魔術的生徒会

夙多史

二章 炎の退魔師(11)

 既に夜の帳が下りた中、魁人と別れた紗耶がリクに乗って連れてこられた場所は、メイザース学園の中心を分断するようにして存在する常緑樹や桜の樹が繁った公園――その中にある全部で四面のテニスコートだった。
 広くて設備が充実し、森と芝生の広場に囲まれ、都会の中心なのに大自然の中にいるような感覚が双方のテニス部員だけでなく一般生徒にも人気で、中等部テニス部・高等部テニス部・一般開放と日によってローテーションしている場所である。今日は高等部のテニス部が使用していたはずだった。
 何でも、練習中だったテニス部員が次々と倒れたそうだ。現時点では六人の男女が原因不明の昏睡状態ということで公園の入口まで運ばれ、そこで救急車に乗せられているところだった。
 表向きはまだ原因不明だが、月夜たち生徒会魔術師は彼らを診て一つの可能性を出している。それは――
「呪術?」
 紗耶は月夜詩奈から聞かされた可能性を鸚鵡返しに呟いた。
 今は自分たちと忙しなく何らかの作業を行っている風紀委員が数人いるだけで、関係のない人間は全て追い払っている。よって、本来の氷狼の姿をしたリクを見て驚いている者はいない。
「呪術って、類感呪術とかですか?」
 類感呪術とは、『形の似た物は互いに影響を及ぼし合う』という概念の下で呪法をかける魔術である。簡単な例としては丑の刻参り――藁人形に五寸釘を打つアレだ。
 月夜はこめかみを指で押さえながら困ったように『う~ん』と唸り、
「そこはまだよくわかってないんだよ。でも呪術なのは十中八九、間違いないわね。その呪術の種類がわかれば解く方法も見つかるとは思うんだけど……あはは、私は専門外だからあまり詳しくないのよね」
 苦笑する月夜を見て、紗耶はふと思う。
「……あいつだったら、何か見えたりしたのかな?」
 思わず呟いてから、ハッとする。自分はあの弱虫に何を期待しているというのか。
(さっきだってそうよ。せっかく葵先輩が誘ってくれたのに、気になったんならついて来いってのって違うそうじゃない! だから何考えてんのよ、あたしは!)
 なぜか、先程から妙に意識してしまう。
(あいつが凄いのはあの眼だけ。そうあの眼だけよ!)
 妄想を振り払うように首を振る。本来なら、ただ見えるだけで何の攻撃的な力もない魔眼に紗耶が興味を持つことはないのだが、今はそう自分に言い聞かせないと何か落ち着かない。
「詩奈、銀は?」
 リクの頭を撫でながら葵が周囲を見回して訊く。そういえば、来た時から銀英の姿が見えない。電話から聞こえた感じでは月夜の傍にいたような気もしたが。
「そうそう、それがね――」
 月夜が手がかりでも見つけているような笑みを浮かべたその瞬間、

 森の方から軽快な爆発音が響き渡った。

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