは変な人ですが、一緒に住む仲間を大切に思う素晴らしい方なんですね。

今、長門さんが言った言葉を聞いて私は思いました。
と、目を細めて優しく微笑んで見てみると……長門さんは話を続けました。

「止に限った事じゃない……胡桃や七瀬、恵……他の従業員だってそうだ! 私にとっては重要な家族同然だ!」

……本当に素晴らしい人ですね。
ここまで仲間を大切にする社長は今のご時世、中々居ないんじゃないでしょうか?

「朝御飯はちゃんと食べたのか心配になるし、睡眠不足じゃないか? とか、病気に掛かってないか? とか……あっあと! 急に熱を出すんじゃないか? とか色々心配してるんだ!」

……ん? なんでしょう。
素晴らしい事を言ってる筈なのに、なっ何か違和感を感じましたね。

「その為に私は色々と対策したいんだ! 例えば外出する時は、護衛を100人付けて外に出すとか、転んで怪我した時は、万が一骨が折れてるかもしれないから病院で精密検査受けて貰いたいし、あっあと! 睡眠不足対策にお肌の美容、快便、肥満対策、生活習慣病、スマホ病対策、肩こり腰痛! 何から何まで面倒見たいくらいだ! だがそれをやると面倒臭い奴だと思われるからやらないだけで、ほっ本当に物凄くお前等が心配なんだからな!」
「いや、幾らなんでも心配が過ぎますよ!」

思わず声が出てしまいました。
やっヤバイですよこの人は、しっ心配性ってレベルを越えてます。

なんでそこまで献身的なんですか? 昔なにかありましたか?

「何を言う胡桃! こんなもんっ、一社長なら心配して当たり前だ!」
「あぁ、もうこの社長、ただの良い人です! と言うか、長門さんの常識は私達からしたら非常識です!」

昔に何かあったなんて事はありませんでした。
長門さんは昔からこう言う人だったんですね。
……それでも、心配が過ぎる事実は揺るぎませんけどね。

「ほらみろ! くるちゃんだって突っ込んだじゃんか! なっちゃんは心配性なんだぜ! おれをもっと信じて欲しいんだぜ!」
「うっうるさい! 心配なんだ! 皆が心配なのだ! もういっそのこと、全員快適な部屋に監禁して危険なんて無用で何不自由なく暮らさせて、一生私の側にいて貰いたいって願いがある位心配なんだぞ!」
「なにそれ、おもっ!」

はい、止さんの言う通り重いです。
そこまで心配されると逆に引きます、と言うかそんな生活嫌です。
たまったもんじゃありません。

「おっ重いだと? 私の気持ちが……そっそんな筈はない。 とある恋愛漫画を見て私がときめいた内容だぞ? そんな訳ないだろ……」
「そんな訳あるよ! なっちゃんは漫画の読み過ぎなんだぜ!」

止さん、ナイスな突っ込みです。
私もそう突っ込んでやろうかと思いました。

と言うか長門さんが言ったの……ヤンデレ系の恋愛漫画ですね。
って、やっぱりそれに影響されてるんですか、ブレませんねこの人は……。

「くっ、とっ兎に角! 私が心配だったのは分かってくれ!」
「うん、それは素直にうれしい、ありがとな、なっちゃん」

にっ、と微笑む止さん。
それを見て、ほっとする長門さん……。
あぁ、どうやらこの騒ぎは収まりそうですね。
そう思ってると、ガチャっ、と扉が開いた。

「ごめんなさい、遅くなったわ」
「あ、七瀬さん……おかえりなさい」

眼鏡をくいっと指で上げながら七瀬さんは言いました。
帰って来たんですね、結構帰りが遅かったですが……何かあったのでしょうか?

「あ、ななちゃん! 久し振りだな」
「そうね、元気だった?」
「おれは元気だぜ!」

微笑み合う二人、それをみて長門さんも微笑みました。

はぁ……やれやれ、予想通りドタバタした状況になりましたが、無事解決して良かったです。

そう思った私は深くため息をつきました。
……で、止さんは見付かった訳ですが、お店はこのまま閉めたままなんですかね?

気になりますね……。

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