一兵士では終わらない異世界ライフ
無自覚の道化
※
「あれ?」
と、俺は自分の部屋に置いてきたみんなのところへ行くとまだ目が覚めていないようだ。ちなみに、クロロもここに置いてきていたのだが同じく寝ている。
まあ、昨夜はあれだけ騒いでいたんだし仕方ないか……とはいえ、みんなお仕事もあるだろうからと俺はみんなをユサユサして起こした。
「んー」
ソニア姉は寝ぼけて俺に抱きつき、ニヘラーと笑った。それを横で見ていたシェーレちゃんが苦笑するくらいには幸せそうな顔だ。
その後、アルメイサなどを起こしてみんなが目を覚ました。
「あ、れ……?私、寝ていたのかしらぁ……?」
「はい、めっちゃ寝てました」
「うそ……」
何故かアルメイサが驚いている。どうしたんだろう……。
「疲れて眠ってたんじゃないですか?」
俺が言うと、アルメイサは額に手を当てて、首を横に振った。
「違う……そんなはずは……ないわよー……?だって、万が一の時に備えて眠気防止の魔術だって……そうよぉ……たしかぁーあの時、いきなり全身に寒気が走ったかと思ったら大きな殺気を感じたのよ〜」
「殺気?」
「そう……とんでもない重圧で思わず気絶してしまったわぁ……」
へぇー……しかし、なんで殺気なんかが……俺が首を捻っているとワードンマが起き上がりながらガタガタ震えていた。
「い、いやー……あ、あのレベルの殺気は今まで冒険者稼業を続けてきたワシらでも感じたことはなかったわい……。その殺気のせいか、微妙に地面が揺れてたしのぉ……」
揺れてたのはワードンマさんでしょ?草生えるわーwwwとか言ってやろうかと思ったが、どうも嘘ではないようだ。額から冷や汗が滲み出ているのが見て取れた。
「あ、お姉ちゃんとお母さんは大丈夫でしたか?」
「えぇ……二人も気絶しただけみたいよぉー?」
「そうですか」
殺気か……この俺が感じなかったのは何故だ?今回はたまたま何もなかったからいいけど……一体、そいつは何が目的なんだろう……いや、何も目的はないかもしれないが。
なんにせよ、二人が無事なら今はどえでもいいか。
やがて、全員起き出して俺はシェーレちゃんを紹介した。
そういえば、なんだかかシェーレちゃんが何かを言いたげな気配を感じたけど……なんだったんだろう?
※
ダイニングのテーブルに着いたみんなに、シェーレちゃん紹介すると、「幽霊!?」とおどろいたように固まった。というか、驚いてるな……。
「おどろ……かせて、ごめんなさい……」
シェーレちゃんが心の底から謝罪しているのを感じたのか、みんなは戸惑いながらも許してくれた。ちなみに、クロロだが……どうも昨夜の記憶がないらしくいつも通りだった。
クロロも幽霊が怖いわけではないようで、シェーレちゃんと仲良くしてくれている。
というわけで、この騒動も一件落着したところでワードンマが俺のところにくると耳打ちした。
「バスターしてくるのではなかったのか」
どんだけ怯えてんだよ……俺は視線をシェーレちゃんの周りでワイワイしているソニア姉達女性陣に向けた。
見てみろ、女性陣のあの順応の早さ!見習え!!
ふと、視界の中でソニア姉がシェーレちゃんに向かって手をワキワキさせているのが見えた。あ、これ……ソニア姉が可愛いものを愛でたいと思ったときに出てくる奴だと思って、俺は咳払いして言った。
「ソニア姉とラエラ母さんはシェーレに触れちゃダメだよ?神官の力で強制成仏しちゃうから」
「ひっ!?」
今度はシェーレちゃんが怯え出した。それでソニア姉とラエラ母さんはショボーンと眉を下げた。ご、ごめんよ……?
クロロに視線を向けると、やはりいつも通り内輪の外で楽しそうなみんなを見て微笑んでいた。
シェーレちゃんはこれからラエラ母さんと一緒に家事や洗濯など手伝う(ポルターガイスト)らしい。
ふぅ……さて、俺は俺で今日もお仕事だ。寝てないから若干身体が怠いなぁー。
俺がそんな呑気なことを考えているときだった……。
カンカンカン
この音は……。
「緊急時の鐘の音……なんかあったのかな?僕、急いで行ってくる」
「う、うん……気をつけてね!」
ソニア姉に言われた俺は身支度もそこそこに、我が家を飛び出して王城に向かった。
今の鐘の音は緊急時に兵士達を招集するものだ。つまり、軍がただちに出動しなければならない事態が発生しているということ……一体何が?と、王都の市街地へ着いた俺は目を丸くさせた。
「な、なんだこれ……」
市街地に広がる住宅街……そこはいつもと違う光景を俺に見せた。全てではないが、一部の木製住宅が崩れていたり、亀裂が入っていたりしていた。
なんだ?何が起きたんだ?
急いで王城へ行くと、チラホラと兵士達が集まっている。その中にスカッシュ先輩を見つけた俺は事情を聞くために声をかけた。
「スカッシュ先輩!何があったんですか?」
「……グレイか!無事だったかー……何がクソもないだろ。昨日の夜、カミさんと酒場で飲んでたら気絶しちまってな……で、気づいたら町がボロボロだ。まあ、そんなに酷い被害は出ていないらしいが……一部だと建物が半壊だとよ」
「は、半壊?」
思わず俺は訊き返した。本当に何があったのだろう……そういえば、ワードンマやアルメイサも気絶したとこなんとか言ってたな。そのときにワードンマが揺れたとか何とか……もしかして、この惨状は地震なのか?
俺がウンウン唸って思考を巡らせていると、徐々に兵士達が集まってきて、そこにノーラとエリリー……その他の師兵階級のお偉いさんを連れた大師長……マリンネア伯が姿を現した。それだけで、ガヤガヤしていた兵士達が一斉に黙る。
それからぞろぞろと他の師長クラスの兵士がでてきて、その中に懐かしい顔が二名ほど……。
「おっ」
俺は思わず声が出て、慌てて口を抑える。
今俺たちが集まっているところの前に壇上があるのだが、その上で師長達が泰然と並んで立っている……その中にいた知り合いというのが幼馴染のノーラの父親……ソーマ・アークエイ大師長と八年前からアリステリア様の護衛役を務めていたイケメンくんのアイク・バルトドスがいた。階級は師長になったのか……若いのに凄いなと俺は感心して見ていた。
暫くして、大きな威圧感を放って現れたのがイガーラ王国軍の総括……アリステリア様の父親にして王下四家という国の重要な役割を担う公爵家中で軍事を司るノルス公爵家の家督……ゲハインツ・ノルス・イガーラ将軍……ツルツルテカテカなスキンヘッドで、白い無精髭……全身フルプレートでも分かるような分厚い胸板に豪腕……そして強者が放つ圧倒的な覇気。
まさに、国の懐刀であるノルス公爵家の家督という威厳の体現者だ。
兵士達はあまりの重圧に冷や汗をかいている者が多い。こと俺も見るからに怖そうな人だったので、関わりたくないなぁ……と内心で苦い気分になっていた。
と、ゲハインツ将軍の後ろに付いて歩くようにしてアリステリア様が歩いてきた。こっちに戻ってきてたのか……。
ゲハインツ将軍は壇上の中央に立って、数名の師長達をバックに……俺たちに高く大きな声で言った。
「我が同胞達よ……儂が将軍、ゲハインツ・ノルス・イガーラだ。諸君らも知っての通り、昨夜未明……正体不明の敵によるこの王都全域を覆う大規模な魔術が展開された。その影響で、市民……それに儂らも含めて全員が意識を失い、その後大きな地揺れが発生した。幸いにして死傷者はいなかったが……しかし、いつまた敵の攻撃を受けるかも分からないため、イガーラ王国軍はたったいまより警戒態勢に入る。諸君、この国のため気を引きめよ」
「「ハッ!!」」
俺たちは胸に手を当てて敬礼し、そう返事をした。王都全域の大規模な魔術……?まさか、俺が気が付かなかったなんてな……一体何者なんだ?
とはいえ、ここで考えても答えが出るわけがない。俺は大人しく、王都外周の警備に回った。
〈軍事塔・会議室〉
ゲハインツ・ノルス・イガーラは額一杯に冷や汗をかいていた、その汗を娘のアリステリア・ノルス・イガーラは甲斐甲斐しく拭ってやる。
「うーむ……」
ゲハインツは会議室の椅子の背もたれに深く寄りかかると考え込んだ。
会議室に集まった数名の師長達はそんなゲハインツの様子を見て、いよいよ事態が深刻なものだと悟った。
さきほど、ゲハインツが兵士達に大規模な魔術といったが……それは嘘だ。そんな嘘を吐いたのにも、もちろん理由があってのことだ。
「全く……どう説明しろと……?」
ああ説明するしかなかった……まさか、兵士達に殺気だけで街中の人々……もちろんゲハインツや歴戦の戦士である師長達も含めて気絶させられ、あまつさえ地震が起こるなど……そんな馬鹿げた話を誰が信じるというのか。
こんなことを理解できるのはひとえに、ゲハインツが伝説級クラスの怪物じみた力を見たことがあったからだ。
彼らはもはや人ではない……達人が人智を超えた存在ならば、伝説とは自然すらも凌駕した存在……自然を超越した本当の化け物なのだ。
今回のこの件は、もしかすると伝説クラスの怪物が関与しているのではないかと……ゲハインツは考えて、早急にこうやって警戒態勢を敷いたのだ。自身も気絶していなければ、もっと早い対応が出来たであろうが……こればっかりは仕方がない。
この会議室に招集されていたノーラとエリリー……達人の実力を持つ二人ですら気を失っていたのだから……。
〈グレーシュ・エフォンス〉
それから三日の間……王都全域に警戒態勢が敷かれ……町の中は警備兵が治安維持に務め、俺たち軍兵はいつでも出動できるようにということと王族の守りの強化のために多数が王城に……そして残りは王都の外周でとにかく守りを固めている。
俺は外周の方でちらほらと現れる魔物達を追い払いながら働いている。あー三日も家に帰れずの日々が続くと精神的に辛い……癒しが欲しい。目の保養がしたい……ここのところ男ばかりで変な趣味に目覚めそうだよ……僕は。
「おーい、グレーシュや。ちょっと暇だから面白いことやれよ」
と、先輩兵……大学の先輩かよ……なんであの人たちはそんな無茶振りばっかり吹っかけてくるの?なに?ドアノブの物真似って?初めてだよそんなの……むしろテレビでも見たことないよ。
ドアノブの物真似と言われて必死に身体を捻っていた俺を褒めて欲しい。まあ、僕は高校中退なわけだけど……なにかと付き合いがあったんだよなぁ……大学の先輩に。つくづく、前世はクソみたいな人生だったなぁ……とか思いつつ、俺は先輩兵士の無茶振りに応えていた。
何かと受けが良く、何十人といる先輩兵士がみんな笑い転げていた。
「ぎゃははは!それ、いいわ!」
「は、腹いてぇえ!」
お気に召したようで何より……なんなら今からでも道化に転職してしまおうかとか考えていると……、
「何を……してんの?」
ギロリと俺を睨みつけて、ノーラがそこに立っていた。どうやら見回りに来たらしい……先輩兵士はみんな下手くそな口笛を吹いている。誤魔化しているつもりなのだろうか……俺はあははーと乾いた笑いを浮かべて何とか乗り切ろうと取り繕った。
「えっとーすみませんでした。僕が巫山戯て先輩方を困らせて……」
「最初から見てた……庇っても無駄だから」
「「ギクッ」」
あららーと俺が他人事のように思っているとノーラが俺を見る目がさらに鋭く尖った。
「なに?どうして巫山戯ていたの?」
「すみません。僕が自分から……」
「違うよね?そこの人たちに言われたからでしょ?あんたはそこの人たちの言いなりだったわけでしょ?」
俺はあまりの迫力にうっと押し黙った。先輩方に至ってはガタガタ震えている。それほどの覇気を感じる。
というか、どうしてこんなに怒っているのだろうか。否、怒っているというよりも……やはり何か俺に対して不満を持っているように感じた。確かに勤務中に巫山戯ていたのは僕の所為です。はい、本当に申し訳ないです。
「ねぇ?どうしてよ……グレーシュは……グレイは昔から臆病なところはあったけど……そんな風に、情けなくはなかった!こともない……ような」
「え?結局なにが言いたいの?僕のライフを削りたいの?」
「ち、違うしぃ!そうじゃなくて……もう!!
俺がノーラと言い合っているところで、街道の奥の方から王都へ向かって走ってくる馬が一騎……見るとイガーラ王国軍の兵士のようだ。
確か、将軍が周辺調査のために派遣した伝達兵だ。その兵士はとても慌てた様子で、検問所を通ると直ぐさま王城へ向かっていった。
その後、俺たちにバニッシュベルト帝国が侵攻していることが知らせることとなった。
「あれ?」
と、俺は自分の部屋に置いてきたみんなのところへ行くとまだ目が覚めていないようだ。ちなみに、クロロもここに置いてきていたのだが同じく寝ている。
まあ、昨夜はあれだけ騒いでいたんだし仕方ないか……とはいえ、みんなお仕事もあるだろうからと俺はみんなをユサユサして起こした。
「んー」
ソニア姉は寝ぼけて俺に抱きつき、ニヘラーと笑った。それを横で見ていたシェーレちゃんが苦笑するくらいには幸せそうな顔だ。
その後、アルメイサなどを起こしてみんなが目を覚ました。
「あ、れ……?私、寝ていたのかしらぁ……?」
「はい、めっちゃ寝てました」
「うそ……」
何故かアルメイサが驚いている。どうしたんだろう……。
「疲れて眠ってたんじゃないですか?」
俺が言うと、アルメイサは額に手を当てて、首を横に振った。
「違う……そんなはずは……ないわよー……?だって、万が一の時に備えて眠気防止の魔術だって……そうよぉ……たしかぁーあの時、いきなり全身に寒気が走ったかと思ったら大きな殺気を感じたのよ〜」
「殺気?」
「そう……とんでもない重圧で思わず気絶してしまったわぁ……」
へぇー……しかし、なんで殺気なんかが……俺が首を捻っているとワードンマが起き上がりながらガタガタ震えていた。
「い、いやー……あ、あのレベルの殺気は今まで冒険者稼業を続けてきたワシらでも感じたことはなかったわい……。その殺気のせいか、微妙に地面が揺れてたしのぉ……」
揺れてたのはワードンマさんでしょ?草生えるわーwwwとか言ってやろうかと思ったが、どうも嘘ではないようだ。額から冷や汗が滲み出ているのが見て取れた。
「あ、お姉ちゃんとお母さんは大丈夫でしたか?」
「えぇ……二人も気絶しただけみたいよぉー?」
「そうですか」
殺気か……この俺が感じなかったのは何故だ?今回はたまたま何もなかったからいいけど……一体、そいつは何が目的なんだろう……いや、何も目的はないかもしれないが。
なんにせよ、二人が無事なら今はどえでもいいか。
やがて、全員起き出して俺はシェーレちゃんを紹介した。
そういえば、なんだかかシェーレちゃんが何かを言いたげな気配を感じたけど……なんだったんだろう?
※
ダイニングのテーブルに着いたみんなに、シェーレちゃん紹介すると、「幽霊!?」とおどろいたように固まった。というか、驚いてるな……。
「おどろ……かせて、ごめんなさい……」
シェーレちゃんが心の底から謝罪しているのを感じたのか、みんなは戸惑いながらも許してくれた。ちなみに、クロロだが……どうも昨夜の記憶がないらしくいつも通りだった。
クロロも幽霊が怖いわけではないようで、シェーレちゃんと仲良くしてくれている。
というわけで、この騒動も一件落着したところでワードンマが俺のところにくると耳打ちした。
「バスターしてくるのではなかったのか」
どんだけ怯えてんだよ……俺は視線をシェーレちゃんの周りでワイワイしているソニア姉達女性陣に向けた。
見てみろ、女性陣のあの順応の早さ!見習え!!
ふと、視界の中でソニア姉がシェーレちゃんに向かって手をワキワキさせているのが見えた。あ、これ……ソニア姉が可愛いものを愛でたいと思ったときに出てくる奴だと思って、俺は咳払いして言った。
「ソニア姉とラエラ母さんはシェーレに触れちゃダメだよ?神官の力で強制成仏しちゃうから」
「ひっ!?」
今度はシェーレちゃんが怯え出した。それでソニア姉とラエラ母さんはショボーンと眉を下げた。ご、ごめんよ……?
クロロに視線を向けると、やはりいつも通り内輪の外で楽しそうなみんなを見て微笑んでいた。
シェーレちゃんはこれからラエラ母さんと一緒に家事や洗濯など手伝う(ポルターガイスト)らしい。
ふぅ……さて、俺は俺で今日もお仕事だ。寝てないから若干身体が怠いなぁー。
俺がそんな呑気なことを考えているときだった……。
カンカンカン
この音は……。
「緊急時の鐘の音……なんかあったのかな?僕、急いで行ってくる」
「う、うん……気をつけてね!」
ソニア姉に言われた俺は身支度もそこそこに、我が家を飛び出して王城に向かった。
今の鐘の音は緊急時に兵士達を招集するものだ。つまり、軍がただちに出動しなければならない事態が発生しているということ……一体何が?と、王都の市街地へ着いた俺は目を丸くさせた。
「な、なんだこれ……」
市街地に広がる住宅街……そこはいつもと違う光景を俺に見せた。全てではないが、一部の木製住宅が崩れていたり、亀裂が入っていたりしていた。
なんだ?何が起きたんだ?
急いで王城へ行くと、チラホラと兵士達が集まっている。その中にスカッシュ先輩を見つけた俺は事情を聞くために声をかけた。
「スカッシュ先輩!何があったんですか?」
「……グレイか!無事だったかー……何がクソもないだろ。昨日の夜、カミさんと酒場で飲んでたら気絶しちまってな……で、気づいたら町がボロボロだ。まあ、そんなに酷い被害は出ていないらしいが……一部だと建物が半壊だとよ」
「は、半壊?」
思わず俺は訊き返した。本当に何があったのだろう……そういえば、ワードンマやアルメイサも気絶したとこなんとか言ってたな。そのときにワードンマが揺れたとか何とか……もしかして、この惨状は地震なのか?
俺がウンウン唸って思考を巡らせていると、徐々に兵士達が集まってきて、そこにノーラとエリリー……その他の師兵階級のお偉いさんを連れた大師長……マリンネア伯が姿を現した。それだけで、ガヤガヤしていた兵士達が一斉に黙る。
それからぞろぞろと他の師長クラスの兵士がでてきて、その中に懐かしい顔が二名ほど……。
「おっ」
俺は思わず声が出て、慌てて口を抑える。
今俺たちが集まっているところの前に壇上があるのだが、その上で師長達が泰然と並んで立っている……その中にいた知り合いというのが幼馴染のノーラの父親……ソーマ・アークエイ大師長と八年前からアリステリア様の護衛役を務めていたイケメンくんのアイク・バルトドスがいた。階級は師長になったのか……若いのに凄いなと俺は感心して見ていた。
暫くして、大きな威圧感を放って現れたのがイガーラ王国軍の総括……アリステリア様の父親にして王下四家という国の重要な役割を担う公爵家中で軍事を司るノルス公爵家の家督……ゲハインツ・ノルス・イガーラ将軍……ツルツルテカテカなスキンヘッドで、白い無精髭……全身フルプレートでも分かるような分厚い胸板に豪腕……そして強者が放つ圧倒的な覇気。
まさに、国の懐刀であるノルス公爵家の家督という威厳の体現者だ。
兵士達はあまりの重圧に冷や汗をかいている者が多い。こと俺も見るからに怖そうな人だったので、関わりたくないなぁ……と内心で苦い気分になっていた。
と、ゲハインツ将軍の後ろに付いて歩くようにしてアリステリア様が歩いてきた。こっちに戻ってきてたのか……。
ゲハインツ将軍は壇上の中央に立って、数名の師長達をバックに……俺たちに高く大きな声で言った。
「我が同胞達よ……儂が将軍、ゲハインツ・ノルス・イガーラだ。諸君らも知っての通り、昨夜未明……正体不明の敵によるこの王都全域を覆う大規模な魔術が展開された。その影響で、市民……それに儂らも含めて全員が意識を失い、その後大きな地揺れが発生した。幸いにして死傷者はいなかったが……しかし、いつまた敵の攻撃を受けるかも分からないため、イガーラ王国軍はたったいまより警戒態勢に入る。諸君、この国のため気を引きめよ」
「「ハッ!!」」
俺たちは胸に手を当てて敬礼し、そう返事をした。王都全域の大規模な魔術……?まさか、俺が気が付かなかったなんてな……一体何者なんだ?
とはいえ、ここで考えても答えが出るわけがない。俺は大人しく、王都外周の警備に回った。
〈軍事塔・会議室〉
ゲハインツ・ノルス・イガーラは額一杯に冷や汗をかいていた、その汗を娘のアリステリア・ノルス・イガーラは甲斐甲斐しく拭ってやる。
「うーむ……」
ゲハインツは会議室の椅子の背もたれに深く寄りかかると考え込んだ。
会議室に集まった数名の師長達はそんなゲハインツの様子を見て、いよいよ事態が深刻なものだと悟った。
さきほど、ゲハインツが兵士達に大規模な魔術といったが……それは嘘だ。そんな嘘を吐いたのにも、もちろん理由があってのことだ。
「全く……どう説明しろと……?」
ああ説明するしかなかった……まさか、兵士達に殺気だけで街中の人々……もちろんゲハインツや歴戦の戦士である師長達も含めて気絶させられ、あまつさえ地震が起こるなど……そんな馬鹿げた話を誰が信じるというのか。
こんなことを理解できるのはひとえに、ゲハインツが伝説級クラスの怪物じみた力を見たことがあったからだ。
彼らはもはや人ではない……達人が人智を超えた存在ならば、伝説とは自然すらも凌駕した存在……自然を超越した本当の化け物なのだ。
今回のこの件は、もしかすると伝説クラスの怪物が関与しているのではないかと……ゲハインツは考えて、早急にこうやって警戒態勢を敷いたのだ。自身も気絶していなければ、もっと早い対応が出来たであろうが……こればっかりは仕方がない。
この会議室に招集されていたノーラとエリリー……達人の実力を持つ二人ですら気を失っていたのだから……。
〈グレーシュ・エフォンス〉
それから三日の間……王都全域に警戒態勢が敷かれ……町の中は警備兵が治安維持に務め、俺たち軍兵はいつでも出動できるようにということと王族の守りの強化のために多数が王城に……そして残りは王都の外周でとにかく守りを固めている。
俺は外周の方でちらほらと現れる魔物達を追い払いながら働いている。あー三日も家に帰れずの日々が続くと精神的に辛い……癒しが欲しい。目の保養がしたい……ここのところ男ばかりで変な趣味に目覚めそうだよ……僕は。
「おーい、グレーシュや。ちょっと暇だから面白いことやれよ」
と、先輩兵……大学の先輩かよ……なんであの人たちはそんな無茶振りばっかり吹っかけてくるの?なに?ドアノブの物真似って?初めてだよそんなの……むしろテレビでも見たことないよ。
ドアノブの物真似と言われて必死に身体を捻っていた俺を褒めて欲しい。まあ、僕は高校中退なわけだけど……なにかと付き合いがあったんだよなぁ……大学の先輩に。つくづく、前世はクソみたいな人生だったなぁ……とか思いつつ、俺は先輩兵士の無茶振りに応えていた。
何かと受けが良く、何十人といる先輩兵士がみんな笑い転げていた。
「ぎゃははは!それ、いいわ!」
「は、腹いてぇえ!」
お気に召したようで何より……なんなら今からでも道化に転職してしまおうかとか考えていると……、
「何を……してんの?」
ギロリと俺を睨みつけて、ノーラがそこに立っていた。どうやら見回りに来たらしい……先輩兵士はみんな下手くそな口笛を吹いている。誤魔化しているつもりなのだろうか……俺はあははーと乾いた笑いを浮かべて何とか乗り切ろうと取り繕った。
「えっとーすみませんでした。僕が巫山戯て先輩方を困らせて……」
「最初から見てた……庇っても無駄だから」
「「ギクッ」」
あららーと俺が他人事のように思っているとノーラが俺を見る目がさらに鋭く尖った。
「なに?どうして巫山戯ていたの?」
「すみません。僕が自分から……」
「違うよね?そこの人たちに言われたからでしょ?あんたはそこの人たちの言いなりだったわけでしょ?」
俺はあまりの迫力にうっと押し黙った。先輩方に至ってはガタガタ震えている。それほどの覇気を感じる。
というか、どうしてこんなに怒っているのだろうか。否、怒っているというよりも……やはり何か俺に対して不満を持っているように感じた。確かに勤務中に巫山戯ていたのは僕の所為です。はい、本当に申し訳ないです。
「ねぇ?どうしてよ……グレーシュは……グレイは昔から臆病なところはあったけど……そんな風に、情けなくはなかった!こともない……ような」
「え?結局なにが言いたいの?僕のライフを削りたいの?」
「ち、違うしぃ!そうじゃなくて……もう!!
俺がノーラと言い合っているところで、街道の奥の方から王都へ向かって走ってくる馬が一騎……見るとイガーラ王国軍の兵士のようだ。
確か、将軍が周辺調査のために派遣した伝達兵だ。その兵士はとても慌てた様子で、検問所を通ると直ぐさま王城へ向かっていった。
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