G ワールド オンライン ~ユニークすぎるユニークスキル~

根宮光拓

第一話 選出

勇人は途中で咲空と別れ、家へと向かっていった。
勇人の両親は幼いころに他界しており、今は義理の母と義理の妹と共に生活している。
決して裕福ではないため、勇人は近所にある高校の中でも、WTGに近い町枠学高校に入学したのだ。
一昔前までの学生なら、アルバイトと言う活動でお金を稼いでいたが、ロボットが普及した今の世の中ではあまり主流ではなくなってしまっていた。

「ただいま」

勇人は、義妹がいるであろう家の中へ声をかけ、自分の部屋へと向かう。
返事が返ってこないのはいつものことで、勇人は気にするそぶりも見せずにスタスタと部屋へと入った。
こっそりと、勇人の様子を見ていた義妹、神山 美咲かみやま みさきに気づかずに。
いわゆる、思春期と言うやつだ。

「さて、勉強……といきたいところだけど」

勇人は、いつもは勉強道具を出すのだが、今日は違った。
まず、腕時計に触れて、WTGの公式ホームページを開いて、先ほど紹介していたVRMMORPGについて調べ始めた。
いくら勇人が真面目だからとはいっても、結局は男子高校生なのだ。
さっそく、そのページに行き付き説明映像を開く。

「新作VRゲーム『GWO』の紹介です。この作品は皆様ご存知のとおりVRマシンによって行うMMORPGです。
より現実に近づけたゲームで、作品に登場するNPCは人工知能によって会話のバリエーションも多様。
なにより、このゲームは現実でのあの悩みを解決してくれるゲームです。
その悩みとは、才能。
いくら努力しても埋まらぬ差、先天的なものでどうしようもない絶対的な壁。
あれを取り払うことが出来るのが、このゲーム『GWO』なのです。
それに、舞台となる世界は未開拓の地ばかり、プレイヤーの皆さんの力次第では、現実と一切変わらない世を作ることも可能です。
ぜひぜひ、子どもだけじゃなく大人の方も参加することをお勧めします!」

そう言って、説明は終わった。
簡単な説明だったが、ある程度のことは勇人は理解し、期待感に胸を高鳴らせていた。
しかし、重大なことが一つ、勇人にはあった。
それは、VRマシンが家に無いのだ。
家庭用VRマシンが『WTG』によって発表されたのが、去年の今頃であり、他の会社も開発を進めて、競争が起こったことである程度、価格は手頃になってきたがそれでも、勇人には手が届かないものだった。
ちなみに、WTG社のVRマシンの名称はワルグという名で高品質低価格、やはりシェアはナンバーワンである。

「うーん、どうやっても無理だな……」

勇人は、モニターに表示されているお金の残額を見て肩を落とした。
気を取り直して、勉強する準備をゆっくりとしていた所へインターホンが鳴り響いた。

「はーい、今出ます」

外の人へそう声をかけ、急いで玄関へ向かう。
見たところ20代の男性で、扉を開けると、その男性は笑顔を見せて名刺を勇人へ差し出す。
それに目を通しながら呟く。

「WTGゲーム部門、部長……え、WTG!?]

勇人は思わず驚きの声を上げて男性のほうを見つめた。
男性は、爽やかな笑みを浮かべて会釈し、話し始めた。

「こんにちは、そこに書いてあるのは嘘じゃないからね、よろしくね、それで今日ここへ来たのは、君に用事があってね」
「自分にですか?」

あのWTGの社員に知り合いなどいるはずもなく、ましてや部長と言う役職だ。
勇人は、緊張しながらそう答える。

「そうだよ、確か勇人君だよね、以前のWTG主催の祭りでその腕時計を当てた」

男性は、勇人の腕にあった腕時計を見ながらそう言った。
もちろん、そのとおりなので勇人は頷いて返答する。

「今回の我が社の発表は見てくれたかな?」
「はい、もちろん」
「その中で気になるものとかは?」
「正直、全部すごすぎて驚き疲れました」

男性は、その勇人の言葉に嬉しそうに笑った。

「それは、よかった、ところでGWOはどうだった?」
「あのVRMMOですよね、もちろん面白そうだなって思いました」

男性は、今度の勇人の答えには先ほどよりも嬉しそうに微笑み、そして少し興奮気味に話を続けた。

「そうだろそうだろ……ゴホン、本題なんだが、WTGには役職が与えられた者には開発した製品を試してもらいたい人に無償で支給してもいいっていう制度があるんだが、まあ、君のその腕時計も、それを開発した部署の役職者が運任せに景品という手段で君に渡ったという訳だけど」

男性は、分かりやすく次々と説明を続けていく。
なぞが多いWTGについていろいろ知れるのは勇人にとってとても新鮮で興味深いものだった。

「それでね、僕は、この世の中、才能といった先天的なものばかりで人間の価値がおおよそ決まってしまうという風潮があまり好きではなくてね、だから今回もこういうゲームを作ったんだけど、まあそれは後にして、そんな世の中でも人に平等に与えられるものがあるとすれば君は何だと思う?」

男性は、興味深そうな視線を勇人に向け、質問を投げかけた。

「えっと、時間といいたいところですけど、運とかですかね」

勇人は話の流れ的にそう答えることにした。
すると、男性は今までよりもさらに嬉しそうに笑みを浮かべ、口を開く。

「そうだよ、ほとんどの人は時間と答えるんだが、才能のある人には才能の無い人に比べて、出来るようになるまで時間をあまり使わないで済んでしまう。
つまり、時間が余るというわけだ、これでは全く平等ではないよね。
それに比べると、運なんてものは、行動さえすれば後は神任せだ。
これほど平等なものは無いだろう」

男性は、少し一般的とは偏った意見を流暢に勇人へ語り始め、勇人もそういう考えがあるのかと多少納得していた。

「それでだ、君はあの大勢の中からその腕時計を見事、運で勝ち取った、その運に僕は懸けたいんだよ」
「懸ける?」
「おっと、少し話しすぎてしまったようだ、まあ、簡潔にいうと、君にVRマシン『ワルグ』と『GWO』をプレゼントしたい」

男性は、咳払いをし、勇人に向けて思いもよらない言葉を口にした。
もちろん、勇人は驚きのあまり思考停止してしまっている。

「……え、詐欺かなんかですか?」
「違う違う、ほら、このとおり」

男性は最新のVRマシン『ワルグZ』と『GWO』のソフトが入った小型メモリを勇人へ見せる。
実物を見たことが無いので、勇人には判断の仕様がないが、よく広告で出ている物と何も変わらない。

「本物ですよね」
「君は、疑い深いね、まあそのくらいの警戒心が無いと、今の世の中はやっていけないともいえるかもね。
じゃ、確かに渡したからね、ちゃんとやってくれよ?」

男性は、勇人へそれらの製品を半ば強制的に渡し、さっそうと去っていた。
残された勇人はポカンとしばらく、玄関で固まったままだった。
しばらくして、義母が帰ってき、そこでようやく勇人は我に返ったのだった。


部屋に戻った勇人は、VRマシン『ワルグZ』とそのソフト『GWO』を置いてどうしようか悩んでいた。
ワルグZは、WTGの開発したVRマシンの第四世代でよりコンパクトなサイズになっている。
他の企業が開発しているタイプのVRマシンは頭にはめるタイプのヘルメットのようなものだが、そこは、さすがはWTGというべきか、ワルグZからは、ブレスレット型でとても小さくて荷物にならない。
どういう仕組みなのかは詳しくは明かされていないが、健康管理のために現代の人たちの頭部に入れられているチップと連動することによって脳に刺激を送っているらしい。
ちなみに、このチップを開発したのもWTGである。


「どうしよう……ん? 四つあるんだけど……」

勇人は、ブレスレット型のワルグZが四つあることに気が付き首をかしげた。
本当は二つ一組のはずなので、四つというのはありえない。

「もしかして……」

勇人は、先ほどまで話していた笑顔の男性を思い浮かべながら、思わず苦笑をもらす。

「美咲の分もってことか? 他人の家族構成を勝手に調べるなよ」

勇人が思い立ったのは、義妹の美咲の分も提供してくれたと考えたのだ。
そして、勇人はさっそく美咲の部屋へ向かうことにする。
自分だけでは、判断の仕様が無いからだ。


「美咲ー、ちょっといいか?」

勇人は、美咲の部屋をノックして声をかけた。

「な、なに? もう眠ろうとしてたんだけど」

美咲は、少し驚いたような表情で扉を開けた。
美咲の言うとおり、もう晩御飯を食べてから結構な時間が経過しており、勇人がいかに時間を忘れるほど動揺している事が伺えた。

「あ、すまん、もうこんな時間だったのか」
「もういいよ、で、何こんな時間に?」

美咲は、少し眠そうに目をこすりながらそう尋ねた。
勇人は、手に持っていたブレスレット型のワルグを美咲のほうへ出す。

「え、な、なにそれ」

美咲は、突然ブレスレットを勇人に差し出されたことにわけが分からず混乱する。
その反応は当然のことで、夜中に義兄にアクセサリーを差し出される状況なんてわけが分からないだろう。

「えっと、これあの『ワルグ』なんだけど」
「……え?」

美咲は勇人の言葉に言葉を失った。
基本、この家にはWTG製品なんてほとんど縁が無いからだ。
勇人が腕時計を貰ってきたときだって唖然としたほどだ。

「だから、あのWTG製のVRマシン」
「う、うん、分かるけど、本当に?」
「たぶん本当」
「また、当てたの? お兄ちゃん」

美咲は、また勇人が何かしらの景品で当ててきたのでは、と少し羨ましそうな視線を勇人へ向けた。

「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
「じゃあ、拾ったとか?」
「さすがに拾ったら、交番に届けるって」
「なら、どうしたの?」
「えっと、WTG社の部長って名乗る人から貰った」

再び勇人の言葉によって、美咲は言葉を失う。

「それで、何で私のところに来たの?」

美咲は息を整えて勇人へそう質問した。
美咲の目は、羨ましそうにワルグをじっと見つめたままだ。

「もちろん、自慢のために来たわけじゃないよ、はい、これ」

勇人は持っていたワルグを美咲へ渡し、その行動に美咲はポカンとしたままだ。

「えっと……お兄ちゃんのは?」

申し訳ないような表情を見せながら美咲は、勇人のほうを見つめる。
勇人は、ポケットの中からもう一組のワルグを笑顔で出して、美咲に見せる。

「ほら、もう一組あるから大丈夫、あとこれも」

勇人は、『GWO』のソフトを美咲へ渡す。
もちろんこれも、二つあったものだ。

「ありがとう、これ楽しそうって思ってたんだ」
「それはよかったよ、おやすみ」
「おやすみ、お兄ちゃん」

そう言って二人は部屋へと戻った。
ゲームをプレイするのは明日になりそうだ。

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