G ワールド オンライン ~ユニークすぎるユニークスキル~

根宮光拓

第十九話 冒険者

楽しい夕食会から数日。
ユウトは城下町にいた。
というのも、ファオから観光でもどうかと勧められたからだ。
当然だが、ユウトは一人である。
ファオは王様のため暇がなく、クレアとエイン、ミハスも夕食会以来会っていない。
どうやら他の国へと出かけているようだ。
となると、ユウトの残りの知り合いはジャックだけなのだが、こちらも局長の身、暇があるわけがなかった。
なので仕方がなくユウトは一人で城下町に出た。

「といわれても、何をしようか」

ボソリと呟くユウト。
何しろ、ゲームが現実になる前に相当数のレアアイテムを獲得していたため、正直買い物は気が進まない。
それにまだ全てのレアアイテムを確認してすらいないのだ。
ユウトは楽しみは後にとっておくタイプだったので、もったいないと思っていたのだった。
暇なら確認していたはずなのだが、ここ数日は色々ゲームと現実の違いを確認していたためそれが出来ていなかったのだ。

「うーん、外に行くか」

結局ユウトは町でやることが見つからず外に出ることにした。
ここまで来ると本当に戦闘狂だなとユウトは苦笑いを浮かべながら外へと向かった。

「おい、そこのお前」

外に出る門の前にいた兵隊から声がかかる。

「はい、なんでしょうか?」

ユウトはなるべく刺激しないように言葉を返す。
どう見たって不機嫌だからだ。

「外は危険だ、お前のような子どもを通すわけには行かないな」

一応高校生なので子どもではあるが、小さい子どものように注意されたユウトはムッするが表面上は落ち着いた様子で返答する。

「では、どうしたら通れるのでしょうか?」
「だから通さないと言っているだろ、さあ帰った帰った」

問答無用で追い返されたユウトはイライラしながら町へと戻る。

「なんだよあいつ……」
「ははは、ザックに追い返されたな?」

ユウトがブツブツと文句を言っていると誰かが笑いながら話しかけてくる。
今のユウトは不機嫌モードである。
なのでジロッと厳しい目つきでその人物を見る。

「うわ、そんな怖い顔しないでよ、僕は君の味方だって」
「なんのようです?」
「えっとね、君は外に行きたい、そして僕は会員を増やしたい」
「何の話しですか?」

ユウトはさっさと本題に入らないその相手にイライラがうつる。
とりあえずユウトの心は穏やかではなかったのだ。
いつもはそんなに怒ることのないユウトだが、色々不安が積み重なって心に余裕がないため、いつもの落ち着いた様子は段々と消えていっていた。
とても悪い徴候だ。
それも踏まえてファオはユウトに気分転換に観光でもどうかと提案したのだった。
それが返って逆効果となってしまっているが。

「冒険者にならないかってことだよ、冒険者にさえなればある程度身分は保障出来るだろうし、外に出なきゃほとんど仕事にならない、ならあのザックだったとしても外に出してくれるはずさ」
「冒険者ですか……」

冒険者は一度ゲームの時に見たことがある。
そしてその時に偶然アテナとあったため、悪いイメージはあまり抱いていない。
ただ、野蛮な人が多そうというのがユウトの気が引けている原因ある。

「君が心配しているのは、なめられないかってことだろ? でもそこは大丈夫、僕はこう見えても冒険者会館の館長なんだ」

その人物はエッヘンと胸をはって答えた。
恐らく館長というのは、よくいうギルドマスターと同義語だとユウトは理解する。
それと同時に思わぬ大物と会ってしまった事に驚きを抱く。

「え、あなたが?」
「その反応はひどいなぁ、まあよく館長に見えないって言われるんだけどね、どうしてだろう?」
「それは……若いからでしょうね」

軽い調子と若い年齢、加えて細身の体だったらそれは全然強そうに見えないだろう。
そこは馬鹿正直に言うわけにはいかないのでユウトは棒読みに近い言い方で理由の一つを言った。

「んーやっぱそっか、それでそれで? 入ってくれるの?」
「まあ一応見てから考えます」

冒険者というものに憧れはないわけではない。
それにある程度の身分は持っていた方がいいと判断しユウトは会館に向かうのだった。

「はーい、とうちゃーく、ここが僕の冒険館さ」

そう言われてユウトは目の前にある建物を見る。
構造はアテナイにあったのとはかなり違っていた。
アテナイのものは石造りでアテナイの景観にあったものだったが、ここにあるものは木造でいかにもといったかんじだ。

「ここですか」
「あれれ、反応が薄いねぇ、ちょっとショックだよ、ここは国で一番の会館って自慢なんだけど」
「そりゃあ、王都ですからね」
「冷めてるなぁ、君は冒険館を見るのは初めてじゃなさそうだね、他はどこのを見てきたんだい? そんな反応をされると気になるよ」
「えっと、アテナイです」

正直に言ってしまって良いのかと悩んだユウトだが、今考えると他の都市の名前が分からないため正直に言うしかなかった。
案の定、館長は驚きのあまり呆然としている。

「あ、アテナイ!? ず、ずいぶん遠いところから来たね、そりゃああんなところと比べられちゃあ負けるのも当然か」

だがユウトの素性どころか勝手に納得して頷く館長。
異星人ということをあっさりとばらしていいのか分からないユウトにとっては館長のあっさりとした性格はホットするのだった。

「じゃあ、早速案内しまーす」

そう言い館長は扉を開き中に入っていった。
遅れないようにユウトもその後を付いていく。
入った感想は、アテナイとほぼ中身が一緒というだけだ。
何故、二階は酒場なのだろうか。
ユウトは酔っぱらいに絡まれないようにとさっさと歩いていく。

「じゃあ、ここが受付だから」

それだけ言って館長は二階へと上っていった。
あの人は午前から酒を飲むのかと呆れた顔でユウトは彼女を見る。
ちなみに、館長は女性である。

「すいませんね、館長はマイペースな人で」

館長の様子に呆れているのはユウトだけじゃないようで、受付の女性がユウトにそう謝罪の声をかけた。

「いえ、大丈夫です」
「ありがとうございます、それでは早速手続きを始めますか」
「はい、お願いします」

まず記入するものは名前と年齢、出身などだ。
早速どうしていいか分からなくなるユウト。
そこへ、さきほど上に上がったはずの館長が降りてきて受付の女性に声をかけた。

「こいつはなぁ、なんとアテナイの人らしいぞ」

そう勝手に発言し、再び上へ上がっていく。
もう既に酔っていた。

「アテナイからですか!? 随分と遠くの方なのですね」
「えっと……」

ここは嘘をつくべきか本当の事を言うべきかと、ユウトは迷う。
嘘をつくと後々大変な事になるというのは常識だが、つかないと今大変なことになるかもしれない。
その究極の選択を迫られていたユウトなのだった。

「どうしたんですか?」
「いや、あの……」

歯切れが悪いユウトに心配そうな顔をする受付の女性。

「えっと、異星人っていったら信じます?」

もう思い切って本当のことを言うことにしたユウト。
その言葉を聞いた女性はしばらくフリーズした。

「……え、も、もう一度お願い出来ますか?」
「異星人です」
「い、異星人ですか、あ、はい、少々お待ち下さい」

女性はそさくさと階段を上って館長を引っ張り出してくる。
ほんのりと顔を赤らめた館長が姿を現す。
酔っている人に判断を任せて大丈夫なのだろうかとユウトは不安になるが、女性が何かを唱えて館長の頭に手を置くなり、緑色の光が出て、みるみる館長の顔色が戻っていったのだ。

「せっかく気持ちよく酔ってたのに、ひどいなぁ」
「そんな悠長なことを言っている場合じゃないんです、あなたが連れてきた人は異星人なんですよ?」
「はぁ? 異星人?」

まだ完全には頭は回ってないようで館長はボーっとしながらユウトの顔を見た。
ユウトにしてみれば、異星人かどうかよりも、先程の光の方が気になっているのだが、今は聞くべきではないだろうと判断し黙っている。

「え、異星人ってあの!?」

ようやく理解した館長が声を上げる。
一瞬周りの人が館長を見るが、いつものことのようで直ぐに興味を失った。

「それは本当かい? きみ」
「ええ、本当ですけど……」
「王に報告しなければ」
「ええっと、もう知ってますよ」

急に慌て出す館長に苦笑いを浮かべて答えるユウト。
その答えを聞いて目を丸くして固まる女性二人。

「もう既に王にあったのかい? ということは本物なのか」
「信じていなかったんですか」
「そんなに直ぐに信じられるわけないだろう」
「それもそうですね」

落ち着いてきた館長が深呼吸して息を整える。
受付の女性も同じように深呼吸をしていた。

「まあ、異星人だからといって差別なんてしないけどね、それにしても本物かぁ」

興味津々な表情を浮かべてユウトの体をジロジロと見る館長。
そして腕付近で視線が止まった。

「それが、異星人が使っていたって言われてた端末かぁ」
「そうですね」
「ということで、君、あまり異星人だなんて言いふらさない方がいいぞ? 力試しとか言われてめんどくさい輩に勝負を挑まれかねん」
「なるほど」

そういう考えがあるのかとユウトは納得した。
今までは敵視されると思っていたからだ。

「では、一応異星人としては登録しておこう、偽装すると色々と厄介なことになりそうだし」
「館長はめんどくさいだけでしょ」

館長の言葉に受付の女性が冷静につっこむ。
館長はばれたかというように舌を出して謝った。

「では、手続きを再開しますね」

そうしてユウトは思ったよりも呆気なく冒険者になったのだった。


コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品