住み込み就職 お仕事時々お遊び

わいず

これも一種の目覚ましドッキリの一種なんだ 3

「で、これはどういう事なんですか? 説明してくれませんか?」

はい、あれから胡桃に思いっきり叩かれた後、服を着た私だが……床に正座させられている。
胡桃は腕組みして仁王立ちで私を見下ろしてる

せめてクッションを敷いて欲しい所だが……そんな事を言ったら「は?」って言いながら威圧されてしまう。
そしたら私は最悪チビってしまうだろう。
あっ、因みにだが……服はご丁寧にタンスの上に置いてあった。
全く記憶にない……私が畳んで置いたのか? いやいや、私は結構ずぼらだ。
服なんて畳まず床にぽいっとする系女子だから……私が畳むのは有り得ないんだが……可笑しな話だな。
と、それはさておきだ。

「えと……どっ何処から説明すれば良いんだ? さっ最初からか?」
「どっ何処からも何もっ、ふっ服を脱がした所ですよ!」

今はこっちのが大切だ、申し訳無さそうに聞いてみると、胡桃は顔を真っ赤にして言い放ってきた。

服を脱がした所と言われてもなぁ……申し訳無いが、そこら辺は全く記憶がないんだ。
ぶっちゃけて言ってしまえば……服を脱がした覚えもない。
勿論、自分で服を脱いだ覚えもない。

「え、えと……すまん、覚えてない」
「は?」

っ!
まっ不味い、胡桃の眉がピクッて動いたぁっ。
あっあぁぁ……こっ怖いっ、怖すぎるぅぅぅ。
だが、本当に覚えがないんだ!
だから、睨まないでくれっ。

「ほっ本当なんだ! あっ朝気づいたら、わっ私も、くっ胡桃も……はっ裸になってたんだ」
「へぇ、なるほど……だから知らないと言う訳ですか」

うんうん、と頷く胡桃。
あっ、もしかして分かってくれたか? あぁ……良かった、胡桃は話が分かる奴で助かった。
よしっ、そうと決まれば明るく振る舞って、この空気を吹き飛ばそうじゃないか。

「長門さん……」

と思ったら、笑顔で話し掛けられた。
しかし目が笑ってない、口元だけがにこって笑ってる……え、なに? 超怖いんだが……その表情かお止めてくれないか?

「ふだけるのも大概にしやがってください」
「ふっふふ、ふざけてない! ほっほほっ本当の事だ! うっ嘘は言ってないぞ!」

威圧感がヤバい……不良に脅されてる感覚がまさにあっているだろう。
いや、不良なんて生易しいものだろう。
今の胡桃は鬼そのもの……一瞬でもふざけた態度を見せれば……私はどうなるか分からない。

それが怖いから本当の事しか言ってない! それに私は今っ、凄く反省してるのだ。
だっだから……あっあんまり怒らないで欲しい。

「あぁ……その、分かりました、嘘は言ってないんですね? でしたらそんな怯えた目をしないでくださいよ、なんか脅してるみたいになっちゃってるじゃないですか」

いや……私からしたら脅してる様に見えちゃってるんだ。
その事を口に出そうになったが、口を押さえて言うのを止める。
言ったら……きっと無言で殴られる。

「ほっほんと……ほんとだからぁぁっ、うぞいっでなぃぃぃ」
「えっえぇぇぇっ!? なっ泣かないで下さいよ」

そんな恐怖に怯え、私は泣いてしまった。
良い大人がわんわんと……情けないと思うなよ? 目の前に鬼の様な怒気を当てられてみろ! 涙なんて湧いて出てくるからな!

私が泣いた事で、おろおろする胡桃は、屈んで私の頭を撫でてくる。

「わっ分かりました、信じます……泣くって事は嘘は言ってないし、悪気があった訳じゃないんですね?」

その胡桃の問い掛けに、ぶんぶんと首を縦に振るう。
そしたら、胡桃はにこっと笑って「そうですか」と言ってくれた。

「長門さんの言う事を信じます、まぁ……なんで裸になってたのかが気になってふに落ちませんけどね……」

その言葉を聞いた瞬間、暗闇にぱぁぁっと光が射したみたいな希望が見えた。

「あっあっ、ありがどぅぅぅ」
「わっわわっ! ちょっ……抱き付かないで下さいよっ」

胡桃は尻餅をついてしまう、そんな事を気にせず抱き付いたままの私。

あぁ、信じてくれて……ほんっと助かった。

そう思ってる私に対して、胡桃は優しく頭を撫でてくれた。


「……落ち着きましたか?」
「……うん」

少し時間が経った。
三角座りの私の隣に座って頭を撫でてくれる胡桃、お陰で気持ちが落ち着いた……。

「その……すまんな、昨日は呑み過ぎて羽目を外し過ぎた……」
「いっいえ……もう良いですよ、あははは」

笑ってこたえる胡桃だが……うっ、まだ怒ってるなぁ。
私の言葉を信じてはくれたが、許してはないみたいだ……。

「えと、長門さん」
「はっはひ!?」

なっなんだ、じっと見ながら呼ばれたぞ。
……あ、また震えてきた。

「私、長門さんを部屋に連れていって……その、パジャマに着替えさせたんですよ」
「へぇ……え?」

なっなんだそれ? はっ初耳なんだが……。

「もっ勿論、ちゃんと着替えさせましたよ? 変な事は何もしていません」
「うっうむ……」

若干、胡桃の頬が赤くなってるな……。

「あっ、着替えさせた理由は、服にシワついちゃダメかな? って思って……私のパジャマに着替えさせたんです」
「ほっほぉ……そうなのか、ありがとう」

別に一晩くらい構わなかったんだが……ここは素直にお礼を言っておく。

「で、ですね……その、着替えを終わらせた長門さん……ぐっすり寝てたんです……」

え? 着替えさせられてたのに起きなかったのか? 寝つき良すぎだろう……。
と、言うか……その、あれだな。

「はっ恥ずかしい……な」

寝てたとは言え、肌を見られたと言う事だからな……。
うぅ……こんな事なら、ダイエットしとくんだったなぁ。
きっと、だらしのない身体だって思われてるだろう。

「あ、うっうぅぅぅ……すみません」
「いっいや、謝らなくても良い……お陰でシワが付いてない」

だから謝らなくても良いんだぞ?
と、両手を横にブンブン振るう。

「そっそうですか……そう言ってくれると有り難いです」

えへへ、って笑う胡桃は、瞬時に熱っぽい視線を私に向けてくる。

「えと……あとですね……その……」

もごもごと話し出す胡桃、目線は泳いでるし、呼吸も少し荒い……。
どうした? 急に体調でも可笑しくなったのか? いっいや、違う……何か変な雰囲気を感じる。

なっなんだろう、言葉には言い表し難くて申し訳無いが、まっまるで告白でもしてくるかの甘酸っぱい雰囲気が出てるな。
いっ言っとくが、私の恋愛対象は男だからなっ、こっ告白してきても……そっその……困るんだからなっ!

と、思ってはいるが……この雰囲気にドキドキしている私……。

「なっなんだ?」
「あ、その……あの……やっやっぱり良いですっ!」

え? いっ言わないのか?
胡桃はそっぽを向いてしまった。
なっなんだ……もっ物凄く気になるなぁ。
詳しく聞いてみたいが……ダメそうだ。
だって、胡桃は向こうを向いたままで私の方を向いてくれない……。

きっと、聞いても「きっ気にしないで下さいっ」って強い口調で言われるだろう。

だから気にしない事にした。
そしたらだ、胡桃は後ろを向いたまま、また話し掛けてきた。

「あの、長門さん?」
「どうした?」

それに応えると、長い沈黙の後に、こう言ってきた。

「わっ私の身体……見ましたよね? へっ変じゃなかったですか……」

…………おっおぅふ、これはまた答え難い質問が飛んできたな。
焦って一瞬、頭の中が空っぽになったぞ……。

「って、わっ私は何を聞いてるんですかぁぁっ!!」

あっ、頭をカリカリかき始めた。
小声で「ぁぁぁぁぁ」って言いながら……。

うっうむ、そうだな……胡桃の言う様に、まさに何を言ってるんだ! って言いたくなる質問だ。

だがしかしだ……この私は恋愛漫画を熟読した者だ。
つまり、その質問に対する正しい回答が既に用意出来ている。

「あっあの! 今のなしっ! こっ答えなくて良いですからねっ!」

バッ!
と振り替えって私にすがり付いてくる。
その慌てよう、本当に答えて欲しくないのだろう……。

しかしな胡桃、私には分かる……そう思うのは、自分の身体に自信が無いからだろう? だから答えて欲しくないのだ。

はっはっはっ、そんなに自分を下に見る必要は無いのに……。
何故なら胡桃の身体は、美しかった! スレンダーと言うか、スマートと言うか……その、なんと言うか……風の抵抗が受けにくい身体で凄く羨ましかった!
それだけじゃないっ、肌も凄く美しかったぞ!

その事を、今まさに焦りに焦ってる胡桃に伝えないといけない。
だから私は「ふふっ」と笑った後、こう答えた。

「まるで美少年を彷彿とさせる美しくも繊細な美体だったぞっ、特に胸が平原みたいで良かったぞ!」

きちんと、グーサインを出した、その際に、慣れないウインクもした。
ふふっ、ここまで爽やかかつ、スマートな言葉を聞いた胡桃ならきっと喜んでくれる。

今にも悲しそうな顔が……ってあれ? なんか胡桃の表情が無になってるんだが……。

え? なっなんでだ? なんで無言でそんな、じっと見つめてくるんだ?
なっななっなんで無言で拳を作ってるんだ。

「長門さん……」
「なっなんだ?」

無表情のまま胡桃は握った拳を振り上げた。
そして……。

「答えなくて良いって言ったでしょう、バカぁぁぁっ!」

ゴツゥゥゥゥンッ!!!
胡桃の拳が、私の脳天に突き刺さる。
その瞬間、「ぎゃんっ!!」って悲鳴を上げて倒れた……。

なっ何でだろう……私は胡桃の気持ちを和ませようと思って言ったのに……うぅぅぅ、朝から災難な日だ。

……決めた、今日はやる気を出さないっ。
だって朝から酷い目にあったからなっ! という訳で、絶対に本気だして仕事をやらないからなぁぁぁっ、そう決心した私であった……。

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