一兵士では終わらない異世界ライフ
暗闇のどこか
〈暗闇のどこか〉
魔術協会は、今の平穏な時代を壊す。神の信仰によって支配された世界を壊し、新しい秩序を築こうとしている。その結果として、世界は大きな戦いの時代……大戦時代を迎えることとなる。
人族よりも強靭的な肉体を持つ魔族が多く暮らすアスカ大陸……そこを武力で治めている者を人々は魔王と呼び、アルダンテはアスカ大陸を治める七人の魔王と一人……レヴィアタンを冠する魔王だ。
アルダンテは魔王達の中でもとりわけ武闘派であり、最も好んで戦をする。
アルダンテの治めているレヴィ領は吸血鬼の国であり、アルダンテはそんな吸血鬼達の頂点に君臨する。吸血鬼の圧倒的回復力は勿論のこと、武の才覚は並外れている。その実力は伝説にも匹敵するだろうと言われている。
そんな彼は、大戦時代を迎える世界を見て回ろうと思い立ってアスカ大陸のレヴィ領からスーリアント大陸のイガーラ王国領土までやって来ていた。
そして、吸血鬼の苦手とする太陽の光の差し込まない静かでジメジメとした洞窟を見つけ、そこで吸血鬼にとってはご馳走ともいえる妖精族の血を吸っていたのだが……アルダンテはそこまで回想してから口の端を吊り上げ、独り言のようにポツリと呟く。
「いやぁ……まさかあんな人族に出会うとはな」
アルダンテは黒髪の青年を思い出し、笑う。
「技というのは純粋な力に対抗するために、弱者が強者を屠るために編み出したものだ。正直、そのような小手先の技術では強大な力など相手に出来ないのだがな。……人族でも、技を極めればあそこまでいくものなのだな。驚いたよ……君達もそうではないかな」
アルダンテはそんな風に後ろに控える従者二人に投げかける。
従者二人は俯きながら、アルダンテに平伏する姿勢を保って口を開くことはなかった。彼女達は主人の期待に添えなかったのだ。ここで口を開くことは、彼女達自身が許さなかった。アルダンテもそれを知っていてワザと言っていたので、気を悪くすることなく、むしろ愉快げに大戦の時代へ進もうとしている世界を……クツクツと笑いながら歩いていった。
そんな風に楽しそうに歩くアルダンテと、その後ろを追従する二人の従者はふと……違和感を感じてその場で立ち止まる。
「む?」
アルダンテが首を傾げて振り返り、それと同時に二人の従者がアルダンテを守るように立つ。
アルダンテは不気味なほど静まり返った暗闇の中で、一筋の閃光が走ったのを見て、瞬間的に従者を二人を守ろうと防御魔法を展開する。
「【シールド】」
光属性の防御魔法を従者を含めて自分の周囲一帯に展開……魔王と呼ばれたアルダンテの魔法だ。その強度は言うまでもなく、アルダンテも完全に油断していた。
アルダンテの展開した【シールド】は暗闇に走った謎の閃光により簡単に突破され、アルダンテは思わず目を見開いた。
「馬鹿な……」
「っ!アルダンテ様!」
【シールド】を突破しても止まることのない閃光からアルダンテを守ろうと、セドの片割れがアルダンテの前に踊り出て……瞬時に灰へと変わった。
「くっ……セド」
セドの安否を確認すると、セドは無事なようでアルダンテの直ぐそばに控えていた。
アルダンテは自分の従者を灰に変えた何者かに怒りを覚えつつも、努めて冷静に口を開いた。
「何者だ……姿を見せたらどうかね?」
アルダンテがそう言うと、謎の閃光がアルダンテの前へ走り、そして立ち止まる。アルダンテはそれで目に入った人物に再び目を見開いた。
「……貴様は」
「何者とは寂しいぃこと言うじゃねぇかよぉ……俺様のこと、知らねぇわけじゃあねぇよなぁ?」
ビリビリ
身体中を帯電させ、放電を続けてアルダンテの目の前に立っている男は……数多くの伝説を持つ『双天』ベルリガウス・ペンタギュラス……。
アルダンテは思わぬ相手に眉を顰めた。
「なぜ……死んだと聞いていたが?」
「まあ、色々あんだよぉ俺様にはなぁ」
昔、アルダンテは一度だけベルリガウスを見たことがある。数十年も前のことであるが、あのときのベルリガウスを優に超えるほどの重圧を、今目の前にいるベルリガウスは放っていた。
まさか、魔王とも呼ばれるこの自分が圧倒されるとは……アルダンテはそう自嘲気味に笑ってから口を開いた。
「それで、どうして貴様のような男が?私に何か用かね?従者まで灰にしての……」
アルダンテの怒りを受けたベルリガウスは、一瞬きょとんとしてからクツクツと笑って言った。
「クックックッ……あんな雑魚がどうなろうが知らねぇなぁ」
「貴様……」
「はーはん?なんだぁ?お気に入りだったかぁ?そいつぁ悪りぃことをしたぁ……クックックッ」
謝罪の気持ちなど、もちろんベルリガウスにはない。アルダンテは拳を握り、ベルリガウスを睨みつける。
「そうか……この私に喧嘩を売ったこと、後悔させてやろう」
「はーはん?俺様とやるってのかぁ?ふん……今は魔王とかなんとか呼ばれてるみてぇだし、隣の嬢ちゃんは並みじゃあねぇなぁ……クルナトシュだなぁ?」
ベルリガウスに一瞬で見抜かれ、セドは顔をしかめた。セドまた同僚をやられたことに腹を立て、ベルリガウスを……と思ってはいるものの、ベルリガウスの放つ圧倒的な威圧感の前に思い通りに身体を動かすことができないでいた。
ベルリガウスはそれも見透かしたようにセドに目を向ける。
「クルナトシュに魔王かぁ……戦ったら面白いもんだろうなぁ。メインディシュの前に、ちっとばかし肩慣らしといくかぁ」
「メインディシュ……だと?」
自分たちがついでだと言う。どれだけ自分を嘗めているのかとアルダンテは激昂した。
「よーやくだ……よーやく見つけたぜぇ?クックックッ」
ベルリガウスはメインディシュのことを思い浮かべながら、その身を雷で覆った。
魔術協会は、今の平穏な時代を壊す。神の信仰によって支配された世界を壊し、新しい秩序を築こうとしている。その結果として、世界は大きな戦いの時代……大戦時代を迎えることとなる。
人族よりも強靭的な肉体を持つ魔族が多く暮らすアスカ大陸……そこを武力で治めている者を人々は魔王と呼び、アルダンテはアスカ大陸を治める七人の魔王と一人……レヴィアタンを冠する魔王だ。
アルダンテは魔王達の中でもとりわけ武闘派であり、最も好んで戦をする。
アルダンテの治めているレヴィ領は吸血鬼の国であり、アルダンテはそんな吸血鬼達の頂点に君臨する。吸血鬼の圧倒的回復力は勿論のこと、武の才覚は並外れている。その実力は伝説にも匹敵するだろうと言われている。
そんな彼は、大戦時代を迎える世界を見て回ろうと思い立ってアスカ大陸のレヴィ領からスーリアント大陸のイガーラ王国領土までやって来ていた。
そして、吸血鬼の苦手とする太陽の光の差し込まない静かでジメジメとした洞窟を見つけ、そこで吸血鬼にとってはご馳走ともいえる妖精族の血を吸っていたのだが……アルダンテはそこまで回想してから口の端を吊り上げ、独り言のようにポツリと呟く。
「いやぁ……まさかあんな人族に出会うとはな」
アルダンテは黒髪の青年を思い出し、笑う。
「技というのは純粋な力に対抗するために、弱者が強者を屠るために編み出したものだ。正直、そのような小手先の技術では強大な力など相手に出来ないのだがな。……人族でも、技を極めればあそこまでいくものなのだな。驚いたよ……君達もそうではないかな」
アルダンテはそんな風に後ろに控える従者二人に投げかける。
従者二人は俯きながら、アルダンテに平伏する姿勢を保って口を開くことはなかった。彼女達は主人の期待に添えなかったのだ。ここで口を開くことは、彼女達自身が許さなかった。アルダンテもそれを知っていてワザと言っていたので、気を悪くすることなく、むしろ愉快げに大戦の時代へ進もうとしている世界を……クツクツと笑いながら歩いていった。
そんな風に楽しそうに歩くアルダンテと、その後ろを追従する二人の従者はふと……違和感を感じてその場で立ち止まる。
「む?」
アルダンテが首を傾げて振り返り、それと同時に二人の従者がアルダンテを守るように立つ。
アルダンテは不気味なほど静まり返った暗闇の中で、一筋の閃光が走ったのを見て、瞬間的に従者を二人を守ろうと防御魔法を展開する。
「【シールド】」
光属性の防御魔法を従者を含めて自分の周囲一帯に展開……魔王と呼ばれたアルダンテの魔法だ。その強度は言うまでもなく、アルダンテも完全に油断していた。
アルダンテの展開した【シールド】は暗闇に走った謎の閃光により簡単に突破され、アルダンテは思わず目を見開いた。
「馬鹿な……」
「っ!アルダンテ様!」
【シールド】を突破しても止まることのない閃光からアルダンテを守ろうと、セドの片割れがアルダンテの前に踊り出て……瞬時に灰へと変わった。
「くっ……セド」
セドの安否を確認すると、セドは無事なようでアルダンテの直ぐそばに控えていた。
アルダンテは自分の従者を灰に変えた何者かに怒りを覚えつつも、努めて冷静に口を開いた。
「何者だ……姿を見せたらどうかね?」
アルダンテがそう言うと、謎の閃光がアルダンテの前へ走り、そして立ち止まる。アルダンテはそれで目に入った人物に再び目を見開いた。
「……貴様は」
「何者とは寂しいぃこと言うじゃねぇかよぉ……俺様のこと、知らねぇわけじゃあねぇよなぁ?」
ビリビリ
身体中を帯電させ、放電を続けてアルダンテの目の前に立っている男は……数多くの伝説を持つ『双天』ベルリガウス・ペンタギュラス……。
アルダンテは思わぬ相手に眉を顰めた。
「なぜ……死んだと聞いていたが?」
「まあ、色々あんだよぉ俺様にはなぁ」
昔、アルダンテは一度だけベルリガウスを見たことがある。数十年も前のことであるが、あのときのベルリガウスを優に超えるほどの重圧を、今目の前にいるベルリガウスは放っていた。
まさか、魔王とも呼ばれるこの自分が圧倒されるとは……アルダンテはそう自嘲気味に笑ってから口を開いた。
「それで、どうして貴様のような男が?私に何か用かね?従者まで灰にしての……」
アルダンテの怒りを受けたベルリガウスは、一瞬きょとんとしてからクツクツと笑って言った。
「クックックッ……あんな雑魚がどうなろうが知らねぇなぁ」
「貴様……」
「はーはん?なんだぁ?お気に入りだったかぁ?そいつぁ悪りぃことをしたぁ……クックックッ」
謝罪の気持ちなど、もちろんベルリガウスにはない。アルダンテは拳を握り、ベルリガウスを睨みつける。
「そうか……この私に喧嘩を売ったこと、後悔させてやろう」
「はーはん?俺様とやるってのかぁ?ふん……今は魔王とかなんとか呼ばれてるみてぇだし、隣の嬢ちゃんは並みじゃあねぇなぁ……クルナトシュだなぁ?」
ベルリガウスに一瞬で見抜かれ、セドは顔をしかめた。セドまた同僚をやられたことに腹を立て、ベルリガウスを……と思ってはいるものの、ベルリガウスの放つ圧倒的な威圧感の前に思い通りに身体を動かすことができないでいた。
ベルリガウスはそれも見透かしたようにセドに目を向ける。
「クルナトシュに魔王かぁ……戦ったら面白いもんだろうなぁ。メインディシュの前に、ちっとばかし肩慣らしといくかぁ」
「メインディシュ……だと?」
自分たちがついでだと言う。どれだけ自分を嘗めているのかとアルダンテは激昂した。
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ベルリガウスはメインディシュのことを思い浮かべながら、その身を雷で覆った。
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