一兵士では終わらない異世界ライフ
目覚め
☆☆☆
それから暫くのこと……バートゥ・リベリエイジが死亡したことで完全にイガーラ王国の支配体制が瓦解。混乱する民衆に対し、神聖教会の代表でもあるシャルラッハがそこで台頭し、イガーラ国民を神の名の下に導いた。
これに対して、ベルリガウスは「上手いこと抱き込みやがったなぁ」とシャルラッハを賞賛していたが、シャルラッハはそれがあまりお気に召さなかったようだった。
すっかり王都にある神聖教会の教会を根城にしたベルリガウス等は、バートゥとの戦闘以降数週間ほどの時をのんびりと過ごしていた……。
神聖教会の祈りの場にて、今はただ一人ポツンと長椅子に座るエキドナのもとへ、ユラユラとゆったり浮かびながら銀髪の人形――ツクヨミがやってきた。
「エキドナさん」
「あら……ツクヨミちゃん。……どうしたのと尋ねるのも愚鈍なことね。……もう、大丈夫そう?」
エキドナの問い掛けに、ツクヨミは少々は言い淀むようにしたが……直ぐに頷いた。含みのある肯定に心配したエキドナは、ものをはっきりと言えないツクヨミのために出来る限り柔らかく再度訊ねた。
「本当に……大丈夫なの?」
「…………う、ん」
それでも返答はイエス。ならば、ツクヨミを信じてエキドナは待つことにした。最強にして、最高にして、最低なエキドナの主人を。
そして――教会で眠るグレーシュの身体を世話をしていた修道女からある一報が教会内に轟いた。その報せに王都の各所に散らばっていた……クーロン、ノーラント、シルーシア、ウルディアナ、ベルセルフ、エリリー、ベルリガウス、シャルラッハ、ラエラは直ぐに教会へと集合することとなった。
既に教会にいたエキドナとツクヨミはグレーシュの眠る部屋にて……ベッドから上半身を起こしていたグレーシュに頭を垂れていた。
「お帰りなさいませ……ご主人様」
「お、お帰り……なさい……お兄ちゃん」
グレーシュは跪き、面を下げる二人を一瞥すると肩を鳴らして口を開く。
「……なんか、俺が寝ぼけてる間に色々あったみたいだな」
「それはもう……沢山ございます」
「……はぁ。んじゃまあ……もう一踏ん張りと行きますか」
グレーシュは既に状況の把握を終えていた。
類い稀ない状況判断能力、洞察力、観察力はさすがと言うべきだった。誰から説明されるまでもなく、何があったかを殆ど理解していた。
「さて、もうじきみんなも来るだろう。今後の話をして、行動を起こす」
「病み上がりですし……すこしゆっくりされては?」
「ソニア姉が敵の手中にいる……あんまり、悠長なことはしていられないな」
「そうですが……」
が……その後にエキドナが続ける直後に、グレーシュの部屋の扉が開け放たれ、ゾロゾロと人が雪崩れ込んできた。
☆☆☆
なんやかんやと心配させたことや、何やら責められ怒られたりし……最終的に全員と和解したグレーシュは早速今後についての話題を切り出した。と……その前にである。
「ベルリガウス……」
「おう、俺様がどうしたぁ?」
「……いや、事情は把握してる。とりあえず、今は味方だと判断してもいいんだな?」
「おうよ!任せろってぇ」
得意げなベルリガウスにグレーシュは頭痛がするように額へ手をやるが……直ぐに頭を振って気を取り直して言った。
「で……今後の予定なんだけど、対帝国のために色々と必要なことがある」
「戦力だな」
グレーシュに続き、ベルリガウスが答えを述べた。これに疑問があったようで、ウルディアナが首を傾げながら口を出す。
「……こちらには多くの達人級の方々に加え、伝説級の方がお二人いらっしゃいますわ。それにグレーシュ様やノーラント様、クーロン様も……それでも、対帝国では戦力が足りないと?」
ベルリガウスは眉根を寄せ、ウルディアナの質問に少々面倒臭そうに頭をガシガシ掻きながら答えた。
「あっちにゃあ、モーガンの野郎がいやがる……それにだ。一重に敵は帝国だけじゃねぇ。いいか?スプレインの嬢ちゃんよぉ……この世界の勢力バランスは三つ巴になってやがってな?」
「七人の伝説と、七人の魔王、七人の最強によって世界の勢力バランスは保たれているのじゃよ」
ベルリガウスが適当に説明をすることを見越し、シャルラッハが分かりやすいようにウルディアナへと説明してやる。
この世界には七人の伝説の他、魔族が住まうアスカ大陸を7つの領地に分けて統括する七人の魔王、そして霊峰フージの山を登ってクルナトシュへと至った者の中でも最も強い――人類最強の七人。
伝説、魔王、霊峰……この三つによって世界の勢力バランスは均衡を保たれていたわけだ。が、現在ではそのバランスが乱れている。
伝説陣営も、魔王陣営も、霊峰陣営も一枚岩ではない。それぞれが、それぞれの思惑で動いている。今回……ゼフィアンの帝国側に付いた者、グレーシュ達のように帝国に敵対する者、どちらでもなく中立を保つ者……三者三様。
ここでもっとも問題なのは各陣営のトップ……伝説序列一位のモーガン、魔王にして神話に名を連ねるオールバス、霊峰の長にして今を生きる神話たるミスタッチ……この三人の動向だ。モーガンはゼフィアンの味方であるのに対し、オールバスとミスタッチはどちらも不干渉……所謂、中立の立場を取っているというところが問題だ。これのお陰でバランスが大いに崩れてしまっている。
圧倒的に帝国に敵対している側が不利だ。こういう理由から、戦力増加を図る必要がある。闇雲にソニア救出へ向かっても、手痛い返り討ちに遭うだけだ。
「仲間を集めよう……帝国に負けないくらい強い。そのために、協力者を募る。時間は少ない……まずはチームを分けようと思う。シルーシアには森人達に協力を仰ぎに説得をしてもらいたい」
「え?お、オレか?」
「うん。……で、暫くここを拠点として使うから何人か残って欲しい。あとは……」
と、グレーシュが続けようとしたところでベルリガウスがそれに割って入るように口を開いた。
「おっとっと〜ちぃっとばかし、俺様に提案があるんだがよぉ?」
ベルリガウスからの提案という単語に幾分か全員の警戒レベルがあがり、身構えた。さすがのベルリガウスは少しいじける様に眉根を寄せ、ムスッとした様で口を開く。
「こっちに後もう一人……伝説を仲間に引き入れようじゃあねぇか」
「……心当たりでもあんのか?」
シルーシアが訊くと自信を持ってベルリガウスは頷く。この場では、それぞれが未だ出会っていない伝説序列6番と5番のことを指しているのだろうと考えるが……察しの良い面々――クーロン、エキドナ、グレーシュ、シャルラッハは頬を引きつらせていた。
「まさか……」
と、シャルラッハが言うと同時にベルリガウスが高らかに叫んだ。
「セルルカ!セルルカ・アイスベートだぁ。伝説序列3番……のなぁ?」
グレーシュは思わず頭を抱え、一部の面々も口を開けて呆然としている。
セルルカ・アイスベート……つい先日グレーシュと対峙し、破れた伝説の魔術師だ。が、今のベルリガウスの発言から考えられるに……グレーシュに殺されたとされるセルルカは生きていて、今なおどこかにいるということになる。
まあ……ベルリガウスにしろ、バートゥにしろ……伝説が色々と規格外でしぶといというのは理解できている。できていても、中々スンナリと飲み込めないものだとグレーシュは遣る瀬無い気持ちになった。
「どこにいるんだ……」
「海底王国エーテルバレーだぁ」
「……ぇ」
と、グレーシュの質問に答えたベルリガウスのその答えに逸早く反応して見せたのは……ウルディアナ・スプレインだった。そして、それに続いてシルーシアとベルセルフが「あっ」と声を漏らしてウルディアナへと目配せする。
「どうかした?」
グレーシュがウルディアナへと尋ね……ふと、そういえばとグレーシュは思い出す。ウルディアナ・スプレインは魚人族鮫鮫種。海底王国エーテルバレーは、そういう魚人族が住む王国なのだ。ウルディアナがそこの出身であるのは明らかだし、なによりもスプレインという名前……世界創生の四大神の名前だ。
神の信仰深い国では、王族が神の名前を冠する場所もある。…………そう、ウルディアナ・スプレインという人物は海底王国の王族。そして、帝国との取引で人質として見捨てられた王女だ。
それから暫くのこと……バートゥ・リベリエイジが死亡したことで完全にイガーラ王国の支配体制が瓦解。混乱する民衆に対し、神聖教会の代表でもあるシャルラッハがそこで台頭し、イガーラ国民を神の名の下に導いた。
これに対して、ベルリガウスは「上手いこと抱き込みやがったなぁ」とシャルラッハを賞賛していたが、シャルラッハはそれがあまりお気に召さなかったようだった。
すっかり王都にある神聖教会の教会を根城にしたベルリガウス等は、バートゥとの戦闘以降数週間ほどの時をのんびりと過ごしていた……。
神聖教会の祈りの場にて、今はただ一人ポツンと長椅子に座るエキドナのもとへ、ユラユラとゆったり浮かびながら銀髪の人形――ツクヨミがやってきた。
「エキドナさん」
「あら……ツクヨミちゃん。……どうしたのと尋ねるのも愚鈍なことね。……もう、大丈夫そう?」
エキドナの問い掛けに、ツクヨミは少々は言い淀むようにしたが……直ぐに頷いた。含みのある肯定に心配したエキドナは、ものをはっきりと言えないツクヨミのために出来る限り柔らかく再度訊ねた。
「本当に……大丈夫なの?」
「…………う、ん」
それでも返答はイエス。ならば、ツクヨミを信じてエキドナは待つことにした。最強にして、最高にして、最低なエキドナの主人を。
そして――教会で眠るグレーシュの身体を世話をしていた修道女からある一報が教会内に轟いた。その報せに王都の各所に散らばっていた……クーロン、ノーラント、シルーシア、ウルディアナ、ベルセルフ、エリリー、ベルリガウス、シャルラッハ、ラエラは直ぐに教会へと集合することとなった。
既に教会にいたエキドナとツクヨミはグレーシュの眠る部屋にて……ベッドから上半身を起こしていたグレーシュに頭を垂れていた。
「お帰りなさいませ……ご主人様」
「お、お帰り……なさい……お兄ちゃん」
グレーシュは跪き、面を下げる二人を一瞥すると肩を鳴らして口を開く。
「……なんか、俺が寝ぼけてる間に色々あったみたいだな」
「それはもう……沢山ございます」
「……はぁ。んじゃまあ……もう一踏ん張りと行きますか」
グレーシュは既に状況の把握を終えていた。
類い稀ない状況判断能力、洞察力、観察力はさすがと言うべきだった。誰から説明されるまでもなく、何があったかを殆ど理解していた。
「さて、もうじきみんなも来るだろう。今後の話をして、行動を起こす」
「病み上がりですし……すこしゆっくりされては?」
「ソニア姉が敵の手中にいる……あんまり、悠長なことはしていられないな」
「そうですが……」
が……その後にエキドナが続ける直後に、グレーシュの部屋の扉が開け放たれ、ゾロゾロと人が雪崩れ込んできた。
☆☆☆
なんやかんやと心配させたことや、何やら責められ怒られたりし……最終的に全員と和解したグレーシュは早速今後についての話題を切り出した。と……その前にである。
「ベルリガウス……」
「おう、俺様がどうしたぁ?」
「……いや、事情は把握してる。とりあえず、今は味方だと判断してもいいんだな?」
「おうよ!任せろってぇ」
得意げなベルリガウスにグレーシュは頭痛がするように額へ手をやるが……直ぐに頭を振って気を取り直して言った。
「で……今後の予定なんだけど、対帝国のために色々と必要なことがある」
「戦力だな」
グレーシュに続き、ベルリガウスが答えを述べた。これに疑問があったようで、ウルディアナが首を傾げながら口を出す。
「……こちらには多くの達人級の方々に加え、伝説級の方がお二人いらっしゃいますわ。それにグレーシュ様やノーラント様、クーロン様も……それでも、対帝国では戦力が足りないと?」
ベルリガウスは眉根を寄せ、ウルディアナの質問に少々面倒臭そうに頭をガシガシ掻きながら答えた。
「あっちにゃあ、モーガンの野郎がいやがる……それにだ。一重に敵は帝国だけじゃねぇ。いいか?スプレインの嬢ちゃんよぉ……この世界の勢力バランスは三つ巴になってやがってな?」
「七人の伝説と、七人の魔王、七人の最強によって世界の勢力バランスは保たれているのじゃよ」
ベルリガウスが適当に説明をすることを見越し、シャルラッハが分かりやすいようにウルディアナへと説明してやる。
この世界には七人の伝説の他、魔族が住まうアスカ大陸を7つの領地に分けて統括する七人の魔王、そして霊峰フージの山を登ってクルナトシュへと至った者の中でも最も強い――人類最強の七人。
伝説、魔王、霊峰……この三つによって世界の勢力バランスは均衡を保たれていたわけだ。が、現在ではそのバランスが乱れている。
伝説陣営も、魔王陣営も、霊峰陣営も一枚岩ではない。それぞれが、それぞれの思惑で動いている。今回……ゼフィアンの帝国側に付いた者、グレーシュ達のように帝国に敵対する者、どちらでもなく中立を保つ者……三者三様。
ここでもっとも問題なのは各陣営のトップ……伝説序列一位のモーガン、魔王にして神話に名を連ねるオールバス、霊峰の長にして今を生きる神話たるミスタッチ……この三人の動向だ。モーガンはゼフィアンの味方であるのに対し、オールバスとミスタッチはどちらも不干渉……所謂、中立の立場を取っているというところが問題だ。これのお陰でバランスが大いに崩れてしまっている。
圧倒的に帝国に敵対している側が不利だ。こういう理由から、戦力増加を図る必要がある。闇雲にソニア救出へ向かっても、手痛い返り討ちに遭うだけだ。
「仲間を集めよう……帝国に負けないくらい強い。そのために、協力者を募る。時間は少ない……まずはチームを分けようと思う。シルーシアには森人達に協力を仰ぎに説得をしてもらいたい」
「え?お、オレか?」
「うん。……で、暫くここを拠点として使うから何人か残って欲しい。あとは……」
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ベルリガウスからの提案という単語に幾分か全員の警戒レベルがあがり、身構えた。さすがのベルリガウスは少しいじける様に眉根を寄せ、ムスッとした様で口を開く。
「こっちに後もう一人……伝説を仲間に引き入れようじゃあねぇか」
「……心当たりでもあんのか?」
シルーシアが訊くと自信を持ってベルリガウスは頷く。この場では、それぞれが未だ出会っていない伝説序列6番と5番のことを指しているのだろうと考えるが……察しの良い面々――クーロン、エキドナ、グレーシュ、シャルラッハは頬を引きつらせていた。
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と、シャルラッハが言うと同時にベルリガウスが高らかに叫んだ。
「セルルカ!セルルカ・アイスベートだぁ。伝説序列3番……のなぁ?」
グレーシュは思わず頭を抱え、一部の面々も口を開けて呆然としている。
セルルカ・アイスベート……つい先日グレーシュと対峙し、破れた伝説の魔術師だ。が、今のベルリガウスの発言から考えられるに……グレーシュに殺されたとされるセルルカは生きていて、今なおどこかにいるということになる。
まあ……ベルリガウスにしろ、バートゥにしろ……伝説が色々と規格外でしぶといというのは理解できている。できていても、中々スンナリと飲み込めないものだとグレーシュは遣る瀬無い気持ちになった。
「どこにいるんだ……」
「海底王国エーテルバレーだぁ」
「……ぇ」
と、グレーシュの質問に答えたベルリガウスのその答えに逸早く反応して見せたのは……ウルディアナ・スプレインだった。そして、それに続いてシルーシアとベルセルフが「あっ」と声を漏らしてウルディアナへと目配せする。
「どうかした?」
グレーシュがウルディアナへと尋ね……ふと、そういえばとグレーシュは思い出す。ウルディアナ・スプレインは魚人族鮫鮫種。海底王国エーテルバレーは、そういう魚人族が住む王国なのだ。ウルディアナがそこの出身であるのは明らかだし、なによりもスプレインという名前……世界創生の四大神の名前だ。
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