住み込み就職 お仕事時々お遊び

わいず

その者、気持ちに正直

はっ……はっ……はっ……はぁ。
ふぅ、ここまで走ってくれば大丈夫でしょう。
あまりの恥ずかしさでゲームセンターを出て来た私。

息を切らしながら辺りを見ると、不思議そうに私を見てきます、しかも、かなりの人に……。
ここは商店街ですからね、人通りが多くて当たり前ですね。

とっ取り合えず、商店街を出ましょう。
今は人目の少ない所に行きたい気分です。

「うぅ……止さんを探す所か、大変な事に巻き込まれちゃいました」

あんな事に出会したの高校を卒業してから1度も体験してませんからね……ついやっちゃいました。

でも仕方ないじゃないですか。
向こうが先に手を出してきたんです……わっ私は悪くありません!

「あ、あの娘、どうしたんでしょう? 逃げる様に出て来たから分かりませんが……まぁ、大丈夫でしょう」

と、ここで黒髪ツインテールさんの事を思い出します。
結局、名前を聞けずじまいでしたね……ほんと、何者だったんでしょう。

と、思っていると。
どさっ……と背中に衝撃を受けました。

「ひゃぃっ!」

驚いて変な声が出ちゃった私、うっ……周りの人達がこっちを見てきました。

「お姉さん、つっかまえったぁ!」

恥ずかしいなぁ、と思った時です。
元気な声が聞こえてきました。

「え、あっ貴女は……えと」
「きしし、もぅっ、逃げるなんて酷いぜ!」

ぴょんっ、と私から飛び降りて前にまわって来ます。
そして、がっ、と私の手を掴んで。

「さっきは格好良かったぜ! ありがとなっ!」

って言ってきます。
そしたら、周りの人がざわざわし始めました。
何事だ? って雰囲気ですね……うっ、逃げてきたのに、また恥ずかしい思いをしてますね。

「どっどういたしまして…」

困った顔でそう言うと、黒髪ツインテールさんは、ぴょんぴょん跳ねながら楽しそうに言ってきます。

「お姉さんはさ、おれを助けてくれたからお礼をするぜ!」
「え、そんなの良いですよ……」

別にお礼が欲しくてやったんじゃないですし、でもこれ……断っても強引に連れていかれますよね? これまでの、この娘の行動を見てれば分かります。
絶対にそうなります。

「遠慮はすんなよー、な? お礼させて」

上目使いで私を見つめて断りにくい雰囲気を出す黒髪ツインテールさん。
ほら、やっぱりこうなりました。
こんなの断ったら悪いじゃないですか……周りの人も見てますし、完全に悪者扱いされちゃいます。

と言うか、この上目使い……計算ですか? 素ですか? やたら心にぐっと来るものあるので素だと思うんですけど……そうだとしたら罪なお人ですね。

……仕方ないですね。
ここは黒髪ツインテールさんの気持ちを無駄にしない為にもお礼を貰いましょうか。

はぁ……やらなきゃいけない事があるのに、全然それが出来てませんね。

「分かりました。では、お言葉に甘えますね」
「ほんとか!? じゃっ、早速行くぜ! おれの行き付けの店にレッツらゴーゴー!」
「あ、ちょっと待ってください!」

と、ここで今にも走り出そうとする黒髪ツインテールさんを止める。
そしたら「なんだぜ?」って言って私を見てきます。

うっ……この小動物が首を傾げた様に見える可愛さ、顔を赤くせずにはいられませんね。

……と、いけない、冷静にならないと。
これからお礼を貰うのでしたら、絶対に聞かないといけない事があります。

さっき聞こうとして邪魔が入りましたからね……今のうちに聞いておきましょう。

「貴女の名前を教えて下さい。私は桜塚 胡桃と言います」

私がそう言うと、黒髪ツインテールさんは何かを思い出したかの様に目を見開きます。

「あ、そう言えば名前言ってないじゃん」

いっけねぇ、って感じで右手で頭をカリカリ掻きます。

「じゃ、言おっかな」

そう言うと黒髪ツインテールさんは、私から数歩離れて、びしっ! とポーズをとります。

え? なんです? 何をする気ですか?

「おれはソコソコな腕を持つゲーマー!」

え、ゲーマー?
なんか聞き慣れた言葉が出てきましたね。
と言うか、ソコソコな腕を持つ……ですか、偉く謙遜けんそん的ですね。

あ、それと変なポーズするの止めてくれませんか? 今、皆の注目を集めちゃってますよ?

「ゲーマー界では、おれの事をリトルって言われてるぜ!」

はっはぁ……そうですか。
そう言うしか無い事を言われちゃいました。

て、あぁ……周りの人が集まりましたね。
うわ、写メ撮ってる人もいるじゃないですか……黒髪ツインテールさん、恥ずかしくないんですかね?

「ゲームはオールジャンルとはいかないけれど、上手くやれる自信があるぜ!」

びしっ!
拳を上に突き上げ格好良いポーズをとると、黒髪ツインテールさんは、キメ顔をします。

うわぁ……この娘、痛い娘です。
今すぐ走って逃げたいくらい、関わりたく無い人です。

と、私は赤面しながらそれ見てると、その娘は大きく息を吸いました。

「二十歳手前の自称美少女! お酒は呑むけど煙草は飲まない、の誓いを立てる平成生まれの元気っ娘! 見た目はチビだが、度胸はある方! その名も……小片 止!」

きらーんっ……。
そんな効果音が出そうな位に華麗なウインクをする小片 止と名乗る人。

そうですか、貴女は小片さんと言うんですね。
二十歳手前ってつまり十九才ですか、かなり回りくどい言い方ですね。
それと、あなた十九才なんですからお酒もタバコもやっちゃダメでしょう。

って、ん? 小片……止?
私は、直ぐにポケットに手を入れてスマホを取り出します。

そして、レインをタップしてある事を確認します。
えと、私がゲームセンターに着いた時に七瀬さんが送ってきた写真があるはずです……。
えと、それはどこに……あ、ありました!

私はその写真と、その娘を見比べます。

「まっまるきっり同じ人……ですね」

写真には、にっ、と笑う小片さん、目の前にいるのは同じく、にっと笑う小片さん。

あっあははは、まっまさか初めから会ってただなんて……最初に写真を確認すべきでした。

そう思いながら半笑いで小片さんを見てると、小片さんはこっちにやって来ました。

「あれで自己紹介は終わりだぜ。て訳で、よろしくな!」

きしし、と笑う小片さん。
私は苦笑しながら「よろしくお願いします」と答えます。

あまりの出来事に軽く方針状態の私……。
取り合えず、思った事はただ1つ、小片さんは偉くドギツい個性の持ち主だと言う事です。

長門さんが心配する意味が分かった……これは、心配しますね。
だって、発言がアホっぽいんですもの。

なんて失礼な事を思った後、私は小片さんに「じゃっ行くぜぇぇっ」と言われて引っ張られて連れていかれました。

私が「えっ、いやっ、まっ待ってください!」って言ったんですけど、無視されました。

やれやれ、探し人は見付かったのに、まだまだ解決出来そうに無いですね。
はぁ……どうしましょう、これ。

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