一兵士では終わらない異世界ライフ

矢追 参

システム・バージョンアップデート

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 ノーラを横たえ、後はクロロに任せて俺は自分の前方に岩の壁【ロックシールド】を生成する。ベルリガウスはビリっと身体から電撃を迸らせると、一瞬にして壁を右から回り込む……その動きを読んでいた俺は丁度ベルリガウスが現れた場所に手のひらを向け……、

「【ディスペル】」

 固有魔術【ディスペル】……、

「はーはん……?二度も同じ手を喰らうかよぉ!!」

 ベルリガウスは全身から放電し、俺が放った波動を相殺しようとした。だが……次の瞬間、自信満々なベルリガウスの表情が驚愕と苦悶の色に染められた。その理由は……ベルリガウスの背後から突出した岩の槍……俺が発動した初級地属性魔術【ロックランス】がベルリガウスの右肩を貫いていたからだ。

「ば、ばかな……なぜだ……」
「なぜって……別に【ディスペル】って言っただけですが?」

 そう、俺は口で【ディスペル】と述べただけであって実際に使ったのは【ロックランス】……それを無詠唱で使ったに過ぎない。だが、ベルリガウスの疑問はもう一つあるのだろう……どうして【ロックランス】が雷そのもののようなベルリガウスを貫いてダメージを与えられるのか。
 それは、【ロックランス】に闇の元素・・・・を付与しているからだ。闇の元素の特性の一つ……干渉の力は霊体にも触れられる。それは万物全てにも干渉できることを意味するのだ。

「がふっ……ぐぅ」

 ベルリガウスは口から血を吐くがすぐに電撃で【ロックランス】を木っ端微塵にして傷を修復する。
 規格外だな……さっき【バリス】放った時に効いてないのを見て、こういう作戦を立てたのだ。だが、【ロックランス】がベルリガウスを貫く寸前……それにベルリガウスが反応して見せた。俺はベルリガウスの頭を狙って放ったのにも関わらず……。反応速度も雷なみだと、正直もう手も足も出ない……。
 なぜなら、俺が一手動いてからベルリガウスは一手動けるという後出しし放題な権利を持っているということになる。
 もう本当に勘弁して欲しい……。
 俺はすぐ後ろにいたクロロに向けて叫んだ。

「クロロ!ノーラを頼む!」

 俺は睨んでくるベルリガウスに向かって駆け出し、右腕を【イビル】で固める。岩石が集結して黒々とした大きな悪魔の腕を生成し、それを錬成術で絶縁体に変換する……!

「【イビル……」

 俺がその巨大な拳を握りしめて、ベルリガウスに殴りかかろうとするとベルリガウスはニヒル笑みを浮かべて電撃の速さで俺の背後に回り込み、左手に握る剣を振り下ろそうと……、

「がっ……!?」

 だが、その動きを読んでいた俺は殴りかかるかと思いきや、遠心力で威力を増した【イビル】による初級体技【裏拳】をベルリガウスに叩き込んだ。
 吹き飛んだベルリガウスだが、すぐにダメージを回復させて俺に鋭い視線を向けた。

「クソガァ……小賢しい技ばかりぃ……雑魚があぁあ!!」
「………(´◉◞౪◟◉) 」

 小賢しい顔をしたらベルリガウスは真顔になった。
 どうするか……動きは簡単に読める。あの手の悪役の考え方なんてたかが知れている。雷の速度で行動可能なベルリガウスは自分の速さを過信している。早漏の癖に自信家なのだ。やっぱり、小賢しくてもテクニックだろ……じゃなくて、兎に角そういう奴は後ろに回りたがる。
 そうやって、ベルリガウスが俺のことを嘗めている間は攻撃が当たるだろうが……その気になれば人間の反応速度の限界を超えて、ベルリガウスは行動できるのだ。もちろん、その分魔力を使うのだろう。さっきから、ベルリガウスが傷の修復や移動にばかり雷の力を使っているのは魔力の節約のため……攻撃にまで使われたらさすがに反応の仕様がない。
 幸い、二刀流使いとの戦いはクロロで一度やっているから動きは大体把握出来ている。ベルリガウスの剣術はクロロと同じ速さを極めた剣技だ。まあ、その方が雷との相性もいいのだろう。
 だからベルリガウスの二刀流はそこまで怖くない。現状ネックなのは、後出しで動かれると厄介ということと回復力の高さだ。ベルリガウスを仕留めるには致命傷ではダメだ。確実に一撃で殺さなくてはならない。
 俺は弓を構えると、ベルリガウスに照準を合わせた。

「当たられるもんならぁ……当ててみよろやぁあ!!」

 俺は【アサシン】を応用し、音のない矢を放った。初級闇属性弓技【ダークアロー】を使ったため、当たればダメージが入る。
 音はなく、気配もない……雷ほどではないにしろ、人間の目には捉えられない速度の矢がベルリガウスの頭を狙って飛んでいく。
 ベルリガウスは当然のごとくそれを避けるのだが、俺は丁度避けたところにも矢を放っており、つまりは二段構えでベルリガウスに仕掛けた。
 ベルリガウスは二本目の本命にすら反応して見せたが、微かにベルリガウスの頬を掠めた。それで俺はニヤリと笑った。

「ぐっ……おめぇ……」

 ベルリガウスは頬を引きつらせ、それから真剣な顔つきになり、その足を止めた。

「おめぇ……グレーシュとか言いやがったなぁ。どうして、おめぇ程の奴が今まで無名だったぁ?」
「…………」

 ベルリガウスの問いに無言を返すと、ベルリガウスはハッ笑い飛ばすと腰を深く下げた。来る……。

「まあ、どうでもいいかぁ……どうせおめぇはここで俺に殺されるんだからなぁ……っ!!」

 ベルリガウスがビリビリと放電した次の瞬間……俺の視界からベルリガウスは消えていて、やはり俺の背後に回っていた。気配だけ感知していた俺は慌てず、冷静にベルリガウスの攻撃を躱すために前方へ宙返りするように飛び、上下が逆転して、その上頭が地面スレスレのところで剣をまさに振ろうとしていたベルリガウスに弓の照準を合わせた。
 さすがに、攻撃の最中じゃ移動はできないよな?
 そう判断し、俺は【ダークアロー】をぶっ放す。音のない矢がベルリガウスの頭へ吸い込まれていくが、ベルリガウスは攻撃の動作を止めずに剣を上から下に向かって振り切り、その際に頭も下がったため俺の放った矢が避けられた。

「っ……」

 俺は歯噛みしながら地面に手を付いて身体を捻って反転させ、再び地面に着地した。その流れで後ろへ飛び退きながら再びベルリガウスに矢を放つ。
 振り抜いてこっちに再び電光石火で接近しようとしていたベルリガウスは身を翻し、矢を避けてから目にも止まらないというのを超えた速さで俺の目の前に現れた。
 後ろへ飛んでいた俺と、目の前で立ち止まったベルリガウスは瞬きの間に距離が開いていくが、ベルリガウスの左手に握られた剣が振り抜かれた際のリーチを考えるとギリギリ俺の首が飛ぶことが予想出来た。
 俺は宙で上体を反らしてベルリガウスの剣を躱し、そのまま【ブースト】を発動しながらベルリガウスに向かって錬成し直した剣を叩きつける。
 変身完了と同時にベルリガウスと俺の剣が交差し、衝撃が辺り一帯に走る。それをベルリガウスが驚いたように見ていた。
 鍔迫り合いになってから、ベルリガウスは至って真面目に訊いてきた。

「普通なら、俺様とこうして接しているだけで感電するんだがなぁ……おめぇなんかしたかぁ?」

 別に……と俺は特に答えなかった。【ブースト】で身体を作り直した時に皮膚を絶縁体にしただけだ。この上体ならば、ベルリガウスの攻撃は効かない……ただし、制限時間は十分だ。その間で、このビリビリ野郎を倒す!

「くらえぇ!【ジャッジメントクロス】!」

 達人級雷属性剣技【ジャッジメントクロス】……本来は一刀で十字を切る技だが、ベルリガウスのそれは二刀で行われ、超高速の十字切りが炸裂した。

「ぐっ……」

 俺は技の軌道を知っていたため、何とか全て弾いてみせ、続けように俺も剣技を発動した。

「【斬鉄剣】!」

 クロロ直伝、鉄を切る鋼の剣!

「んなもん効くかぁ!!」

 ベルリガウスは【斬鉄剣】を簡単に弾くと、今度は手数で俺に仕掛けてきた。左右からの剣の連打……それを受け流しながら、クロロの技が敗れたことにちょっと心が痛んだ。
 ごめん……と内心で平謝りしてからベルリガウスの攻勢を一度断ち切るために次に来るであろう右からくる横薙ぎの剣に備え……そして予想通りにやってきたその攻撃にタイミングを合わせて受け流して弾き飛ばす。
 ベルリガウスの右腕を上方へ弾いたことでベルリガウスの上体が反った。
 その瞬間に俺は剣をベルリガウスの心臓に突き立てようとするが、ベルリガウスが身体を捻ってそれを回避した。
 くそっ……後出し野郎!
 俺は一度飛び退きつつ、魔術の行使のために魔力保有領域ゲートを開いて、魔術を無詠唱で発動させた。使ったのは初級氷属性魔術【フリーズン】……地面を凍らせながら滑るように移動し、さらに重ねて【ロックランス】を前方に向けて放つ。
 こちらへ向かって地面を蹴ったベルリガウスは電撃の速度で突っ込んでくると、突出した岩の槍を両手に握る剣で切り裂き、そのまま前進してきた。
 もちろん、その動きを読んでいた……俺が滑っていた氷の上にベルリガウスが足を踏み入れた瞬間……ベルリガウスは電撃の速度を失ってバランスを崩した。
 俺はさながらスケートリンクの上を舞うように地面の上を高速移動しながら、中級氷属性魔術【フリーズロック】を発動した。それでベルリガウスの膝まで氷が浸食していき、動きを封じた。

「こんなものでぇ……止められるかぁ!!」

 俺が作ったスケートリンクごと雷の力でこっぱ微塵にしたベルリガウスは、跳躍して閃光のごとく俺の背後に回り込む。
 さっきから鬱陶しい!!
 俺の背後にも氷が張っているはずだが、ベルリガウスは電気の力で宙に浮き始めた。反則も良いところだ。
 俺は滑りながらしゃがんでベルリガウスの剣が頭上を過ぎ去ったのを確認してから瞬時に身体を捻ってベルリガウスの背後へ回り込む。
 だが、ここで攻撃を加えると電撃のおまけ付きで手痛いカウンターを喰らうことが読めたので背後に回り込みながらも、後退した。
 ベルリガウスはそれを宙に浮きながら感心したように笑った。

「はーはん?いい勘してやがるぜぇ……いや、おめぇは俺様の動き完全に読んでやがるみてぇだなぁ?大したもんだぁ」
「それでも、後出しで動かれたら鼬鼠ゴッコですけどね……」

 俺が動きを読んで動いた後にベルリガウスは行動できる……そして、さらにその動きを読んでもさらにベルリガウスが後出しで動けるのだ。完全な鼬鼠ゴッコ……俺の攻撃が当たらなくなるのも時間の問題かもしれない。
 俺はスケートリンクを消し、地面に手をついて魔術を行使する。使うのは上級地属性魔術【デザートオール】……一時的に一帯に砂漠を作る範囲魔術だ。
 ベルリガウスに向かって、砂の大群が呑み込もうとその巨大な口を開いた。

「はっ……こんなもん」

 ベルリガウスは笑い飛ばして右手の剣を一瞬にして振り抜く……剣風によって吹き飛ばされた砂は地面へ流れていく……そこで俺は中級風属性魔術【フード】を発動する。簡単に言えば強風を起こす魔術だ。
 強風で舞い上がった砂が舞い上がり、ベルリガウスの視界を覆った。

「ぐっ……くそがぁ!!」

 ベルリガウスは今度は左手の剣を振り抜いてそれらを吹き飛ばす。ふと、目に砂でも入ったのかベルリガウスの動きが一瞬だけ止まった。
 ベルリガウスが俺に瞬きの時間を与えた……その時間だけで俺はベルリガウスの視界から消えた。

「あ……?どこに……」

 と、ベルリガウスが口にした時には俺はベルリガウスの懐に潜り込み、人間の死角から剣を振り上げた。

「おぉっ!!」

 裂帛の気合いともに振り抜いた剣はベルリガウスを一刀両断し、魔力制御を行っていた魔力保有領域ゲートを切断した。
 これで……さすがにもう……。
 俺が警戒せずにベルリガウスの半身を見つめていると、背後でクロロが大きな声で叫んだ。

「グレイくん!倒したんですか!?」

 そのクロロの叫び声に合わせて、断ち切ったはずのベルリガウスがビリビリと再生し、起き上がると同時に俺の脇腹を抉る突きを放ってきた。

「がっ……」

 俺は堪らず後退し、ベルリガウスを睨みつけながら剣を構える。
 くそ……フラグになること言いやがって。それより、なぜベルリガウスは頭を斬ったのに復活した?くそ……。
 起き上がったベルリガウスは身体の感じを確かめるようにして肩を鳴らすと、愉快そうに笑って言った。

「残念だったなぁー、グレーシュ。確かに、頭を潰せば復活出来ねぇわなぁ……だが、知っての通り俺様には後出しの権利があるわけだぁ。おめぇが俺を斬る瞬間でも俺は動けるんだよぉ……」
 俺を油断させるために、わざと斬られた風を装ったのか……俺も読みがまだまだ甘いな。しっかし、これはまずい……【ブースト】の硬い魔力の膜に覆われた俺の身体を切り裂くか……魔剣士ってのは伊達じゃないってことか。
 このままじゃ、ダメだ……もう一段階上に行かなければこいつは倒せない。

 よし……やるか。

 俺は戦闘モードの三人称視点に映る画面を見つめながら、さらに意識を集中させ……己の意識をシステムと仮定し、そのバージョンを"1"から……アップデート!!

  
 戦闘モードvol.2

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