一兵士では終わらない異世界ライフ

矢追 参

この世界で生きている

 –––☆–––


 アルフォードパパは駆けつけて直ぐに、六匹のオオカミの魔物を斬って倒した。それから俺とソニア姉を抱きしめた。
「すまない……本当にすまなかった二人とも」
 パパンは本気で謝った。
 チラリとソニア姉の方を見ると、ソニア姉はピクリとも動かない。目を開いたまま微動だにしないが、やがて意識を取り戻したかのように目をパチクリさせ、目の前で自分を抱きしめる父さんに気づくとうわんうわん泣いて抱きついた。
 俺は父さんに抱かれながらも感動的なシーンにうるってしまった。いや、別に怖かったとか、パパンが現れて安心して涙が出たとかそんなことはないです。
 全然そんなことないです。
 それから俺たちは家に戻った。意外と直ぐについたので、かなり距離が稼げていたようだ。家では顔を真っ青にしたママンがソワソワと俺たちの帰りを待っており、姿を見るや否や、パパンと同じように俺とソニア姉を抱きしめた。
「よかった!二人が無事で!」
 ふぇ〜んと子供のように泣く母さん……美人が台無しよ?父さんはそんな母さんを後ろから抱きしめた。
 いいなぁ……こういうの。今、こんなことを考えてしまうのは不謹慎なんだろうけどさ……俺は今、愛されてるんだって実感できる。
 幸せだなぁ……。
 俺はそれを噛みしめるためにも抱きしめ返した。
 その後は反省会さ。両親はソニア姉に謝ってソニア姉は俺に謝ってっと……俺は所在なさげに誰かにとりあえず謝った。
 それが可笑しくて、みんな笑った。これでもう大丈夫だ。
 その日は疲れたので直ぐに眠った。翌日の朝からは、もう普段の日常の光景が広がっている。学校にいく準備をするソニア姉。朝ごはんをつくる母さん。そして剣を振るう父さん。
 俺も剣の修行をするために直ぐに木刀をとって外に出た。父さんは俺に気づくと笑って呼んだ。
「遅いぞ」
「ごめんなさーい」
 まったく反省ゼロの俺。しかし、父さんは怒ることなく稽古をしてくれた。まあ今日も素振りだ。せいやっ!せいやっ!
 ふふん〜これはもう素振りの達人と言えるんじゃないのん?
「こら。脇を開きすぎだ」
 あうち……パパンに叱られてもうた。どうやら達人への道は険しいようです。それからしばらく、俺は剣を振って朝ごはんが出来たという母さんの声に、俺と父さんは家に帰っていった。


 –––☆–––


 こうして色々あったが一年が経過した。俺は四歳となった。あの一件があったこともあり、俺たち家族の関係は非常に良好だ。
 前世の家族との関係はとても悪かった。かなりギスギスしていた。まあ、俺が悪いんだけどな……でも今は、ちゃんとやっていけていると思う。
 ある意味、前世の経験のおかげと俺は思っている。とにかく、これからも家族は大切にしていこう。うん。
 さて、今俺はソニア姉の下で魔術についての講義を教えてもらっている。ソニア姉はどういう訳か、学校の選択科目に追加で魔術の授業もとったそうだ。
 理由を聞くと、「なにかあったときに魔術が使えると便利じゃん?」と仰せられた。多分森で魔物に襲われたときのことが効いてんだろうな……。
 というわけでだ。ここで魔術について話しておこうと思う。魔術というのは俺たちの脳味噌にある魔力保有領域ゲートっていうところから魔力を引き出して、その魔力ってのを基礎四元素という物質に変換する……基礎四元素とは"地水火風"の四つの元素のことであり、これが所謂、属性って奴らしい。
 この基礎四元素へ変換した魔力が、火の元素なら"炎"、地の元素なら"岩"を作り出せるなど……そうやって魔力を別の物質に変換する作業を、我々は"魔術"と呼ぶらしい。
 魔力保有領域ゲートに内包された魔力にも属性というのがあって、これは生まれつき決まっているらしい。その属性の魔術を使うときに威力が上がったりとか、消費魔力が減ったりと、いくらかの補正があるそうだ。
 逆にその属性以外で、その属性と相性が悪い相反する属性の魔術には逆補正がかかる。まあ、ゲームでもよくある設定だな。
 属性は先述の基礎四元素の地水火風の四つの属性と雷と氷と光と闇がある。これは特殊四元素と言われている。
 こいつらは基礎四元素の二つの元素を合わせることで生まれるらしい。まあ、今はそんな感じでいいと思う。
 また、魔術には威力や危険度……難易度によって格付けされた階級が存在している。上から、

 初級イージー
 中級ノーマル
 上級ハード
 熟練級エキスパート
 達人級マスター
 伝説級レジェンド
 神話級エンシェント
 夢幻級ファンタジー

 以上の八つの階級を"全八階級と呼ぶ。覚え易いね!
 でだ、魔術を使うにはまず詠唱が必要である。この詠唱は先の階級が上がるごとに長くなる傾向にある。が、単純にチャッカマン程度の火や灯くらいになる光をつくるなら詠唱はいらないらしい。
 詠唱とは、特殊な魔術言語"ルーン"と呼ばれる言語を使うことで、魔力を通じて世界に干渉することが出来るというものである。
 詠唱が必要となるのは、例えば炎属性の初級魔術で『ファイア』があるのだが、これは単純に火をつくるだけでなく飛ばしたりしないといけないわけで、その他もろもろの制御をするために必要になるのが詠唱という行為だ。
 中には無詠唱でできる人もいるそうだが……。
 と、まあ魔術について今俺が知っているのはこんな感じだ。
 そういえば、俺が知ってるゲームとかラノベとか漫画だと無詠唱ってのはイメージが大切とかなんとか……。
 俺は何となく漫画で見るような地属性の魔術をイメージする。岩がソフトボールくらいの大きさとなって対象に向かって飛ぶやつ。前世の記憶もあるのでイメージしやすい。
 俺は魔力保有領域ゲートから魔力を引っ張りだす。イメージを作り上げ、そして魔術を発動させた。その瞬間、俺の中から何かがごっそりと抜けていったのを感じた。
 岩の弾丸は生成されて的である木に向かって飛んでいくのだが、途中でガラガラと粉々になって、宙で消えて、ついでに俺もその場で倒れた。
 これは……よくある魔力枯渇とかっていう現象かねぇ?うわぁ……岩の球を作るだけでこんな倦怠感に見舞われるのか……辛たん。
 それから俺が倒れているのを発見して顔を青くした母さんに助けられた。めちゃめちゃ心配されたが、魔術を使ったことは内緒だ。
 だって、俺は懲りずにやり続けるつもりだからね!だって〜やっぱり魔術を使うことは日本男児にとってのロマンなのよん?
 魔術のお次は剣術だ。一年経って素振り以外のこともやるようになった。型の練習だ。父さんが俺に教えるのは父さんの所属する軍隊で教わる本気で人を殺める剣術だ。
 と、ここで俺は一つ思ったことがある。よくよく考えたら俺はまだあまり周辺状況に関して理解していないように思う。俺はなんという国に生まれたのか。父さんはどこの軍に所属しているのか。あの町の名前は?ソニア姉の通っている学校は?意外にも、俺は知らないことだらけだった。

 もっと、よく調べないとな。俺はもうこの世界で生きているのだから。

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