魔術的生徒会

夙多史

二章 炎の退魔師(7)

「放せ! 何なんだいきなり!」
 通路と呼べるか怪しい薄暗い路地裏に連れ込まれた魁人はハッとすると、彼女の手を振り解いて立ち止まった。
「何よ! それが恩人に対しての態度?」
 紗耶も足を止め、あからさまに不機嫌な顔をして魁人と向き合う。
「タスケテクレテドウモアリガトウゴザイマシタ」
「全然心が籠ってない!」
 ほとんど棒読みの魁人に、紗耶の怒りのボルテージが跳ね上がる。フー、と威嚇する猫のように彼女はしばらく魁人を睨んだが、結局手を出そうとはしなかった。
 その彼女が落ち着いたのを認め、今度はちゃんと心を籠めて礼を言う。
「いや、マジで助かったよ。俺一人じゃ、どうにもならなかった。ありがとう」
 そんな魁人の態度に紗耶は一瞬目を丸くするが、
「フン、別にいいわよ。どうせ今回もついでだったんだし、月夜先輩たちはあんたを必要としてるみたいだから、死なせちゃまずいかなって思っただけよ」
 魁人の眉根がピクリと動く。
「じゃあ何か? お前も俺を生徒会に入れようとするのかよ。俺はそんなのごめんだぜ」
 すると、紗耶は腕を組んで言い返す。
「あたしだって、あんたみたいなゾウリムシを入れたいって思ってないわよ」
「ぞ、ゾウリ……っておい、ちょっとは言い方ってものがあるだろ」
「じゃあ、アオミドロ」
「植物かよ!?」
 やっぱり、こいつは何かムカつく。が、助けてもらったのは事実。ここまで連れて来てくれたのもそうだ。もしあの場に残っていたら、警察が来た時下手すればこちらが加害者と思われることになったかもしれない。
 まあ何にしても、彼女が自分を生徒会に引き込むことに反対していることはわかった。それだけで彼女はもう敵ではない。寧ろ味方と思っていい。
 紗耶は、フン、とそっぽを向くと、持っていた学生カバンを開けて一枚の御札を取り出した。そしてそれを、横に建つ薄汚れたビルの壁に貼りつけ始めた。
「……何やってんだ?」
 疑問に思い、訊く。と、彼女は御札がしっかり貼りつくように擦りながら、
「見てわかんないの? 結界張ってんのよ。これと同じのをあと三ヶ所に貼って路地裏を囲ってるの。まあもっとも、この護符はあたしんじゃなくって、仕事に必要だったんで銀英から奪っ……貰ってきたものだけどね」
 銀英は商売道具を引ったくられたようである。
「仕事って……生徒会のか?」
「違うわよ」
 瞬間、魁人の魔眼が発動する。護符を貼り終えて立ち上がった紗耶が、その内の魔力を一気に炎上させたからだ。
 高ぶる魔力は、肌にもチクチクと刺すような威圧感を与える。
 紗耶の左掌に方陣が展開。そこからあの日本刀が取り出された。紗耶は具合を確かめるようにそれを一振りすると、高めた魔力を流し込んで刀身に蒼炎を咲かせ、言う。

「あたしの本職――退魔師の仕事よ」

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