一兵士では終わらない異世界ライフ
ある日のクーロン・ブラッカス…
–––クーロン・ブラッカス–––
戦争も終わり、その他諸々もひと段落…そろそろ私も冒険者稼業に戻るべきかと思い始める今日のこの頃。
私はこのトーラの町を未だ離れられずにいた。いつまでも未練たらしくトーラの町に居座る私に冒険者稼業でこれまで一緒に旅をしてきたパーティーのメンバーが揃って呆れたように溜息を吐いた。
「なぁ、クロロや?そろそろ冒険者ギルドでクエストでも受けないと金がなくて宿屋に泊まれなくなってしまうのじゃが」
「わ、わかってます…」
だが、それはつまりこの町を出るということ。戦争の被害でトーラの町のギルドも復興作業中であり、クエストは簡易的な物しかなく懐の足しにもならない。
だから他の町に移ってクエストを受ける必要があるのだが…私はどうしてもそれを渋ってしまう。
「はぁ…」
パーティーメンバーの一人であるワードンマ・ジッカという男は呆れたようにもう一度溜息を吐く。
私は申し訳ない気持ちと気まずさでテーブルの上にある酒の注がれた木製の器の取っ手を掴みグイッと酒を胃に流し込む。
トーラの町の酒場は被害がなく、支給品やらで稼働出来ている。そのおかげで私はこうして酒を飲んでいる。
酒を飲む私をワードンマの隣で見ていた二人目のパーティーメンバーである女性…アルメイサ・ナリアクールはワードンマと同じように溜息を吐いた。
な、なんですか二人して……。
「クロロちゃんはどうしてこの町から動けないの?こんなの…冒険者ならいつものことでしょ?」
その通りだ。冒険者にとって町というのは一期一会。といっても絶対に同じ町に行かないわけではないが、多くの繋がりを持つために冒険者というのは色々な町に行き、仕事を受ける。
それは一定の居場所を持たない冒険者にとって、生きるための最後の手段。仕事で得た繋がりで私達冒険者は生きている。
冒険者というのはそういうものだ。だからこそ、一期一会であり別れはいつもののこと…私はそれを何度も何度も経験して来ている。
そんな私がこの町を離れたくない理由…それは口にするのも考えるだけでも恥ずかしいことだが……。
「………そ、その…」
私が言い渋っていると訝しげに私を見ていたアルメイサが突然口角を吊り上げてニヤリと笑った。
「あれれ〜?クロロちゃん?顔を赤くしてどうしちゃったの〜?」
「えっ!?」
私は思わず自分の顔を確かめる。熱い…顔が赤くなっていたのは本当だった。
「そっか〜なるほどね〜」
「ん?どうしたのじゃアルメイサ?」
不思議そうに首を傾げて尋ねるワードンマを無視し、アルメイサはただただニヤニヤと私を見つめてくるだけだ。
そして徐にアルメイサが口を開いた。
「男だね!」
「男〜?」
アルメイサが高々といった言葉にワードンマがさらに呆れた顔でそれを眺めた。それが癇に障った様で、アルメイサは隣に座るワードンマのつま先を踵で踏み潰した。
「いたいのじゃ!」
悶絶するワードンマを他所にアルメイサはニヤニヤと私を見つめる。
い、居心地が悪い……。
「ねぇー?そうなんだよね?クロロちゃん?」
どうしよう……確かに男関係の問題ではある。でも男は男でも男の子…あの子の事を考えるとどうにも動悸が早まる。
どうしようか…どう答えようか私が考えあぐねているとアルメイサがグイグイと身体を寄せてきた。
「で〜?名前はなんて言うの?」
「うっ…ぐ、グレーシュ…」
私は思わずその名前を教えてしまった。そして口にした瞬間に私の顔も赤くなってしまった。
ど、どうしてこんなにドキドキするのか…私には分からなかった。割と長い年月を生きてきた私だがこんな気持ちになったのは生まれて初めてだった。
「ふぅ〜ん?うふふふふ」
アルメイサは心底楽しそうに笑う。と、隣で暫く悶絶していたワードンマが話しだけは聞いていたのか割り込んできた。
「クロロが男ね。ないじゃろ?」
「はぁ?ちょっと黙ってくれる!?」
アルメイサが本気でそう叫んだが、ワードンマは耳を塞いで軽く流した。
「よく考えてみろ?クロロは超イケメン貴族から求婚されても断るくらい無欲で、生真面目な女じゃぞ?そんな女が今更どんな男に惚れるのじゃん」
「ふむ…確かに……。でも、もしかしたらクロロちゃんがショタコンという可能性もあるわよね」
「え?なんですかそれ!?違いますよ!」
「だって好きなんでしょ?」
言われて私は固まった。好き?
私がグレーシュのことを?
それは…、
「違う…気がします。私がグレーシュに向けているこの気持ちは好きとは違う気がします…好きか嫌いかで言われたら好きですけど…」
「だったらあれじゃな。そりゃあ、弟みたいに思ってるだけじゃろ?」
「「え?」」
私はアルメイサと声を重ねてワードンマに視線を向けた。
「だって、そうじゃろ?好きだけど恋愛感情じゃないってんなら弟として好きってわけじゃ。よくある話じゃぞ?小さい子供ってのはそんな風に感じるもんじゃ」
もしワードンマが、私が持つ気持ちを少女に持っていたら危ない気がするが…しかしなるほど。
「私はグレーシュのことを弟として好きだったんですね!」
なんだか私は晴れなかった気持ちが晴れた気がした。では、そろそろ離れることにしましょうか……少し名残惜しいですけど……。
それから私がグレーシュと約束を交わしたのは翌日のこと……八年という期間は私にとって長い時間ではないけれど……早くもう一度会いたいものです。
戦争も終わり、その他諸々もひと段落…そろそろ私も冒険者稼業に戻るべきかと思い始める今日のこの頃。
私はこのトーラの町を未だ離れられずにいた。いつまでも未練たらしくトーラの町に居座る私に冒険者稼業でこれまで一緒に旅をしてきたパーティーのメンバーが揃って呆れたように溜息を吐いた。
「なぁ、クロロや?そろそろ冒険者ギルドでクエストでも受けないと金がなくて宿屋に泊まれなくなってしまうのじゃが」
「わ、わかってます…」
だが、それはつまりこの町を出るということ。戦争の被害でトーラの町のギルドも復興作業中であり、クエストは簡易的な物しかなく懐の足しにもならない。
だから他の町に移ってクエストを受ける必要があるのだが…私はどうしてもそれを渋ってしまう。
「はぁ…」
パーティーメンバーの一人であるワードンマ・ジッカという男は呆れたようにもう一度溜息を吐く。
私は申し訳ない気持ちと気まずさでテーブルの上にある酒の注がれた木製の器の取っ手を掴みグイッと酒を胃に流し込む。
トーラの町の酒場は被害がなく、支給品やらで稼働出来ている。そのおかげで私はこうして酒を飲んでいる。
酒を飲む私をワードンマの隣で見ていた二人目のパーティーメンバーである女性…アルメイサ・ナリアクールはワードンマと同じように溜息を吐いた。
な、なんですか二人して……。
「クロロちゃんはどうしてこの町から動けないの?こんなの…冒険者ならいつものことでしょ?」
その通りだ。冒険者にとって町というのは一期一会。といっても絶対に同じ町に行かないわけではないが、多くの繋がりを持つために冒険者というのは色々な町に行き、仕事を受ける。
それは一定の居場所を持たない冒険者にとって、生きるための最後の手段。仕事で得た繋がりで私達冒険者は生きている。
冒険者というのはそういうものだ。だからこそ、一期一会であり別れはいつもののこと…私はそれを何度も何度も経験して来ている。
そんな私がこの町を離れたくない理由…それは口にするのも考えるだけでも恥ずかしいことだが……。
「………そ、その…」
私が言い渋っていると訝しげに私を見ていたアルメイサが突然口角を吊り上げてニヤリと笑った。
「あれれ〜?クロロちゃん?顔を赤くしてどうしちゃったの〜?」
「えっ!?」
私は思わず自分の顔を確かめる。熱い…顔が赤くなっていたのは本当だった。
「そっか〜なるほどね〜」
「ん?どうしたのじゃアルメイサ?」
不思議そうに首を傾げて尋ねるワードンマを無視し、アルメイサはただただニヤニヤと私を見つめてくるだけだ。
そして徐にアルメイサが口を開いた。
「男だね!」
「男〜?」
アルメイサが高々といった言葉にワードンマがさらに呆れた顔でそれを眺めた。それが癇に障った様で、アルメイサは隣に座るワードンマのつま先を踵で踏み潰した。
「いたいのじゃ!」
悶絶するワードンマを他所にアルメイサはニヤニヤと私を見つめる。
い、居心地が悪い……。
「ねぇー?そうなんだよね?クロロちゃん?」
どうしよう……確かに男関係の問題ではある。でも男は男でも男の子…あの子の事を考えるとどうにも動悸が早まる。
どうしようか…どう答えようか私が考えあぐねているとアルメイサがグイグイと身体を寄せてきた。
「で〜?名前はなんて言うの?」
「うっ…ぐ、グレーシュ…」
私は思わずその名前を教えてしまった。そして口にした瞬間に私の顔も赤くなってしまった。
ど、どうしてこんなにドキドキするのか…私には分からなかった。割と長い年月を生きてきた私だがこんな気持ちになったのは生まれて初めてだった。
「ふぅ〜ん?うふふふふ」
アルメイサは心底楽しそうに笑う。と、隣で暫く悶絶していたワードンマが話しだけは聞いていたのか割り込んできた。
「クロロが男ね。ないじゃろ?」
「はぁ?ちょっと黙ってくれる!?」
アルメイサが本気でそう叫んだが、ワードンマは耳を塞いで軽く流した。
「よく考えてみろ?クロロは超イケメン貴族から求婚されても断るくらい無欲で、生真面目な女じゃぞ?そんな女が今更どんな男に惚れるのじゃん」
「ふむ…確かに……。でも、もしかしたらクロロちゃんがショタコンという可能性もあるわよね」
「え?なんですかそれ!?違いますよ!」
「だって好きなんでしょ?」
言われて私は固まった。好き?
私がグレーシュのことを?
それは…、
「違う…気がします。私がグレーシュに向けているこの気持ちは好きとは違う気がします…好きか嫌いかで言われたら好きですけど…」
「だったらあれじゃな。そりゃあ、弟みたいに思ってるだけじゃろ?」
「「え?」」
私はアルメイサと声を重ねてワードンマに視線を向けた。
「だって、そうじゃろ?好きだけど恋愛感情じゃないってんなら弟として好きってわけじゃ。よくある話じゃぞ?小さい子供ってのはそんな風に感じるもんじゃ」
もしワードンマが、私が持つ気持ちを少女に持っていたら危ない気がするが…しかしなるほど。
「私はグレーシュのことを弟として好きだったんですね!」
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