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わいず

月初めの七瀬さん 3

「ふっふふっふふふふふふ……」

不気味に笑いながら、ゆっくりと胡桃と長門が眠るベットに近付く。
起こさないように慎重にしないとダメ、あと声も抑えた方が良いかも知れないわね。

いや、しかし本当に驚いたわ、私の知らない間に、こんなキマシな事になってるなんて……全く知らなかったわ。

「仲良さそうに寄り添って寝てる……わね」

胡桃に自分の身体を絡めてる胡桃の方を向いて寝てる長門、胡桃は上を向いて寝てるわ。
お互い、なんて気持ちの良さそうな表情かおをしてる。
とっても幸せそうね。

「なんて微笑ましい光景、あわよくば私も交ざりたいものね」

でも、そんな事はしてはいけない。
だって、2人の邪魔をしたくないもの。
1つのベットに2人の邪魔を乙女が幸せそうに寝て、暖かな布団のその下では……きっきっと、あられもない所に手を当て合ってるに違いない!

……こうなってくると、あれね。
昨日酔い潰れてしまった私を恨みたくなるわ。

「酔ってなければ今頃私は……くひひひっ」

きっと2人に、あんな事やこんな事をされるに違いない!
あぁぁぁっ、お酒呑まなきゃ良かったっ、2人に挟まれて、きゃっきゃっうふふふされるチャンスを逃したぁっ、ちくしょうぅぅっ。

ぎぎぎっ……。
歯軋りして悔しがる、くぅぅっ……後悔先に立たずって言葉が身に染みるわね、次は……次お酒を呑む時があれば、気を付けましょう。

そんな固い意思を胸に、改めて2人を見てみる。

「……うっはっ、こんなん見たら昂るに決まってる、ふひひひひ」

にやける私、周りに誰もいないもの。
今この瞬間は自重せずに思う存分ニヤけてやるわ。

「あぁぁ……2人共純真無垢な子供の様に寝ちゃって……」

すぅ……すぅ……。
くぅ……かぁ……。
胡桃も長門も静かに寝息を立ててる。
そして今見てて気がついたのだけど、長門ったら時折、胡桃をぎゅっと抱き締めて自分の身体を胡桃に押し当ててるのよ……。
まっまるで、猫みたい! 猫って寝てる時、そう言う風な仕草をする時があるの、今の長門がまさにそれなの。

「ヤバいっ、萌えてきたわ……」

はぁ……はぁ……。
目を見開き、身体を少し前に倒して荒ぶる呼吸をする私は、更に近くに行こうとする。
あと数歩近付けば、もっと2人の様子が鮮明に見れる。

でっでも、こんな幸せな状態の2人を起こしたくないし、これ以上近付いたら……間違いなく私は2人を襲う、勿論性的な意味でよ。

「いっいわば、ここが理性のボーダーラインって事ね、ここから先は……行ってはダメ」

ふぅ……。
静かな呼吸をして気持ちを落ち着け踏みとどまる。

「百合を愛する者は、百合的状況を乱してはならない、そこに自分も入ってみたいって思いは……今は不要、だって……今この瞬間の2人は、最高に百合百合しているもの」

そして、延々と独り言を言う。
私はこうやって気持ちを落ち着けてる、自身の百合の持論を語る事で、私の自我は保たれるのよ。

「……」

ふぅ……。
少し気持ちを落ち着ける事が出来たわね。
お陰で、昂ったままこれ以上近付くのは抑える事が出来たわ。

ほんと焦ったわ、2人ったら寝てても私の自我を破壊しにくるんだから、困ったものね……。

「今の私がして良いのは、ただ見守る事と、静かにこの場から立ち去る事ね……」

ふっ……。
爽やかに笑った私は、髪の毛を靡かせる。

「………………」

そして、無言で2人を見る。
まじまじと見る。
目が離せない、いえ……離してはいけない、百合百合な状況だから見てるのだけど。

何かしら……。
違和感を感じる、私の求めてる百合百合した状況ではない感じがする。
例えるならば、カレーの中に肉が入っていない……そんな感じね。

「っ、何を思ってるの……これ以上に百合百合した状況なんて、そうあるわけ………っ!」

馬鹿馬鹿しい……自分の考えにそう思った時、私は気付いた!

「ふっ2人共……服を着てるわっ!」

布団で被さってて良く見えないけど、胡桃も長門も服を着ている。
2人で1つのベットに寝ているのに……ふっ服を着ている……なっなんて事なの!

驚愕の光景に口がポカーンとあいてしまう。
あっありえない……そんな、まさかそんな事がっ。

「胡桃……折角長門をお持ち帰りしたのに、服を着たままベットインしたと言うの? いっいや……それとも、やる事やった後服を着たの……何故そんな勿体無い事をっ!!」

思わず大きな声を出してしまって、慌てて口を塞ぐ。
……良かった、2人は起きていない。

「でも、これは由々しき事態ね、私が……私がなんとかしないと」

女同士2人で朝を迎えるもの、最高の状態にしてあげないとダメ。
そうじゃないと、2人も私も……救われないもの。
だから、私が今の2人を最高の状態にしてあげるわ。

……近付いちゃダメと自分で言ったけど、それとこれとは訳が違う。
近付かなきゃならない訳が出来たの、色々と気を付けないとね……。

神様から与えられた使命を感じ、真剣な目付きをして2人を見据える。
そして私はゆっくりと1歩を踏み出した。



……ガチャ。
ゆっくりと玄関の扉を開けた私は、なるべく音を立てないように、静かに扉を閉める。

「やる事はやった、後は2人がどんな朝を迎えるかだけど……それは見る訳にはいかないわ」

あのあと、やる事をやった。
ほんと、起こさずにするのと、自分の理性を保つとので苦労したけどやりきったわ。
あれも2人の為を思っての事、きっと百合の神様は許してくれる。

本当は、朝を迎えた2人を見たいのだけど。
それは、2人だけの幸せの時間……第3者が邪魔する訳にはいかない。

「朝から良い事をするって……最高ね」

これで胡桃と長門は最高の百合カップルになるに違いない。
そしたら私が常日頃から計画してる、ハーレム計画に支障が出るかも知れないけど……。

それでも構わないわ、だって……2人の仲を引き裂きたくないもの。

「さて、お腹が空いたわね、今日はご飯の気分だわ」

静かに呟いた後、私は自分の部屋へと戻る。
今日は、良い百合妄想をオカズにご飯が食べれそうね。

そんな事を考えて微笑む私は、るんるん気分で歩みを進める。
うふふふふ……これあれね、速いとこ私も誰かに告白か何かをしないといけないわっ。

よしっ、朝恵が学校行く時に「好きよ、愛してる」って言おう、きっと驚く筈だわっ。

百合百合な出来事に出会い、百合百合な事を考える私。
朝からこんな良い事が起きるなんて……今日は良い日になりそうね。
だとしたら今日1日いつも以上に頑張れる気がした……よしっ、この昂りを力に今日も頑張りましょうか。
気合いを入れた後、歩く速さが上がった。
そして、私の気分も高揚した。

幸せ気分満開の私は、笑顔のまま部屋へと戻っていく。
暫く経った後、胡桃と長門に出会ったら詳しく聞いてみよう。
ふふふふ……楽しみだわぁ。 

この時、既に百合的妄想全開な私であった。

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