一兵士では終わらない異世界ライフ
エキドナ5
–––☆–––
その日、ご主人様の目が覚めたと聞いて色々な人が集まり、生還祝いを行うことになった。その準備で、ほのぼのとしていた空気が一転……シェーレちゃんもエキドナも、ワードンマやラエラも忙しなく家中を駆け回った。
「薪をもってきたのじゃ!」
「足りないわよこのアンポンタン!もっと割りなさい!」
「誰がアンポンタンじゃ!」
帰ってきたお姉様も手伝ってくれ、ワードンマの仕事がよく回るようになった。
口を開けば喧嘩する二人だが、案外二人とも憎からず思っているのかもしれない。まあ、そんなことお姉様には口が裂けても言えないのだけれど……言ったら虐め殺されるわ。
それはそれでいいっ!
一先ずそれは置いて置くとして、それにしても準備が大変だ。屋敷の庭にテーブルを運んでそこに料理を並べる。シェーレちゃんやエキドナの力を使えば、造作もないが……料理を作るのが大変だ。
ご主人様の先輩など、軍人の方々がくるのだからお酒だって沢山必要だ。前もって、ご主人様の先輩であるスカッシュがお金を払ってくれている。作るのはこちらの仕事だ。
「おぉーこんにちわ。って、デカイなー」
と、一人……屋敷を尋ねてきた。その人物がご主人様の先輩……スカッシュだ。
「手伝いに来ました」
「あ、ありが……とう……ござい、ます」
「んー?なんか透けてる……」
「気の所為でございます」
「そ、そっか……」
「手伝いは……大丈夫です。お客様のお手を煩わせるわけには参りませんので」
「いや、もともとグレイの奴の生還祝いですからー。手伝うのは当然ですよ。なっ、お前ら!」
「「おう!」」
エキドナは突然スカッシュの背後から現れた数名の男の人たちに驚いた。いや、いたのは気付いていたが……この人数がどうやってスカッシュの背中に隠れていたのだろう……。
それからスカッシュ達にも手伝ってもらっていたのだが、次々に人が来て、準備は直ぐに終わった。
「助かりました。いつも、息子がお世話に……」
「いやぁ、俺らの方が世話になってますよ!いつも見たこともない芸で場を和ませてくれますし!」
スカッシュとラエラが話しているようだ。そういえば、兵士になったばかりの頃のご主人様をエキドナは知らない。これはいい機会ね。
「あいつが入ってきたばっかりの頃は、素人にしか見えなかったですけどねー。まさか、伝説を倒す力があるとは」
「俺も今回の戦いでグレーシュが活躍したって聞いた時は冗談だと思ったぜ……まさか本当だったなんてな。やっべ、俺……グレーシュに色々と無理言って……」
「うわぁ、俺もだ……」
「がっはははは!おめぇら、グレーシュは伝説より強いんだぞ?殺されちまうぞ〜」
「「こええぇぇwww」」
全然そんな風には見えない。良い意味でいえば、信頼……悪く言えば舐められているわけね……ご主人様は。
「うふふ」
ラエラはそんな彼らを見て微笑んだ。彼らが良い人たちかはおいて置いて、それでも彼らがご主人様のことを理解していることが嬉しいのだろう。
例え、伝説に匹敵する力を持っていたとしても……ご主人様はそれを無闇やたらに使わない。どれだけ馬鹿にされても……ご主人様は家族のため以外で力は振るわない。例外はあるかもしれないけれど……。
兎にも角にも、ご主人様に畏怖を覚えたりするものがいないのはエキドナとしては少し意外だった。
「それにしても伝説ってどんくらい強いだ?」
「国一つ滅ぼすんだろ?」
「こわw」
なるほど。知らないだけらしい……。
「ただいまー……って、庭で何やってるのこれ?パーティー?」
「む……パーティー、かい?」
キラキラ……っと、庭の方にソニアが帰ってきた。ついでに、その後ろにキラキラした男も入ってくる。幸いにして黒髪だが、金髪だったら鬱陶しいだろう。
「あ、ソニー。やっと帰ってきた。もう日が暮れてるじゃない」
「ごめんごめん。それより、お母さん!見てこれ」
「?」
「これ、グレイのお見舞いにって王宮治療魔術師の先輩……こちらのエリオット先輩が」
「どうも。エリオット・シュラーゲン、です」
エリオットが挨拶すると、ラエラもペコペコしながら挨拶を交わす。
その間にエキドナはソニアがエリオットに買ってもらったというお見舞いの品を覗き見ると……病魔退散と書かれたお守りだった。
…………病気ではないのだけれど。
少しズレてはいるが、エリオットは素直にご主人様のお見舞いをしたかったらしい。それがポイント稼ぎかどうかはともかく……あ、そうだ。ソニアにエリオットのことをどう思っているのか聞かなくては。
エキドナはラエラとエリオットが話している隙に、ソニアを連れ出して人の目の入らなそうな庭の隅は連れて行く。
「え?なになに?」
困惑した表情のソニアに、エキドナは訊いた。
「率直に訊ねますけれど……ソニア様はあのエリオットという方をどう思っておいでですか?」
「え?エリオット先輩?」
ソニアはキョトンとした顔で小首を傾げ、エキドナの肩越しからラエラと話すエリオットを見て……ニッコリと微笑んだ。
「頼れる……鬱陶しい先輩かな?」
「プラスマイナスで言えば?」
「辛うじてプラマイゼロ」
「か、辛口でございますねぇ……評価ポイントは高そうですけれど……」
「そうだね〜。カッコイイし、頭も悪くない。貴族でお金持ち……過剰なスキンシップさえ気にしなければとっても良い人だよ。それに頼れる先輩って思ってるのは本当だしね」
「なら、どうして……」
エキドナは好奇心の赴くままに訊く。ただ、それは愚問だったのかソニアが嘲るように笑った。
「あはは。だって、あたし……イケメンよりカワイイ方が好きなんだもん。だから、エキドナちゃんも好きだよ?」
「え?」
エキドナを?それはつまり……エキドナが可愛いということだろうか。なんの冗談……。
「エキドナは人族の基準で言えば、醜い姿を」
「基準は人それぞれだよー。あたしはそのニョロニョロ動く触手とか、可愛らしくて好き」
触手が……?そんな馬鹿な……そう思ったエキドナは、あることに気がつく。そういえば、スカッシュ達から……エキドナは……何も。
基準は人それぞれ……ね。
試しに【思念感知】で兵士の人達の思考を読む。
『魔族か。こんなとこで珍しいなぁー。前に見た奴よりも別嬪じゃねぇかよおい』
『いい触手だ……バイオオーガのアレに比べたら……おぇ』
『あの触手ウネウネしてんなぁ……ウネリオラに比べたら大したことねぇけど』
等々……エキドナの姿を何かと比べているものが多い。魔物でそういうのを相手にしているためか、見慣れているようだ。
「…………人それぞれ」
「分かってくれた?」
「はい……あの、ソニア様?」
「ん?なあに?」
「ソニアお姉様と呼んでも……よろしいでしょうか?」
「?よろしいです」
ソニア・エフォンス……エキドナにまた新しい観察対象が出来た。
–––☆–––
「あ、そういえば……これ何の集まり?」
「ご主人様の生還祝いでございます。ご主人様がお目覚めになられたので、皆様……」
びゅうううぅん……っと、そんな感じの擬音を立て、大慌てでソニアお姉様がご主人様の部屋へ走り去って行った。言わない方が良かっただろうか……。
まあ、それだけ大事なのね。
と……、
「や、やっと着いたぁ……うぅ」
「なんでこんなに時間かかったんだか……」
「あ、ははは……はぁ」
「なーはっはっはっ!我、参上!」
屋敷へフォセリオを連れたシルーシア達がやって来た。そういえば、いたわね……。
「おぉ!またまた別嬪さんが……ん?あれって……」
「どっかで見たことあるな……あっちは最高神官様に似てね?」
「こっちは……『弓姫』……か?そ、そっくりだ」
口々に兵士達が新たなる来訪者を見て声を上げる。それを聞いて、当の本人達は顔色を悪くした。
「や、やべぇ……じゃ、じゃあなフォセリオ!」
「え?わ、私だけ置いていくの!?」
「お前の目的地はここだろうが!ほ、ほら!いくぞディーナ!ベール!」
「なーはっはっはっ!」
「お、お待ちください!そんなに早く歩けないですわ」
スタスタ……シルーシアは歩き去っていき……取り残されたフォセリオがオロオロしていたのでエキドナがその場から回収してあげた。
–––☆–––
「えーこのような会を開いていただきありがとうございます」
ご主人様がソニアお姉様の手を借りて庭へ降りてきた。ご主人様の生還祝いなので、ご主人様がそのような謝辞を述べ……、
「では……音頭を取らせていただきます。乾杯!」
「「乾杯!」」
そんな感じでパーティーが始まる。さすがに兵士のパーティー……否、宴ともなると派手だ。貴族のパーティーとは違い、下品で上品さにかけるが……裏で情報を集めるような輩は居らず、これが本当の今でのパーティーなのかもしれないと思うくらいに、みんなが楽しそうである。
「あ、あの!エキドナさん!」
「……?」
と、葡萄酒を口にしていたエキドナのところに一人……兵士がそう声を掛けてきた。何かしら?
「なにか?」
「え……っと、あの!俺、グレーシュの同期でアックスフォード・バトラキスって言います!よ、良かったら……その……今度個人的なお食事でも……」
アックスフォード・バトラキス……ご主人様の同期……ね。
銀髪銀眼の青年で、狼耳と尻尾を生やした獣人族狼耳種の青年のようだ。バトラキスという貴族は聞いたことがないので、多分平民だろう。
紅葉した頬から、緊張や興奮が分かる。エキドナの返事が気になるのだろう。
「残念ですが」
「…………やっぱりダメか」
ガックリとアックスフォードは肩を落とす。うふふ……ごめんなさいね?エキドナはご主人様の物だから。
「くそっ……グレーシュのやつ!うおぉぉぉ!!」
「え?な、なに?なにするんだよアース!」
何故かキレたアックスフォードがご主人様の胸倉を掴んで振り回している。お可哀想に……病み上がりで辛そうだが、ご主人様に抵抗する意思がないようでされるがままだ。
そんな光景を見た周りが、「もっとやれー」などと煽るためアックスフォードがさらにご主人様をブンブン振り回す。
「こんちくしょおぉ!」
「ちょ、僕……や、病み上がりぃ」
これはある意味……慕われているのかしら……ね。
–––☆–––
パーティーは終わり……片付けを粗方手伝ってもらってからみんな帰っていった。残ったエキドナ達で最後の後片付けを行う。
「あ、グレイは早く部屋に戻んないと。ほら」
「え?いや、僕も手伝うよ?」
「いいからいいから。それより……まだクロロさんの様子見に行ってないんでしょ?」
「…………うん」
「なら、行って来なさい。ここはあたし達に任せて」
ソニアが言うのに合わせて、エキドナは勿論ラエラ、ワードンマ、アルメイサが頷く。ちなみにシェーレちゃんは幽霊だったのでパーティーには参加しておらず、今も家の中で何かしらせっせと働いていることだろう。働き者ですし……。
「分かった。ちょっと、様子を見てくるね」
ご主人様は笑って言ったが、屋敷に足先を向けると同時に険しい表情になる。
パーティーでは平然としていたが、あれは空元気だ。やはり、心の中でクーロンのことが心配だったのだ。
殺したくないのに、その手にかけようとした女性……他でもないクーロンのために。
日が落ちて、蝋燭の火が灯る庭。月夜の光よりも明るい蝋燭の火は揺らめき、風に攫われるように消えた。
その日、ご主人様の目が覚めたと聞いて色々な人が集まり、生還祝いを行うことになった。その準備で、ほのぼのとしていた空気が一転……シェーレちゃんもエキドナも、ワードンマやラエラも忙しなく家中を駆け回った。
「薪をもってきたのじゃ!」
「足りないわよこのアンポンタン!もっと割りなさい!」
「誰がアンポンタンじゃ!」
帰ってきたお姉様も手伝ってくれ、ワードンマの仕事がよく回るようになった。
口を開けば喧嘩する二人だが、案外二人とも憎からず思っているのかもしれない。まあ、そんなことお姉様には口が裂けても言えないのだけれど……言ったら虐め殺されるわ。
それはそれでいいっ!
一先ずそれは置いて置くとして、それにしても準備が大変だ。屋敷の庭にテーブルを運んでそこに料理を並べる。シェーレちゃんやエキドナの力を使えば、造作もないが……料理を作るのが大変だ。
ご主人様の先輩など、軍人の方々がくるのだからお酒だって沢山必要だ。前もって、ご主人様の先輩であるスカッシュがお金を払ってくれている。作るのはこちらの仕事だ。
「おぉーこんにちわ。って、デカイなー」
と、一人……屋敷を尋ねてきた。その人物がご主人様の先輩……スカッシュだ。
「手伝いに来ました」
「あ、ありが……とう……ござい、ます」
「んー?なんか透けてる……」
「気の所為でございます」
「そ、そっか……」
「手伝いは……大丈夫です。お客様のお手を煩わせるわけには参りませんので」
「いや、もともとグレイの奴の生還祝いですからー。手伝うのは当然ですよ。なっ、お前ら!」
「「おう!」」
エキドナは突然スカッシュの背後から現れた数名の男の人たちに驚いた。いや、いたのは気付いていたが……この人数がどうやってスカッシュの背中に隠れていたのだろう……。
それからスカッシュ達にも手伝ってもらっていたのだが、次々に人が来て、準備は直ぐに終わった。
「助かりました。いつも、息子がお世話に……」
「いやぁ、俺らの方が世話になってますよ!いつも見たこともない芸で場を和ませてくれますし!」
スカッシュとラエラが話しているようだ。そういえば、兵士になったばかりの頃のご主人様をエキドナは知らない。これはいい機会ね。
「あいつが入ってきたばっかりの頃は、素人にしか見えなかったですけどねー。まさか、伝説を倒す力があるとは」
「俺も今回の戦いでグレーシュが活躍したって聞いた時は冗談だと思ったぜ……まさか本当だったなんてな。やっべ、俺……グレーシュに色々と無理言って……」
「うわぁ、俺もだ……」
「がっはははは!おめぇら、グレーシュは伝説より強いんだぞ?殺されちまうぞ〜」
「「こええぇぇwww」」
全然そんな風には見えない。良い意味でいえば、信頼……悪く言えば舐められているわけね……ご主人様は。
「うふふ」
ラエラはそんな彼らを見て微笑んだ。彼らが良い人たちかはおいて置いて、それでも彼らがご主人様のことを理解していることが嬉しいのだろう。
例え、伝説に匹敵する力を持っていたとしても……ご主人様はそれを無闇やたらに使わない。どれだけ馬鹿にされても……ご主人様は家族のため以外で力は振るわない。例外はあるかもしれないけれど……。
兎にも角にも、ご主人様に畏怖を覚えたりするものがいないのはエキドナとしては少し意外だった。
「それにしても伝説ってどんくらい強いだ?」
「国一つ滅ぼすんだろ?」
「こわw」
なるほど。知らないだけらしい……。
「ただいまー……って、庭で何やってるのこれ?パーティー?」
「む……パーティー、かい?」
キラキラ……っと、庭の方にソニアが帰ってきた。ついでに、その後ろにキラキラした男も入ってくる。幸いにして黒髪だが、金髪だったら鬱陶しいだろう。
「あ、ソニー。やっと帰ってきた。もう日が暮れてるじゃない」
「ごめんごめん。それより、お母さん!見てこれ」
「?」
「これ、グレイのお見舞いにって王宮治療魔術師の先輩……こちらのエリオット先輩が」
「どうも。エリオット・シュラーゲン、です」
エリオットが挨拶すると、ラエラもペコペコしながら挨拶を交わす。
その間にエキドナはソニアがエリオットに買ってもらったというお見舞いの品を覗き見ると……病魔退散と書かれたお守りだった。
…………病気ではないのだけれど。
少しズレてはいるが、エリオットは素直にご主人様のお見舞いをしたかったらしい。それがポイント稼ぎかどうかはともかく……あ、そうだ。ソニアにエリオットのことをどう思っているのか聞かなくては。
エキドナはラエラとエリオットが話している隙に、ソニアを連れ出して人の目の入らなそうな庭の隅は連れて行く。
「え?なになに?」
困惑した表情のソニアに、エキドナは訊いた。
「率直に訊ねますけれど……ソニア様はあのエリオットという方をどう思っておいでですか?」
「え?エリオット先輩?」
ソニアはキョトンとした顔で小首を傾げ、エキドナの肩越しからラエラと話すエリオットを見て……ニッコリと微笑んだ。
「頼れる……鬱陶しい先輩かな?」
「プラスマイナスで言えば?」
「辛うじてプラマイゼロ」
「か、辛口でございますねぇ……評価ポイントは高そうですけれど……」
「そうだね〜。カッコイイし、頭も悪くない。貴族でお金持ち……過剰なスキンシップさえ気にしなければとっても良い人だよ。それに頼れる先輩って思ってるのは本当だしね」
「なら、どうして……」
エキドナは好奇心の赴くままに訊く。ただ、それは愚問だったのかソニアが嘲るように笑った。
「あはは。だって、あたし……イケメンよりカワイイ方が好きなんだもん。だから、エキドナちゃんも好きだよ?」
「え?」
エキドナを?それはつまり……エキドナが可愛いということだろうか。なんの冗談……。
「エキドナは人族の基準で言えば、醜い姿を」
「基準は人それぞれだよー。あたしはそのニョロニョロ動く触手とか、可愛らしくて好き」
触手が……?そんな馬鹿な……そう思ったエキドナは、あることに気がつく。そういえば、スカッシュ達から……エキドナは……何も。
基準は人それぞれ……ね。
試しに【思念感知】で兵士の人達の思考を読む。
『魔族か。こんなとこで珍しいなぁー。前に見た奴よりも別嬪じゃねぇかよおい』
『いい触手だ……バイオオーガのアレに比べたら……おぇ』
『あの触手ウネウネしてんなぁ……ウネリオラに比べたら大したことねぇけど』
等々……エキドナの姿を何かと比べているものが多い。魔物でそういうのを相手にしているためか、見慣れているようだ。
「…………人それぞれ」
「分かってくれた?」
「はい……あの、ソニア様?」
「ん?なあに?」
「ソニアお姉様と呼んでも……よろしいでしょうか?」
「?よろしいです」
ソニア・エフォンス……エキドナにまた新しい観察対象が出来た。
–––☆–––
「あ、そういえば……これ何の集まり?」
「ご主人様の生還祝いでございます。ご主人様がお目覚めになられたので、皆様……」
びゅうううぅん……っと、そんな感じの擬音を立て、大慌てでソニアお姉様がご主人様の部屋へ走り去って行った。言わない方が良かっただろうか……。
まあ、それだけ大事なのね。
と……、
「や、やっと着いたぁ……うぅ」
「なんでこんなに時間かかったんだか……」
「あ、ははは……はぁ」
「なーはっはっはっ!我、参上!」
屋敷へフォセリオを連れたシルーシア達がやって来た。そういえば、いたわね……。
「おぉ!またまた別嬪さんが……ん?あれって……」
「どっかで見たことあるな……あっちは最高神官様に似てね?」
「こっちは……『弓姫』……か?そ、そっくりだ」
口々に兵士達が新たなる来訪者を見て声を上げる。それを聞いて、当の本人達は顔色を悪くした。
「や、やべぇ……じゃ、じゃあなフォセリオ!」
「え?わ、私だけ置いていくの!?」
「お前の目的地はここだろうが!ほ、ほら!いくぞディーナ!ベール!」
「なーはっはっはっ!」
「お、お待ちください!そんなに早く歩けないですわ」
スタスタ……シルーシアは歩き去っていき……取り残されたフォセリオがオロオロしていたのでエキドナがその場から回収してあげた。
–––☆–––
「えーこのような会を開いていただきありがとうございます」
ご主人様がソニアお姉様の手を借りて庭へ降りてきた。ご主人様の生還祝いなので、ご主人様がそのような謝辞を述べ……、
「では……音頭を取らせていただきます。乾杯!」
「「乾杯!」」
そんな感じでパーティーが始まる。さすがに兵士のパーティー……否、宴ともなると派手だ。貴族のパーティーとは違い、下品で上品さにかけるが……裏で情報を集めるような輩は居らず、これが本当の今でのパーティーなのかもしれないと思うくらいに、みんなが楽しそうである。
「あ、あの!エキドナさん!」
「……?」
と、葡萄酒を口にしていたエキドナのところに一人……兵士がそう声を掛けてきた。何かしら?
「なにか?」
「え……っと、あの!俺、グレーシュの同期でアックスフォード・バトラキスって言います!よ、良かったら……その……今度個人的なお食事でも……」
アックスフォード・バトラキス……ご主人様の同期……ね。
銀髪銀眼の青年で、狼耳と尻尾を生やした獣人族狼耳種の青年のようだ。バトラキスという貴族は聞いたことがないので、多分平民だろう。
紅葉した頬から、緊張や興奮が分かる。エキドナの返事が気になるのだろう。
「残念ですが」
「…………やっぱりダメか」
ガックリとアックスフォードは肩を落とす。うふふ……ごめんなさいね?エキドナはご主人様の物だから。
「くそっ……グレーシュのやつ!うおぉぉぉ!!」
「え?な、なに?なにするんだよアース!」
何故かキレたアックスフォードがご主人様の胸倉を掴んで振り回している。お可哀想に……病み上がりで辛そうだが、ご主人様に抵抗する意思がないようでされるがままだ。
そんな光景を見た周りが、「もっとやれー」などと煽るためアックスフォードがさらにご主人様をブンブン振り回す。
「こんちくしょおぉ!」
「ちょ、僕……や、病み上がりぃ」
これはある意味……慕われているのかしら……ね。
–––☆–––
パーティーは終わり……片付けを粗方手伝ってもらってからみんな帰っていった。残ったエキドナ達で最後の後片付けを行う。
「あ、グレイは早く部屋に戻んないと。ほら」
「え?いや、僕も手伝うよ?」
「いいからいいから。それより……まだクロロさんの様子見に行ってないんでしょ?」
「…………うん」
「なら、行って来なさい。ここはあたし達に任せて」
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ご主人様は笑って言ったが、屋敷に足先を向けると同時に険しい表情になる。
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