一兵士では終わらない異世界ライフ

矢追 参

学舎の祭…その前に

 勉強会から、およそ一週間後……予定通り学舎の試しは始まって、それから一週間に俺は試験の毎日に明け暮れた。
 結果だが、まず一般教養の歴史と語学はかなりの手応えがあった。算術はまあ足し算とか引き算だから余裕だった。
 野営の試験は一日だけ自然の中で過ごすというものだ。飯もなければ水もない。すべて自分で自然の中から探し、そして生き残るというのが課題だった。俺はエリリーと協力して一日を生き延びた。と、まあこんな言い方をしてはいるがかなり楽しかった。ぶっちゃけギシリス先生の教えを受けた俺らからしたら、一日だけのサバイバルなんてキャンプしてるようなもんだ。むしろ、一週間でも余裕だ。
 こんな感じで野営の試験は乗り越えて、お次は剣術の試験だ。内容は剣術の先生との模擬戦だった。戦闘モードで戦っている所為なのかもしれないが、先生の振るう剣を某幻想シューティングゲームの無理ゲー弾幕と比較してしまい、「あんぱい、あんぱい(←麻雀用語)」とスルスルと躱すことが出来た。そのまま、先生を打ち負かしてしまったが先生はむしろ、褒めてくれたし、周りの人達も俺のことを賞賛してくれていたのでよかったのだと思う。
 魔術の試験も同じように先生との模擬戦だ。俺の魔力保有領域ゲートから引き出せる魔力はあまりない……が、最近魔術に関して気づいたことがあった。
 地属性の魔術で地面を隆起させる魔術を使ったのだが、これが思いの外強力になってしまい、かなり広範囲の地面が盛り上がってしまった。魔力枯渇を起こすかと思いきやそうはならなかった。地属性が俺の生まれながらの属性ってのもあるだろうが、それだけじゃない。多分地面を隆起させるためだけに魔力を使ったからだと思う。
 火や水は本来この場にはない。それを作りだすのに、まずは魔力を使う。そして制御するのにで魔力を使うってことで無駄に魔力を使ってしまうから魔力枯渇が起きる。しかし、地面を隆起させるだけならば、作りだすのに魔力はいらない。しかも、消費魔力も減るという相乗効果によって地属性の俺の相性は抜群だ。おかげで魔術の模擬戦でも先生を打ち負かしてしまった。ここでも褒められた。
 最後は弓術だ。いままで話ことはなかったこの科目……実はこの科目は他のどの科目よりも俺が一番優れている科目である。
 弓術の試験は的の中心を射ること……およそ三十メートル離れた位置にある的に対して、俺は初手にて中心を見事に射抜いた。そのときの先生や他の生徒の驚きようといったら……。
 そんなわけで俺の学舎の試しは景気よく終わり、ノーラやエリリーも無事に終わったようだ。あの三人はダメだったようだ…はぁ。
 ソニア姉や先輩方も無事だったということで、あの勉強会メンバーで学舎の祭を楽しもうという話になった。俺たちとしても先輩方と交流が持てると色々便利なので、二つ返事で了承した。そんなわけで着々と祭の準備が行われている学舎の中は色んな人がせっせと動いていた。
 屋台を設営する人。看板を作る人……皆んな忙しそうだ。祭は明日……精一杯楽しもうと思う。
 にしても、なんか向けられているこの視線は何?学舎の中を歩いていると妙に視線を感じるんだよなぁ……色んな人から。索敵スキルを使わなくても感じちゃうよ。
 俺は妙な居心地の悪さを感じながらも、木陰の方に寄りかかりふとため息を吐く。すると、どこからともなく木の枝にぶら下がって逆さで突然登場したのはソーマだった。
「わあっと……ビックリしたなぁ……」
「む?気づいてたのではないのであるか?」
「え?うん、そりゃあね」
 気づいてなかったらワザワザ木に寄りかかったりしない。感じていた視線の中に、ソーマのを感じた俺は何か用でもあるのだろうと思って、こうしてここまで来たのだ。
「でも、急に出てきたら誰だって驚きますよ?」
「本来、吾輩が出たところで気付かないがな」
 少し悔しそうなソーマは俺をジト目で睨んで来た。あれ?意外とプライドを傷つけててたん?ごめんなさい……。
「はぁ……そうですか。えっと、それで何か用でした?先程から、どうも僕と接触したがってましたけど」
 俺が単刀直入に尋ねると、ソーマは頷きつつも懐を弄り始めた。
「あぁ。これを」
 そう言って逆さまのまま懐から紙を取り出して、それを俺に渡してきた。受け取って中を確認すると、まず俺は目を疑った。
「え……アリステリア様?」
 差出人がアリステリア様だった。これは……どういう?
 紙に書いてあることはこうだ。
『生徒会室に来てください。お待ちしております。

 アリステリア・ノルス・イガーラ』
 お、お嬢様から直々のお呼び出しかよ……なんか嫌な予感がするなぁ……。
「なんでソーマさんがこれを?」
「詳しいことは言えないが……吾輩は常にアリステリア様のお側に控えているのである」
 護衛か。俺はてっきりソーマのことをただの親バカの変態ストーカー野郎かと思っていたが普通に仕事してんだな。しかも、公爵の護衛だ。大師長とやらはかなり偉いらしい。
 ん?偉いなら逆に護衛とかしなくね?はて?
 気にはなったが、詳しいことが言えないと言っているのだから、訊いてみるだけ無駄な労力だと思われる。
「あぁ、それと……吾輩の娘にあんまり近づくとぶち殺す……」
 それだけいってソーマは、ヒュインと消えていった。気配は学舎内にあるので大方アリステリア様のところだろう。つーか、あの親バカ……やっぱりただの変態ストーカーだったか。
 俺が、消え去ったソーマの影を呆れ顔で見ていると不意に後方から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「あ、いたいた」
「ん?」
 声が聞こえたのでチラリと視線を移動させると、手を振りながらこっちに走り寄ってくるノーラがいた。その後ろにはエリリーがノーラに追従するように走り寄ってきた。
 この二人は最近仲がいいなぁ。
「どうしたの?」
「えー?いや、特に用があったわけじゃないよ」
「うん。ただグレイがいたから何となく声かけただけだから」
「そっかー。ところでノーラ?ソーマさんって生徒会長の護衛なの?」
「えっ……なんで知ってんの」
 一瞬固まったノーラだが直ぐに聞き返してきた。
「さっきソーマさんにあってね。こんな手紙をもらったんだ」
 俺はさっき受け取ったアリステリア様の手紙を見せるとノーラとエリリーが何故か不機嫌になった。
 ぬ?
「なんかこれ……ねぇ?」
「そうだね。まるで告白の呼び出しみたい……」
「ん?いや、違うと思うよ?」
「ちょっ、なんで言い切れんの!」
 大声を張り上げるノーラ。俺は思わずビクリと身体を震わせてしまった。
「なんでって……アリステリア様だよ?しかも会ったこともなければ話したこともないし」
「じゃあもし告白されても絶対受けたりしないよね?」
  「な、なにを?」
「だ、だから……その……」
「つまりは交際しないのかってこと!」
 珍しくモジモジして言い淀むノーラの代わりに、エリリーが答えた。
 にしても交際ねぇ……。
「しないよ」
 俺はきっぱりと言ってのけた。すると二人は見るからにパアッと明るくなった気がした。えっと……なんだろう。この二人可愛いなぁ……。表情がコロコロと変わるからだろうか。
「でも……どうして?アリステリア様だよ?」
「そうそう!みんなの憧れだよ?」
 ノーラとエリリーが、再び詰め寄って問いただしてきた。付き合って欲しいのか、欲しくないのかどっちだよ……。俺は一つだけ溜息を零すと、振り返って二人に手を振った。
「じゃあ、行ってくるよ」
 後ろからガヤガヤと何か言われているが気にしなーい。ふと、俺の脳裏に二人のことが思い浮かばれた。
 普段は馬鹿なことを話したりして一緒に笑い合うノーラ。
 ギシリス先生の野営の授業をともに受ける同士のエリリー。
 二人から感じる好意が俺は素直に嬉しい。残念だったねぇ。俺は鈍感系じゃないから、分かってしまうものなのです。どうしよう……好意を向けられるとこんなにも可愛がりたくなってしまうんだな……。しかし、何というかな……今はあまり恋愛に時間を取られたくはないんだ。
 いつかは結婚したいとは思っている。一人の女性を愛して、生涯を共にすることに憧れる……それが俺の中での真っ当な生き方だ。でも、今は……そういうのはいらない。まずは、家族が第一がモットーだから。
 俺がそんなことを考えている間に生徒会室についてしまった。扉を叩く。ノックしてもしもーし。
『どうぞ』
 と、聞こえたので俺はゆっくりとドアノブを回し、扉を開けて入室する。
「失礼します」
 後ろ手に扉を閉めて生徒会室の中を見ると、なんだか社長室みたいなところだと思った。そして奥の方の豪華な皮の椅子にはアリステリア様が座り、その隣には学舎の制服を着た男……ちっイケメンか。
 ソーマさんの気配も感じるので本当に護衛だったようだ。
「ようこそ生徒会室へ」
 見目の麗しさもさることながら、声までも凛として美しい。こういう人って王女様とかそういうキャラだと思うけど公爵なんだよね。
「まずはそこにおかけなさって」
「ありがとうございます」
 俺は言われて、アリステリア様に対面するようにしてソファに腰掛ける。
「本日はわざわざありがとうございますわ。わたくしはアリステリア・ノルス・イガーラですわ」
「あ、こちらこそ。お呼びいただいて大変恐縮しています。グレーシュ・エフォンスです」
「ふふ。楽になさって結構ですわ。わたくしはグレーシュ様と是非とも仲良くしていきたいと思っていますので」
 チラリと横の男に目を向ける。
「わたくしの従者ですが……なにか?」
 楽にと言われても……ふと噂が頭をよぎった。アリステリア様に粗相があったら、ファンやら従者やらに後ろから刺されるという……。
 アリステリア様の言葉に俺は首を振った。
「い、いえ。あの……アリステリア様の従者ならばありえないと存じますが、以前ちょっと貴族様とトラブルがありましてね」
 所詮、噂は噂でしかない。相手に直接言うのも憚れたので、適当に誤魔化しておいた。
「そうでしたか。アイクは大丈夫ですわ」
 と、イケメン従者のアイク君は俺に頭を下げて一礼した。俺も慌てて頭を下げた。
「ふふ。さて、そろそろ本題に入ってもよろしいかしら?」
「あ、はい」
 言われて俺は気を引き締めた。なにを言われるのやら……。

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